舞台は更なる深淵へ
「う…ん…ここは…?」
暫く意識を手放していたスザクは息苦しさに目を覚ますが、目を開けても辺りはどうも薄暗かった。
「狭い…息苦しい…それに何か生温かい…何だここ?」
ボンヤリする意識の中で自分が密閉空間に包まれていて、それでいて周囲は生温かく柔らかい肉壁になっておりヌルヌルの粘液に塗れていると認識出来た。しかもドクンドクンと心臓のように躍動しており例えるなら生き物の内臓のようだった。
「あたし、どうしてここに…それに…うっ!?」
身動きも取れないスザクは粘液まみれの長く太い触手が足に巻き付きながら身体を這い上がってくることに身体をビクッとさせる。
「くうっ…身体に纏わりついて…」
スザクは身体の自由が利かないのに対し、謎の触手は正しく身体を舐め回すように這い回り白濁色の液体を擦り込んでくる。
「はうあっ…♡でも…息苦しくて…くすぐったくて…♡」
触手は這い回ると同時に枝分かれし、足や手の指の間や髪の毛の一本一本と言った細かい所に入り込みくすぐったさを与えてくる。
「くうっ…♡全身を包み込んで…熱くて…溶けちゃいそう…♡」
狙い澄ましたように柔らかな胸の間や下半身のお尻や股などの際どくデリケートな所を触手が我が物顔で這い回る。
「くぅん…♡気持ち良くてぇ…息が出来ない♡前も見えない…♡何も聞こえない…♡」
更には呼吸するために必要な口や鼻、目や耳と言った見たり聞いたりする重要な器官なども余すことなく這い回り、次第にその機能が失われていくことにスザクの身体は生命の危機による苦痛が快感に変わりビクンビクンと反応する。
「あたし…頭…おかしくなっちゃいそう…♡」
触手はスザクの骨の髄から身体の隅々までを堪能すると同時に白濁色に染め上げていき、スザク本人は密閉空間と相まって触手と粘液の息もつかせぬ責めの快感に溺れていくのだった。
「あれぇ…♡苦しくて…身体がどんどん動かなくなってぇ…♡」
そして快感に溺れていくスザクの身体は自由が利かないどころか、細胞の一つ一つが石のように固まっていくのを感じる。
「……♡」
暗い密閉空間で不快な感触に包まれ、その上で身体が石のようになる感覚は恐怖を覚えるだろうが、スザクの場合は未知の感覚からなる快感に恐怖し、やがて彼女は快感からなる笑顔のまま全身が固まってしまうのだった。
「スザクちゃんやレイラ姉さん達は何処かな?」
「さすがは海底のダンジョンだね。奥が深くて複雑怪奇だね」
スザクがそんなことになっているとは知らず、と言うよりもそうなる前に動いていたアメジス達だったが、自分達が今何処を泳いでいるか分からず、結局まだ合流していない三人を探しながら泳いでいた。
「あの三人は見つからんが…部屋を移動する度にモンスターはわんさか見つかるのう」
「この部屋はカミナリオコゼだったからね」
今いる部屋にはイナズマのようなヒレを持つオコゼのようなモンスターがプカプカ浮いており、よく見るとユウキュウ達も先程まで戦闘していたのかボロボロだった。
「ねぇ、さっきからモンスターが出てくるのは私達が部屋に到着してすぐな気がするんだけど」
「確かに私達の時も示し合わせたように出てきたような…」
思えば先程から出現しているカンデンチンアナゴやロブスパンツァーなどは部屋を訪れた直後に、タイミング良く姿を現しているようにも思えた。
