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【短編】ヒロインに物申す 〜転生チートのお姫様は目立ちたくない〜

 どーも〜みなさん、わたし……

 『アグネス・ディア・ダーメリック』


 もともと、日本人として生きていたけど、転生をしたみたい。


 ダーメリック王国の王女で、セカンドネームは『ディア』と名付けられたけど、普段はアグネス王女って呼ばれている。


 もう私も15歳である。ヌクヌクと、それはそれは大切に甘やかされて育ってきた。うん。自覚はある。家族全員が私に甘いのだ。


 私には上に兄が2人いるのだが、待望の王女だったので、両親にも兄にも家族全員に激愛されている。むしろ愛が重い……。もう潰れそうだ。



 至れり尽くせりって本当にあるんだね〜。



 7歳上の1番上のマーカス兄様は、最年少で飛び級で学園を卒業した頭脳明晰の腹黒王子だ。

 5歳上の2番のハミル兄様は、剣術命のひたすら明るくて爽やかな脳筋王子である。



 そして!!私、アグネスは……

 魔法少女なのであーーる!!



 うふふ。魔法って楽しいよね〜。日本人なら夢にまでみた魔法だよ〜。それはもう赤子の頃から、こっそり練習しちゃうよね。だって前世の時には、魔法なんてフィクションの世界にしかなかったもん。


 幼少期から魔力を練って、魔導書も読み漁っていたら……あらまぁ〜私……最年少で魔法学園の特待生になっちゃった。


 魔法ってイメージが大切だから、前世のイメージのままに練習したら全属性使えるようになっちゃったのよね……。


 ふっ……これぞチートってやつ?ドヤ〜!!


 ということで!!これから隣国のアルジェール共和国にある、魔法学園に入学するために城を出て、学園の寮へ向かう馬車に乗り込むところなのだけど……。


 お見送りの両親と兄達が、さっきから順繰りに私を抱き締めては、「何かあったら容赦なく潰しなさい」と不穏な発言のオンパレードだ。



 もう~みんな心配性なんだから…過保護すぎ。



「大丈夫だよ〜。私もう15歳だよ、1人でも平気だよ……それじゃ、いってきまーす」



 颯爽と馬車に乗り込み、みんなが見えなくなるまで手を振った。



 ふぅ……。無事に出発できて良かった〜。

 万が一のことだけど、兄さん達に、もし何かあった場合に相談でもしたものなら……。

 あの2人なら私の為に世界征服もしそうで……こわい………割と本気でそう思うわ。


 それに……じつは家族には内緒だけど、私には学園に入ったら、絶対したい秘密の計画があるのだ!!



それは……なんと!!



『ともだち100人できるかな』作戦!!



 なぜかって??


 それはね〜……私に友って呼べる友が居ないから……滝涙~~。だって王女だったんだもん。しょうがないんだけどさ〜。


 家族は過保護すぎるし、同年代の令嬢達も忖度ありで近付いてきた付き合いだし、あとは……兄達を狙うお姉様達が、私を攻略しようと狙ってくる感じだったしね。


 なのでっ!!


 家族がなかなか来れない&干渉できない隣国の学園にし入学し、尚且つ!!


 じつは学園長に事前にお願いして、変装して仮の身分で登校許可をもぎ取ってあるのよ。


 『ディアナ・メリック』っていう偽名を……。

 うふふ。

 今日から私は、アグネス改め、ディアナになる。



 学園長には、せっかく留学するのだから、色んな方々と交流することで、新しい発見があるかもしれない!とかなんとか、それっぽい感じのことを言って説得してみたんだよね〜!もちろん家族にバレた時には責任は問われないという署名も渡して!


 変装して登校なんて知ったら、絶対家族は、とくに兄達は反対して、国に連れ戻されちゃうと思うんだよね〜。

 なので!!絶対秘密で学園生活を満喫する!!


 変装っていっても、魔法で髪色を金から、母のような薄い茶色にして、瓶底メガネでしょ〜。あと髪型は両側のおさげ髪っていう、お忍びの典型的な感じにしてみたよ。


 どっからどう見ても、ザ・真面目ちゃん。控えめな感じで良いんじゃないかなって我ながら大満足であ〜る。


 明日の入学式がめっちゃ楽しみ〜!!




◇◇◇◇◇





 それは1枚のスチール画のようだった。






 初登校して、入学式の会場に向かっている最中、渡り廊下に生徒会の集団かと思われる先輩方を見つけた。


 先頭にいるのが、正統派の王太子である、金髪のレオナルド。


 左に、頭脳派の宰相の嫡男、銀の長髪のユーリス。


 右に、ワイルド担当の騎士団長の嫡男、赤の短髪のドミニク。


 その彼等の後ろに控えるのが、ヤンチャ担当の魔法団長の次男、青髪のバルト。


 そして、仔犬系の外務長官の嫡男の栗色のロナルド。


 彼等が通ると、そこらからキャ~っていう歓声が上がって、まるでアイドルみたいだ。


 フフフ…!どうして詳しいかって??それは私もミーハーだからね〜ドヤ〜。生前、伊達にオタクを極めていないわ。学園入るにあってイケメン情報は調べるのは必須事項。

 これでも一応は王女として、隣国のこととか勉強してますしぃ〜何より!!今をトキメク話題のイケメン情報は、うちに勤める侍女達が詳しいのだ!


 私も野次馬になって、彼等が通るのを通路の脇に避けて「キャ~」みんなと一緒に騒いでいた。アイドルは皆で愛でるもの!!どの世界でも共通事項だ。


 そこに突然、ピンク色のふわふわした髪の少女が飛び出してきて、彼等にぶつかりそうなった。



「おっと。君、大丈夫かい?」


 先頭を歩くレオナルド様が、咄嗟に受け止めた。



「す、す、すみません!」


 少女が顔をあげてレオナルド様を見上げると、2人は時が止まったかのように、見つめ合ったまま動かなくなった。



 まるで1枚のスチール画のよう、だがしかし!!



