砂漠の夜は違った光景を見せてくれる
「ぶるる…何だか寒くない?」
「もうすぐ日没になるからね…砂漠の夜はとても冷え込むよ。」
予想外の出来事によりミエナ達はケンタウロス達の集落から逃げ出したものの、夜の砂漠の寒冷な環境は容赦なく彼女達の体力を奪っていく。
「スザク達はどうしたかな。」
「何事も無ければ今頃は駅のあった街に着いてるはずだよ。」
「それが問題じゃな。」
『何事も無ければ』なんて滅多にないことだし、スザク達もだが自分達もそうであれば万々歳だろう。
「そう言えば知ってる?ダンジョンには明るい内と暗い内では出現するモンスターが違ってくることに。」
「知ってるよ、確かこう言う砂漠のダンジョンの夜間だと『サボンテンボン』や『ナイトホロウ』が出るはずだけど。」
寒い砂漠を歩き続けているため気を紛らわすためにルアーネとメイナスがそんな話をしているとパキッと言う硬い物が割れる音がする。
「ガラス…?」
「誰だよ、こんなところに瓶を捨てたのわ?」
踏んだのはガラス片でありよく見ると放射状に散らばっていた。
「……。」
「どうしたのじゃ?確かにこんな場所ではガラスは珍しかろうが…。」
こんな砂か岩しかない砂漠でガラスを見つけるなんて滅多にないからかルアーネは真剣な様子で調べていた。
「おかしいよ、こんな所でガラスが見つかるなんて。」
「じゃから珍しいんじゃろ?」
「そうだけど、砂がガラスになっていることが問題なんだよ。」
しかしルアーネはガラスを見つけたことではなく、砂がガラスになっていることを気にしていたのだ。
「え?ガラスって砂から出来るの?」
「そうだよ。砂の性質によって良し悪しはあるけど、基本的には砂を熱するとガラスのようになるんだよ。」
意外なことにガラスは砂から作られており、その他の材質の原料にも使われているのだ。
「問題はその熱源が何なのかが気になるんだけど…。」
「熱源…まさかスザクかい?」
雑学もそれまでにしてルアーネがガラスを見て何を気にしていたかメイナスが言い当てる。こんな燃える物がない場所で砂を熱することが出来るのはフェニックスの力を持つスザクぐらいだ。
「だとするとあいつはここで戦ったのか?」
「戦ったと言うよりも変態行為じゃがな。」
「どっちでも良いよそんなの!」
確かにどうでも良いが、スザクの場合は戦うと言うよりも相手の攻撃を受けて快感を得ていると言う他者から見ると余り考えられない行為だった。
「む…何か来るのじゃ。」
「何だって?モンスター?」
「いや、こいつは…隠れるのじゃ!」
するとユウキュウが音を聞きつけるのだが、のっぴきならないと言う様子で姿を隠すように指示してくる。
「隠れるって、こんな開けた場所で…。」
咄嗟に隠れるにしても遮蔽物が少ない所でどう身を隠せば良いか分からなかった。
「私に任せて。」
「どうすんだ?」
「ファントムベーゼ!」
何か方法があるのかミエナは人差し指と中指を自分の唇に触れさせ、その指で仲間達の額に触れさせていく。
「これがどうし…あ!姿が…!?」
「皆の姿を一時的に見えなくさせるから!でも、相手からは触れられるから気を付けてね!」
幽霊に似たゴッドプレシャスを持つミエナらしく、先程の技は仲間の姿を見えなくさせる技のようだ。
「来たぞ!空からじゃ!」
「え…空から!?」
驚いている間にユウキュウが警戒していた相手が空から舞い降りて来た。
『『グルルル…!』』
「ここでようやく半分か。」
「ケンタウロスの集落に向かったと言っていたが…。」
「ドラゴンと…ドラゴンレンジャー…!?」
着地したのは刺々しい堅牢な鱗に巨大な翼を持つ、四足歩行のドラゴンだった。モンスターの中でも別格の強さを誇るはずのドラゴンが現れただけでも驚きなのに、その背中には武装した人間が騎手のように乗っていたことが一番驚かされた。
間違いなく目の前の人間はドラゴンを乗りこなす『ドラゴンレンジャー』だろう。凶暴なドラゴンを乗りこなす人間はそう多くないため滅多に見られる存在ではないはずだ。
「ってことはケンタウロス達が言ってたようにここには…。」
「うん…ドラグングニル帝国はここにいるみたいだね。」
この目で見るまでは確信は持てなかったが珍しい存在であるはずのドラゴンレンジャーが目の前に現れたと言うことは、彼らを多く率いているドラグングニル帝国がこのダンジョンにいることを意味していた。