「よほど好戦的か空腹だと察知能力が高くなるんだ。ちょうど獣人のアクティブスキル『野生の勘』みたいにね。ただ今回はダンジョン自体に異変が起きているから、総じて殺気立っているのかもね」
それと言うのも自分達がここへ来ることとなったコバルトラビリンスでの異変が、ダンジョン内のモンスターを出現させやすくしているのだろうとメイナスは結論づける。
そうこうしてる間に別の部屋に辿り着くのだが、やはりここでも待ち望んだようにモンスターが現れ、槍のように鋭く尖った鼻先を突き刺しに来る。
『『クアアア!』』
「あれはAランクモンスターのカジキラス!水中の中ではトップクラスのスピードを誇るんだ!」
正体はノコギリ状になった鼻先とヒレを持つカジキのようなモンスターだった。しかもロブスパンツァーと同じくAランクのモンスターらしく、泳ぐスピードと相まって厄介そうな相手だった。
『クアアア!』
「にゃわぁ!?アーマービキニが…!?」
弾丸を上回る速度で泳いでくるカジキラスの突進を避けるニナだが、ノコギリ状のヒレが掠めて彼女のアーマービキニを一部切り裂き腹部とヘソが露わになる。
「止めて」
『クアアア!』
リュクウはカジキラスに呼び掛けるも応じてくれず暴れるように泳ぎ回る。
「説得にも応じんか。爆炎魔法『ボム』!」
爆弾を投げて爆破するもカジキラスは悠々と泳いで回避してしまう。
「水中では上手く爆弾を扱えない上に、あのスピードでは掠りもせん。お手上げじゃ」
「なら動きを止めないと。アメジス、僕の合図で氷魔法を」
まずはあのスピードを何とかしないと勝ち目はないと考え、メイナスはアメジスにそう指示を出す。
「今だよ!」
「氷魔法『アイス』・ウォール!」
カジキラスが突進してくるのを見たメイナスが指示し、それに合わせてアメジスは氷の魔法を使って目の前の水を凍らせて氷の壁が出現させる。急には止まれないためにカジキラスは氷の壁に衝突してしまいダメージを負うも壁にヒビを入れるのだった。
「相手が素早い以上は動きを制限しないと勝ち目はないね」
「でも単なる時間稼ぎでしかないわよ。それにこれじゃあ私達も先に進めないわよ」
カジキラス達は氷の壁を壊そうと何度も突進を繰り返しており、いずれは壊されて突破されてしまうだろう。対する自分達はミエナの言う通り、このままでは動けないし防戦一方でジリ貧になってしまう。
「ミエナ、君のゴッドプレシャスなら壁をすり抜けられるし、カジキラスの攻撃はどうってことない。その上で一方的に攻撃出来るんじゃないのかい?」
「私のゴッドプレシャス、使うと装備を一度全部外すんだけど…その…裸になるからそんなに見ないでね…?」
姿が見えなくなるとは言え、ミエナ本人からすれば裸を見られるも同然であるため顔を赤くしてモジモジしていた。
「ごめん…」
メイナスは気が利かなかったと視線を逸らし、アメジス達も気を利かせて目を逸らすのだった。カジキラスが氷の壁にぶつかる音に混じって衣擦れ音が聞こえてくる。
「透明になったよ。でも氷の壁をすり抜けても、装備はすり抜けられないし、素手じゃどうにもならないよ?」
しかしミエナはゴッドプレシャスで霊体化している間は何かを装備するまで効果は持続し続ける。或いは何かを持ったりした場合はその部分が実体化する。
それだけなら何の問題もないように思えるが、目の前には氷の壁があるためミエナ本人は通り抜けられても、武器などはすり抜けられないため、見えないが見たまんま丸腰でカジキラスと戦わなければならないことになる。
