水底に眠る秘密は背筋も凍る
「この砂浜から沖合がコバルトラビリンスだよ」
「何だか異様に静かだな」
アーマービキニを装着することに慣れた一同はガランと静まり返った誰もいない砂浜にいた。まるでこの海で起きている異変を目の当たりにしているかのようだった。
「なあ、そのコバルトラビリンスって海の中だよな?どうやってそこまで行くんだ?」
「まさかここから海の中を泳いで行くの?」
目的地は海の中にあるのにどうやって行くのかとスザクが話を切り出し、一同はそこまで泳いで行くのかと訊ねる。
「アーマービキニは水の中でも呼吸や会話が出来るように魔法が付与されてるの。だから水の中に入ること事態は問題ないけど、それだけ充実した装備となるとどうしてもこんな布面積になっちゃうのよ」
装備する前にも説明は聞いていたがアーマービキニは下着姿のように見えて、水中での活動や見た目に反しての防御力など性能はピカイチである。そのためここから泳いで行くのは何ら問題ではないのだ。
「じゃあ、やっぱり泳ぎなのか?」
「水中で息が出来るとは言え、泳ぎだろうが海底を歩こうが遠いのは変わらんのう」
とは言え沖合いまで行くとなるとそれこそ遠泳と何ら変わらないため、かなり大変な長距離移動になるだろう。
「行けないこともないけど、距離があって大変だから途中までは送迎の船が出ているはずなんだけど…」
陸路だって移動手段が歩きだけでないように海での移動手段は泳ぐだけが全てではない。
ましてや海底ダンジョンは何もコバルトラビリンスだけではない、海の中にも幾つかのダンジョンが存在し、移動するための手段として船があるはずだとメイナスを辺りを見回していた。
「ここの海は綺麗で観光地としても有名なんだけど…やけに静かだと思ったら船どころか出店や人の姿すらないわ。やっぱりモンスターと異常気象のせいかしら」
ミエナはマリナル王国の観光スポットを記したガイドブックを手にしながら呟く。
やはりこの海浜もモンスターの活性化や異常気象の被害によって観光客が近寄らず、それに伴って出店なども引き揚げたことで活気がなくなり、この異様な静けさを作り出していたのだ。
「じゃあやっぱり泳ぎか?」
「せめて手漕ぎボートぐらいは…」
「どっちにしても長い道のりになりそうだな」
海のレジャーには釣りやダイビングと言った沖合を中心にした物もあるため、移動するためには船などを使うのだが、前述の通り活気がなくなったことで船を提供してくれる店は見当たらなかった。
となれば海底ダンジョンに行くには自分達で何とかしなければいけないのだが、それではどれだけの時間が掛かるか分かったものではない。
「…海の中を何かで移動出来れば良いの?」
「そりゃあ、平たい話はそうだけども」
突然リュクウからそんな質問を投げ掛けられるも、移動する手段が他にないため、結局のところ自力で何とかするしかないのだが…
「待ってて」
「え、リュクウちゃん?」
ニナが止める前にリュクウは海の中に入ってしまう。人魚族だから海の中にいち早く入りたいのは分かるが、待ってて欲しいとはどう言うことなのかと首を傾げる。
『キューイ!』
「わっ!何だ!?」
すると暫くした後で水しぶきを上げながら海中からヒレが鳥の翼のようになったイルカ達が飛び出してくる。
「Cランクモンスターのウィングルフィンだ!」
「わあっ!私、ウィングルフィン大好きなの!」
ウィングルフィン達は水面から顔を出して鳴き声を発しており、それを見たアメジスはまるでサンタクロースでも見たかのように興奮していた。
「けど、沖合にいるはずウィングルフィンがどうしてここに…?」
「この子達がダンジョンに案内してくれるの」
ルアーネが不思議がっている側でリュクウがウィングルフィンと共に水面から顔を出して話しかけてくる。
「リュクウちゃん!まさかリュクウちゃんがこのウィングルフィンさん達を呼んだんですか?」
「うん。お話して呼んだの」
「なるほど、人魚族だからこれくらいはお手の物ってことだね」
