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採取クエストは危険な香り

「ここがそのギルド?」


「うん、ここでまずスザクちゃんのギルドカードを作るんだよ。」


教会の奉仕活動でクエストを受ける事となったスザクは、アメジスの案内で木造のギルドの前に立っていた。


「すみません、この子は新しく教会に入った子なんですけど…。」


「ギルドカードに新規登録ですね、少々お待ちを…よいしょ…。」


入ってすぐにギルドの眼鏡を掛けた受付嬢にスザクのギルドカード申請を申し込む。すると受付嬢はボーリング玉サイズの水晶玉を取り出してカウンターの上に置く。


「側面に手を置いて、顔が映り込むようにしてくださいね。」


「こう?」


言われた通りスザクは水晶玉に触れると、文字のような物が水晶玉の中に浮き上がり、カードのような物に文字が刻まれていく。その後でスザクの顔がカードに刷り込まれていく。


「はい、完了です。ギルドカードがあれば身分を証明したり、ギルドでクエストを受けることが可能となります。国の外へ出る際はこれをお忘れなく!」


「ありがとう!」


全ての工程が完了して水晶玉からカードが出てくる。カードにはしっかりとスザクの名前と年齢、顔写真が刻まれていた。


「ちょっと見せて…あ、スザクちゃんって私と同じ年齢なんだ。」


出来たてホヤホヤのギルドカードを閲覧すると、スザクはアメジスと同じ年齢の十四歳であることが判明する。


「あれ、この種族が『UNKNOWN』ってあるけど、これは?」


ギルドカードには種族を特定する項目もあるのだが、フェニックスの生まれ変わりであるためか、スザクのギルドカードの種族の項目には『UNKNOWN』となっていた。


「異種族の中には混血したりして、元の純粋な種族が何なのか分からない時があるの。そう言う時はこんな風に『UNKNOWN』になるの。」


エルフやハーピーなどの異種族同士が結婚して子供を成した際に、時折混血した状態で生まれてくるため何ら珍しいことではないようだ。


「実は私も『UNKNOWN』なんだ。」


「そうなのか?」


「だからお父さんもお母さんも私のことを…。」


と言うのも実はアメジスも同じ『UNKNOWN』となっており、本当のところアメジスも異種族の血を引いていたのだ。しかしながらそれが原因で教会に捨てられたのではと今でも思っていた。


「ごめんね、取り留めのない話をしちゃって。」


「ううん、実のところあたしも親に捨てられたって言うか…何か売られたって感じなんだよね。」


「そうだったの…?」


思わず暗い話題をして落ち込むアメジスを励まそうとスザクもまた親に売られたことを話したのだった。


「あたしがまだ人間の頃かな?あたしは知らない人に売られて…それから前のフェニックスと出会ったんだけど…。」


「そうだったんだ…。」


「だからあたしもアメジスと同じ仲間だ!」


「うん!」


思いがけないことを聞いてしまったが、同じ境遇を潜り抜けた者同士、再び笑い合うスザクとアメジス。


「あのー、僕らもいるんだけど…。」


「いちゃついてんじゃねぇよ。」


二人の世界が広がる中で照れくさそうにメイナスとレイラが話しかけてくる。


ギルドカードを発行し、そのまま初めてのクエストに行くため同伴していたのだが、カップルのイチャイチャシーンを見せつけられて恥ずかしくなってしまう。


「それじゃあクエストの受注の仕方だけど、クエストにはモンスターと同じようにランクがあってA〜Eと難易度があるんだ。」


次に案内されたのはクエストボードでそこにはクエスト…いわゆる依頼書が貼られており、文章はもちろんイラストなどで詳しく記されていた。


「今回は比較的簡単なのだから…Eランクの依頼の薬草採取だね。」


メイナスは依頼書の一枚をボードから剥がし、先程のカウンターへと持っていき、四人分のギルドカードを依頼書と共に出す。


「すみません、今日はこのクエストを受けます。」


「承認しました。新しい子のためにクエストの手解きですか?」


「そうなります。」


メイナスやレイラなどの教会のメンバーはギルドで顔馴染みなのか、眼鏡を掛けながらも目ざとく見ていた受付嬢とそんな世間話をしていた。


「でしたら少し注意事項が…ここ最近はスライムの突然変異種が現れているので気を付けてくださいね。」


「スライムが?まあ、スライムは分裂する際に突然変異を起こすこともあるとは聞いたことがあるけど…。」


スライムはポピュラーでヒエラルキーの最底辺であるが、それゆえによく増えるモンスターである。その増殖の方法は分裂による物だが、たまに突然変異を起こして新種が現れることがあるのだ。


