スフィンクスはイジワルが好き
「ってて…ここが次のステージか?」
「今度は石像が大きなのが一つだけあるね。」
再び痛む身体を擦って見回すと、神殿の中は変わらないが、今度の石像は大きなのが一つあるだけだった。
「またマンティコアの石像?」
「それにしてはさっきよりも迫力があるような…。」
その石像は神殿のような空間で最初に見かけた人面獅子のモンスター『マンティコア』によく似ていたが、ただでさえ厳つい顔に立派な髭を生やし、まるで閻魔の形相のようになっていて雰囲気が段違いであった。
『マンティコアだと〜?』
「え?今のは…誰が…?」
マンティコアと似ていると言ったら不機嫌な唸り声が聞こえてきた。少なくともミエナ達の誰かが言ったとは思えない、これまた厳つく野太い声だった。
『貴様らぁ!言うに事欠いて我のことを、礼節を弁えないマンティコアと一緒にしたなぁ!』
「ぎゃあ!?石像が喋って動いて怒られた!?」
目の前の石像がただでさえ迫力のある顔に更に眉間にしわを寄せ、寝そべっていた身体を起こして怒りを露わにする。
「そうか…このモンスターの石像はマンティコアの上位種のスフィンクスか!」
『如何にも!我は誇り高きスフィンクス族の一人である!マンティコアと一緒にするなど言語道断だ!』
「す…すみません〜!?」
姿形は似ているが上位種のモンスターであり、それを誇りに思っているのかマンティコアと同列にされたことを怒っているようだ。
『それでお前達は何者だ!ここで何をしている!』
彼からすれば石像になって寝ていたら、知らなかったとは言えスフィンクスのプライドを穢すようなこと言ってしまったために不機嫌になっていた。
「偉そうにしやがって、あたしらだってここが何なのか分からずにここまで来たんだぞ。」
血の気が多いレイラからすればいきなり見知らぬ空間にいて、訳も分からずクイズを解いたり敵と戦ったりして、その上でこのエリアで一番偉そうな相手から『何をしている』と言われて不機嫌になる。
『何?知らないだと?』
「そもそもここへ何故来たのかも分からないんだよ。ここは一体なんなんだ?」
『ふん、まあ良い…寧ろ知らないのにここまで来れたことも含めれば教えるに値するだろう。』
スザクの純粋な質問とこれまでの試練を潜り抜けたことを考えれば、特別に教えてやろうとスフィンクスは質疑応答してくれる。
『ここはゴッドプレシャスの一つ『賢者の書』が作り出したメモリーズワールドだ。』
「…やっぱりここは賢者の書に何か関係がある場所なんだろうけど記憶領域って?」
図書館で聞いた賢者の書と関連性があるとは思っていたが、これまた聞き慣れない単語を耳にして首を傾げる。
『左様、記憶領域は賢者の書の中にある、書き記された記録や保存された記憶元に、空間錬金術によって生み出された亜空間だ。』
「つまり記憶を元に作り出した不思議な空間ってことかな。」
賢者と名がつくだけあって、作り出す空間もかなり特殊で知性がないと理解出来そうになかった。
「記憶…ってことはあのティコティコラも私の記憶を元に?」
「なるほどのう…腑に落ちたわい。」
かなりスケールが大きくて理解が追いつかなかったが、自分達の記憶を使って先程の敵を生み出したのなら納得のいく話だった。
「これまでの変な空間はそれで説明が付くが、あたしらをここへ呼んだ理由はなんなんだ?」
『まだ分からんのか、愚か者めが。』
「ああ!?んだと!?」
この神殿の空間の正体は分かったとして、問題は自分達が何故ここにいるのかと質問するとスフィンクスから罵倒されてしまう。
『賢者の書の力によって作られた空間に貴様らがいること事態が答えだ。そのことに気付かんようでは愚か者と呼ばれてもおかしくなかろう。』
「え〜、それがどうしたってんだよ?」
『愚か者め…。』
