フルコースは不死身の活け造り
「何だよこの状況は」
「僕もこれは不釣り合いだと思う。海底のダンジョンに食事を提供する場所があるなんて」
「それもだけど、あのイタマエンペラってのが気になる」
「……」
辿り着いた場所はまるで日本料理店のような所だったこともだが、まるで人間のような言動をするイカ達にされるがままにおもてなしされることに無口なステラですら戸惑いを隠せなかった。
「こんなことしてる場合じゃないんじゃ?」
「まあ、良いじゃろ。腹が減っては戦は出来ぬと言うしな」
「実はその…私もお腹空いちゃって、お魚が食べたくて…」
アメジスも懐疑的な様子だったが、ユウキュウとニナは食事する気満々だった。
『お品書きです』
一人のイタマエンペラが丁寧にお辞儀しながらお品書きを述べるために近寄って来る。
「お品書き?」
「メニューってことだよ」
「して、何を提供してくれるのじゃ?」
場の空気に呑まれて困惑気味であったが、一応はメニューを聞いてみることにする。
『まずはウニボンとカジキラスの軍艦握り、マンタイトのお刺身、ロブスパンツァーのマヨネーズ和え、そして…』
「…そして?」
ここまでだと美味しそうなメニューばかりだが、不意にイタマエンペラが静かになってしまう。
『そして…メインディッシュは不届き者のイカ造り!じゃなくて活け造りイカー!』
「わあっ!?何をするんだ!?」
メインディッシュはよほど自信があるからこそ、敢えて押し黙っていたのだろうと思っていたが、触手に太い肉切り包丁のような物を巻き付けてテーブルをバラバラにしてしまう。
「やっぱり罠じゃったか!」
「いや、ユウキュウちゃんも思いっきり食べようとしてたじゃん!?」
何か裏があると思ってたが、やはり提供する料理とはメイナス達を痛めつけて始末すると言う意味の料理だったようだ。
『そんなに食べたイカなら、食わせてやるイカ!まずはウニボンとカジキラスの軍艦握りイカ!』
しかし武器は包丁だけでないらしく、カウンターに皿に載せられた軍艦巻きが置かれる。しかし不意にカタカタと震えたと思ったらどんどん大きくなっていくのだ。
『『『ギシャアアア!』』』
「うげっ!?何これ!?」
一見すると何の変哲もなかった寿司ネタには魚の目玉や歯などが出てきて、シャリの方には魚のヒレやエビの脚などが海苔を突き破ってカサカサと動き出し気持ち悪いの一言しかなかった。
『調理されることで不死身の兵隊として動き出す料理…『アンデッフード』だイカ!』
「まさか食べ物をアンデッドにしたの!?悪趣味過ぎるよ!」
どうやったかは不明だがイタマエンペラ達は調理した食べ物を死んでも動き続けるアンデッドに改造、もとい調理したようだ。
死んだ人間をアンデッドとして無理やり動かすだけでも非人道的に思えるのに、悪く言えば死体とも言える食材をアンデッドにするなんて、食べ物を粗末にするなでは片付けられないほどに酷かった。
『調理の中にはまだ生きている内に調理して、新鮮なことをアピールする活け造りと言うのがあるイカ。だから我々は更にその上を言っただけイカ!』
「もしかして活け造りにされたイカさん達の恨みなんでしょうか?」
「そう言われると耳が痛いね…」
活け造りされた魚介類は料理として提供された時にはまだ僅かに生きているため、アンデッドにされたではないにせよ、食われる彼らからすれば仲間をバラバラにして僅かに生かしておくなんてよほど残酷に見えたことだろう。
「だからってまんまアンデッドにしたら活け造りよりも質が悪いじゃないか!」
活け造りが悪くない訳ではないが、少なくともアンデッドにして戦わせる方がずっと悪どいことだけは間違いなかった。
『『『ギャギャギャギャ!』』』
