新たな伝説は飛び立つ
「あうん…?」
「…!」
フェニックスの少女は快感の余韻に満足して赤らむ顔を上げると、アメジスが自分の前に立っていることに気が付く。
「面倒くせぇ!こいつは始末して行くか?」
「短気は損気だぞ。利用価値はあるのに殺せば損失しか生まないぞ。」
「捕虜にしたって吹けば飛ぶような物だろうが!」
あくまでも目的はフェニックスであるためラッカはアメジスは始末してしまうと考えているが、ダゴンはまだ捕虜にするだけの価値があると引き止める。
「『フワリフト』…。」
「はわ…?」
二人が争う間にアメジスは魔法の杖をフェニックスの少女に向けて呪文を唱えると、身体が地面からフワリと浮き始めたためフェニックスの少女は何事かと首を傾げてしまう。
「こっち!」
「おっと!行かせないっすよ!」
隙を見て走り出すがシモンが見抜いて回り込んで来る。慌てて踵を返すが斧が壁に向かって投げられる。
「こいつ…油断ならねぇのを忘れてたぜ…。」
斧を壁から引き抜きながら頭を掻くラッカ。それによってマンドレームを仕向けられてその処理に追われたのだから苦い顔を浮かべる。
「無駄な抵抗は止めるのだ。君自身も痛い目に遭うだけだ。」
「ど…どうせ…このまま酷い目に遭うなら…この子だけでも…!」
「そいつは無駄な努力って奴だなそりゃ。」
勧告するも聞き入れられないと抵抗の意志を露わにするもやはりラッカは一蹴する。
「『フワリフト』!」
「ぶっ!?ぺっ、ぺっ!?セコいマネしやがって!?」
砂を浮かせてラッカの顔にぶつけて目眩ましをする。
「『プッシュドン』!」
「ぬっ…!これは…。」
今度は魔法でダゴンを吹き飛ばすも、彼は踏ん張って踏みとどまりとあることに気が付く。
「…君はサイマジックしか扱えないのか。」
サイマジックとは物質を浮かせたり、動かしたりするなどの初歩的な動作が中心のいわゆる初心者がよく扱う魔法のことで、この魔法を初めて使った人々や力は超能力者や超能力とも呼ばれることがある。
「そんな力であたしら相手にしようとしてたのかよ!なら…ほらよ『フワリフト』!」
「はわっ…!?」
ラッカは杖を収納ボックスから取り出して呪文を唱えると、アメジスの身体が少女のように地面から浮き上がり始める。
「こっちへ来い!『プルクター』!」
「うぎっ!?」
更に浮かせたアメジスを自身の元に引き寄せて首を鷲掴みにする。初心者が扱う魔法なためにその気になればラッカ達でも容易く扱えるのだ。
「さて…どうしようかね…このまま首を折ってやろうか?」
「うっ…ぐっ…。」
そうは言うラッカだが、例え首が折れなくともこのまま強い力で首を握られればいずれ息が出来なくなって窒息してしまうだろう。
「はあ…はあ…ねぇ…あたしにやってぇ…。」
「あ?」
生殺与奪を握って得意げになっていたがフェニックスの少女が縋って来て顔をしかめるラッカ。
「その子の代わりにあたしが…息が出来なくなって…力が入らなくなって…抵抗もままならなくなって…意識が遠退く…ああ、味わいたい…♡」
アメジスが苦しむ姿を自分と重ね合わせて妄想し、既に快楽に溺れ始めているフェニックスの少女は縋ってラッカの足にしがみつく。
「さ…触んな気持ち悪い!?」
「あっ…あん…ああん…♡」
自ら苦しみたいと懇願するフェニックスの少女を不気味に思うラッカは振り払おうと踏んだり蹴ったりするも、踏んだり蹴ったりはご褒美だと恍惚とした表情を浮かべるフェニックスの少女。
「おい、一応は目的の幻獣だぞ。そんな手荒なことは…。」
「ああっ!?どうせ弱らせるんだろうが!別に良いだろうが!」
幻獣は聖獣や神獣と呼ばれる特別な生物だ。時としては神や神の使いとも呼ばれる個体もいるが、その仲間であるフェニックスにこんな粗暴なことをするのはさすがに失礼だと言う。
