アンデッドは安らかに眠れない
『『『アアアア…!』』』
「うわわ…いつの間にかアンデッドがいっぱいいるよ〜!?」
アンロスの街に入ってしまったミエナ達は通り道であるアナジゴクの巣穴に戻ろうとするが、既にアンデッド達がいて通れそうになかった。
「こいつらはモンスターなのか?」
「ううん、正確には元人間だよ。アンデッドは死んだ人間が何かしらの方法で、肉体だけが動いているんだよ。」
アンデッドは厳密にはモンスターと言うよりも何かしらの方法で動く人間の死体であるため、人を傷つけないように教わったスザクも死人とは言え迂闊に手が出せないでいた。
「ど…どうしますか…!?」
「皆、目を瞑って!」
徐々に詰め寄って来るアンデッドに追い詰められるが、前に飛び出たミエナが口早に警告する。
「光魔法『フラッシュ』・ウェーブ!」
『『『『アアアア…!?』』』
ミエナの身体が太陽光のように眩しく発光し、アンデッド達は一斉に目を逸らす。
「今の内に巣穴に…!」
光に怯んだアンデッド達を抜けてアナジゴクの巣穴に飛び込もうとするが、上空に怪しい影が舞い降りる。
『ケケケケ…!』
「ひええっ!?」
「嘘でしょ!?ラウイちゃん!?」
空から不気味なハゲワシのようなモンスターが舞い降りてラウイを鉤爪で掴んで空へと連れ去って行く。
「あれは…スカゲラス!死体を漁るモンスターだよ!」
「助けてぇ〜!?」
「ラウイ!?」
スカゲラスを追うようにスザクは腕に炎の翼を出して空へと飛び立つ。
『ケケケケ…!』
「わっ!何だ!?」
スカゲラスは羽にクチバシを入れて、ゴソゴソと探ると骨を取り出して投げつけてくる。
「うっ!?何だ!?」
今度は頭蓋骨が投げられるのだが、見事に頭に嵌ってしまいさすがのスザクも追跡不可能になる。
「う〜!?見事に頭に嵌ってる〜!?」
「あう…あう…♡これもこれで…♡」
ミエナとアメジスが嵌った頭蓋骨を掴んで引っ張るも、スザクは締め付けられる感触に幸せそうだった。
『『『アアアア…!』』』
「うわっ!今は何処かに…!?」
ところがその間に目眩ましから復活したアンデッド達が再び集まって来るのが見えて、ミエナとアメジスはスザクの手を引いて建物の中に飛び込む。
『『『アアアア…?』』』
死体であるがため脳すら腐敗しているアンデッド達は、アメジス達の姿が目の前から見えなくなっただけでそれ以上の追跡を止めて辺りを徘徊する。
「はあ、はあ、何だか大変なことになっちゃったね…。」
「皆、散り散りになっちゃった…。」
建物の中に隠れたものの、最初はニナが連れ去られ、その次にメイナス達とハグレてしまい、そしてラウイはスカゲラスに攫われてしまい次第にバラバラになっていく。
「なあ、さっきミエナが光魔法を使ったらアンデッドが怯んでたけど何でなんだ?」
「アンデッドを動かすには闇のエレメントからなるジョブズ、『ファントム』を使うの。だから光魔法には基本的には弱いのよ。」
目眩ましはもちろんだがアンデッドを生み出すには闇のエレメントが使われるため、その真逆の性質を持つ光のエレメントには弱いのだ。
「『ファントム』を使えるのは死霊使いや黒魔術師と言った魂を操ることが出来る人達だけなんだけど…あのアンデッドもそうなのかな…。」
ジョブズは特定の役職を持つ人間が扱うスキルや魔法のことであり、『ファントム』は死霊や魂を操ることが出来る特殊な人間だけになるはずだ。
「どっちにしてもラウイちゃんとニナちゃんを助けないと…。」
「そうだな。でも、どっちから助けるんだ?」
今はそんなことよりも攫われたニナとラウイの救助が先だとアメジスは口にし、それに賛同したスザクはどちらから助けるのかと訊ねる。