この中では一番勉強が出来ないスザクが口を尖らせて理解出来ないと言うと、さすがのスフィンクスも呆れたように前脚で顔を覆う。
『ここは賢者の書を手にするに値するかどうかを見定めるための空間だ。これまでの試練もそのための物だ。』
「ってことは私達は賢者の書を手にするための試練を受けていたってこと?」
『その通りだ。ここまで来たと言うのに何と頭の悪い連中だ…。』
これまでの試練は全て賢者の書を手にするための物であり、自分達は知らず知らずの内にここまで来てしまっていたようだ。
「じゃあ…つかぬことを聞きますが僕らには手に入れる資格はあるのですか?」
『それは我が見定める!我こそは賢者の書の最後の番人にして試練を与える者だ!』
メイナスの質問を待っていたように芝居掛かったように決め台詞を吠える。どうやらこのスフィンクスこそが最後の関門のようだ。
「紆余曲折あったけど、賢者の書をいよいよ拝めるんだね。」
「確かに気になりはするのう…キュホホホ。」
なんだかんだで最後の試練まで来たが、貴重な賢者の書が見れるとなれば冒険者としても誉れ高いだろう。
「次は何をすれば良いの?」
『最後の試練は至って単純だ。我の出すクイズに答えれれば賢者の書はくれてやろう。』
最後に課されたのはクイズだった。最初のマンティコアの石像にもナゾナゾはあったが、似たような内容だなんて言ったら機嫌を損ねそうだった。
『因みに…マンティコアの石像の試練とは異なり、ミスをするとお仕置きをするから心して掛かるが良い。』
ところが今度はお互いに取っては重要なことを説明するために、敢えてマンティコアの石像のことを引き合いに出す。
「お仕置き…って何をするんですか!?」
『ふ…ぐふふふ…それは間違ってからのお楽しみだぁ…!』
スフィンクスに取ってはよほど嬉しい内容なのか、不気味な笑い声を出してニナ達を舐め回すように見下ろしていた。
『では、早速始めるとしようか。第一問!通常は三本脚か四本脚だが、二本脚になると途端に弱くなる者は何だ!』
「ここは僕が答えるよ。」
早速スフィンクスの問題を解こうとメイナスが答えようと前に出る。
「答えは『椅子』だ!椅子は四本脚か三本脚だけど、脚の数がそれ以下になると弱くなってしまう!」
これまでのことで頭が鍛えられたメイナスは真っ先に答えが『椅子』であると自信満々に答えるのだった。
『……。』
「真っ先に答えられたから言葉も出ないのか?」
メイナスの自信満々の答えを聞いて、スフィンクスは開いた口が塞がらないと言う様子にレイラは得意気になる。
『…バーカ♪アーホ♪クソマヌケー♪椅子だって?バッカじゃねぇのー!』
「ええっ…。」
ところが途端にスフィンクスは威厳ある雰囲気から一転して、無知な子供のようにメイナスをこれでもかとバカにしてくる。
『正解は貴様ら無知でひ弱な『人間』でしたー!』
「はあ?何でそうなるんだよ?」
バカにした後でスフィンクスは正解が椅子ではなく人間だと答えるのだった。何でそんな答えになるのかレイラは一応意味を聞いてみることにした。
『三本脚は杖をついた人間、だから経験上では強い!四本脚は獣化などで肉体を強化するため肉体的には強いとなる!しかしそれ以下の本数だとそれと比べると基本的に弱いことになるのだ!』
「そんな解釈ってあり!?四本脚は普通は赤ちゃんとかでしょ!?」
よく聞くナゾナゾで人間は三本脚なら老人だが、四本脚となると赤ちゃんとなるのに、そんなのスフィンクスの独自の解釈だとメイナスは反論する。
『だからクソマヌケだってんだよ!赤ちゃんなら基本的には親に守られて普通は強いだろうが!そんなことも分からんのか?バーカめ♪』
「うわ…スッゴい貶してくる…。」
あっかんべーと言わんばかりに独自の解釈を混じえた解説をするスフィンクス。
『それでは…お仕置きスフィンクス!』
