無事に帰るまではクエスト達成じゃない
「帰るのは良いがどうやってだよ?」
全てが終わりホッとするのも束の間、レイラの言葉に一同は唖然となる。
「ここが最深部なのは確かだけど…」
「海流に流されるままだったから、道のりがどうだったか…これじゃあ『マッピング』のサイマジックでも指し示すのは難しいね」
荒れた海流によってここまで来たのだが、思えばここまでの道のりなんて覚えている者は一人もいなかった。
「あの、ユウキュウちゃんのスキルやサイマジックでは何とかならないですか?」
「道が複雑過ぎる。これじゃあ儂の『フォーチュン』でもどうにもならん」
ダンジョン内部は迷路のようになっており、出口への道のりを占って探そうにも分岐の度にやらねばならないためユウキュウも途方に暮れる。
「やっぱりここは地道に帰るしかないね」
クエストは一応は達成されたのだが、実際のところは無事に帰ることも正念場の一つであった。
「あれ、イタマエンペラ達は何処に行ったんだ?」
「逃げたのかな」
その道のり途中でイタマエンペラ達が待ち構えていた日本料亭のような部屋を通り抜けて行くがもぬけの殻になっていた。
「あのイタマエンペラ達もあんな風に改造されて…言わば彼らも帝国の被害者だったんだろうね」
「でも、出されたお料理は美味しかったですけどね」
「人を食う料理なんて二度と御免だ」
食材を調理してアンデッドを生み出すイカ型モンスターなんて聞いたことがなかったが、やはりドラグングニル帝国が一枚噛んでいたのだろう。いなくなったのなら自由になってくれているのを願うばかりだった。
「よし、ここからもう一度水の中に入るよ。まあ、目的地は地上だし上に向かって泳げば何とかなるよ」
「ザックリじゃな」
イタマエンペラの料亭を出ると、来た時と同じく海に入れる砂浜が広がっており、陸に戻るならばここから上へ泳いで行くだけで良いとメイナスは言うが楽観的過ぎるとユウキュウは渋い顔をする。
「安心しろ。あたしが先導する」
「ステラちゃん、道が分かるの?」
「バジリスクには『熱探知』ってスキルが備わってるんだ。そいつで熱源を辿ればいずれ陸地に辿り着く」
「確かにバジリスクはもちろんだけど、蛇には熱を感知する感覚があるって聞いたことがあるよ」
蛇は鼻の辺りに熱を感知するピット器官があり、それを駆使することで獲物を見つけることが出来るのだ。そのためバジリスクに変身出来るステラも熱探知のスキルが備わっていたためにアメジス達の後を追えたのだろう。
「来る時はめちゃくちゃ海が荒れていたのに、今は不気味なほどに静かだね」
「それに今はまだ夜だからね、より雰囲気があるよ」
ここへ来るまで海流に翻弄され続けていたが、今では嘘のように静まり返っているため、時間帯のこともあり正しく草木も眠る丑三つ時のようだった。
「でも、おかしいですよ。モンスターの気配まで感じられませんよ」
「皆寝てるんじゃないのか」
と言うのもあれほど荒ぶっていたはずの海のモンスター達も鳴りを潜めたかのように静まり返っていたのだ。これにはモンスターに攻められたいスザクも少し不満顔だった。
「でも夜行性のモンスターもいて良いはずなのに、まるで何かから隠れるような感じがします」
寝ているのなら寝息や鼓動が聞こえたり、それらしい気配があっても良いのに、感覚が鋭い獣人のニナが感じ取れないほどに皆無だと言う。
「あん?行き止まりだも?」
「おかしいな、分岐なんてあったか?」
ステラのお陰で順調に進んではいたが分かれ道があった訳でもないのに何故かそれ以上進めなかった。これには率先して先導役を買って出たステラも怪訝な顔をする。
「じゃあ、道を戻って…お?」
スザクは壁を蹴って来た道を戻ろうとするが、足首にヌルリとした何かが巻き付くと同時にブツブツとした物体が貼り付く感触がする。
『『『キュキュ〜』』』
「え…小さいクラーケン?」
見てみるとスザクの足首にはタコ足が巻き付いており、そのタコ足は行き止まりの壁から生えていたと思ったら、一瞬にして嫌らしい目付きをした無数の小型のタコのモンスターに早変わりしたのだ。
『『『キュキュ〜!』』』
「わわっ、何だ?」
「な…何ですか?」
「ちょっとちょっと!へばりついて来るよ!?」
「止めろ!気持ち悪い!」
すると小型クラーケン達はスザクはもちろん、彼女達に一斉に群がり始め、タコ足を使って絡みついてきたのだ。