メンバーの中でリュクウはとても幼いが、移動手段としてウィングルフィンと意思疎通をして連れて来るなんて、海に置いては自分達よりもずっと玄人と言うことだろう。
「はわわわ…!?」
「ほら、少しずつ慣れていこうね」
移動手段は確保出来たがニナに取ってはここからが正念場だった。と言うのも猫の獣人であるためか、水は苦手らしくルアーネに手を引いて貰いながらゆっくりと爪先から浸けていく。
「スザクちゃんは大丈夫?」
そんなニナを見ながらアメジスは火の鳥ことフェニックスでもあるスザクのことが気になり視線を移す。
「んん〜…♡風呂とは全然違うけど…体温奪ってくるこのヒンヤリした感覚に包まれる感覚…癖になりそう…♡」
「うわ…水に入るのをそこまでエロく言える奴なんて初めてだぞ」
辛いとか苦しそうとかではないが、ただ水に入るだけなのに何処か背徳的な台詞を漏らすスザク。しかし彼女の場合は苦痛は望むところなため、どっちにしても同じ結果になっただろう。
「さて、ウィングルフィンの力を借りてコバルトラビリンスに向かうよ」
「ほら、爪を立てないようにね…」
「は…はいです…」
入水して次はウィングルフィンにしがみついてコバルトラビリンスへと向かう。まだ水に抵抗があるのかニナはおっかなびっくりでウィングルフィンに抱き着いていた。
「よし、行こう!コバルトラビリンスへ!」
「無事に解決出来れば万々歳じゃのう」
「にゃわあっ!?もっとゆっくりお願いします〜!?」
ウィングルフィンに掴まり潜水し、コバルトラビリンスへと出発する。ユウキュウが何処か不吉な台詞を述べるもニナの悲鳴に掻き消された。
「わあ…!綺麗…お花畑みたい!」
「サンゴ礁だね」
海中に潜ってまず目に映ったのは色とりどりのサンゴが群生しているサンゴ礁だった。サンゴの合間にはこれまた色とりどりな魚がたくさん泳いでおり、地上とは違う幻想的な風景に目を奪われる。
「へぇ〜、水の中ってこうなってるんだな」
「本当にこのアーマービキニを身に着けていると水の中でも苦しくないんだね」
説明は受けていたが本当に息が出来るか分からなかったため思わず身構えていたが杞憂で終わったのだった。
「本当に綺麗な光景ね。この先のコバルトラビリンスで異変が起きているとは思えないわ」
「海は広いからね。影響が全体に及んでいると言う訳でもないからね」
美しい光景に目を奪われがちだが、この先のコバルトラビリンスでは異変が今だに続いており、とてもそんなことが起きているとは信じられなかった。
『キューイ!キューイ!』
「あれ、どうしたの?」
「何か…来る!」
するとウィングルフィン達が何やら騒ぎ立てており、首を傾げているとリュクウは何者かの接近を感じ取る。
『シャアアアクー!』
「あれは…Bランクモンスターのアックスヘッドシャークだ!」
見た目はシュモクザメだが頭部と尾ビレがその名の通り斧のような形になったモンスターだった。
『シャアアア!』
「わわっ!襲ってきた!」
「どうやら綺麗な光景はここまでみたいだね!」
鋭い牙が並んだ口を開け、切れ味を持つヒレと頭部を駆使して突進してくる。ここからはどうやら血生臭い展開になりそうだ。
「焼きサメにしてやる!」
レイラは収納ボックスからダガーを取り出して火のエレメントを付与しようとするが、刃の炎は瞬く間に消火されてしまう。
「ここで火のエレメントは使えないよ!」
「でしたら雷魔法を…」
「雷もダメだよニナ!確かに有効的だけど、ここは水中!使った瞬間にボク達揃って感電しちゃうよ!」
「ではどうしたら…ひゃあ!?」
水中では火は使えないし、雷は効果抜群とは言え自滅する危険性があるため使えないのだ。そうこうしてる間にアックスヘッドシャークが連続で突撃してくる。
「風と水、それと氷のエレメントが使えるよ!」
「氷魔法『アイス』・ウェーブ!」
水の中なら威力は増すし、風や氷のように水に影響を与えるエレメントならば有効打になると聞き、アメジスは冷気の波を放つとアックスヘッドシャークを凍らせることに成功する。