「ぐえっ!?何で上から金ダライが…!?」
どんなお仕置きが来るかと身構えていたら、洗濯などで使う金ダライが上から降ってきてメイナスの頭部に直撃する。
『ぎゃははは!バーカ♪アーホ♪クソマヌケー♪』
「こいつ本当に賢者の書の番人か?」
お仕置きを受けて痛がるメイナスをバカ笑いをするスフィンクスは、全知全能の知性を手に入れられる賢者の書を守っているようには思えなかった。
『では次の問題だ!Sランクモンスターのクラーケン!そいつの触手は合計何本ある!』
「クラーケンの触手ですか?えっと…蛸さんと同じですから八本ですか?」
今度はクラーケンの触手の数を言い当てる問題なのだが、蛸と同じ姿であるため八本だとニナが答える。
『…バーカ♪アーホ♪クソマヌケー♪ハズレだ!』
「ふええっ!?八本じゃないんですか!?」
ところが不正解だったらしく、メイナスの時のようにニナのことも滅茶苦茶に貶す。
『答えは『無制限』!』
「はあっ!?そんなこと出来るのかよ!?」
『クラーケンは場合によっては触手を枝分かれさせることが出来るのだぞ!そんな事も知らないのか戯け者め!』
「分かりませんよ〜!?」
本数を当てるはずがまさかの決まった本数がないと言う答えに文句の一つだって言いたくもなる。
『とにかくお仕置きスフィンクス!』
「にゃあ!?何ですかこれは!?」
「クラーケンの触手じゃな…。」
次のお仕置きはクラーケンの問題だったために、地面の魔法陣からクラーケンの足が伸びてきて、ニナの小柄な身体に絡みついて捕らえてくる。
「ひにゃあ〜!?や…止め…にゃははは!?す…吸い付いて…く…くすぐった…!?」
触手からチュプチュプと嫌らしい音が聞こえてくる。クラーケンの触手にズラリと並んだ吸盤が、彼女の小柄な身体に甘く吸い付いてくるのだ。
触手が巻き付いているため幾ら身体を捩っても逃げることは出来ず、触手にされるがままに吸盤のキス攻撃を受けることとなった。
「はあ…はあ…ヌルヌルですぅ…。」
『うははは!良いものを見れたわい!』
身体に吸盤跡が残るまで吸い付かれ、粘液塗れになってしまったニナは何処か色っぽくスフィンクスも大喜びだった。
「この変態スフィンクスが…。」
『お仕置きスフィンクス!』
「ぎゃあああ!?な…何すんだぁ!?」
レイラの悪態にムッとなったスフィンクスは再びクラーケンの触手を召喚して彼女を襲うのだった。
『バカでアホな人間の悪口なんかどうでも良いが…変態と言うのならとことんやってやろうじゃねぇか!』
「どうでも良くねぇからこんなことしてんだろうが!?うひいっ!?止めろ!?服を脱がすなぁ!?」
クラーケンの触手はレイラの四肢に絡みついて動きを封じ、その後で服の隙間や下着の下に触手を滑り込ませては引き剥がそうとしていた。
「氷魔法『アイス』・ウェーブ!」
「サンキュー、アメジス!ふん!!」
触手はアメジスの氷魔法で凍らされて固まり、その間にレイラが力任せに引き剥がすのだった。
『ふん、まあ良い…後でじっくり辱め…お仕置きしてくれるわ!』
「おい!今辱めるって…」
「レイラ、もう止めなよ。また酷い目に遭うよ?」
中断されたことにスフィンクスは怪訝な顔をし、レイラも気に食わない様子で服を直すも気を取り直してクイズの続きをすることとなる。
『次の問題!二つ名のバジリスク『白い死神リッチ』は死んでいるか?生きているか?どちらだ?」
今度は暫くの間、世間を騒がせていた白いバジリスクが存命かどうかを問題として訊ねられる。
「ええ…そんなのって…死んでるんじゃない?」
「そうだよね。」
アンロスの街で見つけた蛇の骸骨はリッチの成れの果てのはずだ。それなのに生きているか死んでいるかなんて明らかだった。
『…バーカ♪アーホ♪クソマヌケー♪ハズレだ戯け者がぁ!』
「ええっ!?何でぇ!?アンロスの街でリッチの骸骨があったのに!?」
