難解な問題には納得の答えが付き物
「おかしいな…メイナス達は何処だ?」
「ここにいるはずだよね?」
商業施設でルアーネの素性を探っていたレイラ達だったが、ものの見事に躱されてしまい已む無く図書館でを探っていたメイナス達と合流しようとしたが姿が見えないことに首を傾げていた。
「先輩の姿も見当たりません…図書館に帰ってきてないんでしょうか?」
「翻弄されっぱなしじゃのう…。」
商業施設以外だと図書館にいるはずだと思っていたが、メイナス達だけでなくルアーネもいないがために一体どうなってるのかと互いに首を傾げる。
「あれ、ニナちゃん。ルアーネさんが買った本ってこれ?」
「あ、それです!」
ミエナはテーブルの上に『拷問大全集』の本が置いてあるのを見つけてニナに確認する。
「けど何でそれがここに…。」
「何じゃ?この図書館にある本ではないのか?」
「いいえ、この本はまだこの図書館には置いてありません。だからこそ先輩が購入したんだと思いますけど…。」
最初は図書館の本かと考えるも司書であるルアーネの後輩であるため、諸事情を知っているニナはこの本が図書館にはないことを伝えてくる。
「んじゃルアーネの奴はここには立ち寄ったのか?」
「ですがそれが先輩が購入した物かどうか…。」
「いやいや、こんなマニアックなのを買う人なんて早々いない…ん?」
立ち寄った後なのか、そもそもここへ来ていたのかどうかも分からなかった。
「あれ?何か本が震えて…にゃきゃっ!?」
「な…なんだぁ…?」
何処を探すべきか考えていると持っていた本が震え出し、小さな爆発と共に本が開いて中から何か飛び出した。
「あれ、ここは…。」
「図書館の中?」
気が付くとメイナスとアメジスがポカンとした様子で座り込んでおり、まるで今まで図書館とは違う場所にいたかのような様子だった。
「メイナス、アメジス…!?お前ら何処から出てきたんだ…!?」
「何処と言われても僕らもよくは…。」
さっきまで姿を見なかったのに突然現れたことに何があったのか訊ねても、メイナス達にも説明のしようがなかった。
「あ…あのさぁ…水を差すようで悪いけど…あれは何なの?」
少し困った様子でミエナが挙手した後にとある方向を指差す。
「ほら!もっとこんな風に…!」
「ふむぐっ…んぐ…♡」
「え…スザクちゃん!?先輩に何してるんですか!?」
ロープで逆エビ固めにされる形で縛られたルアーネをスザクが炎の羽根でこれでもかとシバいていたのだ。
しかも攻められているルアーネは猿轡と目隠しをされていながらも、スザクのような恍惚とした表情を浮かべていたのだ。
「いつもは逆だろうが!ってか、何してんだよマジで!?」
「何しとるんじゃまったく…おい、大丈夫かのう?」
「ぷはっ…屈辱だ…。」
ユウキュウがロープを切りルアーネを解放するが、彼女は拘束が解けてもヘナヘナとその場に崩れて押し殺すように呟いていた。
「このボクが責めていたはずなのに…逆に縛られて…何も出来ないまま…。」
「先輩、何があったんですか?責めていたって…。」
「あんな辱めを受けて…そして屈服させられてぇ…♡」
「ええっ…!?ちょ…先輩…!?」
何をしていたかは寄り添うニナに知る由もないが、ルアーネは次第に苦痛を受けて快感を得るスザクのように、緑の瞳にピンクのハートのハイライトを浮かべていた。
「どんなに考えても…こんな気持ち初めてで答えが分からないよぉ…ねぇ、ボクに何をしたんだぁ…♡」
ルアーネはスザクに寄り添い、未知の感覚に答えが出せずに戸惑っていた。
「あたしはあたしが気持ち良くなることをしたんだぁ…だから今度はルアーネがしてくれよなぁ…♡」
「そんなぁ…♡何でかは知らないけど…ボクはもっと君に責められたいんだよぉ…♡」
スザクも触発されて蕩けた顔を浮かべながら、寄り添い切なそうな顔をするルアーネとベタベタし始める。
「ちょっと君達!スザクならともかく…。」