「こいつら何だ」
「これは『タコナブリ』だよ」
「タコナブリ…そうか、海のダンジョンで帰還する冒険者を襲ってアイテムやマナミナを奪う追い剥ぎみたいな低ランクモンスターがいると聞いたことがあるけど」
タコナブリは一匹一匹はとても弱くて『海のスライム』と呼ばれるほどの最弱種であり、基本的には襲われないように擬態して自分より弱い存在である小魚や海藻を捕食することが多い。
しかしこのモンスターの厄介な所は海での激しい冒険を終えて安堵しながら帰還する弱った冒険者を集団で襲い、苦労して手に入れたアイテムや僅かに残ったマナミナを奪うと言う非常に質の悪い生態だった。
『『『キュキュ〜!』』』
「けっ、要は弱くてずっと出てこなかったぽっと出の奴らってことかよ。あたしの尻尾で振り払ってやる!」
今度はステラに群がるように襲い掛かるが、尻尾で薙ぎ払われて姿が見えなくなるのだった。
『『『キュ〜!』』』
「げっ!尻尾にくっついてやがる!?」
ところがタコナブリ達は薙ぎ払われずにステラの尻尾に絡みついていたのだ。その直後に何匹かがステラの本体に飛びつく。
「うわっ!アーマービキニの中に入るな!?」
「ひゃあ!?ヌルヌルします!?」
タコだけあって狭い所が好きなのか、アーマービキニの隙間や水抜き穴などから中に侵入し、軟体生物の特徴を生かしてそのまま潜り込んで吸盤を吸い付けてくるために気持ち悪がる。
「はうあっ♡そこは…きくぅ…♡」
「んん…♡そこは…痺れちゃいそう…♡」
しかし例外として元からドMであるスザク、彼女の手によって同じ扉を開いてしまったルアーネはまるで小魚と戯れるかのようにタコナブリに嬉々として襲われるのだった。
「ふぁ…そこは…おい、メイナス!何でお前は襲われてないんだよ!」
「さ…さあ?」
どんどんタコナブリ達は集まり、やがて身動きが取れなくなるほどに纏わりつく。それを良いことに味わうかのように集団による触手の締め上げや、吸盤の吸い付き攻撃をしてくる。そんな中でメイナスだけは何故か襲われていなかった。
「何でもいいが…くはあっ…!?早く何とかして欲しいのじゃ…し…尻尾は止めんかぁ!?」
「ふにゃあ…尻尾をそんなに乱暴にしちゃ…力が抜けちゃう…」
締め上げられ、吸われるだけでも力が抜けてしまうのうに、獣人の急所でもある尻尾にも巻き付いてこねくり回すためにユウキュウもニナもヘナヘナと崩れてしまう。
「そうは言っても薬液を皆に浴びせる訳にはいかないし…ミエナは?」
「あっ…んっ…こんなにチュウチュウ…くっついてたら…どうにもならないよぉ…!?」
ミエナの体にもタコナブリ達がびっしりと纏わりついて辛うじて頭と足だけ見えており、まるで簀巻きのようになっていた。無論、動けない間に吸盤を彼女の魅惑的な身体に吸い付け、甘くせつない声を出させると同時にマナミナを奪っていく。
「くそ!こいつらは基本的に弱いくせに…一斉に迫られたら、こんなに厄介なのかよ!?」
「振り払っても振り払っても…次から次へと新しいのが…ひゃっ!?変なとこに触手を入れるな!?」
文字通り雑魚敵ではあるものの、そこは数でカバーしているらしく、ステラもレイラも何とか振り解こうとするがその度に新しいタコナブリが纏わりついてくるためキリがない上に弱いながらも確実にダメージを与えてくる。
『『『キュ〜♪』』』
「かはぁ…♡んう…♡」
その中でも特にスザクにタコナブリ達は密集していた。フェニックスでもあるためマナミナの質も量も最高であるし、何よりも相手が嬉々として受け入れているため赤いボールから頭と手足が出ているような見た目だった。
「どんどん…締め付けが強く…激しくなってるぅ…♡骨の髄までぇ…♡溶けちゃいそう…♡」
そんな見た目であるため中では何が起きているかはスザク本人にも分からないが、見えない分感覚が鋭くなって球体の中で自分の身体が触手に這い回られ、吸盤によって余すことなくキスされる感触に顔が赤くなり目がトロンとなって骨抜きになる。
「…これだ!スザク、これを飲んで!」
「んぐ!?」
何か思いついたメイナスはスリンガーで栄養ドリンクのような瓶をスザクの口に向けて発射する。
「んぐ…んっ…んんっ…!?」
見事に口に命中し中の薬液がスザクに流し込まれる。途端に炎を出した訳でもないのに興奮状態の身体がより奥から熱くなるような感じが伝わってくる。