「スカゲラスに攫われたラウイちゃんから助けよう。まだそう遠くには行ってないはずだし、場所も特定がしやすいかも…。」
「だったら…よっと!…あたしが空を飛んで探してくるよ!」
まだ攫われて時間が経過していないラウイを探すことにし、スザクは頭蓋骨を何とか取り外して再び空を飛んで探すことにする。
「スカゲラスは高い所に巣を作るらしいから、高い所を探して!私達も後で何とか追いつくから!」
「気を付けてな!」
スザクはラウイが連れて行かれたであろうスカゲラスの巣を探しに空へと飛び立ち、アメジスとミエナは地上の別ルートから追いかけることにする。
『アアアア…。』
地面から出てきたアンデッド達は獲物を見失ったことで意味もなく徘徊を続けていた。
「今だよ。」
「それ!?」
『アアアア…?』
視線が逸れたのを確認してから建物から建物へと身を隠しながら進んで行くアメジスとミエナ。
「アンデッドって割とそこまで鋭くはないんだね。」
「元々は死体だから元の人間の魂や記憶はないんだよ。『ファントム』による人工の魂が動力源で肉体を意地すると言う本能で他の生き物の肉体とマナミナを摂取しようとするんだよ。」
入っているのは人工の魂であり、アンデッドはただ本能的に動くだけのため、下手に姿を見せない限りはバレないようだ。
「とにかく慎重に…ひっ!?」
「あの矢から音が…。」
すると甲高い音が空中に鳴り響き、思わず驚いた声を発してしまうアメジス。空を見てみると鏃が楕円形になっている矢が宙を舞っていたのだ。
『『『アアアア…!』』』
「って、ヤバい!?今ので気付かれた!?」
音が鳴ったことで思わず空を注視してしまうが、それに注視していたのはアメジスとミエナだけでなく徘徊していたアンデッド達もだった。
アンデッド達は空を注視した後に、探していた新鮮な肉と芳醇なマナミナを持つミエナとアメジスの存在を確認した途端に我先にと迫ってくる。
「水魔法『ウォーター』・ウェーブ!」
杖を向けて水魔法による水流を波のように放ってアンデッド達の動きを遅くさせる。
「そして…氷魔法『フリーズ』・ウェーブ!」
更にその水流を氷魔法で凍らせてアンデッド達の動きを完全に封じ込める。
『『『アアアア…!?』』』
「スゴいね、アメジスちゃん!二つのエレメントを付与した魔法をああもう素早く切り替えて使うなんて!」
凍らされたアンデッド達は走り去っていくアメジスとミエナに向かって、追い縋るように手を伸ばすも彼女達の姿は小さくなっていく。
『タ…タスケテ…。』
かなり離れたため彼女達には聞こえなかったが、アンデッドの口から確かに助けを求める声が発せられたのだ。
「高い所かぁ…結構あるなぁ。」
その頃スザクはアメジスから聞いた巣の情報を頼りに空を飛び回るが、見張り台や塔などが背の高い建築物が多くあり中々見つけられなかった。
「おかしいな…結構探したのに巣が全然ないや。」
結構な高所を飛んで探し回ったが、鳥の巣らしき物は見つからず、手頃な場所に止まって辺りを見回しながら頭を掻いていた。
「うわっ!?」
背中に何かぶつかったと思えば両手を挟み込み、ただでさえ柔らかく大きな胸が寄せ上げられる形で長い物が巻き付いてくる。
「な…何だこれは…。」
突然のことでバランスを崩し、地面に落ちてしまったスザクは何が起きたか分からず困惑していた。
「ううん…結構、ギュウギュウに締めてぇ…♡」
心なしか巻き付いているロープは特殊な作りなのか、スザクの身体を更に締め上げてくる。それも単に巻き付くだけでなく、甘美な声を出す彼女の柔らかい身体をヘビのように這い回り亀甲縛りになっていく。
「へへっ、先遣隊がミスってくれたお陰で俺らみたいな者にもチャンスが来たってもんだぜ。おい、早くあれを…。」
「分かってる。『スリープ』!」