 私たちは何を見せられているのでしょう。


 んと……、ここは学園ゲームとかなのかしら??



「ちょっと、そこの貴女。新入生かしら?」


 ベリベリっと2人を引き離し、割り込んで来たのは、立派な縦巻きロールのお姉様。



 カ、カ、カッコイイ~~!!



 わぉ~~黄金縦巻ロール美少女、迫力があるなぁ。


 きっと悪役令嬢の立ち位置の彼女は、レオナルド様の婚約者である公爵家のエリザベス様だ。キリッとした顔立ちと所作が素敵で、女性陣はエリザベスに惚れぼれしちゃうのも分かる。



 アイドルの野次馬として、周りにいる女性陣の心の叫びの代表である。




 イケイケゴーゴー!!やっちゃってください!!




「貴女。周りが見えてないのかしら?飛び出すと危ないのよ。右見て、左見て、もう一度右を確認してからにしなさい」



「…………、…、はい?」


 ピンク色のヒロインポジの彼女も、キョトンとなって反応に困っている様子だ。




 ち、ちがーーーーう!!!!ちがうのよ!!


 そうじゃないのよ〜エリザベス様!!


 問題はそこじゃなーーーーーい!!!




 それは道路横断の仕方であって、それだとレオナルド様はトラックか何かになってしまいます!!


 まさかのエリザベス様は天然キャラであったか……。天然キャラは貴重でかなり可愛いらしいが……。




 あーーーーー。もう!!!

 この微妙な空気がツライ!!

 見てられないわ!!



 私は列から一歩前にでて、ピンクのヒロインキャラに向かって、ビシっと指差して言い切った。



「あなた!!1人だけ抜け駆けしようとは言語道断。アイドルは皆で楽しむものよ。誰か1人がぶつかって認識して貰えるなら、今後みんな突進する人が多発するのよ!!分かって??」



 それを聞いて、ハッと息を呑むレオナルド様達。


 そう、一度そういうことがあれば、皆もやりたいに決まっているのだ。行く先々で今後突進してくる令嬢が続々沸いてくるのを想像したのか、みな青白い顔に変わった。



 辺りを見渡すと、みんな令嬢達が獲物を狙う猛獣みたく目をギラギラさせてる。



 そんな様子に気付いたレオナルド様も、一歩下がってヒロインから距離をとった。これが慣例化されたら大変だと、理解したらしい。



「エリザベス、心配してくれてありがとう。一緒に行こうか。」


 レオナルド様は婚約者のエリザベス様に笑顔で手を差し伸べ、優雅にエスコートをしながら、また入学式よ会場まで進みだした。



 よしよ〜し。これで一安心だ。




 肩の力を抜いてホッと息をつくと、周りからワッ賞賛の声と拍手され、皆にガシっと握手を求められた。どうやら、皆の心の叫びを代弁出来たみたいだ。良かった良かった。


 しかし、これをきっかけに私の平穏な学園生活の予定が!!

 あの入学式でやらかした事件で、私は学内で有名になり、何故か生徒会ファンクラブの1年生代表になっていた。


 あれれ〜??おっかしいなぁ〜


 変装して真面目キャラにして目立たない目論見だったんだけどなぁ〜。


 でもお陰様で、同年代はもちろん、上級生のお姉様達とも仲良くなり、友達100人の目標を日々更新中なのである。


 今日もファンクラブの代表会議が行われるので、生徒会室の隣にいるある会議室に、放課後集合することになっている。


 代表会議には、エリザベス様を筆頭に其々の婚約者様達も参加される。



 このファンクラブは、クリーンな活動をするのがモットーだからね!婚約者様達が嫌がる行為はアウト!!ってなるのよ。


 まぁ〜当たり前だよね〜。彼等の婚約者にしたら、自分の彼氏がモテモテで、変な女が変なアプローチとか……正直イヤだもん。


 ファンクラブでルール化して、彼女さん達の意見も取り入れてって、お互いに心地良い関係でいるために大事なことだと、ファンクラブ入って直ぐに提案したんだよね〜。


 そしたら、エリザベス様にとても感謝されて、今ではとても可愛がって貰ってます!!


 クフフ〜。ほんと、エリザベス様って見た目と違って、お茶目で天然な所が、堪らなく可愛い〜。年上なのに庇護欲バリバリですよ。


 じつは…私、エリザベス様の隠れファンクラブにも入ってしまったのよね!!これが…ファンクラブに入るの激戦なのよ。エリザベス様ファンの多さは、もしかしたらレオナルド様より多いかも……だって男女ともに大人気なのだ。



 もしエリザベス様を泣かせるような事があれば、生徒会長だろうが、王子だろうが、問答無用で私がとっちめてやる!!って密かに思っている。



 それにエリザベス様のファンクラブも敵に回すだろう。そうなれば若者の大多数の層が戦力だ。



 あれ以来、ヒロインらしい女性と、レオナルド様をはじめ、他の生徒会メンバーとの接触は全く見られていない。




 ……ヒロインの子が奇妙な行動をとることが多くて、全生徒から!ヤバいヤツだと認識されちゃってるのよね……。



 ある日は、昼休みの時間に、中庭の噴水をひたすらグルグルと円周してたり。


 ある日は、図書館の窓際に立ち、本も読まずにずっと佇んでいたり。


 ある日は、騎士団の練習場の水飲み場の前で、誰も練習してないのに放課後ずっと仁王立ちしてたり。


 ある日は、お昼時に食堂のトイレの前の廊下を、行ったり来たりずっと繰り返したり。




 前世の記憶がある私から見ると、たぶんおそらくヒロインの子は、ゲームのイベントをこなそうと一生懸命になってるんだろうなぁ……って分かる。


 けど!!知らない人から見たら、ただの怪しすぎる人になってしまっている……残念な子なのだ。



 私の推しのエリザベス様に幸せになって貰いたいから、ヒロインとは関わらないようにしようと決めたんだけど……何故だろうか。



 放課後、会議室にエリザベス様と一緒に向かっていると、階段の壁の影から、チラチラとピンク色の髪の毛が見え、こちらに狙いを定めている姿が見える。………かなり怪しい。


 もしかして……エリザベス様を狙っているのかしら?典型的な階段落ちを狙ってるのがバレバレだわ…。


 エリザベス様を巻き込むつもりなら

 私も容赦しないもんね!!