「ったく、フェニックスの女だけじゃ飽き足らず、他の仲間も捕獲して来いだとよ。」
「…!まさかスザクが…!?」
ここで何をしているのか気になっていたが、彼らの何気なく放った愚痴が最悪の展開を物語っておりメイナス達は心臓を鷲掴みにされるような感覚を味わう。
「ケンタウロスの集落…いや、あのフェニックスの女の仲間を見つけ次第ドラゴンレンジャーで総攻撃だったな。」
「確か狙うのはガサツそうな女と優しそうな男以外の三人の女だったな。やれやれ、夜間だから見辛い上に寒いな…クソ。」
その探している人物が透明化して盗み聞きしているとは思わず、二人のドラゴンレンジャー達は自分達の計画を知らず知らずの内に愚痴と共に暴露した後にドラゴンを操ってその場を後にする。
「なんてこった…スザクが捕まったのか…!?」
「しかも寄りにも寄ってドラグングニル帝国にかよ!?」
一番最悪の展開になったことにメイナスとレイラは頭を抱えており、どうにかしなければとお互いに顔を見合わせる。
「え…ちょっと…何でスザクちゃんがフェニックスになるの?」
「は?」
ところが気が動転した余り自分達も口を滑らせたことに二人はハッとなる。
「あいつらはフェニックスの女と言ったのじゃ。スザクとは一言も言っとらんぞ。」
このメンバーの中ではミエナとユウキュウだけがスザクのことを知らないため、フェニックスの女=スザクと言い当てたメイナスにどう言うことかと訊ねる。
「…分かった、この際だから話しておくよ。でもこれは他言無用で頼むよ。」
今はスザクを連れ戻せるかどうかの瀬戸際のため、秘密を貫き通してシコリを残すよりも事情を話して手を貸して貰う方が良かった。
「…なんと、あやつがフェニックスの生まれ変わりとな?」
「断言は出来ないけどアメジスの話を聞く限りはそうなんだと思うけど…。」
「それであんな死ぬようなことがあっても生還出来たんだね…納得。」
話を聞いたユウキュウとミエナも最初は驚くものの、これまでのことを考えれば確かにフェニックスでなければ出来ない芸当ばかりだったと納得する。
「確かにそれではおいそれと話す訳にはいかんのう…。」
「だろ?そして今となっては連れ戻せるかどうか分からねぇ事態なんだ。」
「きっとアメジスとニナも同じように捕まったんだろう。アメジスはスザクの孵化に立ち会ったらしいからそのことも含めて…。」
スザクが捕まったのなら一緒にいたアメジスとニナも同様に連れて行かれた可能性がある。特に孵化する際に側にいたアメジスにも何かしら興味を持ったのではとメイナスは危惧するがその通りであった。
「だからアメジスちゃん、地下室のフェニックスの絵画を見て…。」
「あん?何の話だよ?」
「前にアンロスの街の家の地下でフェニックスの絵画を見つけたんだけど、アメジスちゃんが魅入ってたから何でだろうと思ってたけど。」
「何だって?」
アンロスの街でアメジスがフェニックスの絵画を見て惹かれていたのは、刷り込みによってスザクとアメジスが強い絆で結ばれているのだと頷くもメイナスは別のことが気になっていた。
「アンロスの街の地下に?それって生命の錬金術の書があった場所かい?」
「そうだよ。そこで見つけたんだけど。」
その地下で錬金術の書を見つけたのかと追加で訊ねてくるためミエナは頷くとメイナスは何か考え込む。
「アンロスの街の地下でフェニックスの絵画と生命の錬金術、更に不死鳥の灰を使ったアンデッド…これは偶然なのか?」
フェニックス関連の様々な証拠と事柄で何か思いがけない真実を掴みかけそうになるも真相はハッキリしそうになかった。
「今はそんなことよりもスザクちゃん達を助けないと。」
「あ、そうだね!何とかしないと…。」
ルアーネに呼びかけられてハッとなり、何とかスザク達を助け出す方法がないかと頭を切り替える。
「私が調べて来ようか?」
「いや、君は行かない方が良いよ。ボクとミエナちゃんとユウキュウちゃんは狙われているらしいからね。」
敵の本拠地に偵察や潜入となればミエナが一番だろうが敵の狙いであるためリスクが高くなってしまう。
「それに敵の居場所が分からないのではどうしようもなかろう。」
「ところで…スザク達は乗客と一緒に駅に向かったはずなのに、そいつらはどうなったんだ?」
