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フェニックスは不死身でも…

「あ、ほらあそこだよ。」


「あそこがアメジスの住んでるところ?」


ステッパーの町からそれなりに飛んだ所に開けた土地とレンガ造りの建物がある町が見えてくる。あれこそがアメジスの住む町ミスティーユである。


「あ!アメジスちゃん!?何処に行ってたんだい!」


「皆、心配してたよ!?」


ステッパーの街と同様に近くの茂みに降りて、門まで歩いていくと門番の男達が心配する様子で語りかけてくる。その様子からして顔馴染みのようだった。


「あれ、その子は?」


「あ、この子はフェ…。」


顔馴染みゆえか見慣れないスザクが隣にいることに何者かと訊ねられ、アメジスは思わずどう説明すれば良いか困ってしまう。


普通にフェニックスの女の子と言いかけるも、信じて貰えるか分からないし何よりも本当にフェニックスだと知られたらどんな騒ぎになることか…。


「フェ?」


「あの…森の中で一人ぼっちだったみたいで…。」


取り敢えずスザクは孤児と言うことにし、フェニックスであることは伏せておくことにする。


「そうか…また孤児がいたのか。」


「また戦の孤児か?」


それを聞いた門番達は気の毒そうに二人を見ていた。スザクならまだ分かるが、アメジスにまで向けられる理由とは…。


「取り敢えずこの子を教会に連れて行きます。」


「分かったよ。ギルドカード登録はまた後でな。」


「シスターによろしくな!」


スザクを連れてアメジスは教会へと向かい、門番達はそれを温かく見送るのだった。


「これがアメジスの住んでる所なの?」


「そう、ここが私の住んでる教会。ここでは色んな事情で住む場所がなかったり、家族がいなくて一人ぼっちの子達が共同で暮らしてるの。」


辿り着いたのは十字架を高らかと掲げる三角の青い屋根が特徴的な教会だった。アメジスに取っては住み慣れた場所であるため教会の詳細を説明すると同時に我が家に帰って来れたことに安堵する。


「ただいま…。」


「アメジスううぅぅぅ!!」


「ぎゃあっ!?」


安堵したのも束の間、ドアを開けたと同時に野獣のような目付きの女性が長い髪を振り乱しながらアメジスを教会へと引きずり込んだ。


「レイラ姉さん!?」


「あんた何処に行ってたんだい!皆どれだけ心配したと思ってんだい!」


アメジスを中へと強制連行したのはスリットの入ったロングスカートに大胆にへそ出ししたシャツを着用したワイルドな女性だった。彼女はアメジスを軽々と持ち上げて怒鳴りつける。