「わぶっ!?ちょっと!海苔とご飯が貼り付いて動けない!しかも噛んで…いたたたっ!?」
握り寿司のアンデッフードはミエナに集団で飛びつき、寿司ネタとシャリの間にある本当の口で彼女の柔らかい身体を噛んでくる。
「風魔法『ウインド』・エッジ!」
「ぷはっ!?ありがとう、ニナちゃん」
風の刃で群がるアンデッフードを粉々にしてミエナを助けるニナ。辺りにはグチャグチャになった握り寿司の海苔や酢飯が散らばっている。
『『イカイカイカ〜ン!』』
するとカウンターからイタマエンペラ達が飛び出し、バラバラになったアンデッフードの残骸を握り始める。
『ヘイ!おかわり、お待ち!』
『『『ギャギャギャギャ!』』』
「そんな嘘でしょ!?」
なんとバラバラになったはずの握り寿司アンデッフードはイタマエンペラの触手によって再び握り直されて復活するのだった。
「どうやらバラバラになっても握り直されれば復活するらしいのう」
「斬新な蘇り方だね。悪趣味だけど」
これまでのアンデッドは黒魔術や錬金術の失敗による影響で、ほぼ墓場から這い出てきたような死体の状態で何度でも復活する。しかし食材を調理することでアンデッドとして蘇るなんてまるっきり聞いたことがなかった。
「シスターには食べ物を粗末にするなって教わったけど、寧ろこっちの方が粗末にしてるよ!」
「それなら焼却処分してやる!スキル『二刀流』!」
火のエレメントを付与したナイフを二本構えて頭上で交差させると、一気に駆け抜けると同時にアンデッフードを斬りつけ炎上させる。
「へっ!アンデッドは死体がないあるから蘇るなら、死体を火葬して土に還してやるぜ!」
「なるほど、これならアンデッドでも…」
映画や物語でもゾンビやアンデッドは死体があるから復活する。だからこそ元を断つと言う形で死体を燃やしてしまえば復活したくとも出来ないはずだ。
『あがり一丁、お待ち!』
『『『…!ギャギャギャギャ!』』』
するとカウンターからお茶の入った湯呑みが投げられ、アンデッフードが炭になる前にお茶が浴びせられて火が消火される。
「そう簡単には倒させないみたいだね。でも、だからってお茶で消火なんて…」
「それだけじゃないよ、炙られたことで何だかパワーアップしてない?」
まさかのお茶で消火されたことに唖然とするも、アンデッフードは炙り寿司になったことでより凶暴で攻撃的になってしまう。
「これじゃあ私の氷魔法で冷凍保存してもさっきのお茶で溶かされそう」
「そうだね。バラバラにしても燃やしてもダメなら…こうするまでさ!自然魔法『アンバー』・ショット!」
ルアーネの指が木目調になり、そこから甘い匂いを放つ琥珀色の液体がアンデッフードに向かって浴びせられる。するとあんなに凶暴になっていたはずのアンデッフード達はそこから動けなくなる。
「どう?ボクの樹液の味は?バラバラになっても復活するならお望み通りバラバラにはしなかったよ?」
バラバラになっても復活してしまうのなら、いっそのことその場にくっつけてしまおうとルアーネは樹液を放ったのだ。
「それにその樹液は暫くすると石みたいに硬くなる!固めてしまえばどうにもならないでしょ?」
『イカん!?これでは握り直せん!?』
しかも樹液は石のように硬くなり、イタマエンペラ達でも復活させようにも手出しが出来なかった。
「やるね、これなら復活することは出来ないもんね」
『お次はカンデンチンアナゴの『海鮮メデューサ丼』だイカ!』
握り寿司は無力化したが、メニューはまだまだあるらしく今度は丼がカウンターに置かれる。丼の中にはカンデンチンアナゴが無数に敷き詰められているのだが、中でウネウネと触手のように動き出し始める。
「ひゃあっ!?何ですかこれ!お尻にくっつきました!?」