 さり気なく階段側を私が確保し、エリザベス様を直接狙いづらくする。何もしてこなかったらそれでよし!!


 こっそりと私とエリザベス様に、無詠唱で、薄くて他の人には気付かれないほどの結界を張っておく。攻撃されたら反転する魔法も一緒にかけておこうかなぁ……。


 そして案の定、階段の横を通り過ぎようとした時に、ピンクのヒロインが飛び出してきて、私の腕を掴み「キャ~ひどいエリザベス様〜」と私を下敷きにするように階段から落ちた……。




 ふっ……………いいえ。ご期待通りにさせないわ。

 残念ながら落ちてないんだなぁ〜これがっ!!




 重力魔法と風魔法を組み合わせて使い、私とヒロインはプカプカと階段上で浮いている。




「な!!!宙に浮いてる〜!!」




 ヒロインは私の腕を掴んだまま、バタバタと暴れだした。ちょっと!!暴れたら危ないじゃない。……うっかりバランス崩しちゃいそうだった。




「まぁ〜。ディアナさん!!飛行魔法が使えるなんて凄いわね〜。今度私も飛んでみたいわ〜。」


 目をキラキラさせながら、エリザベス様が賞賛してくれている。


「えへへ〜ありがとうございます。今度一緒にエリザベス様を空の旅にご招待しますわ」


「はぁ~……空の旅なんて……素敵ね。ディアナさん、私、ディアナさんに出逢えたことを神に感謝しますわ〜。」


 胸の前で手を組み、上目遣いでキラキラな眼差しを向けるエリザベス様は………天使なのかもしれない。まぁ、私が浮いているので、物理的に上をみる感じになるんだけど…!こうしちゃいられないわ!!


 私はサッサとヒロインから抜け出し、シュタっとエリザベス様のもとに戻る。エリザベス様の組んだ手を上から、握りしめ!!


「エリザベス様、私もエリザベス様に出会えて幸せです!!」 


「まぁ……ディアナさん、嬉しいわ……。」


 そしてほんのり赤くなるエリザベス様が、大層可愛くて…………少しくらい抱き締めてもいいかしら?



 ハッ!ダメよ……!!しっかり自分を保つのよ!!エリザベス様ファンとして、推しとの過剰接触は禁忌!!


「ちょっと!!お、降ろしてー!降ろしなさいよぉ!!」


 最後のほうヒロインは涙目になりながら、真っ赤な顔で怒っている。……すっかりエリザベス様に夢中で忘れてたわ……。ごめん、ごめん!ヒロインなのに存在忘れてて。



 周りをみると、あまりにヒロインが騒ぐから、いつの間にギャラリーも集まってきてザワザワしていた。


 そんななか、私はビシっとヒロインを指差し!!


「貴女、さっき「ひどいエリザベス様」と言いながら私を引っ張っていたわね。酷いのは貴女の方よ。なんの面識がない人にいきなり襲いかかり、階段から落とそうとした罪、それも何もしてないエリザベス様を陥れるその汚れきった根性、お天道さまが許しても、このディアナが許しませんわ!!」


 ワァーという歓声と拍手が周りからおこる。

 自分が不利だと思ったのか、ヒロインが


「こ、こんの~~!『アクアボール』!!」


 私とエリザベス様に向かって水魔法を仕向けてきたが、反射魔法のために、逆にヒロインにビシャっと水球がぶつかった。



「ギャ!!つ、つめた!!!どうなってるの?」


 ビシャビシャなヒロインが宙で暴れている。まぁ〜自業自得だ。私とエリザベス様に向かって攻撃しようとするなんて、許すマジ案件。


 そこに遠くから走り寄ってくるレオナルド様が見えた。


「どうした?何があつた?大丈夫か?」


 真っ直ぐエリザベス様に向かっていったレオナルド様。うん。流石!貴公子と呼ばれるだけある。婚約者をまず気遣うレオナルド様の、いい男ポイントを1上げておこう。



 そしてエリザベス様と私が対峙している、びしょ濡れのヒロインをみて、一瞬ギョッとした顔になった。


 あ~……ヒロイン。びしょ濡れでメイクも落ちて、黒い涙みたいなゾンビみたいな……、顔がドロドロになっていて、正直怖いもんね……。



「レオナルドさま〜、この女が私をこんな目に!!助けてください!!」


 ヒロインが凄い剣幕で私を指差し、ギロリと睨んできた。


 オイオイ……ヒロイン。まじか!!ここまでやられてるのに、なお私に喧嘩を売るなんて……。火傷しちゃうよ??私は怒りのあまりに握り締めた掌に、炎を展開しようと、メラメラしていると。


 ヒロインの様子に呆れたのか、レオナルド様が一つハァ〜と大きなため息をつくと、私の方に向かって



「……どうせ見てたんだろ?バルト。報告を。」



「はいはい。レオナルドは人使い荒いなぁー。」


 そう言って、いつの間にか私の真後ろに立っていたのは、魔法団長の息子のバルト様。


 ぇ!!いつの間にっ!!後ろに??