「学校の図書館で淫らなことはするなって言ってたルアーネが何してんだよ!?」
メイナスがスザクをレイラがルアーネを引き剥がして淫らな行いを止めさせる。
「結局何がどう言うことなの?」
「それが私にもサッパリで…気が付いたら拷問部屋みたいなところにいて、ルアーネちゃんに色々と問い詰められてね。」
「何故にそのような所に…この学校にはそんな部屋はないはずじゃぞ。」
何があったかはアメジス本人達にもよく分からず、取り敢えずあったことを話してみるがやはりユウキュウ達にもよく分からず八方塞がりだった。
「拷問部屋?そう言えばお前らはこの拷問大全集って本から出てきたんだぞ。何か関係があるのか?」
「そう言えばルアーネが広げた本の中に吸い込まれたっけ…どう言うことなの?」
「ううん…それは言えないな…。」
全ては本と何か関係があり、事情を知ってそうなルアーネに訊ねるも快感の余韻がまだ残っている彼女は顔を赤くしながら拒んでくる。
「スザクちゃん、もう一回やって。出来ればスザクちゃんがやって貰いたいぐらい強く。」
「えい!」
「あひぃん!♡こ…これくらいで…言う訳がぁ…!?」
それならとアメジスはスザクに再び炎の羽根でルアーネの尻を強く叩き甘美な声を漏らさせる。
「あたしならぁ…♡もっと!こんな風に!」
「あぎぃっ!?♡いいっ!?♡」
触発されたこともありスザクは悪ノリするかのように容赦なく尻を羽根で叩き、ルアーネはお尻を叩かれる痛みと羽根の熱で苦痛を受けているのに何処か蕩けた笑顔を見せていた。
「…言う気になった?」
一旦スザクを止めさせてアメジスは突っ伏すルアーネににこやかに…いや、何処か含みのある顔で話し掛ける。
「ふぐぅ…♡い…言う訳が…♡」
ルアーネは口は割らないと台詞では言っているが、蕩けた笑顔を見せているため説得力がなかった。
「もっとやって!」
「あぎぃん!?♡」
そのせいかアメジスにはどうすれば彼女が口を割るかは手に取るように分かっていた。そしてスザクにもう一度ルアーネを責め立てるのだった。
「ひぃ…ひぃ…もう…止めてぇ…♡頭…おかしくなるぅ…♡」
「せ…先輩がこんなことに…!?」
頭脳明晰で首席に輝く先輩であったルアーネが、その頭脳や実力を発揮することなく一方的に責められた上に顔がグチャグチャな笑顔になっていたことにニナも目を疑う。
「それじゃあ…私達の質問に答えてくれる?じゃなきゃ…。」
「わ…分かったぁ…♡言うから止めてぇ…壊れちゃうぅ…♡」
「…お前ら拷問官の才能があるよ。」
再びにこやかだが内面は何か含みのある顔で未知の感覚に怯えるルアーネに話し掛けるアメジス。レイラが一部始終を見ていた一同を代表するかのように呟く。
「まずは何から聞いたら良いの?」
「そうだね、じゃあ君の目的は何なの?」
メイナスに何を聞き出せば良いか訊ねると、彼はルアーネが何の目的があって本の中に吸い込んでスザクを拷問したのか訊ねる。
「本当に好奇心からさ…これまでのことで気になることもあったし学園長からも頼まれてね…。」
「嘘…と言う訳では無いだろうね。この期に及んでそんなことはないだろうし、学園長もこのことに絡んでいるのならね。」
彼女の好奇心の強さは見て取れていた。それは『知りたい』と言う欲求には素直であることを指しており、少なくとも嘘を言っているようには見えなかった。
しかし拷問までするなんてただの生徒ではないだろうと思っていたが、なんと学園長公認であんなことをしていたのなら学校自体が絡んでいることになる。
「じゃあ学園長の目的は何なんだ!」
「本当に気になっただけだよ…君達…特にスザクのことが気になっただけだから…。」
「それでスザクちゃんや私達に害がないなんて言えるの?」
幾らスザクがフェニックスで死なないとは言え拷問までして情報を聞き出そうとするなんて、それを公認した学園長の本性を疑うのは当然だった。