『『『…!キュ〜!』』』
「あれ…どう言うこと?」
「くうっ…♡全部、スザクちゃんの方に集まって行く…?」
締め上げる力が弱まって何事かと思えば、タコナブリ達はスザクの元へと集まって行くのだ。
「さっきスザクに何を飲ませたんだ」
「ゼリータウンで見つけた特殊なポーションだよ」
メイナスが言うには道中で立ち寄ったゼリータウンには薬やポーションなど置かれており、幾つか失敬していたのだ。
「はあ…はあ…♡何これぇ…♡身体が疼いてくるぅ…♡」
「しかしのう、ただのポーションにしてはスザクの奴が妙に発情しているようにしか見えんが」
ポーションとは薬とは違い、体力やマナミナの回復を主としたドリンク剤のような物なのだが、明らかにそれ以上の効果があるようにも思えた。
「精力剤やら興奮剤、それと感度を上げる効能があるらしいんだ。ほら、ブレインスライムが使ってたのと同じのを与えたんだよ」
あの街にいたブレインスライムのブレットも、スザクに同じ物を与えていたがメイナスが飲ませたのもそれと同じ物だと言う。
「ちょっと待って。何でそんなものを与えるの?それにあれは…」
こんな時にそんなのが必要なのか分からないアメジスだったが、徐々にメイナスの目的に気が付き言葉に詰まる。
「タコナブリは群れれば群れるほど強くなる。つまり与えるダメージも増幅される。だからスザクのマナミナを増幅させて密集させ続ければ…」
基本的に弱いとされるタコナブリは電池の直列つなぎのように、密着を続ければ力や能力は一匹の時と比べて何十倍にもなる。
『『『キュ〜♡』』』
「やああぁぁ♡そんなにいっぱい来ちゃ…♡」
それはつまりスザクに与えるダメージも何十倍にもなり、今やタコナブリ達はアメジス達を放置して球体から外に出ていた頭や手足を完全に埋め尽くすほどに群がる。
ただでさえ手を焼くほどの拘束力を持つタコナブリだが、スザクの極上のマナミナを我先に奪おうと吸盤触手でギュウギュウと柔らかな身体を更に締め上げて出るもの全部を搾り取ろうとする。
「動けない…ほどに…キツくて…あたしの身体が…くうっ♡…でも…気持ち良い…♡」
感度が倍になっていることもあり、全身が指で触られるだけで雷に打たれたような衝撃が走るのに、その全身を完全に呑み込まれて、吸盤触手にもみくちゃに締め上げられて、頭が弾けるほどの快感にスザクは余韻に浸っていた。
『『『キュ〜♡』』』
「くはぁ…♡痺れるぅ…♡骨の髄まで…吸い出されちゃいそう…♡」
スザクのマナミナは美味で豊富にあるとは言え、強欲なタコナブリ達はもっとより多く吸い取ろうと吸盤を彼女の身体に隙間なく吸い付けては触手で絞り上げ、その度に快感と甘い声をひり出させるかのようだった。
『『『キュ〜!』』』
「ひぎぃ♡あたしの身体…めちゃくちゃにされてるよぉ…♡」
先に取り付いたタコナブリ達がスザクの身体に隙間なく吸盤を吸い付けたことで、後から来たタコナブリは横取りしようと奪い合うように彼女の身体を吸盤で引っ張って更にもみくちゃにする。
「おいおい、どんだけ集まるんだこいつら…」
「この様子だとダンジョン内にいる全部のタコナブリが集まって来たんだろうね」
顔まで覆われて快感に溺れるスザクには知る由もないだろうが、今やタコナブリに纏わりつかれ過ぎて球体状になっており、ルアーネの比喩も間違っていないぐらいの数だった。
「おい、何をしてんだ。あいつ、どうする気だ」
「すぐに分かるさ。そろそろ始まるよ」
ステラからすればメイナス達がスザクを餌にタコナブリを一箇所に集めているようにしか見えなかったが、本当の目的はこれからだと返される。
「ん?海の中で火?」
「これだけの数による攻撃とダメージ…アメジスほどではないにせよ、奴が絶頂するには持ってこいじゃのう」
すると球体から火柱が上がり、その度に近くにいたタコナブリがこんがり焼けた状態で散り散りになっていき、どうやら狙っていた現象が起き始めたようだ。
「あたしの身体…ギュウギュウ…チュウチュウされてて…もう、堪らない…気持ち良いいいいぃぃぃ♡」
押し潰されんばかりにタコナブリに密着され、同時に骨の髄まで吸われ続けたスザクは遂に絶頂に達し、快感を解放するかのように炎を一気に吹き出しコバルトラビリンスを大きく揺るがすのだった。
「…何だ今のは?」
