再生は不死身を断つ
『グルルル…!』
クウコは無力化させるもアンデッドセイリュウは健在で彼女無しでも天候や水を操れるため実質脅威は去っていなかった。
「相手は『龍』の称号を持つ二つ名の古竜を取り込まれたスザクちゃんの力でどうにかするのかい?」
その中でアメジスはセイリュウがアンデッドとして復活する際に取り込まれたスザクの力を利用しようとしていたがルアーネの『賢者の書』でもその方法を解明出来なかった。
「アンロスの街の人々みたいに…」
「そうか、あれか」
だが、メイナス達はアンロスの街と聞いて確かにスザクの力ならばアンデッドセイリュウを倒せることに気が付いた。
「しかし奴は何故まだ復活せんのじゃ。いつもならとっくに元通りになっているじゃろうに」
怪訝な顔を浮かべるユウキュウはスザクが取り込まれたまま蘇らないことに疑問符を浮かべている。
「あくまでも真珠の像になったのは仮死状態と同じ…つまり眠っているのと同じだからフェニックスの力も反応しないんだろうね」
それもそのはず、負傷したりそれこそ死亡したりしなければフェニックスの不老不死の力も働かない。仮死状態に近い真珠化はその定義に触れないためスザクも元通りになれないのだ。
「それって実質打つ手無しってことじゃないんですか」
フェニックスの力以上に高い再生能力はないし、真珠の像の状態からスザク自ら復活出来ないのなら自分達にだってどうしようもないと悲観的になる。
「眠っているのと同じなら…起こせば良いと思う」
「起こすって…あの状態からどうやってだよ」
アメジスも手立てがない訳でもないようにも思えたが、言っていることが理解出来ないため不安になってくる。
「問題は夜にならないとダメってことなんだけど」
「夜…起こす…そうか、アメジスなら」
夜に何が起きるかと聞いて一同はハッとなりアメジスが何を考えているか理解するのだった。
「と言うことは儂らの目的は夜になるまでの時間稼ぎか」
「やるしかないね。だから皆にはこれを渡しておくよ」
やることは分かったがこれは持久戦になるためルアーネは種のような物を手渡していく。
「これは何ですか?」
「それを口に含んでいれば体力やマナミナを回復するよ」
「そんなスゴい植物、聞いたことないけど何なの?」
驚くことに渡された種には回復効果があるらしく、そんな都合の良い植物は聞いたことがないため手渡したルアーネに訊ねてみる。
「自然には存在しないよ。けどシーフードラゴンにも同じ種を植え付けてあるんだ。この種はシーフードラゴンの体力やマナミナを吸収し、種を介してボク達に還元するようにしてあるんだ」
「お前いつの間にそんなことを」
つまりシーフードラゴンを沼に沈めた際にルアーネはマナミナや体力を吸収する種を植え付けており、渡された種を口に含めば吸収した物を得られると言う優れもののようだ。
「まさか役に立つ時が来るとはね」
「いずれにしてもこれなら持久戦も大丈夫だね」
万が一に備えて種を植えていたことが功を奏して、アンデッドとの持久戦にも戦える準備は万全を期していた。
「そんな付け焼き刃で何処まで耐えられるかしら。取り敢えずあのおかっぱ頭の子から倒してちょうだい」
『グオオオオ!』
アンデッドセイリュウは吠えると周囲を取り囲むように雷雲を発生させてアメジスを狙おうとする。
「そんなことさせる訳ないでしょ!自然魔法『ツリー』・ウォール!」
アメジスを守るように杉やヒノキのような直線上に伸びる樹木を壁のように生やすルアーネ。するとその樹木に向かって雷が落ちるも、木の幹を這うように流れていき地面に霧散する。
「これで落雷と風は使えないよ」
「防風林とはやるじゃない」
木が立ち並ぶことで風を防ぎ、雷は木を伝って地面に流れるためアンデッドセイリュウの大まかな攻撃手段はこれで潰えたはずだ。
「けど、天候を発生させるだけがセイリュウの全てではないわ」
『グググオオオオ…ギシャアアア!』
今度は海水を蛇のようにクネクネと操り、先端を凍らせて氷の龍を作り出して防風林を破壊しようとする。