まあ、既にそんな神のような生物を独占しようとする辺りすでに傲慢であるのは確かだろうが…ラッカはそんなのは上等だと徹底的に痛めつける。
「あっ…か…!?」
首を絞められて息が出来なくなり、咳き込むことすら出来なくなったアメジスは徐々に意識が遠退いていく。
「良いなぁ…お願いだから…その子の代わりにあたしを苦しめてええぇぇ♡」
「ぐあああ!?」
「きゃあ!?」
紅い瞳にハートのハイライトが再び灯ると猛禽類の逞しい炎の翼が出現してラッカとアメジスに当たって炎が一気に二人を包み込む。
「ぐあああっ!?火がああああ!?」
「熱い!?熱いよぉ!?」
燃え移った火を消そうと二人はのたうち回る。だが火は消えずに二人の身体をジリジリと焦がし、その間に二人の脳裏に走馬灯を走らせていく。
「シスター…シスター…!?……あれ?」
今は病床に伏せる大好きなシスターを思い出しながらアメジスはその身を焦がすのだが、不思議と痛みや苦しみは最初の時だけで気が付くとそこまでではなかった。
「火が消えた…?傷もなくなってる…!?それに服まで戻ってる!?」
最初は慣れたか或いは事切れたかと思っていたが、その真逆でこれまでに受けた傷や、首を絞められた際の苦しみや首のラッカの手の跡も、嘘のように炎と共に消失しその上で失っていたカーディガンやスカートまで新品同様になっていたのだ。
「ど…どうなってんだこりゃ…?」
それはラッカも同じらしく炎と共に傷跡は消失し、ボロボロになった装備も元通りになっていたのだ。
「はあ…はあ…もっとぉ…。」
「…これがフェニックスの力なんすか?」
「今の炎を見たろう。傷を燃やして消失させ癒やしたのだ。フェニックス由来の物質…炎や灰には生命を癒す力があるとは聞いていた…。」
一部始終を見ていたが間違いなく彼女はフェニックスに間違いなかった。不老不死の力を持つのなら血肉はもちろん、その炎や灰にだって生物の身体を癒したり蘇らせる効果はあるはずだ。
「しかしながら無生物である服や鎧までも元の状態にするとは…思いも寄らない力だ…。」
生物に効果があることは間違いないが、元から生きていない無生物を癒す…即ち元の新品のような状態へ戻すことも可能だとは夢にも思わなかった。
「へぇー、ってことは使い古した古代兵器とかも蘇るのか?」
「研究を進めれば恐らくそれは可能だ。何としても捕獲するぞ。」
軍事国家のドラグングニル帝国に取って、生物・無生物関係なく蘇生させることが出来る…それは兵士に限らず、場合によっては武器や兵器までをも再生させることが出来るのだ。
フェニックスの少女は正に喉から手が出るほどの逸材であり、何としても手に入れようと目の色を変えるのだった。
「『フワリフト』、『プルクター』!」
「ああっ!?」
しかし何を考えているかはアメジスにも分かったらしく、余韻で横たわるフェニックスの少女を魔法で浮かせては引き寄せてそのまま出口へと走り出す。
「待て…!?」
「『プッシュドン』!?」
「がっ!?」
追いかけようとするラッカの顔に石がぶつけられる。先程倒されたマンドレームの石の一部を魔法で勢いよくぶつけたのだ。
「大丈夫っすか!?」
「うっさい!?あのガキゃあ…!絶対にぶち殺す!?」
青筋を浮かべ鼻血を垂らしながら吠えるラッカ。その間にアメジスは急いで神殿の外へと向かっていた。
「はあ…はあ…ううっ…。」
野盗の時と同じく振り返らずに一心不乱に神殿の外へと出たアメジスは息切れを起こし一時停止していた。
だが、急いで下山して身を隠さねばならない、運良く他のモンスターに出会わなかったとは言えもっと恐ろしいモンスターが後ろから追いかけてくるのだから。
「とにかく何処かに…。」
「ここは何処ぉ…?」