『…!シャアアアクー!』
しかし凍ったと思ったらアックスヘッドシャークは力任せに氷を振り解いたのだ。
「水の中じゃ氷はすぐに融解するよ。自然魔法『プラント』!」
『シャア…!?』
ルアーネは身体から植物の枝を伸ばしてアックスヘッドシャークの動きを封じると同時にマナミナを奪っていく。
「僕らは水中戦には慣れてない上にここで戦うのは得策ではない!先を急ごう!」
相手はサメだけあって水中戦では敵無しだろう。そのため潜水したばかりのメイナス達に取っては不利であり、ここで体力やマナミナを消耗して本番で全力が出せなくならないようコバルトラビリンスへ急ぐことにする。
「振り切ったようですね…」
「辿り着く前に消耗戦になるかもしれんのう」
まだまだ余裕があるとは言え、モンスターが凶暴化しているのは間違いなく、ダンジョンに着く前にあとどれだけのモンスターと遭遇するか分かったものではないと気が遠くなりそうだった。
「なあ、このウィングルフィンみたいにさっきのアックスヘッドシャークも手懐ければ良かったんじゃないのか?」
「…あの子達はとても乱暴だよ。それに言うことを聞いてくれないことが多いよ」
珍しくスザクが的確なことを述べるも、リュクウは難しいと返してくる。
「例え人間でも人魚でも手懐けられるスキルを持っていても、必ずしも手懐けられると言う訳じゃないのさ。強過ぎる本能…闘争本能や食欲とかは抑えられないんだ」
テイムをしてもモンスターには餌を与えたり、ある程度の世話をする必要がある。それはモンスターもれっきとした生き物であるため、人間と同じく食事や睡眠などをする必要があるため当然だ。
だからこそモンスターの中には攻撃的で制御が出来ない個体や、空腹で人間を獲物としか見ていない個体にはテイムのスキルもその限りではないのだ。
「リュクウの力に頼るのにも限界があると言うことだろうね」
「ごめんなさい…」
「ううん、リュクウちゃんは何も悪くないよ。だから気にしないで」
責められていると思ったのかリュクウはションボリしてしまうもアメジスは優しく励ますのだった。
「あ…!」
「え、どうし…」
今度はどうしたことかリュクウはハッとなってとある方向に泳ぎ始めたため、目で追ってみると目の前に移る光景に言葉が続かなくなるアメジス。
「皆!あれを見て!」
「何じゃあれは?随分と大きい魚じゃのう…」
「呑気に言ってる場合か!襲ってくるぞ!」
目の前に見た目は身体が蛇のように長く、クジラのように太く大きな体格をした魚のような生き物がいたことに驚く。水中でいきなりこんな巨大な生き物に睨まれたら海洋恐怖症でなくとも血の気が引くだろう。
「いや、これは魚でもなければ生き物でもモンスターでもない…」
しかしながら襲われることはない。それ以前に形は生き物のようだが表面は石のようになっていて、おまけにサンゴや海藻などが群生していて大凡生きているとは言いがたかったが厳かな雰囲気があった。
「これは遺跡なんだよ」
「遺跡?あれ、リュクウちゃんが中に入ろうとしてるけど…」
目の前の巨大魚は生き物でなければ遺跡だとルアーネが告げる中で、魚の口と思わしき場所にリュクウは水中に漂いながら見上げていた。
「入ろうとしているはずだよ。なにせようやく生まれ故郷に辿り着いたんだからね、コバルトラビリンスに!」
それは何故なのかとミエナは疑問に思っていると、ルアーネはリュクウの生まれ故郷である海底ダンジョン『コバルトラビリンス』に到着したのだと結論付けた。
「これがコバルトラビリンスなんですか?」
「随分と風変わりな見た目をしてるな」
「サンゴとかがあって綺麗には見えるけど、寂れてるし見た目と相まって不気味…」
目指していた海底ダンジョンはどんな物かと思っていたが、まさかこんなユニークな見た目をしているとは思わなかった。
「…ここに人魚族が住んでおるのか?察知や鑑定のスキルを使っても気配を全く感じられんぞ」
