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出生の秘密は海よりも深い

「見て見て、綺麗なアクセサリーだよ!」


「ほほう、貝殻やサンゴを使っているのか」


何とかクエストをクリアして学校側から報酬として、マリナル王国でのバカンスをプレゼントされたミエナ達は出店に訪れていた。


「この髪留めなんか綺麗ね」


「でもミエナちゃんの髪留めリングも綺麗ですよ」


サンゴから作られた髪留めがお気に召したのかミエナは手に取って見ており、ニナは彼女が元からしているキラキラ光るリング型の髪留めを気に入っていた。


「それじゃあ、これしてみる?」


ミエナはサイドテールからリングを外して髪を解き、ニナの片方のツインテールに留めてみせる。


「わあ、ありがとう…ふにゃあ」


「む?どうしたのじゃ?」


ところが髪に留めた瞬間にニナは膝から崩れるように倒れてしまう。


「何だか…少し力が抜けちゃいまして」


「疲れてるんだよ。これを買ったら何処かで休もう」


今回の敵は二つ名の古竜でランクにしてSSであった。そのため激しい攻防戦だったため疲れていてもおかしくないとミエナ達はニナを休ませることにした。


「あ、お代は良いですよ。今回はサービスでそのアクセサリーを差し上げますよ」


「え、そうなんですか?」


取り敢えず気に入ったアクセサリーを購入しようと代金を払おうとするが、店員さんはニコニコしながらそのアクセサリーをプレゼントしてくれたのだった。


「それで何処を観て回るんだ?」


「ミスティーユやパズレインスクールの商業施設とも違う賑わいだね」


「しかし気のせいか、最初来た時よりも賑わってるような?」


スザクはアメジスとレイラと共に街を見て周っていた。周りの人達がアーマービキニなのは慣れたが、最初来た時と比べると人の行き交いや店の賑わいが異なっていた。


「メイナス兄さんが言うには異常気象やモンスターの気性が落ち着いたからだって」


どうやら今回のクエスト達成が既に噂として広まっており、人々はようやく安心して日常生活を過ごせるようになったために元の活気を取り戻しつつあるようだ。


「最初来た時は見られなかった物がたくさんあるな。これとか何だ、オキアミールのかき揚げ?」


「美味そうだな」


「私、エビ大好き!」


小さなエビの群れを纏めてフライにした料理が出店に出されており、エビが大好きと言うアメジスは夢中になっていた。


「お代は良いぜ」


「え、ですけど」


「良いって良いって!可愛いお嬢ちゃん達にサービスだ!」


取り敢えず人数分を買おうとするが料理を作っていた男性は代金を貰わずにサービスしてくる。


「美味しい♪こんなことってあるんだね」


「おい、あれは何だ?」


「『リラックスパ』?」


食べ歩きをしているとパルテノン神殿を彷彿とさせる石造りの建物が目に入り、スザク達は興味本位で中に入ってみると温かい蒸気が辺りでいっぱいだった。


「何だ?温泉か?」


「いらっしゃいませ、リラックスパへ!三名様ですね、こちらへどうぞ!」


「え、あの…」


どんな施設か分からないでいると元気いっぱいの女性従業員が有無を言わさずにアメジス達を奥へと案内する。アーマービキニのリラの時と良い、この国の人達はどうも人の話を聞かないようだ。