「そのスライムが何なのかはよく分かっていませんので、充分に気を付けてくださいね。」


どう変異するかによるが、スライムでも突然変異すれば時として危険種にも指定されるため一応の用心はして欲しいと受付嬢が警告する。


「これで受付は完了だよ。場所は近くの森だからこのまま歩いて行こうか。」


受付を済ませて四人はメイナスを先頭に、採取するための場所である近くの森へと歩いて行く。


「スザクちゃん、門の外に出る時はここでギルドカードを出してね。」 


「昨日、アメジスがやったみたいにだな?」


昨日、見てはいたがアメジスが門番にギルドカードを提示して通して貰ったように、スザクもそれを真似てギルドカードを提示する。


「おや、昨日の新入りちゃんか。クエストかい?」


「頑張っておいで。」


「ありがとう!」


昨日出会ったばかりだが、顔を覚えていた門番二人はスザクがギルドカードを製作しこれからクエストに行くのだと知って笑顔で送り出すのだった。


「薬草ってどんなの集めれば良いの?」


「ヒール草って名前なんだけど…ほら、こんなの。」


薬草採取だと言うのは分かったが、どんな形をしているのかはスザクは知らなかった。そこでメイナスはヒール草の絵を見せるのだが、見た目はスズランのようであった。


「この丸い花の部分には回復効果のある蜜があるんだ。これを潰して中の蜜を飲んだり、身体に着けることで回復を得られるんだ。」


「へぇー。」


「ただ、今回は採取だからなるべく潰さないようにね。潰れて蜜がなくなると使えなくなるからね。」


さすが医者を志してるだけあって、薬草の知識には詳しいメイナス。その時、目の前の茂みから弾力を持った何かが飛び出してきた。


「なんだスライムじゃねぇか。」


飛び出したのは受付嬢が話していたモンスターのスライムだった。青いゼリー状の身体には二つの目らしき物があって、それでレイラ達を見ていた。


「モンスターはどうするんだ?」


今回は薬草の採取だけだが、モンスターと得てせず対峙した場合はと訊ねるスザク。


「必要に応じては倒しても良いけど、僕達は必要以上の殺生はしてはいけないからね。」


「例えば?」


「お腹が空いていない時とか、素材として必要じゃない時とか…或いは向こうから攻撃してきて死ぬような場合とね。」


教会に務めているだけあって、無益な殺生は好まない性分らしくそのことをスザクにも話しておく。


「ふーん、まああたしもお腹空いてなきゃ食べたりとかは…あ、でも…お腹が空いて空いて仕方がない時のあの脱力感は…ちょっと癖になるかも〜…えへへ…♡」


「…お前、何も食べなくても良いんじゃねぇの?」


不死身であるため餓死することはない。しかし空腹による辛さは、飢えを解消しない限り長引く上に死ににくい。死ねないのならただ苦痛を味わうだけなのだが、スザクには寧ろ三度の飯よりも欲しい物だろう。


「さて、ここら辺にヒール草が生えてるはずなんだけど…。」


そうこうしてる内に採取スポットまで来たのだが、メイナスはヒール草が一本も見当たらず後頭部を掻きながら首を傾げていた。


「おかしいな…ヒール草はよくここに生えてるんだけど…。」


「他の奴らが取り尽くしたんじゃねぇのか?」


「それはないよ。ここ最近はこう言う採取クエストは僕らが受け持つことになってるし、雨やお日様の光も当たっているのに一本も生えていないのは変だ。」


採取クエストは長年教会のメイナス達がやってきたため、よほどのことがない限りは取り尽くされないはずだ。おまけに草が育つ環境も問題ないためこれでヒール草がないのはおかしいのだ。