見た目はともかくここには人魚族がいるはずなのに、人っ子一人も見当たらないし、影も形もないようにしか見えなかった。
「やっぱりリラさんの言う通り、人魚族はもうここを引き払ってしまったのかもしれないね。あ、ごめんね…」
「あう…」
二十年前から人魚族はモンスターの凶暴化と異常気象によって、コバルトラビリンスから去っていったと聞いていたがあながち間違いではなさそうだった。
しかしつまりここには自分の仲間がいないと知ってリュクウも落ち込んでいた。
「見たところ外見的には異変は見受けられないよ。もしかすると他の人魚族はダンジョンの何処かに隠れているのかも。だから一緒に中を探してみよう」
「…!うん!」
「ありがとう、ルアーネ」
だが、あくまでも外から見ただけなため中にいないと決まった訳では無いとルアーネのフォローもあってリュクウは元気になる。
「じゃあ、中に入るんだよな?どうやって入るんだ?」
『キューイ!?』
依頼内容であるダンジョンの調査に向かうことになるのだが、入口が分からず困っているとウィングルフィン達が突然闇雲に泳ぎ始める。
「どうした!またアックスヘッドシャークか!?」
「違う、海流が起きているんだ!?」
敵意あふモンスターが迫っているかと思っていたが、不意に身体が吸い込まれるような感覚に戸惑っていると海の水がダンジョンに向かって流れていくのだ。
「引きずり込まれます!?」
『キューイ!?』
「ウィングルフィンでも逃げ切れないよ!?」
必死に流れに逆らうように泳ぐウィングルフィンだが自然の力には敵わないらしくどんどんダンジョン内へと吸い込まれていく。
「ぐぐっ…何だこれは…目が回る…!?」
「皆ー!?」
海流によってダンジョン内へと流されると、中で海流が壁にぶつかって渦潮が発生し、洗濯機に入れられたかのように文字通り引っ掻き回されてしまい意識を手放してしまう。
「アメジス、大丈夫か?」
「ううっ…スザクちゃん?」
「ふむ、ものの見事に分断されてしまったのう。ウィングルフィンとも離れ離れじゃ」
スザクに揺すられてアメジスは目を覚ますとそこは既にダンジョン内で、他の仲間はスザク以外にはユウキュウだけしかおらず、ウィングルフィンの姿も何処にもなかった。
「ここはダンジョンの何処なんだろう?」
「地図もないし、案内役のリュクウもおらん。完全に迷子じゃな」
元からコバルトラビリンスには入るつもりだったが、どれだけの面積があるかどうか分からない未知のダンジョンで仲間と離れ離れになるなんて、いきなり災難に見舞われるのだった。
「取り敢えず道はここしかないみたいだし、こっちに行ってみよう」
「そうだね…」
せめてもの救いは自分達がいるのが袋小路の部屋で道が一方通行しかないことだ。このままジッとしてても始まらないしスザクの言う通り、前へ前へと進むことにするのだった。
「…何じゃ周りにある刺々しいタワシみたいなのは?」
前へ進んでみると早速障害物が彼女達の前に立ち塞がった。部屋の所々には見ているだけで痛そうな見た目をした黒い物体が貼り付いていた。
「これは下手に触らない方が…」
「はぎゃあああん♡」
明らかに手を触れない方が良さそうな見た目なのに、早速スザクは手を触れてしまったらしく甘美な声を張り上げていた。
「うあああ…♡全身がぁ…激痛に埋め尽くされるぅ…♡」
見てみるとスザクは針山地獄でも旅したかのように、全身に無数のトゲが刺さっていたのだ。
「うわ、全身に針が…痛そう…」
「スザクでなきゃ死んどるぞあれは」
いつものことだがスザクは針治療を受けているかのように気持ち良さそうにしているが、目や舌にも針が刺さっており見ていてゾッとするほどに痛そうでだった。
「ふわあ…♡気持ち良かったぁ…♡これもモンスターなのかぁ…?」
「そうだろうね、メイナス兄さんがいないから何て名前かは知らないけどね」
予測した通り無論これもモンスターであり、名前は『ウニボン』と呼ばれているDランクモンスターだった。不用意に近付くと全身の針を飛ばして外敵を攻撃するのだが、打ち所が悪いと死亡する場合もあるのだ。