「しかもあんたパンドラの森に行っただって!?あんた自殺でもするつもりだったのかい!?」


「そ…それは…。」


「あたしの目が黒い内はそんなバカなマネはさせないぞ!そんなマネは出来ないように…その可愛い尻を猿みたいになるまでしばいてやるからな!」


「ひっ!?」


軽々と持ち替えてアメジスの尻が前面に来るようにし、大きく腕を振り上げるレイラ。


「まあまあレイラ姉さん。アメジスも無事に帰って来たんだし、許してあげなよ。」


「ああ?相変わらず甘いなてめぇは。」


レイラを止めたのはウェーブロングヘアをポニーテールにした美青年だった。彼のお陰で尻叩きを免れそうになるためアメジスもこっそりと祈っていた。


「アメジスはシスターリラの病気を治すためにこんな危険を冒したんだ。危険なことをしたのは確かだけど悪いことじゃないんだから。」


「…ちっ、分かったよ。メイナスに免じて今回のことは許しやるよ。」


「ほっ…。」


メイナスの説得により尻叩きをする気がなくなったレイラはアメジスを降ろし、それに対して思わず胸を撫で下ろすアメジス。


「だが、助かるために祈ったことは許さん。」


「きゃははは!?あははは!?や…止め…!?」


しかしながら自分が助かるために祈りを捧げたことは許さないらしく、すっかり油断したこともあって代わりのくすぐりのお仕置きを受けるのだった。


「ったく…夕飯は作るからシスターに顔を見せてこい。」


「はあ…はあ…うん…。」


息切れするまでお仕置きをされたアメジスはシスターに顔を見せに行くために部屋を後にする。


「シスターリラ…。」


「あら、アメジス…皆、心配してましたよ…。」


部屋ではぐったりした様子のストレートの黒髪にメガネを掛けたシスターが寝転びながらアメジスの無事な姿を見て微笑んでいた。


「私のために危険を冒してハイヒール草を採りに行くなんて…愚かなことですよ。」


「でもシスターは!シスターは私や皆を家族のように育てくれた大好きなシスターなのに…。」


「私の病気はハイヒール草があっても完治は出来ないんですよ…。」


半分諦めた様子を見せるリラはまるで氷の彫刻のようになった右腕と右足を見せる。


「この氷鱗病は私の身体を蝕み、いずれ肺などの呼吸器官を凍らせやがて窒息させるでしょう。」


シスターの身体を蝕む氷鱗病は氷属性を持つ魔物やモンスターの血液を吸った蚊などの昆虫が、人を刺すことで感染する病気なのだ。


刺された場所から徐々に凍りついていき、やがて肺や心臓などの重要な器官まで凍りついてしまうのだ。


「シスター…やっぱりハイヒール草があれば!」


「それは根本的な解決にはならないよ。治すにはシスターの中で悪さをしている氷属性の血液を何とかしないと…。」


メイナスが部屋に入り、氷属性の血液は氷の魔力の塊でもあり、耐性がない者が摂取するとたちまち氷結などの状態異常になると説明する。そのため体力を回復しても氷鱗病そのものが治る訳ではないのだ。


「せめて温泉があれば療養は可能なんですけどね…。」


「温泉の治癒能力があればきっと氷属性の血液を除去出来るはずなんだけど…。」


治療法としては状態異常を回復する薬を使うか、治癒効果のある温泉に浸かるのが最適であった。皮肉なことにこのミスティーユは温泉の地でもあるのだが源泉は既に枯れてしまっていた。


「無いものねだりしてもしょうがないわ。とにかく無事に帰って来てくれて嬉しいわ。」


「シスター…。」


前髪で隠れてはいるものの目からポロポロと涙を流しながら膝元に崩れるアメジス。それをシスターは凍っていない左腕で撫でるのだった。


「…シスター、その後具合は…。」


「やはりあなたには隠し通せませんね。」


「シスターの進めで僕は医者になれたんですから。何よりも僕はここにいる誰よりもあなたの側にいたんですから。」


アメジスが退室してからメイナスは医者として、そしてシスターとの長い付き合いで彼女は容態が芳しくないのを見抜いていた。


「アメジスの頭を撫でた感覚がありませんでした…恐らく今度は右腕も…。」


「両腕から氷鱗病が進行すると肺が両方とも凍って最悪の場合…。」


あらゆる生き物は肺で呼吸をするのだが、それが凍りつけばどうなるか…想像するだけで最悪の事態は浮かんでくる。


「これも神の思し召しでしょう。もう私も長くはないと言うことでしょう。後のことはあなたとレイラに任せましたよ。」


「シスター…僕を励ますために演奏してくれたピアノを覚えてる?ピアノを弾いていた温かくい右手がこんなに冷たくなって…。」


もはや運命は受け入れる様子を見せるシスターにメイナスは彼女の右手を優しく握るも、氷のように冷たくなっていて悲しい顔を浮かべる。


「……。」


それを部屋の外からアメジスは聞き耳を立てていた。と言うのも頭を撫でられた時に妙な冷たさを感じ取っていたため何かあったのではと退室してから聞きていたのだ。


「はあ…アメジスどうしたんだろう。」


その頃、アメジスが一人で教会に引きずり込まれたために外に置き去りにされたスザクは途方に暮れていた。


「ん?どうしたんだい?」


すると教会で飼育しているニワトリが寄ってきたため触ろうとするが逃げられてしまう。


「それなら…はっ!」


同じ鳥仲間としてお近付きになろうとスザクを炎を纏い小さなフェニックスの姿になる。これなら見た目的には尾長鶏にはなるはずだ。


「さて、今日は久しぶりに肉を出すかな…っ!」


夕飯の支度のために肉を出そうと教会からレイラが出てくると、鶏小屋の近くに見慣れないモンスターがいるのに気が付いて身を隠す。


(ニワトリじゃねぇなありゃ…この辺で見かけるモンスターでもない…。)