「あれ、何だろうこの匂い…。」


皆で辺りを捜索しているとスザクはハチミツのような芳醇な甘い匂いに吸い寄せられる。


「キノコ?」


見つけたのは黄色地に紫色の斑点を持つドギツい色彩のキノコだった。匂いはそのキノコからしており、スザクは思わずそれに触ろうとする。


「何してんだお前はー!?」


「あふん♪」


パッシブスキル『瞬足』を使ったレイラが慌てた様子でスザクを蹴り飛ばす。蹴られたスザクは痛がるどころか気持ち良さそうな顔を浮かべていた。


「見知らぬ植物やキノコなんか不用意に触るな!?どう見ても毒キノコだろうが!?」


「でも甘い匂いがしたけど…。」


「甘い匂いがしたからって毒がないと思ってたのかよ!?」


ロクに知識を持たないためか、匂いだけで判断してしまうスザクにレイラは冷や汗が出て気が気ではなかった。


「どうしたんだい?」


「スザクが変なキノコに触ろうとしてたんだよ。」


騒ぎを聞いたメイナスとアメジスも寄ってきて、レイラはスザクが触ろうとしたキノコを指差す。


「このキノコは…触らなくて正解だよ、これはアマワナダケと言う毒キノコだよ。」


そのキノコを見たメイナスは顔をしかめ、手を触れないようにまじまじと観察していた。


「聞いたことがないキノコだけど…。」


「当然だよ。ここら辺には自生しないはずの毒キノコだよ。見てごらん。」


メイナスは警戒しながら木の枝でキノコの下に散らばる枯れ葉などを退かす。そこにはモンスターの骨が散乱していた。


「この辺では見かけないモンスターの骨だ。多分、キノコの胞子を身体に着けたままここへ迷い込んで死んだんだ。」


「ん?キノコの胞子?」


状況的に考えればこのモンスターはここで死んだのだが、死んでからキノコが生えたとかなら分かるがメイナスはキノコの胞子を付着した状態で死んでそれからキノコが生えたと話す。


「このアマワナダケは匂いで生き物を誘い込んで、触れた相手に胞子を浴びせるんだ。そして宿主に寄生してジワジワと蝕みながら成長するんだ。」


「じゃあ、このモンスターは何処かでアマワナダケの胞子を浴びてここで?」


「だろうね。落ち葉に紛れて羽根も見つかったし…元は翼を持つモンスターだろうね。」


何処かで鳥型のモンスターがアマワナダケの胞子を浴び、飛んでいる内にキノコに侵食されてこの地で力尽きたのだ。


「アマワナダケは基本的にはCランクの人にしか扱えないキノコなんだけど…まさかこんなところに自生してるなんて…。」


「もしも胞子とか着いた場合はどうするの?」


「水で洗い流せば胞子は落ちるよ。キノコが生えた場合は胃の洗浄とキノコの根っこである粘糸を焼き払わないといけないんだ。」


「そこまで聞くとあんまり危険じゃないような…。」


もしも間違ってアマワナダケに触った場合の対処法を話すメイナス。しかし対処法があるならそこまで危険ではないと懐疑的になるレイラ。


「そうもいかないんだ。目や耳もヤラれてくると幻覚が見えてまともに動けなくなるんだ。」


「マジかよ…。」


「それにもしも脳まで脅かされるとキノコに意思を乗っ取られてそのままキノコの肥やしになるんだ。」


対処法があるとは言え危険性が全くない訳がなく、下手をすればキノコに完全に乗っ取られると聞いてレイラはウゲッと顔をしかめる。


「けど、気になることがあるんだ。このキノコ…食べられた跡がある…。」


「何?Cランクの毒にレジスト出来るのは同ランクか、上のランクの毒を持ったモンスターだけだ。」


群生するアマワナダケの中には毟られた物があり、根元の部分がモンスターの死体に僅かに残っていた。


「毒の耐性にもランクがあるの?」


「うん、毒の強さにはよるけど基本的にはランクが上位であればあるほど、低ランクの毒に免疫があるんだ。」


人間は玉ねぎを食べても平気だが犬や猫には猛毒になり、魚のフグも毒のあるヒトデなどを食べるが、人間にはそのヒトデは猛毒となる。モンスターに置いてはランクの上下によっては毒が効く・効かないがあるのだ。