「当施設は皆様の疲れと傷を癒す海底温泉が名物となっています!」


「海底温泉?海の中にも温泉があるのかよ」


「メイナス兄さんが言ってたけど、地熱で海底が熱くなって海の一部が温泉みたいになるって」


蒸気がある辺り温泉があるとは思っていたが、海底温泉とは海沿いの国ならではの名物だった。


「海底温泉はもちろん、お客様には疲れや傷を癒やすフルコースを用意しておりスポットを巡って貰います!」


「温泉ってお風呂のことだろ?何でこんなにたくさんあるんだ」


「お湯の効能…つまり身体への効き方にも色々あるから種類分けされてるの」


壁にはこの施設の地図があるのだが、見る限り温泉だけだも効能によって種類分けされており、しかも温泉以外のサービスもあって正しく癒やしのテーマパークのようだった。


「結構行くとこあるけど、あたしらってそんなに傷を負ってるかな」


「疲れてはいるけど全部は周りきれないね」


「寧ろ全部周るだけでも疲れそうだな」


確かに激戦だったとは言えスザクのフェニックスの力で傷はほとんど癒えているし、疲労があると言っても複数あるスポットを全て巡っていては逆にくたびれてしまいそうだ。


「いえいえ、全て周る必要はありません。事前に決めていただいた場所のみを巡ることになります」


「だったらこんなに必要なのか?」


「もちろんですとも!お客様、一人一人癒やしたい内容は変わってきますからね!」


ケガや病気は人によって異なるように、それに応じた温泉の効能も複数種類あるため癒す方法は複数あった方が良いのだ。


「あの…私達は別にどんな施設か気になっただけで利用したい訳じゃなかったんですが」


色々説明されるも施設を巡る以前に利用するつもりはなかったため、気の毒だが丁重にお断りしようとする。


「しかしお客様は一万人目のお客様なんです!ですから今日は我がリラックスパをタダで、心ゆくまで堪能してください!」


「え、そうなのか?ただ気になって見ただけなのにか?」


最初は単に好奇心から施設を外から見ていただけなのに、まさかの一万人目の客に選ばれたことに更(疑問に思うのだった。


「お気になさらないでください!さあさあ、リラックスパを一から十まで巡りましょう!」


「いや、全部周らせるのか?それに何でそこまで良くしてくれるんだ」


何だか色々と腑に落ちないのに従業員は戸惑うレイラ達の背中を押して施設の奥へと追いやる。


「学校と違って、この国の図書館には海の歴史の本とかがたくさんあるね」


「それに海や水辺ならではの病気やその治療法が載った本もあるね」


「ここは静かで良い」


ルアーネとメイナス、そしてステラは寝ているリュクウと共にマリナル王国の図書館を訪れて本を読んでいた。


「…それよりも何だか変じゃない」


「ああ、気に入らねぇ」


「うん、僕らは見張られているね」


本の内容には満足していたが、周りの人間達は本や新聞などで顔を隠し、本性を誤魔化しているつもりだろうが自分達を見逃さないよう監視している気配が漂ってきてどうも落ち着かなかった。


「何者だ?」


「ボクらは良くも悪くもSSランクをクリアしたから、何かレアなアイテムを持っていると踏んで狙ってるのかな」


「或いは帝国の回し者がいるかだね」


周りの人間達が何を考えているかは不明だが、自分達はマリナル王国だけでなく他国にすら悪影響をもたらすであろうドラグングニル帝国の戦争の火種を辛うじて退けた有名人、いや今や英雄と呼ばれてもおかしくないのだ。


海底での出来事であるため(おおやけ)にはなっていないが、勘の鋭い連中はルアーネ達の功績だと気が付いており、(よこしま)な考えを持つ者が自分達を監視しているのではと警戒していた。


「どうする?」


「何者か調べないと後々で面倒になるかも、皆とも合流しないと」


考えも得体も知れないが相手の素性を明らかにしないと自分達の生活にも悪影響があるかもしれない。だからこそ別行動をしている仲間達を招集する必要があった。


「ステラ、相手は何人ぐらいいる?」


「四、五人ってとこだな。見張っているにしては出入り口は無防備だな」


ステラは『熱感知』のスキルでこちらに視線を送っている人数を特定し、出入り口付近には人がいないことを確認した。


「あたしらが動けば奴らも動くか?」


「それを試そう」


単なる好奇な目で見ているだけならそれで良いが、もしそうでなければ逃さないよう何か行動するはずだ。そう思い、三人は寝ているリュクウと共に図書館を後にするのだった。


▷▷▷


「美味しいですね〜♪こんなにいっぱい貰っちゃいましたねぇ〜」


「こんなにも(みつ)ぎ物をして貰うとは夢にも思わなかったぞ」


その頃、ニナ達はたくさんのご当地グルメのような物やお土産をたくさん貰っておりご満悦になっていた。


「こんなにもサービスして貰うなんて、今日は何かのお祝いかしら」


「うん?あれはメイナス達かのう?何やら眉間(みけん)にシワが寄っておるぞ」


不思議なこともあるものだと考えていると、先程図書館に向かったはずのメイナス達が鬼気迫った様子で戻って来たことに唖然となる。


「ニナ、ユウキュウ、ミエナ、無事かい」


「何じゃいきなり。無事も何も食い物をたくさん貢いで貰って食い過ぎになりそうなぐらいじゃぞ」


合流するや否や安否確認をしてくるためユウキュウは冗談混じりに返答するのだった。


「じゃあ、変わったことはなかったかい」


「変わったこと…そう言えば、色んなお店に行ったけど代金は良いからって色々貰ったけど」


美味しい思いをしていたから忘れていたが、色々な場所を転々としていたミエナ達は事あるごとに食べ物やお土産を貰い続けていた。しかし今思えば道行く出店でここまで物を貰うなんてかなりおかしかった。