「どっちにしても儂らには危険じゃな。どうやって切り抜けるのじゃ?」
「う〜ん…こんな方法を使いたくないけど、スザクちゃんが良いのなら…」
部屋の中を通り抜けようにも、ウニボンがこんなにいたら意図せず刺激してしまい針を飛ばしてくるだろう。そこでアメジスはとある方法を考えるのだが…
「はうあああ♡ひいいいん♡こんなにいっぱい来たら…あたしぃ壊れちゃうよおおおぉぉぉ♡」
次々とウニボンの針が雨あられと言わんばかりに飛んできて、スザクの顔や腕や足や胸と言ったあらゆる場所に突き刺さっていき、彼女に凄まじい快感を与えていく。
「お主も存外大胆なことをするのう」
「まあ、スザクちゃんなら喜んで引き受けてくれたけど…やっぱり後ろ髪を引かれるね」
アメジスの考えた方法とはスザクを先頭にし、飛んでくるウニボンの針を彼女の身体の後ろに隠れつつ泳ぐと言う荒業だったのだ。当然スザクは快く引き受けてウニボンの針の雨をその身に受けて快感に変えるのだった。
「はあ…はあ…はひぃ…♡激しいぃ…でも快感♡」
「水の中でもスザクちゃんの炎は出るんだね」
「さすがはフェニックスじゃのう。しかし儂らはともかく他は大丈夫かのう。他もここと同じスタンスならば切り抜けられるかどうか謎じゃのう」
無事にウニボンのいる部屋を切り抜けたが、ここはスザクがいるからこそだったが、他のメンバーはどうやって切り抜けているか気になるところだった。
「うああああ…♡ダ…ダメだ…力が抜けちゃう…♡」
「くああ…♡あ…あたしらをどうすんだよ…♡」
別の部屋ではルアーネとレイラがイソギンチャクのようなモンスター『アネモネーション』の触手に捕まっており、まるで捕食される魚のようであったが二人の顔は蕩けた笑みを浮かべていた。
「ぐう…魔法やスキルを使おうとすると…的確にボク達の弱い所を…はうん♡せ…背中と鼠径部はぁ…ダメぇ…♡」
触手は抵抗しようとするルアーネの背中や鼠径部の輪郭に沿って絶妙な力加減で撫で回すと同時に指圧を加えてくる。
「ど…どうする気だよ…抵抗する力を奪う気か…?はうあっ♡胸と尻を…♡」
レイラを襲う触手は彼女の抜群のスタイルを矯正するかのように単に揉んだりするだけでなく、リンパ腺や筋肉などをほぐすように絡みついてくる。
「あの…メイナスさん、ここは何処ですか?」
「何処だろうね…」
「私達、迷子になっちゃった?」
ニナとメイナスとミエナはリュクウと共にいたが、現在地が分からない上に仲間を見失ったことで途方に暮れていた。
「せめてもの救いはリュクウがいることかな。この子ならまず道に迷うことはないだろうけど」
少なくともこのダンジョンのことを知っているだろうリュクウがいれば、これ以上道に迷うことはないだろうと考える。
「う〜ん…?えっと…」
「そうでもないみたい?」
ところが肝心のリュクウも道に迷ってどうしたら良いか分からないと言った様子だった。
「やっぱり、分かるのはダンジョンがある場所までで、ダンジョンの中までは分からないんだね」
帰巣本能で分かるのは大雑把な道のり、つまりマリナル王国からコバルトラビリンスまでのザックリとした道のりだけで、ダンジョン内の細かい構造までは把握出来ていないようだ。
「ごめんなさい…」
「気にしないで!リュクウちゃんは悪くないよ…」
「僕も言い方が悪かったよ…ごめんね」
自分のためにここまで来てくれたのに道に迷わせ、しかも案内役として役に立てないことに落ち込むリュクウをミエナは優しく抱きしめ、メイナスも視線を合わせて頭を撫でてあげる。
「あの…何か聞こえませんか?」
「ん?何がだい?」
「さっきから変な音がするんですよ…」
ニナが妙な音をキャッチしたようだが、まるでオバケでも見たかのように怯えていた。
「また海流か何かの音?」
「いいえ、どうも声のような気がするんですよ。それも苦しそうな…」