「わあっ!?何処にへばりついてんだ!?」
丼がひっくり返りクラゲのように動き出したかと思えばニナとレイラの身体に飛びついてくる。
「はにゃにゃにゃ!?痺れます〜!?」
「ぎゃあああ!?」
丼飯アンデッフードは触手がカンデンチンアナゴであるため、まるで電気クラゲのように二人の身体に電撃を流し込んでビクンビクンと痺れさせてくる。
「あれは中々堪えるぞ。儂らもあれには痺れたのう。ルアーネ、あれも固められんのかのう?」
「二人に密着した状態だと一緒に固まっまちゃうよ」
アンデッフードの攻略の仕方は分かったが、今度は二人に密着しているためルアーネも手出しが出来なかった。
「まずはあのアンデッフードを引き剥がさないと。丼に触れば感電することはないよ」
「よーし、それそれそれー!」
まずは丼のアンデッフードをレイラとニナの身体から引き剥がす必要があるため、ミエナが丼を掴んで引っ剥がしていく。
「はうあっ!もっと優しくしてください…変になっちゃいますよぉ…」
「へぇ〜、さっきはヤラれたけど結構剥がす時は気持ち良いわね」
意外にもミエナが二人の身体に貼り付いたアンデッフードをベリベリと剥がしていく。ミエナからすればフィルム剥がしみたいで爽快感を味わうが、ニナは身体が痺れている上に剥がされる感触で更にビクンビクンとなる。
「……!」
「だあぁもう!いい加減に離れろ!?」
レイラに貼り付いたアンデッフードはステラが剥がしていたが、ある程度で彼女は自力で引き剥がすのだった。
『『『ギュギュギュ!』』』
「ミエナちゃん!そっちにアンデッフードが!」
今度は狙いを変えて引き剥がしたミエナに向かって触手のカンデンチンアナゴを伸ばしてくるアンデッフード。しかし彼女は不敵な笑みを浮かべた途端にアーマービキニが床に落ち、身体が半透明になるとその先には誰か身構えていた。
「タイミングバッチリだよミエナ、自然魔法『アンバー』・ショット!」
半透明になったミエナの背後にはルアーネが立っていて指先から琥珀色の樹液を放ってくる。ミエナは既にゴッドプレシャスのファントムハートを使用しているため、樹液はすり抜けて丼のアンデッフードに命中する。
「やったね!ミエナ!」
「うん!ルアーネちゃんもタイミングバッチリ!」
ファントムハートを解除してビキニアーマーを着用したミエナは樹液で固まったアンデッフードを見ながらルアーネとハイタッチする。
『なるほど…イカがなおもてなしでは満足しませんか』
「こんな最低なおもてなしは初めてだよ!評価もレビューも最悪だよ!」
『それでは大将イカ!』
イタマエンペラはまだ奥の手があるらしく誰かを呼びつける。するとカウンターにこれまでとは異なるイタマエンペラが待ち望んだぞと言わんばかりに現れる。
『イカしたイタマエンペラの中でも料理スキルを磨きに磨き上げ、最高傑作の料理を提供し最大のおもてなしをするイカ…そう、ワッシこそがイタマエンペラの総大将イカ!』
これまでと比べると体格は最大でありダイオウイカに匹敵する大きさのイタマエンペラだった。
「結局、君達は何者なんだ?まるで人間みたいなことをするモンスターなんて見たことも聞いたこともないよ」
『それもそうイカ。ワッシらはあるお方の手によって人間並みの知性を得られたイカ』
どうやらこのイタマエンペラ達は人の手によって生み出されたモンスターのようだ。そのために人間のように言葉を話したり、人間のような技術を身に着けているようだ。
『話はこれにてイカ省略。そろそろおもてなしをするイカ』
大将イカの背後には寿司桶のような物が置かれており、中で何かが動いているらしく桶自体がガタガタと揺れていた。