見た目からして普通のニワトリでもはたまた一般的なモンスターでもなさそうだった。


「ここは…パッシブスキル『瞬足』!」


『ケェン!?』


電光石火の早業でそのニワトリもどきの首を鷲掴みにするレイラ。突然のことのためニワトリもどきもなす術なく捕まる。


「あん?こいつ思ったより大したことないのか?」


(ああっ〜!首が…絞められてる〜…!?)


知っての通りこのニワトリもどきは小型フェニックス化したスザクだった。小型化して捕まってるとは言え、簡単に抵抗して振り払えるはずだが首を絞められる苦しさに快楽を覚えていたからだ。


「ちょうど良いなこりゃ。派手な見た目だが美味しそうだし、こいつを調理するか。」


最初はニワトリを調理しようとしたが、こちらを調理しようと考えて側のニワトリを絞めるための小屋の中へと入っていく。


「まずは羽根を毟ってっと。」


(あん、あん、ああん〜!?私の羽根が…無慈悲に毟られていく…♡)


小屋に入ってスザクの羽根を毟るレイラ。人からすれば髪を毟られるのと同じであるのだが、スザクはチマチマと羽根を毟られる感覚に至福を覚えていた。


(綺麗な羽根が毟られて…私の身体が曝け出されてる…♡)


羽根を毟られたスザクは鶏肉になる一歩手前と言う、フェニックスとは思えない見るも無残な姿にされるも彼女は身体をモジモジさせていた。


「よし、動くなよ…楽にしてやるからな…。」


羽根を毟った後は苦しまないようにトドメを刺すだけだ。巨大な斧を振り上げるレイラは多少の同情を浮かべていた。


(はあん…はあん…早くその刃を…ちょうだい…♡)