「まるで水を手足のように扱い、その上で一部分だけ凍らせて水の柔軟性と氷の操作性を合わせた攻撃…水も天候も自由自在ってことだね」
ここでエレメント魔法についてもう一度説明しよう。エレメントとはマナミナを行使して、本来は形のない自然の力を後付けイメージで形にすることで具現化することだ。
人間は水の玉を作るにも『アクア』と言うエレメントと後付けイメージの『ボール』が必要となり、その上で他のエレメントや魔法を付与するのは基本的に至難とされている。
しかしモンスターであるはずのアンデッドセイリュウはまるで箸で物を掴むように水のエレメントやイメージを人間以上に見事に使いこなし、その上で氷のエレメントの重ね掛けもしているため驚異的とも言えるだろう。
「最強の名は伊達ではないのじゃ。単にエレメントを操るだけならただのドラゴンにも出来るのじゃ」
「エレメントの熟練度はドラゴンも人間も上回ると言うことだね」
「メイナスの言う通りSSランクってのは間違いないらしいな。こんなのが世に放たれたら戦争の火種になっちまうぞ」
つまり相手は不死身な上に戦闘能力はやはり並大抵のモンスターやドラゴンすら足元にも及ばないと言うことだ。おまけに相手はまだ本気を出しておらず、万が一全力で戦うことになれば世間にどれだけの被害や犠牲が出るか考えるまでもない。
「あたしら、生きて帰れないかもな…」
「私はまた死ぬことになるかも…」
改めてこのクエストの危険性を考え、レイラもミエナも死すら覚悟するほどに戦慄していた。
「でも、ここで止めなきゃシスター達も危ない。だからこそ今はアメジスとスザクの力に懸けるしかない。僕らはそれまでの時間を稼ぐんだ」
しかしやらねば大切な人を失ってしまうため後には引けないことは確かだ。それに自分達にも奥の手や切り札がない訳じゃないのも確実だった。
「先輩のお陰で持久戦には持ち込めますけど、次はどうします?」
「そう言えば強いとされるドラゴンにも急所があるんだ。この際だから試してみる?」
体力を回復してくれる種を用意してくれたルアーネがふと耳寄りな情報を話してくれる。
「面白いなそりゃ。どうせなら最初で最後のバカをやってみたくなったぜ」
「一世一代の大博打じゃな」
「皆さんと出会えて嬉しかったですよ」
覚悟が決まっている以上はどんな結果になろうともベストを尽くすつもりだったため、死に直面したような場面でも不思議と笑みが溢れてしまう。
「狙うのは顎の下の鱗だよ!そこには他のと違って逆向きに生えた『逆鱗』って言う鱗があるはずだよ!そこがドラゴン共通の急所なんだ!」
ルアーネが賢者の書で導き出したドラゴンの急所とは『逆鱗』のことだった。普通ならば目上の人を怒らせる要因として使われる単語だが、ドラゴンに取って逆鱗は弱点であるため攻撃されると激怒すると言うのが由来となっているのだ。
「逆向きに…あれですね!にゃああっ!!」
『グギャア!?』
猫の手グローブで逆向きに生えた鱗を抉るとアンデッドセイリュウの巨体が反り返る。どうやらルアーネの推測通り、逆鱗こそがアンデッドセイリュウの急所のようだ。
『ギエエエエ!?』
「はわわ!?スゴい唸り声です…!?」
しかし急所を攻撃されれば誰だって怒るように、アンデッドセイリュウは心臓が止まるような叫び声を大きな口から発してニナを怯ませる。
『グオオオオ!』
「あう!?スゴい力で抜け出せないです…!?」
前脚でニナの小さな体をガッチリと掴み、そのまま握り潰そうとする。しかし途端にニナの体が一瞬にして小さくなってしまう。
「ふぅ〜…危なかったです」
ニナは手のひらサイズの妖精に変身して前脚から脱出したのだ。これは彼女にしか出来ない方法だった。
『ドクロスモッグ!』
ステラの身体が膨張したかと思えば喉の奥からドクロを模した紫色の煙をアンデッドセイリュウに浴びせると堅牢な鱗がドロドロに溶け始める。
『幾ら攻撃しても無駄なら再生が追いつかなくなるまで身体を溶かしてやる!』
『グオオオオ…!』
ステラも攻め方を変えて即死攻撃から毒を用いた方法で攻撃する。無論、溶かされようがそこからすぐに再生するためイタチごっこだが、毒の霧は残り続けて溶かし続けるため相性は良いとも言えるだろう。