「だとしたらもしかしてここには最低でもCランクのモンスターが?」


「受付のお姉さんが話していたスライムの変異種かも…。」


だとするのならここにはCランクのモンスターが徘徊していて、受付嬢が話していた例の変異種スライムの可能性があった。


「どうするの?」


「キノコだけでも危険だけど、その変異種スライムがいるかどうか確認した方が良いかもしれない。」


予測通りならこれは自分達の手に余るし、Cランクモンスターが徘徊していると言うならば報告するために慎重に調査する必要がある。


「レイラやメイナスが戦うじゃダメなの?」


「僕はあいにく戦うのはダメで…。」


「あたしは…Dランクだから出来るのは精々偵察くらいだ…。」


クエストのことに関しては先輩であるが、メイナスは元から争いなどが苦手であり、戦闘力がまだあるレイラもランクに差があって敵うかどうか分からなかった。


「じゃあ、ここから…うぷっ…。」


やはりここにいるのは危険であるため離れようとしたスザクだが、ブヨブヨした柔らかい物に顔が埋もれてしまう。


『ブワワ〜!』


「げっ!?何だこりゃ!?」


ブヨブヨした物の正体はその辺の木よりも大きいオレンジ色のスライムだった。


「こんなに大きなスライムは見たことがない!?まさかこれが変異種の…!?」


『ブワワ〜!』


「スザクちゃん!離れて!?」


間違いなくこのスライムこそが変異種のスライムのようだが、目しかないスライムのボディに大きな窪みが出現して上から覆い被さろうとする。


「おっと!」


『ブワ〜!』


「うわっ!?アマワナダケを!?」


咄嗟にスザクは横に飛んで避けるが、スライムの狙いはスザクではなくアマワナダケの方であり、窪みを被せた途端にゴクンゴクンと音を立てて呑み込んでいく。


『ブワ〜…ゲプ〜…。』


「こいつ…毒キノコを平然と食いやがった…。」


胞子を浴びれば寄生されるのに、呑み込んだスライムは下品にゲップをしており平然としていた。


「おい、あいつの腹を見てみろよ!」


スライムのボディをよく見てみると眼球以外にも何かあるのが目に入る。


「あれは…ヒール草だ!それに他のモンスターの遺骨が…。」


採取しようとしていたヒール草の枯れ草やここら辺に住まうモンスターの遺骨がスライムのボディの中で沈んでいた。


『ブワワ…ペッ!』


「消化しきれない物は体外へ吐き出すみたいだね…。」


よく見せてやるとでも言わんばかりにスライムは体の外へと遺骨や枯れ果てたヒール草を吐き出す。


「間違いないな、こいつがCランクモンスターの変異種スライムか。」


「皆!ここから離れるよ!」


アマワナダケを食べても平気ならば、このスライムがCランクモンスターであることは間違いない。このままでは危険だとメイナスの判断で慌てて駆け出す。


「あいっ!?」


「アメジス!」


『ブワワ〜…!』


しかし逃げている最中に木の根に足を引っ掛けて転んでしまう。その間にスライムはのっそりと窪みを開けて近寄ってくる。


「アメジス!」


「きゃあ!?スザクちゃん!?」


転んだアメジスの腕を掴んでメイナスに目掛けて投げ飛ばす。しかしその直後にスライムはスザクを頭から呑み込んでしまう。


『ブワワ〜!』


「あう…むぐ…。」


「嘘だろ!?あいつ頭から…!?」


足をバタつかせるスザクを、スライムはバッタを食べるカエルのように呑み込んでしまう。そして彼女の姿はスライムの中に落とされてしまう。


「おい、スライムの身体の中であいつは大丈夫なのか!?不死鳥とは言え、火の鳥なんだしあんなスライムの身体の中じゃ…。」


「スザクちゃん!?」


水の中ではないが燃えにくいスライムのボディの中ではスザクの再生の炎も出ないのではと危惧する。


「ごぼ…!?」


「大変!?スザクちゃんが溺れてる!?」


「やっぱり燃えにくいスライムの中じゃ…!?」


スライムの中で炎も出せずに溺れるスザクを見て、アメジスは焦り始める。


(このスライム、甘い匂いがいっぱいで身体の自由が…それにスライムで息苦しくて炎も出せない…。)


「スザクちゃん!スザクちゃん!?」


アマワナダケを食べていたためかスライムの中は甘い匂いが充満しておりスザクは頭がボンヤリしており、それでいてスライムの圧迫感と体内の無酸素状態がスザクを肉体的に苦しめていた。


おまけに燃えにくいスライムの中にいるせいで炎も全く出せないでいた。


(私は…このままブヨブヨのスライムに私の身体がもみくちゃにされて…息苦しい思いをしながら身体を溶かされ…炎も出せないまま為す術もなく私は…♡)


常人ならば苦しみの余り意識を手放してしまうのだが、スザクは極楽浄土にいるような快感をこれでもかと堪能し、まだ身体は溶けていないのにフニャフニャに蕩けきっていた。


「スザクちゃん!スザクちゃん!?ううっ…!?」


「ダメだ…もう手遅れだ…!?」


あれではもはや助からないとレイラは泣きながら助けようとするアメジスを引き止める。


『ブワ〜…ブワ…?』


「ん…!?」


泣いているアメジスを気の毒に思っていたメイナスはスライムの異変に気が付く。スライムの身体の中からジュワジュワと言う音と、スザクがいるであろう部分が赤熱していたのだ。