「何かあったのかのう」


「感じないのか?さっきからあたしらは見張られてるんだぞ」


「見張られてる…うっ、言われてみると…」


ステラに言われてニナ達は辺りを見てみると屋台や建物の陰からこちらを(うかが)う視線や、行き交う度にこちらをチラチラと見つめる流し目などがあった。


「何者かは知らぬが先手を取るか」


「ここは敢えて知らないふりをしよう。それよりもアメジス達は?」


「今は他の皆とも合流したいところだけど」


爆弾を手にしたユウキュウを宥めさせ、今は気が付かないふりをしてアメジス達との合流を急ぐことにする。


「お客様〜、だいぶ身体に疲労が溜まってますね〜」


「はへぇ〜…これは気持ち良いかも…」


「くはぁ…マジかよ…」


そのアメジス達はベッドにうつ伏せに寝かされ、背中にオイルのような物を塗りたくられるように女性整体師のマッサージを受けて蕩けてしまっていた。


「お客様、このマッサージには身体の血行やリンパの流れを良くすることで肉体のポテンシャルを上げることも可能ですよ」


「どんなのですか」


そう言うと整体師はアメジスを仰向けにして脇と胸の間の輪郭(りんかく)を刺激するように揉み始める。オイルと手つきのくすぐったさからアメジスは「ひゃあ!」と言う色っぽい声を出してしまう。


「こうすることで胸部の発達や成長を促すんですよ〜?」


「くふふっ…くすぐったい…けど、これも気持ち良いかも」


胸の小ささはアメジス自身もコンプレックスだったが、そんなことを忘れさせるほど整体師のマッサージは彼女を気持ち良くさせていた。


「あなたは下半身に力が入りやすいようですし、こことかここはどうでしょう?」


「ひょわっ!?ど、何処を触って…はう…」


レイラは主に下半身をマッサージされるのだが内腿(うちもも)鼠径部(そけいぶ)など敏感な部分を集中的に触られるために、反論してやろうとするも口からは腑抜けた声しか出てこなかった。


「こんなスゴいの知らないよぉ…これをタダでしてくれるなんて夢みたいだねぇ、スザクちゃん…?」


最初は戸惑っていたが悪い気はしないとスザクに同意を求めようと彼女がいる隣のベッドに視線を移す。


「はうあああぁぁぁ…♡」


「ぶっ!?スザクちゃん…全身が溶けてない!?」


スザクには腕、足、顔、上半身、下半身とそれぞれの部位に整体師が付き添っていて、たった一人の施行でも骨抜きにされているのに、スザクは骨抜きどころか気持ち良さの余り身体がまるでバターのようにトロトロに溶けて色っぽくなっており、アメジスは思わず鼻血を出してしまう。


「くへぇ…♡こんなの知らないぃ…♡身体の奥から溶けちゃいそうだぁ…♡」


「いつもは苦痛に満ちてるからなぁ…くうっ…」


スザクは地獄のような苦痛や拷問は快楽であるため嬉々として受け入れるが、一般的な快楽である極上のマッサージは知らなかったらしく、アメジスやレイラ以上の快感となって彼女の身体を蕩けさせてしまったようだ。


▷▷▷


「どんどん数が増えておるぞ。いずれ手に余る人数になるぞ」


「面倒だ。追ってきてる奴らを睨みつけても良いか」


「君のは睨むだけじゃ済まないでしょ」


街を歩く度に自分達を監視するような視線が増えていくことに業を煮やしてユウキュウは爆弾を手に取り、ステラは睨みを効かせようとするがどちらも相手をイチコロに出来るためメイナスから止められる。


「けど、このままだと囲まれてしまいますよ」


「う…ううん…」


「あ、リュクウちゃんが起きた」


人数的にはこちらが不利であるため突破口があるかどうか不安に思っていると、ここでようやくリュクウが目を覚ましたらしく大きくあくびと伸びをする。


「皆おはよう…あれ、海の中じゃない」


リュクウはスザクと共にアンデッドセイリュウに取り込まれていたが、何とか五体満足で無事に帰還して今の今までずっと寝ていたため、起きたら海の中じゃないことに違和感を覚えても不思議ではなかった。