 ディアナは急いで後ろを振り向くと、バルトは長身の背を屈めて、ディアナの耳元で


「結界と反射魔法。相変わらずスゴイね」


 他の誰にも聞こえないように小声で囁いた。



 ディアナはバッと耳を押さえ、真っ赤になりながら口をパクパクと動かし、抗議しようとするも、ディアナに向かって、シーーーと口元に人差し指を当てられ、結局何も言えなくなった。


 こんの〜!!やんちゃ担当めー!!!

 もう!!いつも毎回からかわれる~~。

 だから側近の中で唯一婚約者もいないのよ!!


 そう心の中で毒づくディアナであったが、エリザベス様と一緒に行動していると、どうしてもレオナルド様達と一緒になる時が、必然的にでてくる。


 そうするとバルト様は、何かとディアナに絡んでくるのだ。真面目キャラが珍しいのかしら?と思っているんだけど。ほんと心臓に悪いからやめて欲しい…。


 やんちゃ担当の彼の周りには、いつも華やかな女子が多い。そのなかを、のらりくらりと上手に立ち回り、誰からも不満がでずにうまーくやるのだ。ある種の人垂らしの天才だ。


 彼に弟子入りしたら、友達100人とか、あっという間に目標達成できそうだわ。


 ………それよりも、私がさっき張った結界と反射魔法に気付ける人が居るなんて……。いつの間にか背後にいたし…いつから居た?………バルト様、侮れないわね。






◇◇◇◇◇






 数日後、ヒロインは精神不安定とのことで、魔法学園を去っていった。


 学園内で、攻撃魔法を人に向かって使うことは禁止されている。その相手が私とエリザベス様とあって、大問題になり、最近の不思議な行動も問題視され、風紀を乱すとのことで、一発退場となった。


 ヒロインの子には悪いけど、退場してくれて安心した。まぁ、あの子は自業自得のところが多いんだけどね。ここはゲームじゃないって早く気づくことを祈るばかりだわ。


 ふふふ〜。ニヤけちゃう〜。

 これでやっと私の平穏な学園生活〜カモ〜ン。


 推しのエリザベス様をこっそりと愛でたり、友人達と楽しくお喋りしたり、ランチしたり……。



 そうよ〜。これこれ!!

 まさに青春って感じ〜!!ビバ学園生活!!



 そして、ある日昼休みにクラスメイトの友人達と一緒にランチをしていると、その中の1人がとんでもないことを言い出した。



「ねぇねぇ〜。聞いた?」


「なになに〜?」


「なんか…、うちの学園にダーメリック王国の王子様が見学に来るって噂!!」


「キャーーー!!うっそ?ほんと?あの有名な?」


「えーー!!どっち?どっち?」


「なんでも……王子2人で訪問するってー!!」


「キャーーーーーーーーー!!!」


「ほんとーー??私…!クール派」


「えーー!!私は断然、爽やか派だなぁ」




 …………?…………???兄達が、…くる?


 それにクール派とか爽やか派とか……なに??


 え?……、…ちょ……、……くるって、ここに??


 ……兄達が!!!

 ………………くるぅぅぅぅううう????


「まって、まって!!ちょっとまって!!?」


「ん?どうしたのディアナ?急に慌てだして?」


「え?王子って、ど、どこの国の??」


「だから!ダーメリックよ!あの有名なクール&爽やかな王子って言えば!!ダーメリック王国以外にないじゃない!!」


「………え?有名な王子………?クールと爽やかって………?」


「やだぁ〜。ディアナ、知らないの?ダーメリック王国の王子って言ったら、王太子のクール好青年派と、弟の爽やかナイスガイ派で令嬢の中では、憧れの二人組じゃないの。」




 え!!兄さん達?クールと爽やかで有名なの??



「で??ディアナはどっちが好み??クール派と爽やか派だったら?」


 ニヤニヤしがら友人達に囲まれたが

 えーーと!!好みですかっ!!?


 兄さん達は…………どっちも私に対しての想いが重いからヤダなぁ……とか言ったら大変なことになりそうだわ…。

 そんな思いを言うわけにもいかず、私は穏やかな人が好きなのと、適当な感じに濁して何とか逃げ切った。ふぅ………。




 それより!!もっと重大な問題がっ!!


 どうしよう〜!!本当にくる??


 なんで兄さん達がくるのよ!!


 ディアナとして学園生活してるのがバレたら、強制的に連れ戻されちゃうーーー!!!


 ヤバい。ヤバい。ヤバい……どうしよ。

 絶対に兄さん達にバレないようにしなきゃ……。



 何はともあれ!共犯者の学園長に相談ね。


 なんて言って脅す…、いやいや!バレないように言いくるめておかねば!!



 んもう~~!!


 やっとヒロインちゃん居なくなって、学園生活を満喫し始めたのに~~!!隣国の魔法学園まで、何をしに来るのかしら?私は目的地に急いだ。


「がーくえーんちょーー。いますかーーー?」


 学園長室の前でノックすると、私の声が聞こえた後、ドタバタと中から音がして、マッハでドアがガチャっと勢いよく開いた。


 学園長が、ハァハァと息を切らして……あらまぁ、とりあえず落ち着いてくださいませ。


「ディアナ様、ハァ……ハァ…。こ、こちらに、…どうぞ…。」


 あらまぁ…そんなに急いでどうしたのかしら?



「学園長…、大丈夫ですか?お忙しかったかしら?」


 ブンブンブンと首を横に振り、とんでもないとばかりに顔の汗を忙しなく拭いている。


 え~~と……大丈夫かしら?……もしかして……私に対して、怯えているとかじゃないわよね……??