「…夜になった。待ってて、スザクちゃん」
防風林の中でアメジスは時が来たことに不敵な笑みを浮かべると口からドロドロの黒いタールのような物を足元に吐き出して黒い水たまりを作り出す。
『グルル?』
『何だこの気配は』
防風林から伝わる不穏な空気にステラとアンデッドセイリュウは戦うのを一時的に止めて同じ方向を見つめていた。
「きゃーはははは!久しぶりねぇ〜!この姿!!」
防風林が内側からぶち破られて中からアメジスが出てきたかと思えば、彼女には悪魔の角や翼に先端がハートの形をした尻尾が生え、更には影で出来たランジェリー姿となり大人っぽい見た目をしていた。
「これは…吸血鬼!?」
「そう言えばあなたは初めて見るかしらん?」
「研究所が吹き飛んだ理由の一端…それがあなただったのね」
あの時アルノはリッチの姿になったステラから身を守るために地下に隠れていたため、変身したアメジスを見るのはこれが初だったが、デザードライキャニオンの研究所が破壊された原因が彼女にあったことに納得するアルノ。
「半分は当たってるかなぁ〜。今回もまた私達の力であなたの企みは潰させてあげるわぁ〜」
「SSランクと格付けしておいて、そんなに簡単に済むかしら!」
二つ名のSランクのバジリスクであるリッチの力を持つステラでも赤子扱いされているのに、単純に変身しただけのアメジスに止められるはずがないとアルノは強く出る。
「夢幻起瞳!」
アメジスの翼が影となり、巨大な目玉となって見開かれると妖しい眼光がアンデッドセイリュウに浴びせられる。
「…いた!スザクちゃんだ!」
アメジスは巨大な目から放たれている眼光を狙いを定めた場所に移動させた後に光の中に飛び込むと姿が消え去るのだった。
「一体何をしたの…吸血鬼にあんな能力はなかったはずだわ」
『グアアアア!?』
突然アメジスが姿を消したことに首を傾げているとアンデッドセイリュウは苦しみ出し始める。
▷▷▷
「ふぁ〜…あれ、ここは何処だ?」
まるで長い間ずっと眠っていたかのようにスザクは頭がボンヤリした様子で目を覚ます。しかし彼女はまだ夢でも見ているのか、辺りはやたらに朝焼けの湖畔のようにキラキラしており、しかも彼女の身体はフェニックスになってもいないのに宙に浮いていた。
「スザクちゃん、ここにいたんだね」
そのキラキラした場所にスザクとは別に変身したアメジスが目の前に現れる。
「あれ、アメジス?その姿は何処かで…ん」
「しー…何も考えなくて良いんだよ」
何処かで見たことのあるアメジスに口を開くが、アメジスは茶目っ気たっぷりに人差し指で口を閉じさせる。
「それはどう言う…ん!?」
「ぷはっ…こう言うことだよ?」
今度は口付けをしてスザクの台詞を遮るアメジス。話す際に唇同士で糸を引いており色っぽかった。するとアメジスの身体の一部がコウモリとなりスザクの身体に群がっていく。
『『『キイ♡キイ♡キイ♡』』』
「はあっ♡ふうっ♡くうん♡」
そして鋭く尖った牙で皮膚を突き破り、そこから出てくる血を飲み干すかのように吸い上げスザクに甘い声を出させる。
「ん…♡気持ち良いけど…なんか身体の自由が効かない」
痛みが快感になるのはスザクに取っては願ったり叶ったりなのだが、ふと身体が思うように動かないことに気が付いたのだ。
「そりゃそうだよ…だってスザクちゃんはこれから気持ち良いことを嫌ってぐらい味わうんだよ?…逃げられないからね」
「はうっ…♡」
敢えて耳元で囁くアメジスの言葉にスザクは背筋がゾクゾクッとなる。
「スザクちゃんはやっぱり身体が色っぽいね。本当にエッチなんだから」
「くうっ…♡」
それに気が付いたのかアメジスは更に彼女の耳元で囁き、スザクに再びゾクゾクッとした感覚を味わわせる。
「肌も滑らかで吸い付くようで…このまま触り続けたい、舐め回したい…♡」
「ひゃう…♡」
囁きに加えて指先や舌、唇などでスザクの首筋や背筋など身体のラインをくすぐるようになぞる。