「ちょっと待ってて…。」
考えを練っている内に列車の乗客がどうなったか気になっていると、ルアーネは近くのサボテンを見て目を瞑って念じ始める。
「何してんだ?」
「ボクはユグドラシルの肉体の一部を持ってるんだ。だから植物の記憶を閲覧することも出来るんだ。」
世界樹ユグドラシルから創り出された『賢者の書』を持つルアーネの脳内に、ここに自生するサボテンの記憶の一部始終が流れ込んで来る。
「…どうやら乗客は皆ドラグングニル帝国が雇った賞金稼ぎらしいんだ。その中にはアンロスの街にいたラウイもいたみたい。」
「あの野郎か!」
「しかもあの乗客全員が仲間じゃと?これは嵌められたのう。ではバジリスクのこともそうなのかのう?」
乗客全員がドラグングニル帝国の息が掛かった者達ならば、そもそもここへ来ることになったバジリスクのこともガセネタか或いは仕組まれていたのか謎だった。
「いや、バジリスクは本当にいたし少なくともガセって訳では無いと思うよ。けど、あのバジリスク…リッチがドラグングニル帝国と何か関係があるのなら話は別だよ。」
この目で見た訳ではないが確かにバジリスク…それも二つ名のバジリスクと言う唯一無二の存在がケンタウロスの集落を襲ったのだからガセネタではないはずだ。
だが、もしもあのリッチもドラグングニル帝国が関与しているのなら学園やこれまでの騒動での辻褄が合うためこの騒動とは無関係であるとは断言出来なかった。
「リッチすらも手駒だとするのなら、いよいよ持ってスザク達のことが心配だ。フェニックスの力を悪用されたらトンデモないことになるよ。」
「どうしよう…せめてあいつらの居場所が分かれば…。」
このまま帝国の思惑通りに事が進めば最悪の未来が待ち構えているだろう。それでなくとも仲間の危機を救うためにもまずは所在をハッキリさせないとどうしようもなかった。
「しかし、儂らは喉から手が出るほど欲しいのじゃろうう?そんな奴らの本拠地に赴くとは皮肉な話じゃのう。」
「あ…それだよ!」
ユウキュウが何気なく口にした台詞を聞いたメイナスは何か思い付いたのか指を差してくる。
「相手はユウキュウ達を欲しがってる…なら、望み通りにしてやろう。」
「なっ…儂らを売る気か!」
「見損なったよ!?」
何を言い出すかと思えばメイナスは帝国が欲しがっているユウキュウ達をあっさり差し出そうと言い出したために反論が起きる。
「売り飛ばす気はないよ。ただ君達は捕まったフリをして潜入すれば良いんだよ。」
「なるほどね、敵の懐に自ら飛び込もうって算段だね。」
「方法はこうだ。良いかい?」
しかし本当に差し出すのではなく、捕虜のフリをさせて敵の本拠地に案内し囚われているスザクを救出すると言う考えであり具体的な方法を説明する。
「クソ…おかしいぞ、ケンタウロスが一頭もいないなんて…。」
「何かの襲撃があったみたいだが…敵勢力か?」
それから数分後に収穫が無かったらしく愚痴りながらドラゴンレンジャーが戻って来る。
「あれ、何だあの狼煙は?」
飛んでいると空に立ち昇る煙を目撃しその火元を確認すると二人の男女が立っていた。
「何だ貴様らは?」
「僕…いや、俺は賞金稼ぎの一人だ。」
「あんたらの探している奴はこいつか?」
「ぐうっ…抜かったわい…。」
その男女はロープで縛られたユウキュウをドラゴンレンジャーの前に差し出す。
「こいつは…間違いない、あのフェニックスの女の仲間の狐獣人だな。」
「お前ら…こいつをどうやって?」
「なーに、たまたま砂漠で行き倒れていたこいつを捕縛しただけさ。」
写真を見て確認した後に探していた人物であると確信するも、どうやって捕縛したのか訊ねるも運が良かっただけだと答える。
「他にもいたはずだが…後の二人はどうした?」
「知らんわ…気が付いたら何処にもおらんかったわ。」
残りの仲間の所在を訊ねるもユウキュウはそっぽ向きながら答えるのだった。
「まあ、良い。基地まで連れて行くからお前達も手伝え。」
「「はっ!」」
取り敢えず仲間の一人は確保したため本拠地に連れて行こうと賞金稼ぎの男女をドラゴンの背中に乗せて飛び立つのだった。
「…本当にメイナスさんとレイラさんと一緒に本拠地に向かってったね。」
飛び去った後で一部始終を見守っていたミエナとルアーネの姿が可視化され、ドラゴンレンジャーと共に飛んで行ったレイラとメイナスのことを見送っていた。