「本当に大丈夫ですか?」


「はい。……じつはですね………ディアナ様のお兄様が、ディアナ様の学園生活を参観したいとおっしゃいまして……、一応ディアナ様の為にも、父兄の方々の参観は全生徒、認めてないとお断りしたんですが………………」


 ダラダラと尋常じゃない汗の量をかきながら、学園長が続ける。


「そ、それなら、特別講師として招待してくれと言う話を貰いまして………、お兄様、御二人とも大変優秀な方々なので、……学園の理事も役員も、満場一致で特別講師として、1週間程お招きすることに乗り気でして私の一存では……………………………ディアナ様!申し訳ない!!」


 ガバリとスゴイ勢いで、スライディング土下座を繰り出してきた!


 いやいやいや!!土下座とか、しなくていいですからね!!そんなに頭を擦り付けたら、薄いものがもっと酷いことになりますからね!!


「学園長…私のことを思って、一度はきちんと断って頂いたこと、有難うございます。1週間の特別講師ですか…………もう決まってしまったものはしょうがないですわ。ちなみに兄達……いつ来るんですか?」


「……それが、もうすぐ着くと連絡があり、明後日だとのことでして…!」



「あ、明後日ですか??」


 ヒクリと思わず頬がつれる。

 ちょっと、兄様!!……まさかの学園からの返答を待たずに出発してないよね?

隣国の魔法学園まで1週間は移動でかかるところを……。


 うわあ…………

 絶対、確信犯がやる「えへへ~来ちゃった。テヘペロ」ってやつだわ……これ。


  我が兄ながら、やり口がエグい!!


  ディアナは手を額にあて項垂れた。


 それじゃぁ学園長も、準備でテンヤワンヤなはずだ。隣国の王子が訪問するとなれば、警備やら接待やら手配は山のようにある。


 そんな最中に、ディアナの為に時間をつくってくれて申し訳ない。兄達にも振り回されいる学園長を、これ以上負担かけるのは可哀想よね…。


「学園長、ご苦労が絶えないと思いますが、くれぐれも『ディアナ・メリック』について他言無用でお願いしますね!!もちろん兄達にもですからね!!」


「ひぃっ!!も、もちろんですっ!!」


 学園長は、自身の頭をガシっと押さえた。


 え〜っと……そんなに怯えなくてもいいのに……。

  

 最初に偽名許可をとる時に、スキンヘッドになる魔法を披露したからかしらね?


 すぐにキャンセルして元の髪に戻したけど、効果は抜群だったみたいだ…………申し訳ない。


  ウ~ン……。


  兄さん達はきっと私に会いに来るのよね…



 兄が滞在してる時は『アグネス・ディア・ダーメリック』でいて、出来れば怪しまれないように『ディアナ・メリック』も同時に存在していると、同一人物として認識されないでいられるからベストだけど、今から影武者の準備??んん~~ムズい。


 あとは…兄達がいる1週間は『ディアナ・メリック』は学園をお休みするしかない。



 今まで1度も学園を休んだことがない『ディアナ』が1週間も休めば、きっとみんな心配してしまうだろうけど!残りの学園生活を満喫するうえで、しょうがないわね……。


 こうして、ディアナはしばらくは本来の姿に戻ることになった。






◇◇◇◇◇



3日後



「「「 ようこそ!!魔法学園へ 」」」




 ファンファーレと共に、紙吹雪が舞い上がり、白い鳩達が優雅に上空を旋回している。


 盛大な拍手と沿道から聞こえるキャ~!!という黄色い歓声に、爽やかな笑顔をあちこち振り撒きながら、軽く皆に応えるように手を振る兄達。



 レッドカーペットの上を優雅に歩を進め、奥の座の中央にいる学園長と私に向かってくる。


 その傍らには、生徒会メンバーがズラリと並んでいる。


 周囲の生徒達は、見慣れない私のことを、誰だあれ?ってザワザワとした空気になっているのを感じる。


 今の私の姿は、ディアナをやめて、いつもの瓶底メガネをはずし、おさげ髪をほどき、ゆるくウェーブかかった髪を薄茶から金髪に戻した状態だ。



 ほんと……おまえ誰だよって話よね…。


 私だって、最近はディアナの姿に慣れてたから、アグネス仕様の制服姿に違和感しかなかったもん。


 兄さん達が私を見つけると、蕩けるような微笑みを浮かべると、あたりから悲鳴があがり、バタバタと倒れるご令嬢までいるようだ。


 逆に恨めしそうな、殺意がある視線もチクチクと私に向けられているのも確かだ。


  うわ〜実の兄がモテるのは嬉しいが

  嫉妬とか……巻き込まれるのはゴメンだわ。



「やぁ、うちの愛らしい姫は元気だったかい?」


「会いたかった。かわりはなかったかい?」


 蕩けるような微笑みで、私の左右を陣取り、左右の手の甲に其々キスをおとす。

 またしてもキャーーと周囲から奇声が聞こえる。

 正直煩いが……無視を決め込んだ。


「えぇ。お兄様達も、おかわりはなくて?」


 これでも私、一国の姫なので、人前ではお淑やかで優雅な微笑みで応える。



「あぁ。だがアグネスが居ないと張り合いがなくて、こうして会いにきたよ。」


 王太子であり、『クール派』の好青年と言われている頭脳明晰の腹黒王子である、マーカス兄様。


「相変わらずうちの姫は可愛いね〜」


 そう言って私の髪を一房すくい上げ、軽くキスをするのは、『爽やか派』のナイスガイである、剣術命のひたすら明るい脳筋王子、ハミル兄様である。


 うん。今日も安定して妹バカなお兄様達だわ。


「うっ……ゴホン。」


 すっかり3人の世界になっていた私達に、学園長が、何やら話をしたそうにコチラを見ている。


「あ!お兄様。こちらがお世話になっている学園長と生徒会の皆様ですわ」


 兄達に皆を紹介すると、順番に名乗り出て挨拶を交わし始めた。


 レオナルド王子とは、王子同士の交流会で、以前会ったことがあるそうで初対面ではなかったようだ。次々と自己紹介が進むなか、1人、バルト様だけが、私のことを目を見開き、怖いくらい凝視している。



  え!!もしかして


  バレたっ!!??