『ブワワ!?ブワワ〜!?』


「え…?」


「二人共危ない!?逃げるんだ!?」


スライムも異変に気が付いたらしく、少なくとも気の所為ではないようだ。だとするのならこれから起きることを考えればメイナスは大慌てで二人に勧告する。


「パッシブスキル『瞬足』!」


レイラもスライムの身体がボコボコと沸騰している異変に気が付いて、スキルを使用してアメジスと共に離れる。


「もう…最高に…気持ち良い〜〜♡」


『ブワ!?』


卵の殻を打ち破ったように赤い炎の翼が、スライムの身体を沸騰させながら爆散させ、中からスザクが瞳にピンクのハートを浮かべ快感で蕩けきったような顔で飛び出して来る。


「…問題なかったな。」


「さすがフェニックスだね、Cランクモンスターなんてあっさりだったね。」


爆発が収まりそっと覗き込むとスライムがあちこちに飛び散っており、もうあのスライムの姿は跡形もなかった。


最初はどうなるかと思われたが、やはりフェニックスであることは間違いなく変異種スライムでもイチコロだった。


「はあ…はあ…もっとぉ…♡」


「スザクちゃん…ちょっとそれは…。」


蕩けきったスザクは生まれたままの姿を、モジモジしながら大きなスライムの塊に擦り付けていた。それを見たアメジスは赤くなりがらチラチラ見ていた。


『ブワ〜…。』


「って、それさっきのスライム!?」


ところがスザクが擦り寄っていたのは、爆散して枕サイズにまで小さくなった変異種スライムだった。


「それで…そのスライムがこれですか?」


「ええ、そのまま持ち合わせていた採取用のビンの中に入れてね。」


ギルドに帰った一同は変異種スライムの入ったビンを持ち帰り、受付嬢を始めとするギルドの人々を驚かせていた。


「Cランクの…それも新種のモンスターの捕獲…正式な依頼はありませんがかなりの高額報酬になりますよ…。」


何とか事態を整理をしつつも受付嬢はこれまでの経験から、この功績は高額報酬を得られるほどだと述べる。


「マジかよ…いつもの報酬の三倍はあるんじゃないのか?」


「今年の冬は越せるかもね…。」


薬草採取のはずが採取したのは新種モンスターだけであり、その報酬は彼らの通常の収入を軽く上回っていた。


「あの…報酬ですがまだ支払いは出来ません。」


「え?何でですか?」


「ただでさえ新種のモンスターで大騒ぎだったために依頼書の発注をしていたのですが、出来上がる直前に捕獲してしまったのですから…。」


言われてみれば新種のモンスターが出たのなら、ギルドは挙って討伐や捕獲などの依頼が殺到する。しかし正式に依頼書になる前に捕獲されたとなればその苦労は徒労に終わってしまう。


眼鏡を掛け直した受付嬢が押し殺すようにそんな苦言を呪詛のように呟く。それを聞いた一同は居た堪れなくなる。


「すみません…。」 


ギルドでの依頼を受け持ち、それを依頼書として掲示し、その後の事後処理などを担っているのならその苦労はかなりのはずだ。 感謝の意を込めるつもりでそんな謝罪の言葉を述べる一同。


「あ!失礼しました!?襲われそうになったのですから何も問題は…!?」


とは言え、襲われそうになって身を守ろうとし、その結果として全員五体満足でモンスターを捕獲したのならば結果的には喜ぶべきなのに、苦言を並べて謝罪させてしまったことに受付嬢も慌てて謝罪する。


「こほん、つまり依頼は前倒す形で成功となりますが正式な報酬までは算出してないのでまだ支払う訳には…。」


つまり依頼は達成されたがまだ報酬を支払うことはギルドとしては出来ないと言うことだ。


「じゃあ、このスライムはギルドに預けることになるんですか?」


「そうしたい所ですが、何せこのギルドでは生け捕りにしたモンスターを保管する場所は既に倉庫になってますし…。」


話によると生け捕りにしたモンスターを入れておく場所は元々はあったのだが、ミスティーユが衰退していくに連れて生け捕りをする者達が少なくなり今では使われなくなったと言う。


「誠に申し上げにくいのですが…暫くはこのスライムを調査員が来るまで預かって貰えますか?」


そのため受付嬢は苦笑いしながらスライムをメイナス達で預かって欲しいと告げる。


「どれくらい掛かりますか?」


「早くても三日かと…。」


このスライムを調べる調査員や冒険者などが来るまでは三日ほど掛かるらしく、それまではこの新種のスライムを教会で預かることとなった。

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