「あうん…んん…♡」
恐らくロープを投げた張本人達なのか、縛られながらもモジモジしているスザクを特殊な魔法で眠らせる。しかし眠りながらもスザクは顔を赤らめながら喘ぎ声を出していた。
「しかし渡すのが惜しいほどに良い身体の女だなぁ…あの獣人娘なんかよりもこっちの方が…。」
「ああ、唆るぜぇ…。」
彼らは亀甲縛りをされ快感の余韻に浸るスザクの魅惑的な身体を見ながら下品な笑みを浮かべていた。チャンスがあればスザクの身体を弄んで慰みものにするのだろう。
「おい、余計なことを考えるな。賞金を手に入れるためにこんな危険な所まで来てんだろうが。」
リーダー格の男がそれを止め、当初の目的であるスザクの賞金を手に入れるために縛られた彼女を隠していた馬車に載せる。
賞金が目当てで動く人物と言えば当て嵌まるのは一つしかない。そう、彼らはバウンティハンターだったのだ。
「もう!何なのよ〜!?」
『『『アアアア…!』』』
スザクはピンチに陥っていたがアメジスとミエナも再びアンデッドに追いかけ回されてピンチになっていた。
「さっきから空から音が…その度にアンデッドが追いかけてくる!?」
と言うのも音の鳴る矢が何度も連射され、その音でアンデッド達は呼び寄せられているののだ。その度に二人は逃げ回るしかなかったのだが、こちらが逃げる先々で必ずと言っていいほどに矢が放たれるのだ。
「矢で音を出して、私達の位置をアンデッドに教えてるのかも…。」
「私達以外に誰がそんなことをするの?」
明らかにこれは人為的な誘導だが、アンデッドにこんなことが出来るとは思えないし、やるとしても自分達以外の誰かがやらないと不可能だ。
「まさかこれは…。」
「うん、ニナちゃんを攫った人達の仕業かも…。」
考えられるのは一つ、ニナを連れ去った獣人隷属贔屓の人間達が後を追いかけて来たアメジス達を排除しようとアンデッド達を利用していることだった。
「ここは…アメジスちゃん、とにかく今は姿を消さないと。光魔法『フラッシュ』!」
逃げる先々で矢を使っていると言うことは離れた位置からこちらを把握していることになるため、ミエナは光魔法による閃光でアンデッドだけでなく遠くから様子を見ているであろう射手の目を眩ませる。
「後はここから…きゃっ!?」
『アアアア…!』
相手の視力が回復する前に走り出そうとするが、足元からアンデッドの腕が飛び出しミエナは足を掴まれて転んでしまう。
「ミエナちゃん!?この!?離して!?」
杖で殴ってアンデッドの手を振り解こうとするが中々離してくれない。
『アアアア…!』
「きゃあ!?」
そうこうしてる間に視力が回復した他のアンデッド達が近寄って腕を鷲掴みにし、更に群がって足や頭やらを掴んで動きを封じ込めてくる。
「アメジスちゃん!?こうなったら…それ!?」
このままでは危険だと判断したミエナは深く息を吐くとその姿が一瞬にして消えてしまう。
『アアアア…?』
地中からミエナの足を掴んでいたアンデッドが顔を出すも、目の前にはミエナが着ていた服が落ちているだけで、その手には掴んだはずのミエナの足首しかなかったのだ。
「い…いい加減に離してよエッチ?!」
『アアアア!?』
姿は見えないがミエナの上擦った声がすると同時にアンデッドの顎に衝撃が走り、掴んでいた足首を放してしまう。
『『『アアアア…!』』』
「いやぁ~!?止めてぇ〜!?」
アンデッド達からすればアメジスは久方ぶりのご馳走であり、我先にと涎を垂らしながら齧りつこうとする。
「アメジスちゃんから…離れてよ!」
ミエナの声が聞こえたと思えば荷車が独りでに動いてアンデッド達を撥ね飛ばして行く。
「荷車?どうして…。」
「アメジスちゃん、こっちだよ!」