 あまりに見られてるものだから、フィっと顔を反らした。……大丈夫よね。ディアナと見た目がこれだけ違うと、正体を知ってる学園長でさえも最初ビックリしてたもの。


 バルトからの突き刺さるような視線にドキドキしていると、いつの間にか、この後レオナルド達の生徒会が学園を案内することになっていた。



 俯いて考え込んでいた視界に、そっと手を差し伸べられた。顔をあげ見上げると、バルト様がエスコートのために手を差し出していた。



 反射的にその手の上に、手を重ねるように置こうとしたところ、左右から新たに手が2つ、スッと出てきた。


 兄達が社交的な笑顔とともに、圧を放いながらバルト様を牽制していた。


  笑顔が、笑ってませんわ……兄様。


 バルト様もバルト様で、ニコニコしながら兄達の笑顔を受け流し、私の手をとり、流れるように腰に手を回し、まるでカップルのような距離感だ。


  ちょっ!!!なにするの!!?


  兄さん達が誤解するじゃない!!


 内心あたふたとするも、そこは姫モードなので、涼し気な顔をして、にこやかにバルト様を見やる。


 すると私の耳元でバルト様が囁いた。



「ディアナ……君、本物の姫だとはね」


  やっ!!!!! やっぱり!!バレてる!!


  どうして、バレたの~~!!??


「みんなにバレたら困るの?」


 コクコクと頷くしかない。


 そんな2人の様子は、はたから見ていると、仲睦まじく囁きあって、イチャついてるカップルにみえることを、ディアナは気付かなかった。


「…………君は?誰かな?」


 マーカス兄様が青筋を立てた笑顔のまま問いただす。


「バルト・ダークガンと言います。妹さんには、とても仲良くして貰ってます。今後ともお見知り置きを……」


 そうなのか?と問うギンっとした視線が兄から向けられたので、私は全力でブンブンと横に顔を降る。


「……ダークガンと言えば、魔法団長の息子か?」


 ハミル兄様が爽やかな笑顔のまま問う。


「ええ、父は魔法団長ですが、私は次男で跡継ぎではないので、実力ありきですがね」


「ほう。実力ありきだと……一度手合わせを?」


 ニヤリと笑うハミル兄様。さすが脳筋で、目の前にチャンスがあれば、ウズウズして戦いを挑みたくなるらしい。


「それはいいな。レオナルド王子、どこか模擬戦を行えるような場所はあるかい?」


 いつもならハミル兄様を止めるマーカス兄様も、何故か乗り気である。


「……あぁ。もちろんありますが……本当にするのですか?もしお怪我などあったら、こちらとしても……」


 レオナルド様も展開についていけず、苦笑いしながら、どうしたものかと言う。


 そうだよね……他国の王子が怪我でもすれば、滞在してる国との国際問題にもなりかねるしね。


「大丈夫だ。怪我などしないし、しても責任は問わないとしよう」


 ハミル兄様がニカッと笑う。


「恐れ入ります。胸をおかります。剣術の申し子と呼ばれている、あのハミル様と一戦交えられるなんて、光栄です」


 バルト様も何故かそこは乗り気でいる。


 それならばと、あれよあれよと話が進み、模擬戦会場には沢山の観客と出店まで出始めている。


「マーカス兄様、本当に止めないの?」


 観覧席に移動したあと、ハラハラしながら闘技場を見下ろし、会場で準備運動をしているハミル兄様とバルト様をみる。


「あぁ。私も彼の実力も見てみたいしね。それに何より強くなければ、ハミルは認めないからな」


「認めるって?何を??」


 キョトンとしている私を、信じられないとばかりに目を見開きマーカス兄様が見やる。


 ハァ……と、一つため息をついて何故か額に手を当てて、「……こっち方面は疎いのか」と何やら呟いているが、こっちも、あっちも、ないと思うんだけど?


「まぁ…ここまでして気付かれない彼も不憫だが、うちの大事な姫だからね。そう簡単にはいかせない」


 ワァーという大きな歓声が響いた。いよいよ始まるみたいだ。


 今回は模擬戦なので、ルールは単純で、武器などは自由。相手が降参するか、膝を床についたら負けだ。ただし、致命傷を負うような危険な攻撃は強制終了となり、失格となる。


ハミル兄様は刃が潰してある模擬戦用の剣。一方バルト様は愛用の魔法杖を持っている。



「はじめ!!」


審判の合図と共に、バルト様の周囲に魔法陣が五つ同時に現れた。


  同時っ!!凄いっ!私でも五つは無理だ。


  なにあれ!!チートだわ!!


 魔法陣があろうが関係ないともいうように、ハミル兄様が突っ込んでいく。



 ドン!!



 音と共にブワッと激しい砂煙が広がり、2人の姿が見えなくなる。


  どうなったの??