スザクは処刑人の刃が迫ってるのに命乞いをしないどころか、寧ろ早く待ち望んでいる物を寄越して欲しいと懇願するようにレイラを見ていた。


「ふん!」


『ケェン♡』


何処か冷ややかな音が小屋の中に響く。普通ならここで悲鳴が聞こえてくる所なのだが、その鳴き声は何故だか幸せに満ちていた。


「アメジス!レイラに怒られたって?」


「何があったか教えてよ!」


「そんな大したことじゃ…。」


そんなことになってるとも知らずアメジスは、教会の子供達から質問攻めにあっていた。


「アメジス、そろそろ夕食の時間だからレイラを手伝っておいで。」


「あ、はい!鶏小屋を見てきますね。」


子供達はメイナスが引き受け、アメジスはレイラを手伝おうと鶏小屋に向かってみる。


「そう言えばスザクちゃんのこと忘れてたけど、どう説明しよう…。」


色々あってスザクのことを忘れていたが、こんな状況でどう言ったら良いかアメジスには分からなかった。


「スザクちゃん。あれ…?いない?」


外にいると思ってたが誰もおらず暫く探してみるも彼女の姿はなかった。鶏小屋にいるであろうレイラも探したが姿がなかった。


「おーい、アメジス!何してんだ?こっちを手伝えよー!」


「あ、はい!…後でもう一度探そう…。」


レイラが既に厨房にいることを確認したアメジスは、取り敢えずスザクのことは置いといてレイラの手伝いに向かうのだった。


「来たか。今日はご馳走だぞ、見たことない鳥型のモンスターを仕留めたんだ。」


「そうなんですか?」


厨房に来るとレイラは髪をポニーテールにエプロンをして既に調理を始めており、しかも見たことない鳥型モンスターの料理をしていた。


何なのかとアメジスは物珍しそうな様子でひょこっと身体を伸ばして料理を見ようとする。


「…!?」


ところがアメジスは目を隠してる髪を掻き分けてよく見ようとした。何故なら見たくなかった最悪の物が…炎のような真っ赤な羽根が幾つも散乱していたからだ。


「レイラ姉さん!?そ…その羽根は…!?」


「これか?」


恐ろしい結末に怯えながらアメジスは、せめてハズレであって欲しいとレイラに羽根のことを訊ねる。


「真っ赤な尾長鶏みたいなモンスターがいてな!そいつを仕留めたんだ!しかもこいつ自殺でもしたいのかヤケに大人しくてな!」


訊ねられてレイラは先程仕留めた鳥のモンスターの話をして、火にかけられた縦長の鍋に入ってる物を見せる。


「きゃああああ!?スザクちゃああああん!?」


なんと羽根がないとは言え、それは鶏肉のようにされたフェニックスのスザクの成れの果てであった。


「ぎゃっ!?何だよ…?」


「そんな…私が目を離した隙にスザクちゃんがああぁぁぁ!?」


突然の金切り声を出すアメジスにレイラは何事かと耳を抑える。しかしその間にアメジスは友の変わり果てた姿に泣き崩れてしまう。


「スザクちゃんが…スザクちゃんがぁ…!?」


「え…まさかこれお前の鳥だったのか!?」


狼狽えようから仕留めたのがアメジスが何らかの事情で大切にしていた鳥だと分かり、レイラもこれには青ざめてしまう。


「そんな…そんなぁ…!?」


「ご…ごめんよ!?まさかお前が鳥を飼ってたなんて…。」


泣き崩れるアメジスにレイラは知らなかったとは言え、罪悪感から慌てて謝る。


「どうしたんだい?」


「それがあたし、アメジスの大切な鳥を…。」


騒ぎを聞いたのかメイナスも厨房に訪れると、レイラは申し訳ない様子で彼と目を合わせる。


「スザクちゃん…。」


「それが鳥の名前か…ごめんな、本当に…。」


「ちょ…レイラ?料理に何を入れたんだい…?」


「あ?何を言って…。」


事情をよく知らないとは言え、こんな時に料理に入れたアメジスの大切な鳥のことを聞くのかと言う様子で鍋を見る。


『ケエエエン!』


「いいっ!?何だこりゃ!?」


鍋から竈門の火とは思えない炎が溢れており、それが鳥の姿をして翼を広げていたのだ。


『ケエエエン!』


「火の鳥…?」


「って、ちょっと!火事になってるじゃないか!?水、水!?」


幻想的な火の鳥に見惚れてしまうも、羽ばたくことで壁に火が燃え移り火事になりかけていた。


「スザクちゃん!スザクちゃん!?止めて!?」


「バカ!危ないぞアメジス!?」


騒ぎに気が付いたアメジスも何が起こったか理解して、レイラに止められながらもスザクに呼びかける。


『ケエエエン…!』


「あれ…水をかけてないのに、火が消えていく…?」


火の鳥はアメジスに気が付いて羽ばたくのを止めると鍋の中へと縮こまっていく。それに合わせて壁の火が生き物のように鍋の中へと消えていき、燃えていたはずなのに焦げ一つすらなかった。