「ったく、どんだけ寝てんだよお前は」


「お姉ちゃん、誰?」


そんなリュクウからすれば見知らぬ人物であるステラがいつの間にか増えていることに尚更首を傾げるのだった。


「パパ…パパは?」


「パパ?そう言えばコバルトラビリンスから出る時も同じことを呟いていたね」


「パパ!パパぁ〜!」


ふと思い出したように彼女は寝言で何度も呟いていた父親を探すように辺りをキョロキョロしていた。


「パ…パ…ううっ…パパ…パパあああああぁぁぁぁぁ〜!?」


「うわっ!ちょっと…!?」


「起きたら今度はスゴイ声で泣き始めやがった!?」


いないと分かるとまるでドラゴンの雄叫びのような声量でリュクウは泣き喚き始める。余りの声量に窓ガラスがヒビ割れ、石造りの建物が積み木のようにグラグラと崩落しかける。


「パパああああぁぁぁぁ〜!?」


「気分が悪くなってきたぞ…早く泣き止ませるのじゃ」


「こんなこと初めてだよ、どうしたら…!?」


周りで何が起きているかも構わず泣き続けるリュクウに、間近で声を聞いているユウキュウ達も体調を崩しそうになり、SSランクをクリアしたばかりなのにまさかの仲間の泣き声に全滅しかけそうになる。


「顎の鱗を撫でてください」


「はい?あなたは図書館でボクらを見ていた女の人?」


泣き声で気が付かなかったがルアーネ達を図書館から尾行していた女性がいつの間にか耳元で囁くほどに近づいており妙なことを呟いたのだ。


「てめぇ、何のつもりだ。顎を撫でろだぁ?」


(わし)らをずっとつけ回して置いて何を言い出すのじゃ」


遂に痺れを切らしたステラとユウキュウが正しくストーカーのように自分達を執拗に追って来た人間が(やぶ)から棒に何を言い出すのかと食って掛かり始める。


「…すみません、()()()()()()がご帰還されたのが信じられなかったので」


「「「リュクウ…姫様?」」」


彼女はリュクウが帰ってきたのが信じられないと呟いたのだが、一番気になったのはリュクウが王族の呼び名で呼称されていたことだ。


「とにかく顎の鱗を撫でてください」


「リュクウの顎に鱗だって?…本当だ、確かにある」


最初は訳が分からなかったが戯言(ざれごと)を言っているようには思えず、騙されたと思ってメイナスはリュクウの顎を撫でてみると、確かに鱗のような物が指に当たる感触がした。


「ほ〜ら、リュクウ…大丈夫だよ、落ち着いて」


「ううっ…ぐすっ…はふぅ…」


本当に顎に鱗があったことで彼女が嘘を言っていないと分かり、メイナスは言われた通り指先でリュクウの顎の鱗を優しく撫でると彼女は次第に落ち着きを取り戻し泣き止み始める。


「竜族の血を受け継いだ者は逆鱗を愛情深く撫でられれば心が安らぐそうです。それが出来るのは家族のように親しい関係を築いたあなた達でなければ不可能なのです」


「あなたは一体…何でそんなことを知ってるんですか?こんなの本にも載ってないよ」


これまで読んできた本にも、そしてリュクウと共にいたはずのルアーネの賢者の書にもこんな対処法はなかったのに、尾行してきた女性は何故か自分達の知らないことを知っていたのだ。


「それは…こう言うことです。皆」


「なんだぁ?纏めて相手になるってのか?」


彼女が目配せをすると恐らく自分達を尾行していた人々が次々と姿を現し、本性を露わにしたのかとステラは威嚇するように睨みつける。


「待って、様子が変だよ」


「そりゃあ襲い掛かるなら態度が変わるだろうよ」


「そうじゃなくて殺気とかを感じられないんだよ」


姿を現したのに襲い掛かると言うよりも彼らは全員何処か案じているような目付きをしており、メイナス達が図書館で感じた妙な視線はこれだったのだ。


「皆、黙っててごめんね」


「む?お主はリラではないか。そやつらと一緒に何をしているのじゃ」


尾行していた人間の中にはアーマービキニでお世話になったリラもいたことにこれはどう言うことなのか理解が追いつかなかった。


「実は…」


「待って、スザク達はどうしたの?見たところ僕達に危害を加えるつもりはなさそうだけし、何か積もる話もあるんだろうけど、せめてスザク達と合流してから何がどう言うことか話して欲しいんだけど」