「ルアーネ、もう良いのですよ。」
「え…誰今の!?」
「声が頭の中で聞こえます!?」
その時穏やかな老人のような声が一同の頭の中に響き渡り全員がギョッとなる。
「ふむ…テレパシーじゃな。前にメイナスが話しておったろう?」
「けど誰がテレパシーをしてるんだ?」
「…少なくとも儂らも聞いたことがない声だったのう。」
テレパシーの声から察するに、一同がこれまでに聞いたことのない声だった。
「…学園長だよ。でなきゃこんなこと出来ないよ。」
「学園長だって!何処にいるんだ!」
ルアーネからテレパシーの声の正体が学園長であると知り辺りを見回す。
「無理だよ。テレパシーは大陸を隔てて行われるんだから。」
「けど、変じゃないか?」
探してもテレパシーは離れた位置からも出来るから無駄だと言うが、スザクはそのことに異を唱える。
「前に言ってたろ、テレパシーを使っててもこっちのことはサッパリ分からないって。だったらルアーネが責め立てられているのはどうやって知ったんだろうなって。」
「ルアーネを通していることは確かなんだろうけど…それはどう言うことなのかな。」
テレパシーは会話を主体としているため、相手のことを覗き見することは出来ない。ならば学園長はどうやってルアーネの現状を知ったのか気になっていた。
「それは…。」
「構わないさ。ここまで来れたご褒美として私のことを教えよう。」
さすがにルアーネも答え難そうにしていたが、学園長は散々振り回したものの見事に突破したスザク達のために自分のことを教えようとしてくれる。
「まず何処にいるんだよ?入学した時もだが、姿も見せずにテレパシーだけして高みの見物なんてあんまりじゃないか?」
入学してから存在だけは仄めかされていたが、長い期間を経ても声だけしか聞けなかったことに不貞腐れた様子で学園長に話し掛けるレイラ。
「それは失礼した。しかしながら私は姿を現さないのではない。寧ろ今もずっと君達を見守っているんだ。まあ、高みの見物と言うのは間違っていないが…。」
「何だか言い訳臭いのう。」
「でも見守ってるって…透明にでもなってるの?」
学園長もこの期に及んで嘘を言っているようには見えないし、見守っているとはどう言うことなのか気になっていた。
「今も君達の目の前にいるのさ。」
「え…やっぱり透明になってるの?」
「ははは、それは違うよミエナくん。」
自分と同じようにゴッドプレシャスか何かで透明になっているのかと考えるが学園長は笑いながら否定してくる。
「君達はパズレインスクールに生えている大木を見たことがあるかい?」
「大木ですか?それは…誰もが見たことがありますよ。この学校はその大木を中心に建てられているのですから…。」
学園長は唐突にこの学校の中核を担うように生えている大木のことを訊ねてくる。答えたアメジスはもちろん、この学校の学生ならば誰もが必ず目にするため知らない人間を探す方が難しいだろう。
「誰もが見たことがある…あ、まさか…!?」
それを聞いたメイナスはとある答えに辿り着き、図書館の中央にそびえ立つ学校の大木を見つめる。
「そう…この学校の中央に立つ大木こそがこの私、学園長本人である。」
「ええっ!?学校の大木が…学園長!?」
なんと中央にそびえ立つ大木こそが学園長であるとテレパシーで伝えられほぼ全員が目を丸くする。
「大木が…学園長?どう言うこと?」
「えっとね…学校に生えている中央の大木は知っているよね?つまり学園長の正体は人間じゃなくてあの大木だったんだ。」
「大木が…?でもそれって木がテレパシーを使ってるってこと?」
突然のことで処理が追いつかないスザクは質問するも、その返答を受け入れると木が魔法によるテレパシーを使っていることになるためより訳が分からなくなる。
「テレパシーを使い、人間以上の高度な意思を持つ植物…考えるとすれば『神樹イグドラシル』しかないけどまさかあなたは…。」