「はへぇ…♡気持ち良かった〜…♡」


鍋の中には火の鳥も炎もなく、代わりにスザクが快感に溺れるように身体だけ浸かった状態でスープに浸かっていた。


「ぶはっ!?ちょ…スザクちゃん、その格好は…。」


「はあ…!?」


「えっと…これは…?」


何ともはしたないながら扇動的な有様にアメジスは鼻血を噴き、突然のことでメイナスとレイラは訳が分からないことの目白押しであった。


「あ、アメジス…これ気持ち良いな。一緒に入るか?」


「スザクちゃん…それ鍋だよ。料理するための道具でお風呂じゃないんだよ…。」


お風呂にでも入ってるかのようなスザクにアメジスは鼻血を噴きながら説明する。


「アメジス…これは一体どう言うことなのか説明してくれるかい?」


「お前が鳥を飼っていたと思ったら、鍋が燃えて火事になるかと思えば、そいつが鍋の中にいたんだ!説明してくれなきゃ分かんねぇよ!」


鍋からスザクを引っ張り出し服を着せた後で、何がどうなってるかメイナスとレイラは席について、戸惑うアメジスから事情を聞こうとしていた。


「あの…フェニックスって知ってる?」


「フェニックス…?まさかフェニックスって、あの不老不死の幻獣フェニックスのことかい?それがどうしたんだい?」


まずアメジスは最初にフェニックスのことについて話し始める。パンドラの森には元々フェニックスを祀る神殿と崇拝する集落があった。古くからミスティーユとも交流があったため知らないはずもなく、何故そんなことを聞くのかと聞き返す。


「あんまり信じられないだろうけど、この子はスザクちゃん。フェニックスの力を持ってるみたいで…。」


「…はあ?」


詳しい説明をアメジスにして貰っているが、フェニックスがスザクであると聞いて余計に訳が分からなくなる。


「その彼女が…フェニックス?」


「何を言って…。」


到底信じられないためにバカバカしいと様子でそっぽ向くが、ふと厨房で見た火の鳥のことを思い出すレイラ。


「私も最初は訳が分からなかったけど…レイラ姉さんもメイナス兄さんも、鍋から出てきたあの火の鳥や生き物みたいな炎を見たでしょ?」


「……おい、まさか本当なのか?」


言われてみればあの火の鳥は伝説に見たフェニックスのようであり、炎が生き物のように動き、ついでに鍋の中に入れてた鶏肉もなくなって代わりにスザクが鍋の中に入っていた。


「この子…本当にフェニックスなのかい?」


「本当だよ!」


すると聞いていたスザクはフェニックスだと証明すれば良いと思って炎を身体に纏う。


『ケエエエン!』


「…!フェニックスだ…!」


これまでのことはフェニックスでなければ出来ない芸当ばかりだったが、スザクが実物のフェニックスに変身するのを目の当たりすればさすがに認めざるを得なかった。


「アメジス…お前がパンドラの森に行ったのは分かってたが…これはどう言うことなんだ?何でフェニックスがお前といて、しかも人間の姿をしてるんだ…?」


半信半疑だったレイラも認めるしかなかったが、百歩譲ってもパンドラの森で祀られているはずのフェニックスが人間の姿となって、アメジスと共にいるのか分からなかった。


「それは…ここからが問題なんだけど…。」


パンドラの森でアメジスは成り行きでドラグングニル帝国に捕まるも、紆余曲折あってフェニックスの卵からスザクが孵化するのに立ち会ったことを伝えた。


「それでパンドラの森からここまで逃げて来たってことかい?」


「お前、かなり大それたことをしたな…あのドラグングニル帝国を出し抜いて血眼で探してるフェニックスを連れ出したんだからな…。」


全ての事情を聞いて二人はアメジスのやったことに唖然としていた。帝国の目的も強大さも知ってるため、アメジスのしたことは奇跡的と言っても過言ではない。


「しかしこれだと帝国は黙ってないぞ。アメジスのことを知られてるから、きっと取り返そうと何か仕掛けてくるぞ。」


唖然となるも帝国を敵に回すことは宣戦布告をしたも同然であり、レイラは深刻そうな面持ちをする。


「でもこのままだとスザクちゃんが…。」


「だからってここを戦火に巻き込む気か!そいつのお陰で助かったとは言え、このままだとミスティーユは…。」


軍事国家であるがために幾つもの国を攻め落とした歴史があり、対するミスティーユは観光が主な国であるため天と地の差があるだろう。攻め落とすなんて赤子の手をひねるより簡単なはずだ。