すると余韻から回復したフェニックスの少女はいつの間にか神殿の外にいることに気が付きアメジスに訊ねる。
「ここは…。」
「何処に行ったクソガキー!!」
「大丈夫だからね!?」
説明しようとしたがその前に恐ろしい声が聞こえてきたためここから逃げる方が先だった。アメジスとフェニックスの少女は森の中を掻き分けながら進んでいく。
「はあ…はあ…。」
しかしアメジスは自慢ではないが体力がそこまである訳でもないため、程なくして体力切れを起こしてしまう。
「大丈夫?」
「あ…ありがとう…。」
そのついでに魔法の効果が解けて、地面に降りたフェニックスの少女はアメジスに寄り添う。
「なるべく遠くに行かないと…って、あれ…ここは…。」
少し一休みしたら再び遠くへ行こうとするが、前を向いた瞬間にそこが見覚えのある場所だと気が付く。
「ここは…あのコーカサステリウムを倒した…。」
そこはラッカが暇つぶしと称してAランクモンスターのコーカサステリウムを仕留めた場所だった。しかし問題はそこではなく、そのコーカサステリウムの死体がないことだった。
「うっ、血の跡はある…けど死体が完全になくなってる…。」
倒された時の血液はまだ水溜りとなって残っていたが、死体が綺麗になくなっているのが問題だった。他のモンスターが食べるとかなら分かるが、それにしたって綺麗になくなるのが早過ぎる。
『ブモオオオ!』
「ひっ!?」
そう考えている内に茂みから三本角と尖った鱗を持ったサイのようなモンスター…考えていたコーカサステリウムが姿を現したのだ。
『ブモオオオ…!』
「…!?あの傷跡は…!?」
更に信じられないことにそのコーカサステリウムの首と角には刃物か何かで切断された傷跡と、糸のような物で縫合された跡があったのだ。
「さっきヤラれたはずのコーカサステリウム…!?」
見間違うはずがない、そのコーカサステリウムはラッカが仕留めたはずの個体だった。それなのに泣き別れたはずの首と胴体がくっついており、その上で動いていると言うことは…。
「アンデッドだー!?」
「おお?」
死者や死んだ生物の肉体的だけが蘇り、人や他の生物に襲いかかるモンスターの総称…アンデッド。或いはゾンビなどと呼ばれている恐ろしいモンスターだ。
もう体力はほとんどないのだが恐ろしい物を前にした瞬間に火事場のバカ力のように今までにない速度で走り、体格的には頭一つ抜きん出てるフェニックスの少女を魔法なしで引っ張って逃げ出すのだった。
「くそ!何処に行ったあのクソガキは!」
「バカ者、気付かれたらどうする。」
「!こっち!?」
「おお?」
しかし来た道を戻っていると、また恐ろしい声が聞こえてきて慌てて道を曲がって姿を晦ます二人。幸いこちらには気が付かなかったらしく、そのまま素通りしていくのだった。
「あのガキ…見つけたら絶対に…。」
『ブモオオオ!』
「いっ!?」
『殺す』など物騒な台詞を吐こうとしたが、その前に先程仕留めたはずのコーカサステリウムに怨みを込めた三本角で殺されるところだった。
「コーカサステリウム!別の個体っすか!?」
「…いや、こいつはラッカが仕留めたはずのコーカサステリウムだ。この場所だってそうだ。」
最初は別個体だと認識しかけたが、周囲の状況と傷跡から仕留めたはずの個体だった。
「まさかアンデッドにでもなったのか?」
「死霊使いやそれらしき魔法使いの仕業…とにかく人為的な物ではなかろう。」
アンデッドやゾンビが誕生するのは死霊を扱う魔法か、それらに由来するモンスターの仕業だ。ここにはまず人間がいないため魔法の線はないだろう。
「人為的…そう言えばあの子達は?」
しかしながらここには人間はいた。自分達とアメジスと、フェニックスではあるがあの少女だけだ。
「待てよ…フェニックスの力なら仕留めたコーカサステリウムをアンデッドにすることだって…。」