「そう…私こそが学園長であり、神樹と呼ばれているイグドラシルだ。」
「学園長が…神樹イグドラシル!?」
学園長の正体はずっと何者かと思っていたが、学校の中央に生えている大木だったと言うことだけでも驚いたのに、まさかの神樹として名高いイグドラシルだったことに更に驚かされる。
「そうか…だからあの蔓から知識を得られたんだね。」
「イグドラシルならば人に知識を与えるなんてことは造作もないだろうね。」
以前にルアーネから図書館の中央の木から生えている蔓から知識を得られると聞いていたが、全ては知性を得た植物であるイグドラシルだからこそ出来る芸当だった。
「待つのじゃ。それなら今ここに生えている木がイグドラシルと言うことになるぞ。しかしながら只者ではない木だとは思っていたが、そんなだいそれた代物には見えんがのう。」
一連の経緯を考えればユグドラシルにしか出来ない芸当だろうが、保有するマナミナを見る限りではそうは思えないとユウキュウが告げる。
「私の本体は別の場所にあるのだ。君達が見ているのは私の分身であり、その分身が見たり聞いたりしたことは本体の私に集められるのだ。」
「つまりこの木はあなたの目であり耳でもあるってことですか。それならこの場にいなくてもテレパシーで色々と出来るはずですね。」
差異はあるが目の前の木はイグドラシルの一部であり、それを介して様々な情報を手に入れているようだ。
「あたしらはてっきりルアーネが学園長に色々伝えてると思ってたけど…。」
「でも何かしら関係がありそうには思えるけど。」
当初はルアーネが学園長と何かしら関係があると思っていたが、そうなると思っていた関係ではないことになる。しかし全て否定出来るかと言えばそれはノーとも言える。
「関係としては間違っていないよ…ボクは学園長に師事して貰ってるからね。」
「師事?学生…だよな?」
余韻から立ち直ったルアーネは学園長とは師弟関係にあると肯定してくるが、学生と学園長との関係は学校ではありふれた物であり師弟関係と言われてもピンと来ない。
「ルアーネ、私達も彼らのことを暴こうとして色々とやった。こちらもそれだけのことを教えないと失礼だろう。」
「そうですね。」
学園長とルアーネはお互いフランクに話せる程に親密であり、師弟関係であると言うのは間違っていないようだ。
「ボクは学園長からある物を継承して、そのことで師事を受けてるんだ。」
「継承したって…何をだ?」
「学園長としての座でしょうか?先輩は首席でしたし、学園長になれるのではと噂されていましたし。」
師弟関係にあるのは学園長からある物を受け継いだからだが、学園長直々に師事を受けると言うことは将来の学園長になるからではと考える。
「ははは、それもあり得るな。しかしそんな小さなことではないさ。」
「学園長になることが小さないのか?」
「ううん、そんなことはないよ。寧ろスゴいことだと思うけど…。」
学園長だからこそ自分の就いている役職が小さいと言えるのだろうが、他者からすればなろうと思ってもなれる物ではないだろう。
「学園長の後継じゃないとすれば…あ、それって…!?」
何かしらの心当たりに気が付いたメイナスはその答えに再び言葉を失う。
「賢者の書…あれは確か学園長が最初に手にしたけど、今は図書館の何処かにあるとは聞いていたけど…。」
メイナスが興味を示していたゴッドプレシャスの一つ賢者の書は、最初は学園長が手に入れた後に図書館の何処かにあると言う噂があった。
「そんな話あったな。けど番人のスフィンクスはないって言ってたよな。」
迷い込んだ神殿で出会ったスフィンクスは賢者の書の番人ではあったが既にないと言っていた。
「それがどうかしたの?」
「スフィンクスはこうも言ってたよ。『既に所有者がいる』って。最初は学園長がまだ所有していると思っていたけど、あれは学園長とは別に賢者の書の後継者が手にしたからだったんだ。」