『ワッシの最高傑作のアンデッフードをたらふくご馳走するイカ!』
大将イカの呼び掛けに反応するように寿司桶の中から大漁の食材が間欠泉のように噴き出す。筋肉や骨や翼は魚肉が構成し、カニやエビなどの甲殻類の甲羅やハサミは鱗や爪や牙など硬質な部分を形成していく。
「いでよ、『シーフードラゴン』!」
『…!グオオオオ!!』
「「「ドラゴン…!?」」」
そのアンデッフードは名前の通り、魚や甲殻類などあらゆる海鮮や魚介類で肉体を構成されており、その姿はまるっきり翼のある六本脚のドラゴンのようだった。
「まさか食べ物でこんなのを生み出すとはね…」
「アンデッドでなければ、時と場合が違えば優勝は狙えるね」
食べ物をアンデッドにすること自体は相変わらず悪趣味ではあったが、強大で力強さを象徴するドラゴンを模して動かしたとなれば一周回って芸術的でもあった。
『ガオオオ!』
「あれはロブスパンツァーの水流弾だよ!」
ドラゴンと言えば口から火を吹くが、シーフードラゴンはロブスパンツァーを取り込んでいるためか水流弾を発射して辺りを抉る。
『ギエエエエ!』
「今度はウニボンのトゲか!」
甲羅の隙間からウニボンと同じく四方八方にトゲを飛ばしてくる。
「幾ら何でも大き過ぎてボクの樹液だけじゃ全身を固められないよ!」
ルアーネは他のアンデッフードと同じく樹液で固めようとするが、大き過ぎて全身を包めない上に部分的に固めても力づくで粉砕されてしまう。
「おまけに…爆炎魔法『ボム』!」
爆弾を投げ呪文を唱えて爆破するが、それによって削られた部分は真っ先に元通りになってしまう。
「調理されていないのにも関わらず、すぐに再生してしまう。これまでのアンデッフードとは一線を画しているようじゃな」
「弱点がないってことかよ」
これまでのアンデッフードは調理されて復活しており、それを防ぐために樹液で固めていたが、このシーフードラゴンはそれらの弱点を取り除いておりこれまで通りとはいかないようだ。
「いや、方法ならある。アメジスちゃん、ボクに力を貸して」
「何をするの?」
しかし手立てが無い訳でもないらしく、ルアーネはアメジスに声を掛けてある段取りをする。
『ギエエエエ!』
「よく分からないけど、僕達は二人の時間を稼ぐんだ!」
攻略法は二人に任せてメイナスは時間稼ぎをするために薬液をスリンガーで撃ち込み、ステラは回し蹴りを食らわせ、ニナもレイラも武器を使って接近戦を仕掛け、ユウキュウとミエナは爆弾と光魔法で撹乱する。
「じゃあ、ボクの合図でやってね!」
そう言うとルアーネは賢者の書の力を使い、腕を植物の蔓に変形させて鞭のように振り回してシーフードラゴンを叩く。
「こっちだよ!この醜いオオトカゲ!」
突然のことでメイナス達もシーフードラゴンも驚くも、ルアーネの挑発に真っ先に動いたのは叩かれたシーフードラゴンだった。幾ら何度でも復活するとは言え、鞭による鋭い痛みは気に食わなかったらしくルアーネに襲い掛かろうと飛び立つ。
「よし、土魔法『ストーン』!」
『ギャアア!?』
それを見たルアーネは岩を空中に作り出しシーフードラゴン目掛けて落とし床に墜落させる。
「今だよ、アメジスちゃん!土魔法『ホール』!」
「うん…!水魔法『ウォーター』・ウェーブ!」
準備して待っていたアメジスと合流したルアーネは互いに手を繋ぎ、土魔法と水魔法を同時に発動させる。
「「複合魔法!『奈落の沼』!!」」
二つの魔法が組み合わさり、墜落したシーフードラゴンの足下に大きな穴が開いて更に落下し、しかもその中に水が流れ込んで泥沼を作り出す。
『グオオオオ!?ギエエエエ!?』
「シーフードラゴンさんが沼に嵌っています!」