フェニックスは生命を司る力を持つ…それは場合によっては死者を生者として蘇らせたり、或いはアンデッドへと変貌させることも可能ではと言うことになる。
「可能性はあるな…前にフェニックスの灰を手に入れたが、死者がアンデッドになった事件が何処かの国であったな。」
実際に何年か前にとある国では何らかのルートで入手したフェニックスの灰を死者に使用した途端に、アンデッドとなって動き出し国全体を封じ込めた事件があったのだ。
「もしもフェニックスの灰に死者をアンデッドにする力があるのなら…これはあの二人の仕業か?」
「ふざけやがって!フェニックスの力をてめぇが使おうってのか!」
しかし彼らは知らなかった、コーカサステリウムはアメジスとフェニックスの少女が来る前からアンデッドになっており、それに恐れをなして方向転換していたことに…。
「どうします?あのアンデッド…俺らを通さないつもりっすよ。」
「私達が奴の注意を引く。シモンはあの二人の後を追いかけろ。」
こうなれば止む無しとダゴンは収納ボックスからズシンと棘付きの鉄球を取り出して地面にめり込ませるのだった。
「お先に失礼するっす!」
アンデッド(?)となったコーカサステリウムをダゴンとラッカに任せてシモンはアメジスとフェニックスの少女をその先にいる訳でもないのに追いかけ始める。
「きゃあああー!?」
「あん…あうん…はあん…♡」
その頃、アメジスとフェニックスの少女は逃げるのに夢中になる余り、その先に道がないのに気付かずに崖から転げ落ちてしまう。
「うぶ…何ここ…。」
「はあん…冷たくてドロドロして気持ち良い…♪」
転落した後に地面にぶつかったのだが、妙にドロッとへばり付くような感触に気持ち悪がって顔を上げると、地面がぬかるんだ泥であったために汚れるだけで大きなケガはなかった。
「はあ…ここは谷底みたい…。」
見上げると自分達がいた地面と崖がそれなりに高い位置にあり、先程転げ落ちた影響でか小石が上から落ちてきている。一応は逃げ切ったが今度はここから脱出しなければならない。
「ねぇ、これから何処に行くの?」
「あ…私の住んでる教会においでよ。」
腰を据えた所でフェニックスの少女は自分を何処に連れて行くのか訊ね、アメジスは自分が住んでいる教会へと案内しようとしていた。
「どうして?」
しかしながらフェニックスの少女はアメジスが神殿から外の世界にある教会へと何故連れて行こうとしているのか分からなかった。
対するアメジスも改めてその理由を問われて言葉に詰まる。最初はドラグングニル帝国にフェニックスを渡さず守るために連れ出したが、何故だか心の何処かではそうではないと訴えていた。
「…もっと…楽しいことや面白いこと…そう!気持ち良いことをいっぱい教えてあげるから!」
「本当に!?」
その心の訴えが何なのかは分からなかったが、取り敢えず少女を連れて行くために、彼女が喜びそうなことを言って誘い出すのだった。
「ありがとう!アメジス!」
「ひゃっ!?」
案の定、心の底から嬉しかったのかフェニックスの少女は全裸でアメジスに抱き着く。大胆かつ少女の肌と体温が直に伝わってアメジスも思わず真っ赤になる。
「あ…あの…えっと…近い…。」
「良いじゃん〜!こうやって抱き締めるとホッとする〜…。」
(こんな顔もするんだ…この子…。)
いつも恍惚とした表情や快楽に溺れる蕩けた表情を見せていたが、今は安らかで安堵した表情を浮かべていることにアメジスも意外そうにしていた。
「そう言えばあなた私の名前を覚えてくれたの?」
「うん、さっきの人達が言ってたからね。」
名前の概念すら知らなかった少女だが、ラッカ達の言葉から名前の概念とアメジスの名前を理解していたことに驚かされる。
「でもあなたは名前がないんだよね?」