「あれ、どうしたの。いつもは『気持ち良い』って言うのに声も出ないぐらい気持ち良いのかな?」
「わうっ…♡」
いつものスザクなら甘い声を出し続けるのだが、今はそうとは思えない程に押し殺すように喘ぐためアメジスはそこを切り口に責め始める。
「そっか、スザクちゃんは…特に耳が敏感なんだね♪」
「あっ…♡」
カプッと吸血鬼の牙でスザクの耳を甘噛みすると動けないはずなのにビクンと身体が動く。
「ん…♡スザクちゃんのマナミナがたくさん溢れてきたよぉ♡美味しい…♡」
「はあああ…♡それ…ダメぇ…♡おかしくなっちゃうよぉ…♡」
甘噛みはもちろん舌でペロペロと念入りに耳を舐め回していく。
「ここはどうかなぁ?」
「きゃう…♡」
それだけでなく舌を耳の穴の中に挿れる。音を聞き入れるだけ知らないスザクの耳の中にアメジスの生温かい舌と唾液が入り込み、くすぐったさと感じたことのない感触に可愛らしい声を出してしまう。
「アメジス…♡あたし、もう…これだけで気持ち良過ぎて…死にそう…♡」
いつもなら身体を攻撃されるだけで絶頂を迎えるが、耳を優しく責められただけで既に事切れるほどに快感を覚えていた。
「ダ〜メ♪スザクちゃんなら死なないし、逃げることも出来ない…♡ずっと気持ち良いことを…私と…しよ♡」
「はわわ…ずっと…?本当におかしくなっちゃうよぉ…♡」
「いくよ…♡」
口ではそう言うスザクだが顔は蕩けた物欲しそうな顔をしており、アメジスも嬉々としてそのまま身体のラインを重ね合う。まるでお互いの身体の境目が溶けて失くなるかのようで、キラキラとした空間に蜂蜜よりも甘く愛おしい空気が充満するのだった。
▷▷▷
『グアアアア!?』
「ど…どうしたの!?」
突然アンデッドセイリュウが苦しみ出したことにアルノは動揺を隠せなかった。アンデッドだから攻撃を受けても不死身だから問題ないし、ダメージや苦痛も一時的で長引く訳でもないのに攻撃が出来ないほどに藻掻き苦しむなんて考えらなかった。
「どうやらアメジスとスザクは成功したようだね」
「どう言うことなの。ここにはフェニックスの娘はいないはずよ」
一番欲しかったフェニックスの少女を見かけないと思えば、何かしらの裏工作をしていたかのような発言にアルノは怪訝な顔を浮かべる。
「まだ気付いてないのかのう?自慢のアンデッドを見てみるのじゃ」
ユウキュウに言われてアンデッドセイリュウを見てみると、ちょうど心臓の辺りにチリチリと小さな火種が着火していることに気が付いた。
「まさかあれは…!?」
こんな海底のダンジョンでアンデッドの身体に火種があるなんて考えられない。あるとすれば…
「き…気持ち良いいいぃぃぃ♡」
甘美な叫び声が何処からか聞こえてくると呼応して火種が一気に燃え上がり、炎が巨大な鳥の翼となって羽ばたき始める。
『ケエエエエエン!』
「フェニックス…!まさかアンデッドセイリュウの中に取り込まれていたなんて…!?」
スザクは間接的に手に入れていたことに気付くも既に手遅れであり、彼女は不老不死の象徴たる幻獣(フェニックス』の姿となってアンデッドセイリュウから飛び立つのだった。
「リュウグウ!すぐにフェニックスを捕らえなさい!?」
『グオオオオ…!?』
動揺するアルノはまだ苦しんでいるアンデッドセイリュウを仕向けようとする。
「スザクちゃん!そのまま炎をそいつに浴びせて!」
『ケエエエエエン!』
続いてアンデッドセイリュウから飛び出したアメジスの言葉に頷いたスザクは羽ばたいて炎をアンデッドセイリュウを包み込む。
『ギャアアア!?グオオオオ!?』
包み込まれるとアンデッドセイリュウの真珠色の鱗が剥がれて、下から青い堅牢な鱗が見え始める。
「あそこを狙って!」
「自然魔法『バンブー』!」
「爆炎魔法『ボム』!」
「にゃあああ!」
『シャアアア!』
その部分に向かって竹や爆弾、猫の手グローブや毒液などありとあらゆる攻撃手段を用いて一斉攻撃をする。すると鱗が破壊され、そこから赤い血と赤々とした筋繊維が露わになった。
「あれは…まさかリュウグウが部分的とは言え、生き返ってるの?」