最初の時と同じように海流が何処かで起きている音なのではと考えるも、ニナはそんな風には聞こえないと否定してくる。
「あっちから聞こえます…」
「ここ?…うわっ!?」
「ちょ…何なのこれ…!?」
彼女が指差した部屋に向かって泳いでみると、メイナスとミエナは目を疑う光景を目にした。
「これは…たくさんの人の像?」
「不気味…!?」
その部屋にはホワイトパールの人間の像がたくさん置かれていたのだ。人っ子一人いないと思っていたら、住人の代わりにこんな像がたくさんあったら誰だって不気味に思うだろう。
「何のための像なの?揃いも揃って苦しそうな顔をしてるけど…」
「うん…ヤケにリアルだから余計に不気味だね」
置かれていたことも不気味だが、どの像も表情が苦痛に歪んでいて、まるで死に間際を模したかのような悪趣味な造形をしていた。
「人魚族ってこんな物を作って飾るの?海を汚した人間に復讐心を抱いて…」
「それはあり得ないよ。この地域はリラさんが話したように海はとても綺麗だ。原因も直接人間が関わった訳でもないようだしね」
ミエナは最初、人間に苦痛を抱かせると言う思いでこんな像を人魚族が作ったのかとメイナスに訊ねるも、海や砂浜はとても綺麗でマリナル王国も美化を心掛けていたのは間違いないし、何よりもいなくなった理由が他にあるのだからそれはまずあり得ないと返す。
「それに人魚族も建物を建築する技術が無い訳でもないけど、こんなに精巧な像を石…なのかな?から削って創作するなんて聞いたことがないけど…」
言われてみるとコバルトラビリンスの外の造りは魚かクジラを模していたがそこまで精巧な造りとは言えなかったのに対し、こんな今にも動き出しそうな像を石から作れることが出来るのだろうか疑問だ。
「そう言えばこれって石なの?」
「さあ?表面上では石ではなさそうだし、錆びてないから鉄でもないね」
メイナスが疑問符を浮かべていたが、言われてみるとこの像が何で出来ているのか分からなかった。表面はツルツルと滑らかだが、硬くて光沢を持っていて宝石のようにも見えた。
「あ、待って。もしかしてこれ真珠?」
「真珠って、貝の中から取れるあれのことかい?」
しかし暫く観察していたミエナはふとこの像の材質が真珠ではないかと口にする。
「でも仮にこれを真珠とするのなら…像を作るのにそれ相応の大きさが必要なはずだよ」
「だよね。それに削り出したとは思えないぐらい綺麗だし、まるで人間…み…たい……」
貝から取れる真珠は豆粒サイズだ。目の前にある像がもし真珠で出来ているのなら、それこそ人間サイズの真珠が必要になると返され、ミエナも同意して削り出したとは思えないほど精巧…と言うよりも人間のようだと口にするも言葉が続かなくなる。
「…ミエナ、真珠ってどうやって出来るか知ってる?」
「…確か貝の中に真珠の核になる物を入れるって…」
言葉が続かなくなると同時に何か恐ろしいことに気が付いたミエナとメイナスは真珠の作られ方を確認する。
「そう言えばマリナル王国では行方不明者が大勢いたよね?」
「僕の記憶が間違ってなければなんだけどこの人…行方不明になった冒険者の人と顔がよく似ているんだ…」
そしてもう一つ確認したのがマリナル王国の冒険者達の末路だ。自分達と同じようにコバルトラビリンスの異変を調査に向かったが誰一人として帰って来なかった。そしてよく見ると像の顔は行方不明者の顔と恐ろしいほどに一致するのだ。
「ま…まさか…これって…!?」
「これは…トンデモないことだぞ…!?」
まだ憶測でしかないが、仮に自分達の辿り着いた恐ろしい真実が本当だとするのなら、自分達も同じ末路を辿るかもしれない由々しき事態であることは間違いない。
「はふぅ…そろそろ行くか」
「だね、皆は何処だろうね…」
「まあ、スザクがおれば大抵の罠は大丈夫じゃな」
『……!』
メイナス達が恐ろしいことに気が付いた頃、ウニボンの部屋を後にし、仲間達を探すために泳ぎ始めるスザク達の背後に怪しい影が迫っていた…。