「戦う必要はないよ。カジキラスは光に反応する習性があるんだ。だから光魔法で誘導するんだ」
「なるほど、それなら!」
しかしそこは頭の回転が早いメイナスが打開策を考慮してくれた。それを聞いたミエナは早速壁をすり抜けて行くのだった。
「光魔法『ライト』!」
『『クアアア!』』
すり抜けたミエナは魔法で光を放つとカジキラス達はメイナスの予測通り、反応してそちらに向かって突進を始める。
「ひょえ〜…あの突進を受けたらヤバいよ…」
霊体化しているためカジキラスの突進はすり抜けるためにノーダメージなのだが、ミエナ本人からすれば巨大な魚モンスターの突進を目の当たりにしているため見ていてヒヤヒヤしていた。
「わぶっ!?何これ!?」
すると真っ黒な墨のような物がミエナに吹きかけられ目眩ましを受けてしまう。
『ニュ〜!』
「タコ…?」
墨が晴れると嫌らしい笑みを浮かべるタコだったのだ。ふと、ミエナは身体に異変が起きていることに気が付く。
「ふぇっ!?な…何で身体が実体化してるの!?」
なんと何かを持った訳でも、装備した訳でもないのにミエナの身体は実体化していたのだ。
「って言うかこの墨!これで私の身体が汚れて姿が…!?」
どうやらタコの墨が撒き散らされた際にミエナの身体を染め上げ、ゴッドプレシャスの効果を打ち消してしまったようだ。
「ミエナ!危ない!」
「ひゃっ!?ちょっと…私何も着てないのに…!?」
何も着てないのに効果が打ち消しとなると、ミエナは生まれたままの姿が曝け出されてしまい、彼女はそのこととメイナスの視線に気が付いて身体を隠そうとする。
「そうではない!丸見えなのもじゃが来ておるぞ!」
『『クアアア!』』
効果が打ち消されたこともだが、墨を浴びたことで着色されてカジキラスにも丸見えだった。
「ヤバい…かはっ!?息が…いけない、アーマービキニを脱いだから…!?」
「どうしたですかミエナちゃん!」
実体化したと言うことは霊体化してする必要のなかった呼吸をするようにるのだが、ここは海中でしかもアーマービキニも脱いでしまっているためミエナは息が出来ずに苦しそうにする。
「ミエナちゃんが危ないよ!」
「ミエナは身体が汚れたり、染められるとゴッドプレシャスの効果がなくなるのか…とにかく氷を壊さないと!」
身を守るために作り出した氷の壁が皮肉にも仲間の危機の救助を隔ててしまい何とかして壁を壊そうとする。
『『クアアア!?』』
「何じゃ?急に静かになったぞ…」
急いで氷の壁を壊そうとしていたが、荒々しいカジキラスの立てていた水を掻き回す音が聞こえなくなる。
「まさかミエナちゃんが…!」
「いや、それにしては静か過ぎる」
ミエナがヤラれたのではとニナは青ざめていたが、荒カジキラスの音や声まで聞こえなくなったことに違和感を覚える。
その直後に突如として氷の壁が割れたためにメイナス達は驚いて警戒していると、奥から誰か泳いで来るのだ。
「やあ、皆無事かい?」
「助けに来たぜ!」
「ルアーネちゃん!レイラ姉さんも!」
泳いできたのは探していたはずのルアーネとレイラだったのだ。奥ではカジキラスがお腹を上に向ける形で漂っていた。
「良かったです」
「無事じゃったか…ミエナはどうした?」
「そうだった!ミエナは!?