「後継者だって…あ、まさか学園長に師事して貰ってるって…。」
あの神殿に賢者の書がなかったのは学園長とは別の所有者が現れたからだ。そして前の所有者であった学園長から師事を受けていると言うことは…。
「あはは…そう、ボクがゴッドプレシャスの一つ…『賢者の書』の所有者であり後継者なんだ。」
「「「ええええっ!?」」」
なんと賢者の書の所有者はルアーネであり、学園長と密接な関係なのは新旧の所有者であるからだった。
「先輩が賢者の書を?だから首席になれたんですね。」
「納得だな。全知全能が手に入るんだから学校の問題なんて屁でもない訳か。」
「あはは…そう言うこと。」
持つだけであらゆる知識や知能を得られるのだから学校のテストなんて余裕なはずだ。
「けど、賢者の書を差し引いてとルアーネ自身も相当な地頭を持つことになるよ。実際に賢者の書を手に入れようと博識で有名な数学者や賢者が手に入れようとしたけど失敗に終わったんだ。」
「え?でもあたしらは試練を突破したぞ。あたしらでも突破出来たのなら、そんなに頭の良い奴らが何で失敗するんだ。」
話を聞く限り自分達より頭が良いはずの人間達が賢者の書の試練を突破出来なかったことにスザクは首を傾げる。
「昔は賢者の書と言われるぐらいだから相当な知性を持ってないと記憶領域の試練の神殿にすら行けないとされていたんだ。」
「でも、私はそこまで頭は…。」
偶然とは言えアメジスは記憶領域の試練の神殿に辿り着いたのだが、スザクよりは頭が良いとは言え賢者と呼ばれる程ではない。
「そこが謎なんだ。賢者や数学者も頭を悩ませたはずなのにぽっと出の僕らが行けるはずがないんだ。」
これまでにも多くの者が挑んだものの、誰も試練の神殿へと赴けなかったのに自分達が行けたことが不思議で仕方なかった。
「それに失礼かもしれないけど、首席とは言えルアーネにも辿り着けるかどうか…。」
首席と賢者、どちらが賢いかと言われれば当然後者を選ぶだろう。そのためルアーネにも賢者の書が手に入れられるかどうか怪しかった。
「失礼だな。まあ、無理もないかな。ボクは元々首席どころか教養があるなんて言われるような地頭は持ってなかったしね…。」
少しプリプリした様子で頬を膨らませるも、否定はしないと言う様子で答える。
「元々ボクは…捨て子でね。教育なんてまともに受けられなかったんだ。」
「え…そんなことがあったんですか…。」
驚いたことにルアーネは教育も受けられない内に捨てられた身であったのだ。先輩と後輩と言う間柄でもそのことは知らなかったニナも再び驚かされる。
「それで彷徨う内にボクは学園長に出会ったんだ。まあ、この学園の分身の木にだけどね。」
「そうだったんだね。」
独り身となった彼女は彷徨う内にパズレインスクールへと流れ着きそこで学園長と出会ったのだと言う。
「そこでボクは賢者の書を手に入れ、今まで学校の生徒として首席になったんだ。」
「ちょっと待て!お前が賢者の書を手に入れて首席になったのは分かった!全知全能が手に入るんだから当然だろうけど、その賢者の書を手に入れた経緯を端折るなよ!」
賢者の書を手に入れたのならば首席になるのはそう難しいことではない。しかしその賢者の書をどうやって手に入れたかは謎なままだった。
「端折るなも何も…ボクは特に何もしてないよ。気が付くと目の前に本があって、それが賢者の書だったんだよ。」
「それって…試練を受けることなく手に入れたってこと?たくさんの賢者が頭を悩ませたのに…?」
手に入れれば知性だけでなく、それだけでも名誉を授かるのだ。だからこそ賢者の書は喉から手が出るほど欲しいし、欲しがる人は賢者でなくても星の数ほどいるのだ。
それなのにルアーネは幼い頃に試練を突破してもいないのに、賢者の書を無条件で手に入れていたのだ。