「うん。」
「じゃあ、私が付けてあげるね。えっと…フェニックスだから…。」
対するフェニックスの少女には名前がなく、これから先は名前がないと不便だと考えて『フェニックス』と言う固有名詞からアメジスは名称を考える。
「確か…フェニックスは場所や国によって『ガルーダ』とかって呼ばれてるけど…。」
アメジスは何かの書物で読んだフェニックスの別名を挙げていく。
「そうだ…『スザク』!『スザク』なんてどう!」
「ス…ザ…ク…スザク!うん!」
アメジスの挙げた名を気に入ったらしく、フェニックスの少女はスザクとして名付けられた。
「よろしくね!スザクちゃん!」
「うん!よろしく、アメジス…あん♡」
名前を授かりこれからは共に過ごす友達としてアメジスと握手しようとしたが、スザクは頭を生温かい何かに包まれる感触に変な声を出してしまう。
「ひっ!?」
『『『……!』』』
スザクの身に何が起きたかは傍から見ていたアメジスは分かっていたが悲鳴を挙げずにはいられなかった。と言うのも周囲の泥から食虫植物のウツボカズラのようなミミズが複数体現れたのだ。
このモンスターはCランクモンスターのワームの上位種であるミミズブクロと言うBランクモンスターだ。
「あん…あん…何も見えないけど…甘くて…良い匂いがして…むぐ…♡」
このモンスターは甘い匂いで生き物を泥沼に誘うのだが、今回は向こうから泥沼に落ちてきてくれたため容易に獲物にありつけたのだ。
ミミズブクロはスザクの頭を徐々に呑み込んで視界を遮り、更に首まで包み込んで丸呑みにしていく。
「スザクちゃ…ひゃっ!?」
『……!』
助けようとするが足がぬかるみに嵌ったように動かなくなり、それと同時に生温かい不気味な感触がするため見下ろすといつの間にかアメジスの左足がミミズブクロに呑み込まれていたのだ。
『……!』
「ひっ!?は…離して…あう!?」
慌てて杖を取ろうとするが今度は右腕にしゃぶりつき、腕からダイレクトに伝わる不気味な感触によりパニックになっているとスザクと同様に、ミミズブクロが頭にしゃぶりついて来た。
ミミズブクロは牙がない代わりに呑み込む力が強く大の大人でも抜け出せないほどに強力とされている。仲間からハグレた冒険者がミミズブクロをワームと同位と見て挑んだがあっと言う間に呑み込まれたと言うケースがある程だ。
「あ…ああ…スザクちゃん…!?」
「……♡」
既にスザクは快楽で痙攣する足だけが見える形で呑み込まれていた。次第にアメジスの視界も生温かい不気味な感触を伴って見えなくなる。
「ああああっ……!?」
新しい友達が出来てようやく希望を持てたと思った矢先、最後に見るのがその友達と共になす術なく捕食され全滅すると言う絶望的な光景に悲鳴を挙げるアメジスだが口も覆われて悲鳴すら遮られる。
「むぐっ…ぐっ…身体も呑まれて…それに甘い匂いで頭が…!?」
やがてアメジスの手と足をしゃぶっていたミミズブクロ達は彼女の頭から身体を呑み込んでいたミミズブクロと獲物を取り合うが最終的にはそのミミズブクロに横取りされるのだった。
「ああん…生温かくて…甘くて…息苦しい…♡堪らないぃぃ…ああん…♡」
対するスザクは完全に全身を呑まれてミミズブクロの体内の中で消化液の中で煮詰められる快楽に身を委ねていた。
消化には半日掛かるが甘い匂いは麻酔のように獲物の抵抗の意思を削ぎ、獲物は完全に消化されるまでの間は恐怖すら抱くことなく死ねるのだ。
「ああん…ああん…気持ち良い…気持ち良過ぎて…♡」
『!?』
後はじっくり消化するつもりだったミミズブクロは、体内がやけに熱くなっているのに気が付く。しかし異変に気付いたたとしてもそれは手遅れだった。
「もう…死んじゃううううぅぅっ♡」
『『『ギビャアアア!?』』』