思いがけず二人が無事であったことを喜んだが、カジキラスを引きつけていたはずのミエナの安否を気に掛けていると誰かが肩を貸して泳いでくる。
「うん…あれ、私は?」
「あ、目を覚ましましたよ」
薄れていた意識から一気に浮上するように目を覚ましたミエナはゆっくりと目を開けると、心配そうに見ていたニナと目が合い、彼女は一転して満面の笑みを浮かべてメイナス達に報せていた。
「私は…そうだ!カジキラスは…うっ…」
「急に動いたらダメだよ。さっきまで水を大量に飲んで意識を失ってたんだから」
思い出したように起き上がるがミエナは頭がクラクラしておりメイナスが彼女を介抱していた。
「カジキラスはボク達が倒したよ」
「その後でアーマービキニを着せて、メイナスが診てくれたんだ」
「ルアーネちゃん!レイラさんも!無事だったんだね!助けてくれてありがとう!」
意識を手放していたためにミエナもルアーネとレイラが無事であることを遅れて気が付き助けてくれた礼を言うのだった。
「礼ならあの子に言ってあげなよ。助けられたのも彼女のお陰だよ」
「……」
「あなたは確か…ステラちゃん?だったよね?」
ルアーネは遠くからこちらを見ている白いフードを被った無口な少女を指差した。その少女はアンロスの街の騒動が終局した際に教員達を呼んでくれたステラだった。
「ありがとう!」
「……」
意外な人物が助けてくれたもののミエナはお礼をしっかり言うものの、ステラはそっぽ向いてフードを深く被ってしまう。
「何じゃあの態度は。何故あいつがここに?それにお主らは今の今まで何処にいて何してたんじゃ?」
ステラの態度にユウキュウは気分を悪くするが、それよりも気になったのがレイラとルアーネがこれまで何をしていたのか、どうやってステラと出会ったのかと経緯が色々と気になってしょうがなかった。
「あ、その…ねぇ?」
「変な触手のモンスターに捕まって…変なことされたんだよ」
「ええっ、大丈夫だったんですか?」
最初は歯切れが悪そうにしていたが、触手のあるモンスターに襲われたと聞き卑猥な目に遭わされたのではと心配になる。
「不思議とスゴく気持ち良かった…と言うよりもマッサージされてる感じだったから…」
「マッサージ?エッチなこととかじゃなくて?」
「お陰で何だか身体の調子が最初の時よりも良くてね、お陰でAランクのカジキラスでも余裕で倒せたんだ」
「あたしもなんだよ。新しいスキルや魔法も獲得しやすくなって、Aランクモンスターでも割と平気で倒せたんだ。なあ、変なことだろ?」
モンスターの多くは人間に何かしらの危害を加えてくるが、話からするにパワーアップの切っ掛けを与えてくれたようだが、そんなことをするモンスターが本当にいるのかどうか分からなかった。
「多分それってアネモネーションじゃないかな。あれは確かに触手が多くて人によっては気持ち悪いって思うけど、マナミナを吸収しやすくするためにマナミナの巡りを良くさせたり、整体をしてくれるモンスターなんだ」
二人を襲ったイソギンチャクモンスターのアネモネーションは確かにマナミナを吸収するために人を捕らえるが、何も人を殺すようなことはなく寧ろ整体やマナミナの巡りを良くさせて以前よりも身体の調子を良くしてくれるため害悪な存在ではないようだ。
「へぇ〜、それなら返って良かったな」
「ボクもあんなにいっぱいの触手でめちゃくちゃにされて…気持ち良かったなぁ…♡」
結果オーライで身体の調子が良くなり満足するレイラと、癖になったのかうっとりした様子で扇情的に身体をクネクネさせるルアーネ。
「じゃあ、ステラちゃんとは?」
「ボクらは気が付いたらその辺を漂ってて、そしたらステラが起こしてくれたんだ」
「んで、こいつはお前らの場所が分かるってんでそのまま案内して貰ったら、ミエナがスッポンポンで溺れてたってこと」
「思い出させないでよ」
助けてくれたステラとは何処であったのかと訊ねるが、経緯としては偶然鉢合わせたような形であり大した内容ではなく、寧ろ助けてくれたとは言え自分の恥ずかしい所を見られてしまったことに恥ずかしくなるミエナ。
「けど、何があったの?ミエナちゃんのゴッドプレシャスはすり抜ける力があるのに…」