「そこは私から話そう。賢者の書は本来、私の身体の一部であった。と言うのも私はあらゆる植物と意思疎通が可能であり、様々な植物が集めてくれた知識や記憶を集積して制作されたのが『賢者の書』だ。」
「ってことは学園長は賢者の書の所有者であり、製作者でもあるってことですか…!?」
学園長から賢者の書の詳しい説明を受けるも、賢者の書は彼の身体…つまり神樹イグドラシルが自身の肉体から製作された代物だと言う。
しかも神樹と呼ばれるだけに様々な植物と繋がる事が可能で、そこから様々な知識や情報を集めて作り出したと言うのだから全知全能が手に入る大層な代物が出来たのだろう。
「しかし本にはあらゆる知識や知能が詰め込まれておりその許容量は膨大だ。故に手にすることが出来るのは賢者とは逆の存在である『愚者』だけだったのだ。」
「愚者?」
「要するにバカ、言い換えれば頭の悪い人だけだったんだよ。」
「えっと…それってつまり賢者の書は頭の良い人が手に入れられるのではなく、頭の悪い人が手に入れるられるってこと?」
頭を悩ませながらもスザクは学園長やルアーネの言葉を噛み砕きながら言っていることを理解しようとする。
「でも何でそうなるんだ?」
「『全知全能は無知を知らず』…とあるように膨大な知識量を与える賢者の書の力に元から賢い者やある程度の知性を得ている者には拒絶反応が働くのだ。」
確かに全知全能を与えるが普通の頭やそれこそ既に賢い頭では余りの情報量に耐えられないと言う。
「与える知識量があり過ぎて頭がパンクするってことだよ。前に図書館の勉強でスザクが蔓から知識を得ようとしておかしくなったでしょ。」
「ああ…♡あれねぇ…♡」
図書館の蔓から知識を与えて貰っていたがスザクの鳥頭では入り切らずに耳からキラキラした汁を噴出していたことがあった。そのことを思い出したスザクは涎を垂らしながらニヤニヤしていた。
「つまり当時、教養がなかったボクは皮肉にも賢者の書に一番適応力があったってこと。」
「手に入れるのにそんな絡繰があったとはのう。確かに皮肉な話じゃのう、全知全能を手に入れるのに愚か者の方が一番資質があったとはのう。」
賢者も数学者も困らせた問題を解いたのは、教養がなかった人間だったなんて思いも寄らない答えだった。
「じゃあ本から出てきたのは何でだ?」
「本はいわゆる記憶の一つ。賢者の書が記憶領域を作れる代物だから、記憶の塊である本ならば自在に出入りしたり本の中の記憶を自在にコントロールしたり出来るんだよ。」
まだ気になっていたのは本から出入りしたことだが、記憶の空間である記憶領域を作り出すことが出来る賢者の書ならば、記憶を形にしたような存在である本ならばそれくらい訳ないだろう。
「あの…このことは内緒にしてくれる?ボクの賢者の書もだけど、学園長の正体のことも…。」
「それは僕からもお願いするよ。こっちもこっちで内緒にして欲しいことがあるしお互い様にね。」
「あ…ふふふっ、そうだね。これからはお互いに内緒ね♪」
成り行きで色々と秘密が赤裸々になったものの、お互いにこのことは内緒にしようと言うことになった。
「それじゃあこれからはボクが取り持つけど、皆にはレッスンクエストを受けて貰うよ。謹慎を解いたのはそれが関係してるかな?」
「それどう言うことだよ。」
「もしかして学園長…もしくは謹慎を解くほどの内容なのかい?」
取り敢えずお互いに秘密厳守となり学園長の言葉を代弁するかのようにルアーネがクエストの話をする。しかも謹慎を解除した理由の一つともなればよほどの内容なのだろう。
「『白い死神リッチ』が目撃されたそうなんだ。」
「リッチが!?」
二つ名のバジリスクである白い死神リッチが目撃されたと聞き全員が騒然となる。
「まさかそのクエストに僕達を…?」
「そう、目撃された場所は『デザードライキャニオン』。砂漠と渓谷のダンジョンだよ。」
リッチの目撃場所は砂漠と渓谷のダンジョン、デザードライキャニオンだと言う。