シーフードラゴンは羽ばたいたり泳ごうとするも穴の中の水は土で泥沼化して粘り気が出ており、まるで底なし沼状態になっていて藻掻いても外に出られそうになく寧ろどんどん沼の中に沈んでいくのだった。
「なるほど、土と水の複合魔法で底なし沼を作ったのか。考えたね」
「複合魔法?」
「複合技って言うべきかな。二つ以上の魔法やスキルを組み合わせることでより強力な効果を生む技があるんだよ」
幾つかの魔法やスキルには同時使用すると強力な相乗効果を得られる技が存在する。これは発動する際には幾つかの条件が必要であり、
一、基本的には二人以上で魔法やスキルを使用する(ただし、一人で二つを同時使用も可能だが訓練が必須)
二、発動する際は使用するマナミナの使用量が同じでなければならない。場合によっては互いに効果を打ち消したり暴発する場合もある
三、二人以上で行う場合は何かしらの形で接触している必要がある
四、発動した後はその魔法やスキルは反動で暫く使えなくなる
「まあ、場合によっては片方が魔法、もう片方がスキルを使用する場合もあるけどね」
「しかしそれをルアーネとアメジスがやるとは思わなかったのう」
これまで複合技なんて滅多に見られなかったが、まさか手強いシーフードラゴンを沈めるために使うとは思いもよらなかった。
「さあ、仕上げだよ!それ!」
「氷魔法『アイス』・ウェーブ!」
頭のてっぺんまで沈んだのを確認するとルアーネは何かを沼にばら撒き、アメジスはダメ出しで氷魔法で沼の水面をカチコチに凍らせて閉じ込める。
「今、何を入れたんだい?」
「それは後のお楽しみ!取り敢えずはこれで大丈夫なはずだよ」
「残すはそこのイカだけか!」
シーフードラゴンを無力化し、後はイタマエンペラを倒すだけだった。
『もうイカった!こうなれば纏めて三枚おろしにしてやるイカ!てめぇら!』
『『『イカ、承知!』』』
取って置きのシーフードラゴンが敢え無く敗北したことに大将イカはもはや数に物を言わせるかのように他のイタマエンペラ達を呼びつけ包丁を身構える。
『『『やっちまえー!』』』
「ここは私に任せて!」
迫りくるイタマエンペラ達の前にミエナが全員を代表するように飛び出す。
「さあ、どっからでも来なさい!あんた達なんか私のことを三枚どころか皮一枚すら剥げないわよ!」
と言いつつも自らアーマービキニを剥いで再びファントムハートを使用するミエナ。
『『『ほざけ!刺身になりやがれ!?』』』
触手を縦横無尽に振り回して包丁を振り下ろすもファントムハートで霊体化したミエナの身体には傷一つ付かなかった。
「よっ!はっ!ほっ!ここをこうして…こう!」
その間にミエナはイタマエンペラ達の触手を掴んでは四方八方に引っ張ったり結んだりする。
「ふぅ…お刺身はまだかな?」
『お…おいおい!そこのお嬢ちゃん!?』
『解いてくれ!?その後はもう手出ししないから!?』
ミエナはアーマービキニを着用してお茶を飲みながらのんびりと座り込んでいた。その傍らには触手が互いに絡まったイタマエンペラ達が団子状態で転がされていて困り果てていた。
「触手は切られても再生するだろうけど、こうなったら関係ないし身動きも取れないだろうね」
「触手ってあっても必ずしも良いことばかりじゃないんだな」
ファントムハートを使用したミエナからすれば、イタマエンペラの触手攻撃は当たらないし、その間に敵の攻撃手段である触手を逆手に取ることが出来たため相性がかなり良かった。
「やっぱりこのダンジョンには何者かが関与しているね。このモンスター達に知性を与えたのが良い証拠だよ」
一安心するもののメイナスはこのダンジョンで起きている異変、と言うよりもこのイタマエンペラ達の存在が人為的な物であることに怪訝な顔を浮かべていた。