 砂煙が落ち着いてくると、2人が凄いスピードで打ち合っているのがみえてきた。


 ハミル兄様の剣を魔法陣で受け止め、バルト様の魔法攻撃はハミル兄様が剣で弾いて、2人とも凄いスピードで対応している。


 ハミル兄様は魔法を出すのは苦手だけど、剣に魔法を込めて使うのは天才だ。普通なら剣で魔法を弾くなど芸当は出来ないが、ハミル兄様なら難なくこなしてしまう。


 その剣術の速さにあわせて、魔法陣を無詠唱でバンバン的確に出しているバルト様も相当なものだ。


  というか……どんだけの才能よ。

  只者ではないと思っていたけど。


 これ程の実力なら、魔法同士での対決でも、私といい勝負……いや、むしろ負けちゃうかもしれない。


 まだ学生の若さであの実力なら、卒業する頃には世界的に上位に君臨するだろう……。


 いつの間にやら、会場もシーンと静まり返り、2人の攻防を固唾を呑んで見守っている。


 私もいつの間にかギュっと両手を組んで2人を見守っていた。


「彼、ハミルの速さについていくなんて、なかなかやるね。………ディアはどっちを応援してるの?」


  へっ!?……どっち?


 ……そんなこと思っても見なかった。


 2人とも本気で凄いと思って見ていたし……。


「どっちって………どっちも?…かな」


「……ふ〜ん。そっか」


マーカス兄様が、少し意外そうな顔をしたあと、ニヤニヤしながらこちらを見ている。


「…………なに?」


「いいや、ディアもお兄ちゃん離れしてきて、寂しいなと思ってさ」


「そんなことないよ!兄様大好きだし!!」


 それなら、と自分のホッペを人差し指でチョンチョンとして、マーカス兄様が頬にキスを求めてきた。


 そういえば母国では、兄さん達と顔を合わせれば、挨拶のように頬にキスをしていたっけ…。


 私はいつもの調子で、マーカス兄様の頬にリップ音を聞かせながらキスを落とした。



  ドガガガガガガ!!!!!



 急に凄い音が闘技場に鳴り響いて、ビクっと体が跳ね上がった。……っっ、ビックリした~~。



 見ると、会場ではバルト様がうつ伏せで倒れていた。


  ぇえっ!!ちょっとの隙に何があったの?!


  見逃しちゃったわ!!



「勝者!!ハミル殿下!!」


 審判が宣言すると、会場がドッと大きな歓声に包まれた。凄く白熱した高度の試合に、皆スタンディングオベーションで盛大な拍手を送っている。


「まだまだ、青いな。試合中に他に意識を向くとはな。………だが、いい試合だった」


 そう言って、ハミル兄様がバルト様に手を差し伸べ、立ち上がらせた。


 2人は肩を組んで、何やらこちらに笑顔で手を降っている。


「まったく……ハミルは絆されたな。まぁ……及第点か」


 マーカス兄様はその長い脚を組み直しながら、どこか満足そうにしている。


  もう……男性って戦えば仲良しって単純よね


 ディアナは呆れ顔のまま、ハミル兄様達に観客席から、軽く手を降って応えた。






◇◇◇◇◇








 あの模擬戦から、あっという間に1週間が過ぎ、兄さん達は女学生の間に、年上男性の魅力ブームを巻き起こし、『クール派』『爽やか派』で盛り上がった。


 そのおかげなのか、生徒会のメンバーが霞んで見えるらしく、すっかり彼等の取り巻き女子も落ち着き、婚約者と穏やかな学生生活を送るようになったと聞いた。


 何故か、あの模擬戦からバルト様と兄達は意気投合して、兄さん達帰る頃にはすっかり仲良くなっていた。


 バルト様は相変わらず、人の懐に入るのが上手いわね。


 これで、私もアグネス姫から、もとのディアナとして生活に戻れるってもんだわ〜。どうにか兄さん達にバレずにすんで良かった〜。


 1番危なかったのが、レオナルド殿下がエリザベス様を婚約者だと紹介した時に、エリザベス様が『ディアナ』のことを兄さん達に、学園で1番素敵な女性で!魔法も一流で~と、大絶賛アピールをしたのだ


 あの時は横で聴いていて、冷汗かいたわ……。


 とっさにバルト様が話題を変えてくれて、ディアナのことは軽くスルーされて、本当に助かったけど


 あの時も、意味ありげにウィンクされたし…。


 あのチャラさがなければって思うのよね……!!


 まぁ、エリザベス様に絶賛されて……天にも昇れる嬉しさだったから、エリザベス様の愛に満たされてた私は、寛大な気持ちでバルト様を受け流したのよ。


 そして!!今しがた兄達の見送りに正面ゲートに皆で整列し、馬車に乗り込んだ兄さん達へ手を振りながら見送った。


 無事に兄イベントが終わって、ホッとして気が緩んでたのね、きっと……。全然気配が分からなかったけど、私の右側の耳元でそっと声が聞こえた。


「バレない協力したご褒美は?」


「キャっ!!」


 ビックリした~~~~~~!!!!


 い、いきなり、耳元で囁かないでーーー!!



 ビクンと体が飛び跳ねて、咄嗟に耳を押さえ、顔を真っ赤にしたディアナは、キッとバルト様を睨めあげた。


「ははっ!!スゴイ顔だな。姫が台無しだよ」


「もう!!ご褒美なんて知りませんから!!」


「………ほぉ。……お~~~い!!レオナルド~~!じつはさ~~!!」


「ちょっ!!やめて!やめて~~!!」


 思わず、背伸びして手でバルト様の口を押さえる。……あれ?ほんのり柔らかくて、温かい。


「どうしました?アグネス姫?何かありましたか?」


 バルト様の声を聞いたレオナルド様が、こちらに近付いてきた。


「な、なんでもありませんわ!!お気になさらず。オホホホ~~」


 バサリと扇子を広げ、口元にあて、姫様モードで応える。


 横でバルト様が、クっクっと苦しそう笑いを堪えているので、グリっとヒールで足を踏んであげた。




 声にならない痛みに、疼くまっているバルト様。




  ふん!!


  人をからかうからだわ!!