朝焼けの海岸にアーマービキニを勧めたリラが散歩していたが不意に海と砂浜が揺れたような気がしたために足を止める。すると水平線の方でブワッと水柱が上がるのが目に入る。
▷▷▷
「はあ…はあ…けほっ…あのなぁ、海の中で黒焦げになるところだったぞ!」
「あはは…ごめんね。僕らは慣れてたけど、君は初めてだったよね」
波打ち際に這う這う体で上陸したのはメイナス達だったが、ステラが荒い息遣いで彼らを怒鳴りつけていた。よく見るとアーマービキニの一部が焦げており、こんな水しかない場所で焦げるなんて前代未聞としか言いようがなかった。
「あんた達…どうしたんだい、そんなにボロボロになって」
「リラさん」
そこへ何が起きているか辺りを捜索していたリラと合流し、ちゃんと戻って来れたのだと安堵した様子を見せるアメジス達。
「昨日はダンジョンで異常気象が激しくなったと思ったら、夜が明けたらこんなに穏やかになってるもんだから何事かと思ってたけど…」
「まあ、まずは何から話せば…」
心配してくれるリラを安心させるために何があったか説明したいところだが、巨大な軍事国家の関係者がこの国のダンジョン内で古竜のアンデッドを生み出そうとしていたなんて信じて貰えるか分からないし、何よりも内容が内容なため話して良いか迷ってしまう。
「ボク達がダンジョンの異変を取り除いたので後は大丈夫ですよ」
「そう…なのかい?だから急に天候が穏やかになったんだな」
悩むメイナスに代わってルアーネが事の顛末だけを話してリラを納得させるのだった。
「学園長からこのことは伏せておくようにって。それとこのことは先生方と国の人々には学園長から説明するから報告は大丈夫だってさ」
「そっか、君と学園長は賢者の書で繋がっているもんね」
代弁したルアーネの言葉は彼女が師事している学園長である神樹イグドラシルの言葉でもあり、どうやら学園に戻って報告する必要はなくなったようだ。
「まさかこれまでのこと全部見てたのか?」
「全部って訳じゃないよ。何か強い力が働いた時だけかな」
見ていたかのような発言をルアーネにさせるため、高みの見物でもしていたかのように苦言するレイラ。しかしプライバシーのこともあり、四六時中監視体制と言う訳でもないようだった。
「それとステラのことは伏せておくって」
「あたしか?」
話は変わってステラのことを口にしたため当の本人も話題を振られたために面食らう。
「人的被害やその他の損害はないためこれまでのことは保留とし、なおかつボクらに彼女のことを一任するってさ」
「確かに私達以外にステラちゃんのことを見れないもんね」
「あたしは赤ちゃんじゃねぇぞ」
睨むだけで相手を殺せる目を持つバジリスクに変身するステラ。そんな彼女のことを対処出来るのはフェニックスのスザクや不死者である吸血鬼のハーフであるアメジス、更には霊体化出来るミエナなど不死身の力を持つ自分達が適任とも言えるだろう。
「でも、新しいお友達が出来て嬉しいですよ!」
「…けっ」
ニナの屈託のない微笑みにステラはフードを深く被ってそっぽ向く。何処となく顔が赤くなっているのが見えた。
「それで学園長からの提案で、報酬としてもう少しだけこの王国で羽根を伸ばして過ごしたらって。どうかな?」
「つまりバカンスってことか!気前良いな」
成り行きとは言えクエストがSSランクになってしまったことで、学園長から報酬とお詫びを兼ねてバカンスをプレゼントされるのだった。
「今から帰るのもくたびれるしのう」
「私もスザクちゃんと色々なとこ見てみたい」
「ふへぇ…あたしもアメジスに合わせるよぉ…」
「僕の一任ではどうにもならないし、僕もバカンスには賛成だよ」
慣れない海中での冒険に加えてアンデッドセイリュウとの戦いもあったため、ほぼ全員が疲労困憊でスザクも快感の余韻でくったりとしていたため、メイナスも休むと同時にバカンスを楽しむことに賛成するのだった。
「やった!ここのアクセサリーって可愛いから欲しかったの!」
「お魚の料理はありますかね?お腹ペコペコですよ〜」
バカンスすることが決定し各々がやりたいことを口にする。
「ボクはリュクウのために人魚族のことを調べるよ」
「…にしてもまだ寝てるのか、こいつ?」
「…パパ」
ルアーネは当初の目的であった人魚族のことについて調べると口にする中で、リュクウは父親の夢でも見ているのか寝言を呟きながら眠り続けていた。