スザクを呑み込んだミミズブクロからチリチリと表面が焼けて、そこから一気に火ダルマになったかと思えば炎は逞しい翼となって広がり、一気に燃え広がって他のミミズブクロにも燃え移る。
『ギャアアアア…!?』
「うあっ…!?」
アメジスを呑み込んだミミズブクロも燃えており、表面が脆くなって破けアメジスが消化液まみれで体外へと排出される。
『『『ギシャアアアア…!?』』』
「はあん…はあん…♡幸せぇ…♡」
「……スザクちゃん…やっぱりスゴいよ…!」
気が付くと周りにいた無数のミミズブクロ達は燃えているか灰になっているのかどちらかであり、気が付くとぬかるんだ泥沼も水分がなくなって乾いた地面になっていた。
その中心には快感ですぐに立てそうにない状態のスザクがぺたん座りをしていた。
「スザクちゃん、そろそろ行こう。私の住んでる教会に。」
「うん…でもどうやって?」
「そうだよね。歩いてだと時間が掛かるし…スザクちゃんもその…裸のままで行かせる訳にも…。」
今度こそ家に帰ろうとした矢先、こんな危険な森からどうやって帰るべきか方法を考えなければならない。何よりもスザクは裸なためせめて何か着せる必要があった。
「あ…スザクちゃんって、空は飛べる?」
「空を?どうやって飛べば良いか分からないよ?それに翼だって…。」
フェニックスは不死鳥、つまりは空を飛ぶことは容易だと考えて提案するも本人は空を飛ぶ以前に翼をどうやって出せば良いか分からないらしい。
「え〜…でもさっきは…あ、もしかして…。」
「どうした?」
しかしながらこれまで何度か翼を出したり、フェニックスに変身したりしていた。その時は何が条件だったかを思い出し試しにとスザクに寄り添う。
(スザクちゃんは気持ち良いって感じるとああなるなら…。)
その条件とはスザクが苦痛を受けて快感を得ることでフェニックスの翼が出現していた。しかし苦痛を与えるよりも快感を与えれば良いと考えたアメジスは少しドキドキしながら…。
「ふぅ〜…。」
「はひゃあ!?」
耳に息を吹き掛けるとスザクはこれまでとは違う反応を見せ、その途端に腕が炎の翼へと早変わりした。
「あえ…?」
「やっぱり…気持ち良くなったりするとそうなるんだね。私もシスターにイタズラされたけど、あれは気持ち良かったなぁって。」
シスターのイタズラのお陰でスザクをフェニックスにさせる簡単な方法を見つけ出したアメジス。
「それと…はむ…。」
「ひう!?あ…アメジス…ちょ…止め…え…♡」
今度はスザクの耳をはにかみながらしゃぶり始める。これにはスザクも腰が砕けてぺたん座りからそのまま卒倒しそうだった。
(こ…こんなの初めてぇ…♡アメジスに…もて遊ばれてるううぅぅぅ…♡)
「わひゃっ!?」
これまで肉体的な苦痛が伴っても全て快楽として受け止めれたが、こんな正反対の甘い責められ方は知らないため一気に絶頂し全身から炎が溢れ出るスザク。
「はあん…♡アメジスも…スゴいじゃん…♡」
その炎は羽毛となりビキニのようにスザクの局部を隠し、腕は炎の翼となっており見た目はハーピーのようであった。
「わあ…スザクちゃん、とっても綺麗…!」
「ふう…さあ、アメジス。背中に乗って。帰るよ、教会って所に!」
「うん!」
屈んだスザクの背中にアメジスは飛び乗り、翼を広げたスザクは一気に空へと飛び上がる。
「はあ…はあ…すみません…あの二人の痕跡が何処にもなかったから戻って来たんすけど…。」
息を切らしながらシモンは元の場所へと戻って来た。行けども行けども肝心の二人の足跡や痕跡は見つからず、これは何か変だと考えて引き返して来たのだ。
「ちょうど良かった。呼び戻そうとしていたのだ。」
「ってことはそっちも何か異変が?」
手ぶらで戻って来て叱責されるかどうか冷や冷やしたが、そんなことはなかったらしくダゴン達もダゴンで何かあったようだ。