アンデッドになったことで鱗の下は骨や真珠色の肉体だけしかないはずなのに、まるでセイリュウが生前の時の肉体を取り戻したかのように見えた。
「そうさ、アンデッドは死んでいるからこそ不死身であるんだ」
アンデッドとは死霊魔術や錬金術などによって死体が動くようになった存在で、最初から死んでいるため幾ら殺そうとしても無駄だ。
「けど、生き返らせることでもう一度倒せるんだ!」
しかし逆に言えば生きていれば倒すことは可能と言うことになる。
「アンロスの街のアンデッドがスザクちゃんの炎で元の人間に戻ったみたいにね!これも言わばアンデッドの攻略法でしょ?」
つまりアンロスの街の時のようにスザクのフェニックスの炎に焼かれることで生前の姿を取り戻すことでもう一度倒すことはもちろん、アンデッドとしてのアイデンティティすらも攻略することができると言うことだ。
「ヤラれたわ…アンロスの街の封鎖が解除されたとは聞いていたけど、まさかその当事者があなた達だったのね。しかもその時もフェニックスの娘がいたなんて」
風の噂でかつての実験場の封鎖を何者かに解除されたと聞いていたが、まさかスザク達とは思わなかった上にその再現やフェニックスの蘇りの力を目の当たりにしたことでメイナスとアメジスの言っていることが真実であるとアルノは認めざるを得なかった。
「このまま中途半端に蘇らせて倒したらどうなるんだろうな?」
「相手は仮にも二つ名の古竜だものね」
「ボクにもその結末は分からないよ。けど、少なくともこれが有効的だろうね」
攻略法が見つかって、ようやく有効打らしい攻撃が決まって、次第に形勢逆転への希望が見えてくるのだった。
(…まだリュウグウは全開じゃないし、フェニックスがいるのではアンデッドとしての制御も難しいかもしれない。クウコも自力ではファントムハートの娘を振り払えない)
対するアルノは冷静を装うも内心焦っていた。リュウグウはアンデッドだからダメージは気にしなくて良いが、メイナス達の言う通りフェニックスの再生の炎の前では相性が悪過ぎる。
「…ハッキリ言って分が悪いわね。良いわ、今回はあなた達に勝ちを譲るわ」
諦めたように呟くアルノに一同は顔をしかめる。途端に落雷が発生して誰かに命中する。
「はぎゃあっ!?」
「ミエナ!?何がどう言う…」
落ちた場所には落雷によってダメージを受けて黒焦げになったミエナが尻もちを着いていたが理解出来なかった。
「グオオオオ!?」
「あいつ…まさか自分に雷を落としたのか」
何故ならミエナはクウコに取り憑いて動きを封じていたからだ。その理由はクウコが自滅覚悟で落雷を自身に落としてミエナを振り払ったからで、彼女も鎧が黒焦げになっていた。
「かはっ…ううっ…ぐうっ…」
「え、女の子だったんですか」
それによって鎧が地面に落ちてクウコの素顔が露わになるのだが、褐色肌に白髪に八重歯と言う特徴を併せ持つ元気印とでも言うべき少女の姿をしていた。
『しかもこいつはただの獣人じゃねぇ。魔族の血を引いてやがるな』
アンデッドとなった二つ名の古竜を操れるのだからただ者ではないだろうと思っていたが、魔族特有のディアマナミナを持つダークエルフのステラが言うのだからクウコが魔族の血を引いているのは間違いないのだろう。
「クウコ、ここは引き揚げるわよ!」
『って、逃がすかよ!』
いきなりクウコが自滅同然の攻撃をしたのはミエナを振り払ってここから逃げるためだった。因縁の相手であるアルノを始末しようとするステラ。
「…吹き荒れろ、ゴッドプレシャス『気象天結』!」
しかしクウコはゴッドプレシャスである棒状の武器『気象天結』を頭上で振り回すと竜巻を起こし、自身とアルノとアンデッドセイリュウを取り囲むように発生させる。
「また会いましょう。その時はどうなるかしらね?」
竜巻に守られている間にアルノは何かしらのアイテムを使うと魔法陣のような物が展開される。その直後にアルノとクウコ、そしてアンデッドセイリュウの姿が消え去るのだった。
『くそ…待ちやがれ!?』
「どうやら逆召喚術を使ったようだね。何処かに転移したようだね」