「さっきの大将イカが『あるお方』って言ってたけど、やっぱりあの帝国の仕業か?でも、ここにはあたしら以外の人間の気配や痕跡はなかったぞ」
「それにここは元々人魚さんの住処ですよ。なのにどうやってそんなことを…」
考えられるのはあのきな臭いドラグングニル帝国が関係しているのだろうが、ここには帝国の人間はもちろん先住民である人魚族の気配がないのにどうやったのかは謎だった。
「それは簡単に想像出来るよ。きっと以前にも帝国はここへ来て何かやって、その後でここを引き払ったんだと思うんだ。きっと以前に起きた異常気象も関係しているだろうね」
「つまり異常気象が起きたから引き払ったか…或いは異常気象は何かの結果か…それが問題なんじゃな?」
気配や痕跡がないのは単純に引き払っただけなのだろうが、その理由が以前このダンジョンで起きていた異常気象も関係してるのならばとある懸念があった。
「どう言うこと?異常気象が関係してるって…」
「前者ならば止むを得ない理由で立ち退いたじゃろうが、もし後者の帝国が何らかの形で異常気象を発生させたのなら…今こうやって異常気象が起きているのも再び帝国がこのダンジョンに来て、きな臭いことをしていると言うことじゃ」
確かにこのダンジョンで帝国が異常気象を発生させたことでモンスターが荒ぶり、人魚族もこの地を去ったとすれば色々と辻褄が合う。
寧ろ異常気象とは環境の急激な変化によって起こされるのだが、このダンジョンがあるマリナル王国は海を綺麗にしたりするなど環境に配慮しているため異常気象が起こるとは到底思えないのだ。
そのため今回の異常気象も帝国がこのダンジョンに戻って来て、二十年前と同じことをしたとすれば…
「だから今回の異常気象もドラグングニル帝国が噛んでる可能性が高い」
「…しかしその証拠を掴んだとして解決に導けるのかのう?」
「完全に国際問題だからね。事態が悪化するかも」
既に異常気象やそれによってモンスターが荒ぶり、マリナル王国やミスティーユのような近隣の国々、更にはここを去った人魚族にも直接的な被害が出ているため国際間や種族間で摩擦は既に生じている。
自然現象やモンスターのことだったらまだ多少折り合いはつけられるが、人間が人為的に起こしたとなれば責任問題が出てくる。ましてや自分達の国や住処であるダンジョンに勝手に入り込んで、異常気象を起こせば誰だって気に食わないと思うだろう。
何をしたかは分からないが何らかの要因でドラグングニル帝国が異常気象に関与している証拠を見つけたとして、それを報告した場合は国々で衝突するのが目に見えている。
「…とは言え、このまま帝国の好きにさせる訳にはいかない。遅かれ早かれきっとこうなることになっただろうからね」
だが、メイナスは覚悟を決めた様子で報告することを決意していた。躊躇いがない訳では無いが、もしもこのまま放って置いて取り返しがつかないことになればきっと後悔すると考えていた。
「それとあのアンデッフードを見て思ったんだけど、これってアンデッドを作るための実験だったとしたら…」
「まさかフェニックスの力に近付くために?」
更に異常気象とは別に食材をアンデッドにするのはフェニックスの持つ不死身の力を人為的に手に入れるための実験だったとすればいよいよ持って看過は出来なくなってきた。
「…色々あるが前へ進むことに変わらん。リュクウとスザクも何処にいるか分からんしの」
「そのカウンターの奥に扉があります。この先からとてつもない気配を感じます…!」
今はユウキュウの言う通り前へ進む必要があるが、進むべき道はニナが警戒する扉しかなかった。だが、もはや今更だと言わんばかりに一同は扉を開けて先へと進む。