「異変も何も…このコーカサステリウムはこいつらの仕業だ!」
「こいつは…マリオネンチュラにオウムトル?」
忌々しい様子でラッカは目の前に巨大なクモと頭はオウムで身体は恐竜のラプトルのような体付きをしたモンスターの死体を乱暴に放り投げる。
「マリオネンチュラは食べ終わった獲物の死体で人形を作り誘い込む習性があり、オウムトルは生き物の声真似をしてリアリティを出してマリオネンチュラと共生している…先のコーカサステリウムもこいつらの仕業だ。」
マリオネンチュラはBランクのモンスターで捕食した獲物の死体を糸で繋ぎ合わせて、操り人形のように動かして獲物を誘い込んだり、外敵を威嚇する習性があるのだ。
オウムトルは様々な音を模倣して獲物を誘い込んだり外敵を追い払うのだが、彼らはマリオネンチュラと組むことでより獲物のおこぼれを貰ったり、同じ巣を使用して繁殖をしたりするなどの共生関係を築いている。
「じゃあ、あの二人は何処に?」
「知るか!分かれば苦労せんわ!」
「時間をここまで取られてしまった…もう既に…。」
迎撃も追跡も完全に的外れに終わり、今頃アメジスとスザクは逃げおおせているに違いなかった。
「ん…。」
「アメジス…目を開けてみてよ。」
暫くスザクの背中にしがみついて、流れに逆らうような風に目を開けられずにいたらスザクが感嘆とした声で呼びかけてきた。
「わあ…!夕日だ…!」
「綺麗だね…。」
目の前にはパンドラの森の地平線に沈んでいく太陽が目に入り、空はスザクの炎の翼が燃え広がったかのように赤々としていた。
「うん…とっても綺麗だね…。」
「アメジス…くすぐったいよ…。」
綺麗なのは夕焼けだけではなかった。今自分が乗っているのは紛れもなくフェニックスの少女スザクの背中だった。彼女はこの夕焼けよりも、どんな綺麗な景色よりも輝いているようでだった。
その美しいと感じたスザクの背中に乗り、間近でその感動を味わえるアメジスはとても嬉しくなって背中に顔を埋めるのだった。
(…それにしても、何でスザクちゃんはフェニックスの力を…?…まあ、良いっよね♪)
そんな幸せの中でアメジスはスザクが何故フェニックスの力を持って生まれたのか僅かに疑問に思うも今は幸せを噛み締めたいがためにすぐに忘れるのだった。…それにはフェニックスの生態が関係していた。
フェニックスは一生に一度だけ卵を産むのだが、後にも先にもそれはフェニックスが一応の終わりを迎えると同時に継承するための儀式であった。
不老不死とされるフェニックスの一応の終わりとは…フェニックスが生きることを終えたいと思った時だ。
確かに肉体的には死なないし何度でも蘇るのが特徴だ…しかし蘇るのは肉体だけでその精神はその限りではない…場合によっては死ぬことが出来ず苦痛を永遠に味わい続け生き地獄を送ることになる。
そうなればフェニックスでなくとも不死身を呪いたくもなるだろう。それでなくとも不老不死であるため永い時間を生き続けるフェニックスも生きることに疲れる時だってある。
だからこそフェニックスは一生に一度だけ、卵を産んだ後に自身の精神を永遠の眠りにつかせ、残った肉体は卵の中で新たなるフェニックスの精神が誕生するその時まで待つのだ。
そんなフェニックスは生け贄として差し出されたスザクを見て何を思ったか…苦痛を受け入れるどころか望んで快楽として受け入れる彼女を哀れんだか、或いは興味を持ったかは不明だがこれだけは言える…。
「方角はこっちで良いの?」
「うん!夕日に向かって!」
「よし、行くよー!」
フェニックスは新しい後継者を選んだ後に永遠とも言える生涯を終え、その代わりに不死鳥の肉体をスザクに与えてこの世に産み落としたのだ。そして今新たなるフェニックスの伝説が飛び立つのであった…。