リラが話そうとするがメイナスは彼女らに敵意がないのならば、ここにいないスザク達と合流してからだと話を(さえぎ)る。リュクウの宥め方やアーマービキニのことなど信頼がない訳ではないが、自分達を信用させていざとなれば(あざむ)くとも限らないからだ。


「だったらリラックスパに…はい?」


「何じゃ?」


案内しようとしたがリラは仲間の一人から耳打ちされた瞬間に血相を変える。


▷▷▷


「熱っ!?何これ、海底温泉が沸騰してるの!?」


「まるで釜茹でみたいです!」


「アメジス!レイラ!まさかこれは…」


リラの案内でリラックスパを訪れたがそこでは温泉が活火山のマグマのように沸騰しており、それをレイラとアメジスが呆然と見ており何が起きたかはだいたい予測出来た。


「はひゃあああん♡」


騒ぎの中央である温泉にはスザクがいて炎を出して温泉を茹だらせており、彼女の身体にはウミウシのようなモンスターが纏わりついていた。


「あれはアカナメクジ。体の汚れや古くなった細胞を食べてくれるモンスターで、身体の傷を治療してくれることからヒールスラッグとも呼ばれているはずだけど…」


「どうやら彼女の身体の細胞を食べた瞬間に強いマナミナに反応して活性化したみたいで」


疲れ切った身体を癒すために古くなった細胞を食べてくれるアカナメクジをここで飼育しているのだが、滅多にない膨大かつ強力な細胞とマナミナを得たことで、ただでさえ飢えていたアカナメクジはピラニアのように彼女に群がっていたのだ。


「何をしているの!英雄の方々に粗相があっては大変よ!早く止めなさい!」


幾ら相手が命を取らないモンスターとは言え、どう見たって襲われているようにしか見えないためリラ達はスザクを助けようとする。


「って、メイナス達はまだしも何でリラさんがここにいるんだ。しかも何か知らない人間が大勢いるけど」


「あの…下手に近寄らない方が良いですよ」


何故ここにリラがいるのか分からなかったが、スザクのことをよく知らないため温泉に飛び込んで助けようとしており、アメジスはそれは返って危ないと警告する。


「はうああっ…♡全身くまなく…しゃぶられてるぅ…♡気持ち良い…♡」


アカナメクジ達はスザクの全身に纏わりつき、露出している部分はもちろん、アーマービキニの隙間から潜り込んでは柔らかな突起物や穴と言う穴から古い細胞やマナミナを貪るため否応なしに強い快感となって押し寄せる。


「あ…あああ…♡そんなにしゃぶっちゃぁ…♡あたし…気持ち良くてぇ…♡おかしくなっちゃうよおおおぉぉぉ♡」


押し寄せてきた快感によってスザクは全身から炎を噴出させて温泉を沸騰させるどころか、一気に水を熱したことで水蒸気爆発を発生させる。


「はあ…はあ…♡気持ち良かったぁ…♡あれ、皆どうしたの?」


「あはは、まさか温泉を爆発させちゃうなんて…」


「アカナメクジが熱さでダウンした…!?」


水蒸気が消えるとスザクは温泉の水面でプカプカと浮いていた。その身体はアカナメクジに組まなく貪られるものの揉みほぐされてフニャフニャに蕩けてしまい、粘液と相まって艶々になってて色っぽく思わずドキッとしてしまいそうだった。


「取り敢えず無事で良かったです。しかし我々の不始末でご迷惑をかけて申し訳ありません」


「いや、どちらかと言うと彼女の方が…」


「って、それよりも何がどう言うことなのか話せよ!」


先程まで多少なり睨み合っていた両者だが、今やお互いの過失を認めて謝罪し合っていた。しかしステラが話を戻したことで全員がハッとなる。


「そうでしたね…私達の素性についてですよね。説明するよりもこれを見てください」


彼女らは貝殻のアクセサリーを外すと耳が金魚の尾ひれのような形に変形し、何人かは胸びれのような物が首や頬に生えてくる。


「そのヒレの耳は…あなた達、人魚族だったんですか!」


「はい、そうです。我々はこの国の人魚族なのです」


その身体的特徴は紛れもなく人魚族特有の物で、この国やコバルトラビリンスからいなくなったと思っていたが、まさか人間に変装して自分達の側にいたとは夢にも思わなかった。