「こいつのことを思うのは分かる…けど、こいつがいるとあたしらは…。」


ここが戦火に巻き込まれればどれだけの犠牲者が出るか分からない。それを思うとやはりスザクがいるのは危険だとレイラは遠回しに言う。


「シスターは…そんなこと言わない。」


しかしレイラの説得を聞きたくないと言うようにアメジスはキッパリと告げる。


「お前!何を言って…!」


「ここは元々捨てられたり、迫害されたり色んな事情で国を追われた人達が作り上げたって国だってシスターが話してくれた。それならスザクちゃんだって…。」


ミスティーユは元々、何もない平地であったが国を追われり世俗に嫌気が差した人々や亜人が家族のように集まり建国した国だった。


その後にフェニックスの炎によって魔力や再生力を含んだ温泉などが見つかり大きな国として発展したのだ。


「あのな!こいつはフェニックスだぞ!殺しても死なないし、匿うだけの余力があるのかよ!」


頑なに諦めないアメジスにスザクを諦めさせようとフェニックスを自分達が守る必要もないし、そんなことは出来ないと説明する。


「私達はフェニックスのお陰で守られてたのに、そのフェニックスを突き放すなんて出来ないよ!それに身体は死なないからって、スザクちゃんの心を突き放したら死ぬことより辛いじゃない!?」


自分達はフェニックスによって守られていたのに今度は自分達が守らなくてどうするのかと、そして幾ら不死身とは言え見捨てるのは死ぬことより辛いはずだとハッキリと言うアメジス。


「レイラ、アメジスが元々は捨て子だったことを忘れたのかい?今ここでスザクを捨てることと何が違うんだい?」


アメジスがここまでスザクを庇おうとするのは、彼女自身も捨てられた過去があるからこそだった。もしもここでスザクを見捨てれば、不死身でもきっと同等かそれ以上に辛いはずだ。


「あー…あたしも、クソ親父に一日の酒代で奴隷として売られかけて…商人とクソ親父を殺した罪で処刑されそうになってここまで逃げたけど…そんなあたしでも皆、受け入れてくれたっけ…。」


それを聞いたレイラはぶっきらぼうに椅子の背もたれに寄りかかって唐突に昔話を始める。嫌な過去から逃げ出しても、事情を聞かずに受け入れてくれたことを思い出し目頭を押さえる。


「分かったよ…あたしが少し臆病風に吹かれてたみたいだ。悪かったよ…。」


「レイラ姉さん…!」


「でも正直どうする?奴らが黙ってるとは思えねぇぞ。」


取り敢えずここにいることは認めるものの、問題はフェニックスを狙う帝国が黙っていないことを憂いていた。


「そのことについてだけど、暫くは大丈夫だと思うよ。フェニックスが人間の姿になってるなんて誰も思わないだろうしね。」


それについてはレイラも文句はなかった。見た目はアメジスと同い年の少女だし、自分と接触した際は尾長鶏だと思ってたのだからいざとなれば誤魔化しは効くはずだ。


「でも…あの人達にはスザクちゃんが何者かは知られているから…。」


「アメジスと会ったパーティーか。にしても温泉が枯れちまったのが帝国のせいだったなんて許せねぇな!」


気掛かりなのはスザクの素性を知るあのパーティーのことだ。彼らにはミスティーユのことも知られているため、もしもパンドラの森から脱出していたら人間の姿として誤魔化すのに限界がある。


しかも自分達の故郷が衰退した大きな原因でもあるため尚の事、スザクの事を隠したかった。


「ねぇ、レイラお姉ちゃん…。」


「お腹空いたんだけど…。」


そんな時、部屋のドアを開けておずおずと教会の子供達が顔を覗かせて話しかけてきた。


「あ…そう言えば夕食はどうしようか?取り敢えず彼女のことは明日考えようか。」


「あのスープしか作ってねぇぞ…あたしはさすがに食う気がしねぇ…。」


「私も…。」


話すのに夢中で夕食の準備が疎かになっていることを思い出す。最初に作っていたスープくらいしかないが、知らなかったとは言えスザクを具材として入れたスープなんて飲む気がしなかった。