「この『ヌリエトパス』のせいだね。相手に『着色』のスキルで墨を吹き付けて嫌がらせをするモンスターなんだ。ミエナちゃんのゴッドプレシャスとは相性が悪かったんだろうね」
ルアーネの手にはすっかりクタッとした先程のタコが握られており、ミエナの姿が露見した理由を既に突き止めていた。
「これで見つかってないのはスザクだけだね」
「あいつなら大抵のことは大丈夫だろうよ。それよりもこのダンジョンの異変は何か分かっているのか?」
あのスザクならば何があっても笑顔で、と言うよりも嬉々として自ら飛び込んで乗り越えるためなんてことないが、メイナス達の表情から何か良からぬことが起きていることだけは確かだと読み取った。
「…人間を真珠に変えるモンスターだって?しかもそれが冒険者の行方不明に関与している?」
事情を聞いたルアーネとレイラはにわかに信じられなかった。と言うのも人間を真珠に変えるだなんて聞いたことないし到底信じられなかったが、もしも本当だったらと思うとメイナスと同じく顔が青ざめる。
「仮にその像が冒険者だったとして…それって死んだのか?」
「分からない。状態異常にもこんなのは聞いたことがないよ」
ある程度の状態異常ならば薬やヘルスの魔法などで治療出来るが、メイナスも知らないらしくどうしようもならないらしい。
「手っ取り早いのはモンスターが何なのか分かれば…いや、そもそも僕の知っているモンスターかどうかも分からない」
毒を中和する血清を作るのにも、その毒を元に作る必要があるように、人を真珠化させる特殊な状態異常を完治するのなら元凶のモンスターを見つけて調べる必要があるがすぐさま難しい顔をするメイナス。
「新種のモンスターか…或いは人工的に造られたモンスターか」
「人工的…つまり人の手で生み出されたモンスターってこと?」
メイナスでも知らない状態異常を使うモンスター。考えられるのは全くの新種か、そもそも自然に存在しない可能性だってある。
「あまり考えたくないけど、もしかするとあのきな臭い帝国が関与していたりして」
「ドラグングニル帝国…」
以前のデザードライキャニオンでもスザク達が囚われてしまい、一時はどうなるかと思われたがアメジスとスザクのお陰で何とか脱したばかりだと言うのに、もしかするとこんな海底のダンジョンにまで帝国の手が及んでいるのではと不穏な空気が立ち込める。
「まさかまたスザクを狙ってあいつだけ引き離したとかじゃないよな!」
「まだ憶測だよ。考え過ぎだよ」
帝国はスザクのフェニックスの力を狙っていた。こうやって彼女だけいないのは帝国の策略なのではと考えるもまだ断言は出来ない。
「とにかく急いでスザクとも合流しよう」
「でも何処へ行くんですか?」
結局は目的地がハッキリしないと言う問題に行き着くため、これにはメイナスもどうしたものかと悩んでしまう。
「……こっち」
「え?分かるの?」
「何だかザワザワしてムズムズする」
ふと静かだったリュクウは何かを感じ取ったのか床に向かって泳ぎ出し、そして水中で腹這いになるように身体を床に押し付ける。
「この下」
「その下に何かあるのか?」
暫く泳ぎながら床を探っていたリュクウは一点を指差し、ユウキュウが首を傾げながら爆弾を放り投げて魔法で爆破する。
「ぬおっ!何じゃ!?」
「吸い込まれます!」
床が壊れた直後に部屋の海水が開けられた穴に向かって流れていき、強い吸引力を生み出してユウキュウ達を吸い込もうとしてくる。
「あっ!部屋の扉が閉まって…!?」
「うわっ!今度は渦潮が…!?」
「ひゃあああ!?目が回る〜!?吸い込まれる〜!?」
部屋を壊したことで海流が変化し、その影響で部屋の仕切りが降りて密閉状態になったことで部屋の中で渦潮が発生してしまう。アメジス達は洗濯機に放り込まれたかのように掻き回され、そのまま穴の中に水流と共に吸い込まれてしまう。
「ん…?ここは…」
「メイナス兄さん…何がどうなってるの?」
水流と渦潮に翻弄され続けてどれくらい経ったたまろうか、ふと目を覚ますと自分達はまた何処かの部屋に辿り着いていた。
「ここは…海中じゃない、陸地だ!」
気が付くと自分達は水の中ではなく砂浜のある陸の上にいたのだ。