「あれ…でもリラさんはずっと戻ってきてないって」


「ごめんね。こう言うのは知らない方が良いと思って」


もう何十年も戻って来ていないと言う話はリラから聞いていたが、彼女は人魚族ではないにせよおいそれと人には教えられない秘密を知っているようだ。


「何で人魚族はこの国に帰ってきていないって嘘を言ったんですか」


「あなた方も知っての通り、コバルトラビリンスは我々の住処だったのですがある時他の国の侵攻を密かに受けて立ち退くことになったのです」


「侵攻…ドラグングニル帝国のことだね」


考えてみると最初は異常気象とモンスターが凶暴化したために人魚族はコバルトラビリンスを引き払ったと聞かされていたが、実際はドラグングニル帝国が一枚噛んでいたため既に話が矛盾していた。


「当初は我が主である古竜、リュウグウ様が居られたことで侵攻は水面下で抑えられていました」


「だからこの国も古竜の伝説によって帝国も安安とこの国を制圧しようとはしなかったのよ」


帝国の手に渡ればどの国に取っても世界的驚異になるアンデッドセイリュウ。しかしそれは逆にセイリュウが生前であれば、誰の物にもならずあの軍事国家でも不用意に手出しは出来ないことを意味する。


その証拠に生きている間はコバルトラビリンスへの侵攻はもちろん、マリナル王国や近隣の諸国にも手出し出来ず帝国への抑止力になっていた。


「ですがある時リュウグウ様は次第にお身体が弱り始めていきました。そう、流石のリュウグウ様も寿命には勝てなかったんです」


ところがある時リュウグウは身体に衰えを覚え始め、考えられないほど長い時を生きていた彼は自身の限界を悟ったのだ。


「寿命?」


「生きていられる時間だよ。幾ら長命と言われているドラゴンでも寿命は無限ではないからね」


()()()であるスザクからすれば寿命と言う概念は考えれなかったが、ある種を除けば基本的に生命は寿命には勝てない。例え二つ名の『龍』の称号を持つ古竜でもいずれは死が訪れるのだ。


「自分が死に至れば共に海の中で生きてきたコバルトラビリンスの人魚族や海を大事にしてくれたマリナル王国の人々が戦火に焼かれることを恐れました」


長い年月を生きて、ほぼ絶対無敵とされたリュウグウは初めて恐れ(おのの)いた瞬間だった。それは自らの『死』ではなく、自身が亡くなることで大切にしていた人々の未来が失われることにだ。


「そのためリュウグウ様はお世継ぎを作ろうと考え、人魚の女王を(めと)られ、そしてリュウグウ様と女王様の血を受け継ぐお子様がお生まれになりました」


そして考えた末にたった一人で途方もない長い年月を重ねてマリナル王国とコバルトラビリンスを守り続けていたために、余り考えられなかったが自分の後継者を作ることを考え人魚族の女王と結ばれ子を成したのだ。


「誰かを好きになるのはロマンチックだけど、人魚の人とドラゴンとの間に子供って生まれるの?」


恋愛感情には様々な障害が付き物だし、それを乗り越えて結ばれるのは大変素晴らしいことだろう。しかしながら子を成すとなると種族の壁はかなり重要な問題になってくる。


極端な話で言えば猿と人間が結婚しても子供を作れるかと言う問題であり、種族間で人魚族とドラゴンは形態もそうだが、身体の構造なども異なってくるため、乗り越えるにしても限度があるのではと考えてしまう。


「人魚族にはとある伝説があるのよ」


それを聞いていたリラはふとある話をしてくれた。人魚族の一人がとある試練をクリアした途端にドラゴンの血と力を持つ輝く竜人族に転生したと言う話だった。


「だから王女様は愛するリュウグウ様のために試練をクリアして晴れて竜人族になったのよ」


「へぇ〜!ますますロマンチック〜!」


「なるほど、その伝説から『昇龍門』と言う言葉が生まれたんだね」


結ばれた人魚族の王女はリュウグウを愛していたらしく、その証拠に嘘か(まこと)かと呼ばれる伝説の試練の存在を信じて竜人族となり今度こそ結ばれたと言う恋愛話にミエナはうっとりしていた。