なんとこれは自信持って正解だと思っていたのに、見事にハズレだったことにミエナは耳を疑い、そちらが間違いではないのかと理由も添えて聞き返す。
『だが、『死んでいない』のが正解だ。これはどうあっても覆せん!』
「リッチが死んでいない…?」
単純にお仕置きをしたいがためにスフィンクスが出鱈目な答えを言っているのではと思っていたが、厳つい顔付きで答えは間違っていないと答えるためメイナスも怪訝な顔をしてしまう。
『とにかくお仕置きスフィンクス!』
「え…雲?」
「それはまさか…。」
魔法陣から黒い雲のような物が出現し、メイナスが警告する間もなくミエナに近付いてくる。
『『『ピキキキ!』』』
「ほきゃああああ!?」
「やっぱりカミナリクラゲだったね。」
すると稲妻のような形の触手が伸びてきてミエナの肉付きがありつつも靭やかな手足と、色っぽい胸とお尻に絡みつき電撃を流してくる。
「しいいいびいいいれえええるるるる!?」
ビリビリと電撃が身体に流れる度にミエナの身体はビクンビクンと震え、その度に触手が彼女の柔らかい身体を締め上げ電圧を上げて更にビクンビクンとさせる。
「あふぇ…酷いよぉ…。」
「お前も今日は災難だな。」
ひとしきり痺れさせた後にカミナリクラゲ達は消滅し、ミエナは身体をビクンビクンさせながら黒焦げになっていた。
「ねぇ、さっきのリッチは今も生きているって…。」
『さあ、次の問題だ!』
メイナスの質問に聞く耳を持たずにスフィンクスは次の問題を出題する。
『パンはパンでも食べられないパンは…』
「フライパン!」
これはよくあるクイズなため全部聞かずとも答えられるとアメジスが真っ先に答えた。
『…答えは『フライパン』…』
「わあ…!」
これにはスフィンクスも正解と言わざるを得ないためアメジスもパッと顔が明るくなる。
『…ですが、二つあると恥ずかしい物になるパンは何だ!』
「ええっ!?」
ところが答えかと思っていたら、その先にも問題があってお手つきしてしまったアメジスは思わずズッコケる。
『バーカ♪アーホ♪クソマヌケー♪答えは『パンツ』だ!問題を最後まで聞かずにお手つきとは愚か者めが!』
「そ…そんなぁ…。」
結局、アメジスまでもが不正解となってしまいどんなお仕置きが来るのか身構える。
『問題の意味をその身で受けよ!お仕置きスフィンクス!』
「え…きゃ…きゃああああ!?」
ビリリと布が裂ける音がしたと思ったら、アメジスの衣服と小さな膨らみかけの果実を納める下着が布切れになり、淡い水色のパンツだけになったアメジスは慌てて蹲る。
『ぎゃははは!ここまで全問不正解とはよくここまで来れたものだぜ!』
「くっそ〜!おい、もう賢者の書なんていらねぇからあたしらをここから出せ!」
ここまで虚仮にされて堪忍袋の緒が切れたレイラは賢者の書のことは諦めるから、元の場所へ返せとスフィンクスに要求する。
『何を言っている?この空間は試練を全てクリアしないと消滅しない…つまり我の問を正解しないと貴様らは永遠に出られないのだ!』
「何だって!?」
ところがここまで道のりを種明かしされてしまった以上タダでは帰す気はないらしく、このまま正解出来なれば永遠にこの空間に閉じ込められると言う。
「そんな…。」
『うはははは!我の問題とお仕置きはまだまだあるぞ!さあ、次は誰だ!?』
絶望的な様子になるアメジス達を見て、スフィンクスは高笑いしながら次の回答者を待ち望む。
「お仕置きはまだあるだって…?」
『そうとも、今度はどんなお仕置きをしてやろうかなぁ?』
問題を出すと言うよりも回答を間違えてお仕置きされる様子を見るのが楽しみなスフィンクス。
「お仕置き…お仕置きかぁ…えへへ…♡」
しかしスフィンクス以上にお仕置きを楽しみにしている人物がいた。そう、不死鳥少女のスザクであった。