「二人のことは余り気にしている様子がなかったからね。変装してても気が付かなかったんだろうね。」
彼らの狙いはユウキュウ達であるため標的が一人でも確保されていればいち早く連行しようと注意が全て向き、全く視野に無かったレイラとメイナスが変装し同伴しても気が付くことはなかった。
「さあ、ボクらも追い掛けよう。」
「なるべく見つからないように時間差でね。待っててねスザクちゃん、ニナちゃん、アメジスちゃん…。」
相手に気が付かれないようにルアーネとミエナはスザク達の無事を祈りながら追跡を始める。
「はあ…はあ…ああん…♡もう…ダメぇ…♡」
「あなたよりもピラニアーミーの方が限界だったようね。」
水槽で今にも蕩けて水と同化しそうになっていたスザクの周りではピラニアーミーがプカプカ浮いており、リュクウの部屋から戻って来たアルノは興味深く見つめていた。
「もう少し実験したいところだけど次は何が良いかしらぁ?」
「あたし…これ以上されたらぁ…壊れちゃうよぉ…♡」
「あらぁ〜?壊れてもすぐに元通りになるでしょ?覚悟なさ〜い?もっと気持ち良くなっちゃうからねぇ〜?」
「は…はひぃ…♡」
緩み切った顔で惚けた口調で呟くスザクはアルノからの更なる実験に期待を膨らませ微笑んでしまう。
「次はこれね。」
『ギギギィ…!』
ミスリルの鎖で拘束され転がされたスザクの前にコンテナが運ばれて来るが、中から虫の節のような不気味な鳴き声が聞こえ格子から触手がニョロニョロと出ていた。
「これはぁ…何だか見ててドキドキするぅ…♡」
「普通は女の子はこれを見て気持ち悪いって思うわよね?あなたはやっぱり特別だわ。」
よくは分からないがスザクはそれを前にして今まで体感したことのない程に期待が膨らみ始め、アルノは目配せすると研究者達は頷きながらコンテナの蓋を慎重に開ける。
『ギギギィ…!』
「『ローパーム』…ローパーの上位種であり生態と見た目はワームに酷似しているわ。」
中にいたモンスターはベビーピンクのミミズのようなボディには同じ色の触手が無数に生えており、丸い口には鋭い牙が重なるように生えておりグロテスクさではモンスターの中でも断トツと言っても良いだろう。
「ローパーは特に雌の個体や女の子のマナミナや肉体を好んで食する生態があるため、女性冒険者の被害が相次いでいるために嫌われ度ではAランクってとこかしら?」
『ギギギィ…!』
「はうう…♡」
アルノの説明は難しくて分からないがローパームの触手が誘うようにうねる様にスザクは見ているだけで身体がビクンビクンと痙攣してしまう。
「けど、ローパームはそれを上回り強さはAランクでありスピードや攻撃力はもちろん相手を丸呑みにし、マナミナを根こそぎ吸い取り肉体を骨の髄までしゃぶり尽くす…不快感や生理的に受け付けない存在としてはSランクってとこかしら。」
ただのワームやローパーでも近寄り難いのにローパームは強さはもちろん、見た目や生態の気持ち悪さでも他の追随を許さないと言う有様だった。
「これからあなたをローパームに食べさせるわ。それによりあなたのマナミナを搾り取り、不死身になり再生能力が手に入るか試してみるわ。」
「食われるのか…あたしはぁ…♡」
「ふふ…そうなるまであなたは狭く暗いヌルヌルした触手に包まれたローパームの中で永遠にしゃぶられることになるわ。」
「ひああ…♡そんなことしたら…あたしぃ…♡本当に逝っちゃうよぉ…♡」
詳しい説明をされてもスザクは恐怖を抱く。しかしそれはローパームから捕食され与えられる凄まじい刺激により快感で本当に死んでしまうのではないかと言う物だった。
「あらあら…良いわよぉ…その期待に入り混じった蕩けた顔をされると…私まで興奮しちゃうわぁ…さあ、始めてちょうだい。」
『ギギギィ!』
アルノが部屋から退出した瞬間にローパームは待ってましたとその鈍そうな見た目から想像出来ないスピードでスザクに迫っていく。
「うああ…スゴい口ぃ…♡」
『ギギギィ…!』
触手でスザクの身体を持ち上げ、上から齧り付くように鎌首を上げるローパームの口を見てスザクは恍惚とした表情で迎え入れようとする。
『ギギギィググッ…!』
「ひうっ♡うああ…♡ああああん♡」