「味は問題ないし、結構な量が残ってるよ。折角の食材が無駄になっちゃうしね…。」


とは言え、今回は少し多く食材をふんだんに使っており、このまま残すのはいささか気が引けた。


「このスープ、美味しい!」


「鶏ガラスープだ!」


「あはは…。」


結局、食材を無駄にする訳にもいかず、その上で作り直す時間もないためこのままスープを振る舞うことにした。美味しいと言ってくれるのは嬉しいが多少後ろめたい気分でいっぱいだった。


「ほら、お前ら注目ー。新しい仲間が入ったぞー。」


「あたしはスザク!よろしくな!」


「仲良くしてあげてね。」


「「「はーい!」」」


全員が集まって食事をする中でスザクが仲間入りしたことを話し、スザクには自身がフェニックスであることは秘密にして欲しいと釘を刺した後に自己紹介させる。


「…にしてもアメジス、ここの子達は何かその…。」


「言わないであげて。ここの子達は捨てられたり、戦争孤児や元々奴隷として売られそうになって脱走した子達が多いの…。」


教会の子供には人間の子供もいるが、ハーピーやエルフなどの異種族や亜人も多くいる。


「あのエルフの子はニーナ。奴隷商人から逃げる時に耳をナイフで切って逃げたの。耳に管理用のタグが付いてたとかでね。」


その中のエルフの女の子は奴隷商人から逃げ出した経歴があったために片耳しかなかった。


「トトはハーピー族なんだけど羽根を狙われて、仕掛けられた罠で羽根だけじゃなく片方の腕を失ったの…。」


ハーピーの子は羽根目当てに右肩からその先がなく、痛々しい傷を負わされたことは間違いなかった。


「オーガの子のヤトラは迫害にあって、遊び半分で両目を潰されて目が見えないの。」


更に遊び半分と言う心のない者達によって目が見えなくなったオーガの子供までいたのだ。


「皆…色んな事情があってここに集まったの…それでもシスターや皆は優しく受け入れてくれたの。だから今日からここがスザクちゃんの居場所だよ!」


「…!うん!」


招き入れられたとは言いにくい対面ではあったが、アメジスによってスザクは晴れてこの教会への仲間入りをしたのだった。


「シスター、今日の夕食を持ってきたよ。」


「あら、ありがとう。とても良い匂いがするわ。」


食べ終えたメイナスはシスターの容態を確認すると同時に夕食のスープを持っていく。一通り検査を終えて、ひとまずは病気の侵攻がないことを確認する。


「今日新しく、スザクって女の子が入ったんだ。アメジスととても仲が良いんだよ。」


「ふふっ、それは良かったわ。あの子は同年代の子がいないし、いつも小さな子達の面倒を見て貰って申し訳なく思ってたわ。」


シスターにもスザクの事を話すと、彼女はアメジスに友達が出来たことを喜ばしく思うのだった。


「そろそろ寝ようかスザクちゃん。」


共同のベッドルームでは子供達は先に寝ており、アメジスも寝ようと寝やすい格好に着替えてベッドの側に立ってスザクに語りかける。


「そうだな〜…。」


「って、何で裸なの!?」 


寝やすい格好はしているが、スザクに至っては何も身に纏っていないありのままの姿となってアメジスと一緒にベッドインしようとしていた。


「待って!?何で私のベッドに!?」


「だって、他にベッドがないしアメジスと一緒の方が色々と軋轢とかないだろ?」


よくよく考えてみれば、いきなりスザクが加入したこでベッドがないため暫くは連れて来た本人としてアメジスと共に寝るのが筋であった。


「だからって裸じゃ…!?」


「寝る時くらいは良いだろ?それにあたしは服を着たままじゃ寝れないんだよ。」


フェニックスだからか、或いは人間の時からは不明だが裸で寝ることに抵抗はなく、寧ろ服を着たまま寝ることが嫌で裸になったようだ。


「待って…心の準備が…!?」


「おやすみ〜…ふぁ〜…アメジス温かくて柔らかいなぁ〜…。」


「ひゃああぁぁ〜…!?」


ただでさえ刺激が強いのに、アメジスの返答を待たずしてスザクはアメジスの身体に自身の身体を擦り付け抱き枕にして眠りに就くのだった。

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