「…ちょっと待って。まさかそのリュウグウと人魚の王女様の間に生まれた子って」


一連の話を聞いてルアーネはその話に当てはまる人物の正体に気付き始める。


「はい。それこそがあなた達と共にいるリュクウ姫様です」


そう告げられた瞬間に人魚族の人々がメイナスの背中にいるリュウグウに向かって(ひざまず)き、頭を深々と下げて忠誠心を示す。


「え…ええええっ!?それってリュクウちゃんがリュウグウさんの子供ってことですか!?」


「まさかリュウグウがあやつの…じゃからパパと」


「そうか、これで何もかも辻褄(つじつま)が合ったぞ」


まさか話にあったリュウグウの後継者がリュクウであったことに驚くものの、全てのピースが揃ってこれまでの不可解なことにも納得するのだった。


「だからリュクウはドラゴンや海のモンスターとも心を通わせれたんだ。二つ名の古竜と竜人になった人魚族の血を受け継いでるんだからね」


どれを取ってもリュクウには竜と王族の血が流れており、グリーを始めとするドラゴンが従うのも当然だった。


「しかしリュクウには人魚族みたいなヒレはないがのう?」


「多分、混血して一部分は変化させられるようになったんじゃないのかな。それとも幼いから発達が遅れているのかも?」


「ドラゴンにしかない逆鱗もドラゴンの血を受け継いだからなんだろうね」


見た感じは五歳の人間の子供にしか見えないが、ドラゴンと人魚族のハーフである影響なのだろう、人魚族のヒレは見受けられず代わりにドラゴンの逆鱗が存在していた。


「しかし世継ぎまで作って置いて何故におめおめと負けてコバルトラビリンスを奴らに牛耳られたのじゃ」


リュクウの出生や人魚族とリュウグウの関係は分かったが、目的は侵攻を防ぐ後継者作りだったのに結果的には散々たる物になっていたことにユウキュウでなくとも首を傾げる。


「それは…我々の落ち度でした。まさか奴らの密偵が潜んでいたことに気付けなかったためにリュクウを連れ去られてしまったのです…」


「あの不届き者達はリュウグウ様がお世継ぎを作ろうとしていたのを予見していたらしく、偽の情報に踊らされた隙に姫様を連れ去ったのです…」 


無念と後悔を交えた様子に人魚族は口を開く。どうやら帝国もリュウグウが弱っていることに気付き、焦って世継ぎを作ろうとするのを予見し、タイミングを見てリュウグウを拉致したのだ。


「酷い…小さい頃に両親と無理やり離れ離れにさせられるなんて」


「許せる話じゃないね」


時として非道なことを辞さない帝国だとは周知していたが、まさか生まれたばかりのリュクウを親から引き離したと聞いていつもは心優しいメイナスが怒りを(つの)らせていた。 


「その時の心労が原因で王女様は亡くなり、そして長い間リュクウ様が見つかるのを待ち望んで必死に生きようとしていたリュウグウ様も健闘虚しく…」


更に悪いことにこの誘拐によってリュクウの両親も亡くなったと押し殺すように呟いた。


「そして見計らったように帝国が侵攻してきましたが、辛くもダンジョン内に幽閉することで侵攻を防ぎました」


抑止力がなくなった帝国は真っ先にコバルトラビリンスを制圧しようとしたが、ただではヤラれないと多くの犠牲者を出しながらも人魚族は帝国の侵攻を幽閉と言う形で塞いだのだ。


「我々にはいざと言う時のためにリュウグウ様の鱗から気象をコントロールする杖『気象天結(きしょうてんけつ)』を作り出し、リュウグウ様の亡骸がある最奥に保管してさも生きているように演じていました」


元々あの気象天結は人魚族だけでもダンジョンや国を守れるようにとリュウグウの鱗から作り出した代物で、これまでの異常気象とモンスターの凶暴化は帝国が侵攻して来た際の牽制(けんせい)であった。


「ですが既に見破られていたらしく、近々また奴らが行動を起こそうとして結果的に亡骸と気象天結は…」


「だからアルノの野郎はあそこにいたのか」


しかし帝国もバカではなかったらしくアルノなどに虚勢(きょせい)だと見抜かれた上に、今回の一件でリュウグウの亡骸はアルノの手によってアンデッドセイリュウにされ、気象天結は帝国側の獣人であるクウコに奪われてしまった。


「すみません…僕らが力が及ばなかったばかりに」


「気にしないで、悪いのは全部帝国だし。それに君達が頑張ってくれなかったらきっとこの国もダンジョンも無事じゃなかったわ」


()()は最小限に留められたが、それでもこれから甚大な被害をもたらす力を帝国に奪われたことに変わりないためメイナス達は責任を感じるも、リラ達はそんなことはないと励ましてくれる。


「と言うことはリュクウちゃんはやっぱりここに…?」


「あ、そうですよね」


今回この国やダンジョンを訪れた目的はリュクウを故郷へ帰すためだった。最初は他の人魚族を見かけないために失敗かと思われたが、こうして姿を現してくれたことで目的は果たされたことになる。