「どうなってるの?いつの間に地上に出たの?」
「ううん、ここはまだ海の中だよ」
最初は海流に乗って地上に出たかと思えば、リュクウはまだ海の中であると告げてくる。
「そうですね、ここは海水の匂いが強くしますからまだ海中のようですね」
「何だって?まさか海底のダンジョンの中には地上と変わらない場所が存在するのか?」
よくよく見てみると確かに自分達は砂浜にいるが周囲はサンゴやフジツボが点々とする洞窟のようで、落ちてくる水滴も海水らしく、耳を澄ますと壁からは海流の音もしてくる。
「ふぅむ…変わったこともあるんだね」
「変わっていると言えば…あれは一体何じゃ?」
海の中にまるで地上に似た場所があることに目を丸くしていると、ユウキュウはそれ以上に気になる変わった物を見つけていた。
「あれって城か?」
見つけたのは石造りの白い城で所々に色鮮やかなサンゴがあしらわれていて竜宮城のようだった。
「そのようだね。もしかしてここが人魚の住処なのかな」
「だからリュクウちゃんが分かったのかな」
こんな海底に城のような人工物を作れるのは人魚族以外はあり得ない。つまりこここそがリュクウの帰るべき場所で、彼女はそれを察知して床を指したのではと考える。
「ここも人の気配がないけど…あ、リュクウちゃん!」
ガランと静かな城の気配にルアーネは警戒していたがリュクウは構わず先に行ってしまう。
「僕達も追いかけよう!ひょっとしたらスザクもあの中にいるかも」
「そうだと良いけど」
帰郷出来る嬉しさに焦るのは分かるが、これ以上はバラバラになる訳にもいかないため一同も続いて入っていく。
「妙じゃのう、ダンジョンはほとんど手付かずでボロボロなのにこの城の中は意外と綺麗じゃのう」
「やっぱり何かあるね。ボクとしては人魚族の人が残っていてくれると嬉しいんだけどね」
城の中は外と比べると手入れや清掃などが行き届いているのか妙に小綺麗だった。まるで誰かが管理しているようで、ルアーネはせめて友好的な相手であって欲しいと考える。
「ルアーネには悪いけどそれは楽観的過ぎだ。こう言うのは大抵ヤバい奴が…あ?」
そんなのは甘過ぎるとレイラがダメ出しし、リュクウが通ったであろう半開きになっていたより一層重そうな扉を潜るのだが、目の前に広がる光景にレイラはもちろんその場にいた全員が硬直した。
「な…何でこんな海底のダンジョンに…食堂が?」
メイナスが呆然としている理由を代表して口にする。訳が分からないかもしれないが、扉を潜った先には和食料理を提供するような木造建築の食堂が広がっていて、客が来るのを待ち望んでいるかのような雰囲気だった。
「これは一体どうなってるのでしょうか?」
「人魚族の食堂かな?」
「でも、調理の準備がなされているようじゃな」
訳が分からなかったが鍋には火がかけられ、包丁などもよく研がれていて、調味料もたくさん並んでいて、誰かかまいつでも調理が出来るようにしていたかのようだった。
「あれ、リュクウちゃんは?」
『『『イカっしゃい!』』』
先に向かったはずのリュクウがいないことに辺りをキョロキョロしていると、威勢の良い声がカウンターの方から響いてパッと姿を現すがどうにも人間とも人魚とも思えない姿をしていた。
『イカした俺達は!』
『イタマエンペラ・ブラザーズ!』
『イカしたおもてなし!イッカりするぜ!』
「イカが喋った!?」
なんと正体は鉢巻を締めた人間サイズのイカがまるで人間のように触手で立って人語を話していたことだ。
「イタマエンペラが動き出したわね。また誰か来たのかしら」
別の部屋では瓶底メガネと白衣が特徴的なボブカットの女性が異変に気が付くも視線を前に移す。
「まあ、良いわ。これでようやく無生物の錬金術を駆使した最強のアンデッドが作り出せるわ」
目の前には長い身体をくねらせた大きな骨があるのだが、死んでいるはずなのに蛇とは思えない厳つく強大な気配を放っていて常人だと圧倒されてしまいそうだった。
「あなたにはそのアンデッドを操って貰うわ」
「……」
その女性の背後には武骨な鎧で全身を覆い、素性は分からないがフサフサの長い猿の尻尾を腰から生やしており猿の獣人であることは間違いなかった。