◇◇◇◇◇






 次ぐ日、久しぶりの『ディアナ』としての登校。


 やっと、や~~っと、平穏な学生生活に戻れる。


 ルンルン気分で教室に入ると、大丈夫?体調は?と多くの生徒達に囲まれた。う、嬉しい〜。やっぱり友達っていいよね。放課後にもエリザベス様に大層心配されてしまったわ。



 あぁ…学園生活の目標


 友達100人!!って言ってたけど、数じゃないわね。充分過ぎるくらい友達に恵まれてるわ〜。




 皆の優しさにジーンと感動していると、生徒会室の近くの廊下で!


「久しぶりだね。ディアナ嬢。体調は?」


 意味ありげに問いかけてきた、バルト様と鉢合わせになった。


「……ええ、ご心配なく。」


 もう!!全部知ってるくせに〜!!



 ……そういえば、どうしてバルト様だけ、正体がバレたのだろう。1週間兄さん達に囲まれていたので、なかなか2人だけで話せなかった。


 今ならきけるかも?


「……バルト様、ちょっと聞いてもいいかしら?」


「なぁに?何でも聞いていいよ。ディアナのお願いなら何でも聞くからさ。」


 スン…と冷めた目でみてしまったが、しょうがないと思うの。この軽い感じの話し方、どうにかならないかしら……。コホンと一つ咳払いして



「えっと……どうしてバルト様は私の事分かったのか疑問でして……」


「あぁ〜!!それね。簡単だよ!!」


「簡単ですか???」


「俺が天才だから!!」


「…………………」


 知ってたけどヤバい奴だったのね。聞いた私がバカだったのかしら……ここまで清々しいと、何も反論出来ないわ。


「ちょっ!!今、絶対にコイツ、ヤバいと思ったでしょ!!違うからね!!」


「……はぁ、そうですか」


「もう!信じてないな〜!!俺って、人の魔力の色っていうか、個性っていうか…見えちゃったりするの!!」


「????」


 ん?何それ?そんなの見えるの?


 コテンと首を傾げるディアナに、バルトは説明を始めた。



「じつはさ俺、産まれた時から魔力が人より凄くてさ。それはそれは期待されて育ったわけよ。でも俺、次男だろ?比べられる兄貴の姿を何度も見たんだよ。それでも兄貴は、俺のこと凄く大切にしてくれて、俺も兄貴大好きだしで………物心ついた頃には、魔力を出し入れっていうか、コントロールが出来るようになったんだ。」


 そう言って、少し夕暮れで赤くなってきた空を、窓から切なそうに見つめる。


「そこからかな?自分の魔力も人の魔力も、オーラみたいに見えるようになったのはさ…………。だから初めてディアナ嬢を見た時、ビックリしたよ。ディアナ嬢は、見た目は大人しそうなのに、オーラは半端ない強さでさ。尋常じゃないレベルの魔力持ちってすぐに分かったよ。それなのに大人しい格好してて。それから、ディアナ嬢の事が気になって、目が離せない存在になったというか………。だからすぐ分かったよ。アグネス姫のオーラとディアナ嬢のオーラが全く一緒だったからね。」



「ふ〜ん。オーラみたいに見えるのね」


「そう。綺麗で力強く輝く金色のオーラ。凄く綺麗なんだ」


 そう言って、真っ直ぐ私の瞳を捕らえて離さない。


「ディアナ嬢……。3ヶ月後、俺はこの学園を卒業したら、ダーメリック王国に行くことになっている。君のお兄さんの補佐として、もっと強くなる……。自由に動ける次男であることを、初めて感謝したよ。それまで待っててくれるかな?」



「ん??うちの王国にくるの??うわぁ〜物好きね………兄さん達めっちゃ厳しいと思うけどいいの??それに、待っててくれるかなって……そっちが先に王国に居るんだから、貴方が待つ方じゃなくて??」



「………………っ、…ハハ!!……やっぱりディアナ嬢には、これじゃ通じないのか」



「失礼ね!?ちゃんと分かったわよ。バルト様が兄達の補佐をするって話でしょ?」



「ちがうよ。ディアナ嬢のお婿さん候補ってことだよ」




「!!!!!!!!!」




 なっ!!何を、言ってるの~~????


 むこ?………婿?




 言葉をなくし、口をパクパクと動かすディアナに向かって、バルトは蕩けるような愛おしくて仕方ないような表情で



「ディアナが疎いのは知ってたけど、ここまで意識されてなかったとはね。……考えておいて欲しい。返事は、君が卒業して王国に帰ってくる時に……聞かせてくれ。それまでに、強くなって、君を守れる男になっているから……」


 バルトはディアナのおさげ髪をとって、軽くキスをした。そして切なそうに見つめたあと、ディアナとは逆方向に去っていった。



 ボン!!とディアナはショートして、しばらく動けずにいた。その後どうやって帰ったのか覚えていない。








◇◇◇◇◇






 5年後……。




 今日はダーメリック王国では、アグネス姫の結婚式が開催された。



 これから王城のバルコニーで新郎新婦のお披露目会が始まろうとしている。バルコニー下には、たくさんの民が集まっている。



「ディア……俺を選んでくれて、ありがとう」


「……バルトこそ、魔法世界ランキング1位って、どれだけチートなのよ」


「はははっ。君の兄君のおかげでかな?」


「……ほんとバカね」


「あぁ…君の横に立つ為なら……ディア、…綺麗だ。最高の気分だよ」


「もう!!!ほらっ!!行くわよ!!」




 ディアはバルトの腕をとり、勢いよくバルコニーに躍り出た。




 割れんばかりの歓声と、一斉にまかれた花吹雪が晴天の空に舞い上がり、輝かしい2人の門出を皆が祝福する素晴らしい日になった。


お読み頂きありがとうございます。

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