「それはリュクウが決めることだよ」


「さあ、リュクウ、仲間の所に帰りたいかい?」


しかしながら帰る決断をするのは他の誰でもない。リュクウが決めることであり、メイナスとルアーネは決断をリュクウに(ゆだ)ねるのだった。


「姫様」


「リュクウちゃん…」


リュクウ本人はメイナスの背中から降りて帰りを待ちわびる人魚族の仲間達と悲しそうに見送るアメジス達を交互に見ていた。


「…もしかして、皆とお別れなの?」


両者の表情から読み取ったリュクウはその表情が何を意味しているのか悟り重々しい口調で質問する。


「そうなるね…でも、また会いに」


「いやっ!()()離れ離れになるのは…いやっ!!」


リュクウは結論を出した。メイナスが返答を言い終える前に彼女は彼の胸に飛びついて台詞を遮り、離れ離れにはなりたくないと告げたのだ。


「良いのかい?僕らは同じ人魚族でもなければ、君の本当の親兄弟でもないんだよ」


いつもは心優しいメイナスだが敢えて残酷なことを言いのける。かわいそうかもしれないが、言っていることは全て事実であり、いずれその現実を受け止める時が来ることを考え本当に自分達と一緒で良いのかと聞き返す。


「おい、そんな言い方しなくても」


「良いの!眠っている時にパパの夢を見たの…」


キツい物言いにステラは言い返そうとするが、更にそれを遮るようにリュクウが大声を出し、アンデッドセイリュウに取り込まれていた時の話をする。


「パパは身体が長い大きなドラゴンで…ママは綺麗な人魚さんだった…初めて見た時リュクウはとっても嬉しくてドキドキしたの…」


リュクウは一体化していた時に父親であるリュウグウと人魚の女王が夢の中で姿を現したと答える。あの時は夢魔(サキュバス)となっていたアメジスの力も働いていたため何かしらの影響を与えたのだろう。


「でもパパは…パパとママがもう夢の中でしか会えないって言ってたの…スゴく悲しくて辛くて…起きたら涙が止まらなくなって…!?」


どうりで長い間目を覚さないはずだった。生まれてすぐに拉致されて本当の両親の顔も知らなかったリュクウが、夢の中でようやく対面し夢なら覚めてほしくないと思うも、残念なことに目が覚めてもう二度と生きた姿で出会うことがないと分かると泣き叫ぶのも当然だった。


「でも…側に皆がいて、パパとママが泣いていた時によくやってた…リュクウの顎の鱗を優しくナデナデしてくれたこと…思い出したの…!」 


人魚族から教えてもらった宥め方。あれは今よりずっと幼い頃に両親から受けた愛情表現のような物でそのお陰でリュクウは泣き止んだのだ。


「リュクウは皆のことが…大好き!だから…リュクウをもう…置いていかないで!」 


「…!うん!」


「帰ろうな!教会に…!」


「これが家族…あたしらは家族なんだ!」


これまでの道のりで信頼を築いていたが、両親の温もりに似た愛情表現をしてくれたことが決定的となりリュクウはアメジス達を家族として選んだのだ。それを目の当たりにしてアメジス達は泣きじゃくるリュクウを抱き寄せるのだった。


「まさかあなた達は最初からリュクウを僕達に託すために…」


メイナスもリュクウに抱き着いていたが、人魚族が宥める方法を教えたのは親密な関係にあったこともだが、最初から託すつもりであんなことを言ったのだろうと結論に至る。


「我々人魚族、そしてマリナル王国一同!」


「ダンジョンとこの国をお救い頂き!」


「そしてリュクウ姫様との再会をさせて頂き!」


「「「誠に感謝致します…!」」」


跪いて頭を深々と下げ、嗚咽(おえつ)を抑えつつも歓喜の涙を流しながら感謝を述べるのだった。


「感謝の印におもてなしをしようとしたのですが…どうやら不審に思われてしまったようですね」


「だから妙に親切だったんだね。視線はリュクウの存在を気にかけていたから…」


どうやら視線や気配はあったものの(よこしま)どころか純粋な物だったことに呆気に取られるのだった。


「それでどうする?今すぐに教会に帰る?それとも…」


「…明日にしよう。もっと皆と過ごしたい!」


ここも敢えてリュクウに決断を委ねるが、彼女は新しい家族となったメイナス達とはもちろん故郷や仲間の人魚族と楽しい一日を過ごす選択をしたのだった。

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