「あらぁ〜、どうやらここまでのようねぇ〜」
「さすがに不利だと考えたんだろうね。どっちにしてもありがたかったよ」
姿が消えたことにステラは憤りの唸り声を挙げていたが、正直言って追跡は不可能な上に深追いは危険だろう。おまけにあのままSSランクの相手と戦って勝てるかどうかは断言出来なかった。
「…あっ!そう言えばリュクウちゃんは!?」
「大丈夫よ」
ニナが慌てた様子でスザクと共に取り込まれたはずのリュクウの心配をするが、アメジスは微笑みながら自身の影から寝息を立てるリュクウを引きずり出す。
「夢幻起瞳で既に見つけていたわ」
「良かったです〜…」
「すぅ…すぅ…」
「って、こいつはいつまで寝てんだよ」
夢幻起瞳と言う技を使った際にリュクウも見つけており、ニナはホッとするもレイラはまるで知らん顔で眠り続けるリュクウに苦笑いするのだった。
「結局、あたしは今の今までどうしてたんだ?」
スザクも快感と共に目を覚ますとアンデッドセイリュウと対面しているのだから訳が分からなかったために事情を訊ねてくる。
「まあ、暫くの間は仮死状態…ずっと眠っていたんだけど、そこはアメジスの力を使ったんだ」
「私は夢魔の力もあってね、夢幻起瞳って言う技は眠っている人の夢や精神に入り込むことが出来るらしいの」
アメジスが使用した『夢幻起瞳』は夢魔特有の能力を駆使した技で、仮死状態になったスザクを呼び覚ますために彼女の精神に直接入り込んだのだ。
「スザクちゃんが目覚めればアンロスの街みたいになって形勢逆転を狙える算段だったの。それが功を奏して良かったよ」
これこそがアメジスの考えた作戦だった。夜になれば吸血鬼と夢魔の血が覚醒し、スザクの精神に入り込んで絶頂させることで再生の炎を出させ仮死状態を解除すると同時にアンデッドセイリュウを蘇らせて今度こそ息の根を止めると言うものだった。
「…相手には逃げられたし、生け贄にされた冒険者も連れ去られちゃったけど…クエストは一応はクリアだよ」
暫く考えていたルアーネは手放しに喜べない結果とは言え、クエストが全て完了したと話したことで一同は一気に脱力するのだった。
「結局ここはリュクウちゃんの故郷ではあるけど、ここには人魚族の人はいないね」
「異常気象やモンスターの凶暴化は止まるだろうけど、戻って来るかどうかは…」
コバルトラビリンスが荒れている原因を突き止めて一応は退かせることにも成功するが、こんな寂れた場所にリュクウを置き去りにする訳にはいかない。
「やっぱり…もう暫く私達といる?」
「…!うん!」
旅立つ前に教会の子供達と泣く泣く別れる形となったが、良くも悪くもこれで再び一緒にいられることとなりリュクウも満面の笑みを見せていた。
「…なあ、あたしのことはどうすんだ?」
元の透明な肌のダークエルフの姿に戻ったステラはおずおずと訊ねてくる。
「…悪いけど、このことはキチンと報告しないと」
その意味を知ったメイナスとルアーネは申し訳なさそうに答える。相手はドラグングニル帝国の研究者で、しかも二つ名の古竜を多くの冒険者を生け贄にしてアンデッドとして蘇らせたのだ。
どれを取っても世界を震撼させるほどの事態であるため、このことは学園側に報告してあらゆる国に警告を促す必要があった。
「…じゃあ、あたしも監禁されるのか」
その報告内容には利害が一致して共に戦ってくれたステラが実は学園や世間を一時的に震え上がらせた『白い死神リッチ』であることも含めてだ。もし報告すればステラは危険と見なされて隔離されることだろう。
「いいや、そんなことはさせないよ。君はモンスターである以前にれっきとした人間なんだから」
「学園長もそこのところはよく理解してくれるはずだよ。大丈夫!」
「あたしは…ダークエルフだっての」
だが、絶対にそんなことはさせないと断固とした様子で語りかけるメイナスとルアーネに照れくさくなったのかステラは顔を赤くしながらそっぽ向くのだった。
「さあ、帰ろうか。僕達の帰るべき場所に」
なんにしてこれでコバルトラビリンスでのクエストと異常事態は終結したのだった。