頭に口付けするようにローパームの口が被さると、そのままズルズルとスザクの頭を呑み込んでいき、やがて目を覆い隠すまでに到達し彼女は我慢出来ずに喘ぎ声を出してしまう。
「むぐぅ…♡うぐぐ…♡」
しかし口元まで呑み込まれたことにより喘ぎ声も出せなくなる。
『ギギギィ…!』
「んぐぐ…♡んんん…♡」
ローパームは口を窄め吸引力を上げて獲物の身体を呑み込んでいく。肉厚な口内に包まれたスザクは首から胸、胸から胴体と徐々に呑み込まれる快感に耐えられずに足をバタバタさせる。
『…!ギギギィ!!』
そのバタつかせた足すらも抑え込むように口の中に消え去りスザクは完全にローパームに丸呑みにされてしまった。
「捕食完了。これより更なる実験を開始します。」
『ギギギィ…?』
スザクのいた部屋とは別の部屋に通ずる扉が開き、ローパームはそこへと誘われるように移動すると囚人服を着た人間達が武器を構えていたのだ。
「さあ、あなた達…生き残りたかったら戦いなさい。あなた達には不死身なるであろう薬を打ち込みました。」
「そ…そんな…!?」
「無茶よあんな気持ち悪いの…!?」
その囚人達は例外なくスザクの血液を与えられているらしく、生き残りたければ…と言うよりも運が良ければ効果が発揮されて生き残ると言う実験に巻き込まれたようだ。
「ローパームが生き残るか、彼らが生き残るか…そしてそのどちらに効果が現れるか…。」
「「「ぎゃあああ!?」」」
効果が現れる前に既に何人かがローパームの餌食になって、彼らは実験が失敗したことを結論づけさせた。
「ぐああ!?く…苦しい!?」
「何で…何ですぐに楽になれないんだよ!?殺してくれええぇぇ!?」
「いでえ!?いでぇよおおお!?」
男の何人かは効果があったのか触手で絞め上げられたり、長い体躯によって潰されたり、無数の牙でズタズタにされるも即死にはならず長い間苦痛に苛まされることとなった。
「いぎぃ!?いやあああ…むぐっ…!?」
女性の何人かはスザクと同じく頭から丸呑みにされていく。
「いいっ!?気持ち悪い…!?」
「はひゃああ…♡」
丸呑みにされた女性は体内にいたのが自分一人だけではないことと、目の前にいるスザクが周りの触手に包まれて惚けていることに驚く。
「これは…ひあ!?止め…あああん!?」
何が起きているか分からなかったが彼女にも肉壁の無数の触手が襲い掛かり、途端に振り切っていたはずの不快感が更に高まることとなった。
「あ…ああ…何これぇ…!?」
「ひああ…♡ただでさえ気持ち良いのにぃ…♡何だかいつもよりも…ひぎぃん♡…気持ち良過ぎるよおおぉぉ…♡」
最初は不快感しかなかったが次第に彼女もスザクと同じく体感したことのない想像を絶する快感が押し寄せて頭が破裂しそうになっていた。
「快感でフェニックスの力が出せるのなら…それを最大にしたらどうなるかしら?ローパームには女性の快感を増幅させるスキルがあって、快感を増幅させた後のマナミナを格別に好むと言う生態があるわ。」
女性を好んで付け狙うモンスターの多くは女性の快感を増幅させて、それによって熟成されたマナミナを摂取するのが目的とされている。
ローパームの例外なくその生態とそうするための力を持っており、スザクと女性が快感に溺れそうになっているのはそのせいだった。
「快感の比例によって不死身になったり再生能力は身に着くのか?そしてどちらが生き残るか?ふふふっ…明日には分かるわね。私はそろそろ仮眠を取るわ。」
「お休みなさい。」
「それと魔力電池にした子達もそろそろ休ませないとね。フェニックスと違って彼女らは限りある命で私達の研究にその身を捧げてくれるものね。」
経過観察とアメジスとニナを休ませるように指示した後にアルノは仮眠を取ることにした。
「……。」
「こいつ、静かになったぞ。事切れたんじゃないだろうな。」
「いや、マナミナを吸われ過ぎて気絶したな。ちょうどいい、このまま寝かせてやれ。」
指示を受けてまずはアメジスの様子を見に来た研究者達だったが、自分達がそうする前に彼女が眠ってしまったことでこのまま放置して今度はニナの方へと向かうのだった。
「…ふ…ふふ…うおええぇぇ…!…ふふふっ…ふはははは!!」
しかしもう少しだけ様子を見ていればきっと運命は変わっていたかもしれない。研究者達が退出した後にアメジスの口からタール状の闇が吐き出され、途端に彼女は不穏な高笑いをするのだった。