助かったアメジスは目の前の荷車が勝手に動いて助けてくれたことに唖然としていると、今度は勝手にアメジスの左腕が動いて何処かへと連れて行こうとする。
「え?え?」
「大丈夫!私だよ!」
勝手に動いたかと思えば今度はミエナの声が聞こえ何処かに引っ張ろうとしていく。何が起きているか分からずアメジスも困惑してしまう。
「あ、その前に私の服…!」
左腕からハッとなったミエナの声が聞こえて、散乱した衣服を回収しようとする。
『『『アアアア…!』』』
「って、ちょっと私の服に何してるの!?」
しかしアンデッド達がミエナの衣服に残るマナミナと彼女の残り香を求めて群がり回収は不可能となる。
「やだも〜!?エッチ〜!?」
相手がアンデッドとは言え、傍から見れば女子の衣服の匂いを嗅いでいる変態にしか見えなかった。
「えっと…もしかしてミエナちゃん?なの?」
「あっ、そうだ。今は隠れないと!急ごう!」
アメジスは自身の左腕が勝手に動き、ミエナの声が聞こえてくることから彼女の仕業だと察するのだが今はそれどころではないと左腕が引かれるのだった。
『『『アアアア…。』』』
ひとしきり匂いを嗅いで満足したのか、再びミエナとアメジスを睨むも既に目の前から姿を消しており、興味を失くしたようにアンデッド達は再び意味もなく徘徊する。
「夢中で逃げてたけど、ここは何処だろう…。」
気が付くと二人は再び廃屋の中へと退避しており、がむしゃらに逃げたために現在地が分からなかった。
「それよりもミエナちゃん…姿は見えないけど、あなたは一体…。」
しかしながら一つだけ分かったことがある。それはミエナが何ら普通の人間ではないと言うことだった。
「そうだね…話さないといけないけど、あんまり驚かないでね。」
特徴的であるサイドテールに纏めたショートヘアーと元気で活発そうな顔がうっすらと徐々に見えてくる。
「あのね、実は…。」
しかし浮かび上がった途端に、深刻な事情があるのかすぐに神妙な面持ちに変わっていく。
「ミエナちゃん…服は…?」
「あ…ひゃあん!?」
しかしそれと同時にミエナのスザクにも負けない程の大きく柔らかそうな胸とヒップライン、それに対してボディラインは細く、何処かキュートなおヘソやその下の秘密の場所まで丸見えだった。
衣服はアンデッド達がいた所に置いてきてしまったため、今の彼女は生まれたままの姿であり神妙な面持ちはすぐに羞恥に変わっていきその場に蹲る。
「ううっ…服がないから…ちょっと待ってて。」
「うん…。」
見せたくないところまで見せてしまったと、恥ずかしさでいっぱいになり涙目になりながらもミエナは何かしらの調整をし、アメジスを気を利かせて後ろを向く。
「ゴメンね…恥ずかしいからこれで…。」
「うわ…身体は見えなくなったけどこれは…。」
声を掛けられて振り返ったアメジスだが思わず引いてしまう。と言うのも今度は首から下が全く見えなくなり、生首が宙を浮いているようにしか見えなかった。
「それにしても…その姿って、もしかして透明化してるの?」
これまでのことを考えればミエナには透明化の能力があるのではと質問してみる。
「半分当たり。これね…私の『ゴッドプレシャス』なの。」
「え…『ゴッドプレシャス』…?」
『透明化』なんて魔法やスキルの中でも早々お目にかかれない能力だとは思っていたが、まさかの神の領域にも匹敵するとされるゴッドプレシャスだったと聞いて唖然となる。
「『ファントムハート』って言うゴッドプレシャスで、私は身体をゴーストみたいにすることが出来るの。」
「ゴーストに?」
つまりは説明を聞く限り幽霊のように透明になることはもちろん、物質をすり抜けることが出来ると言うことだ。
「この力は基本的に意識しなくても発動できるんだけど、姿が見えるようにするには意識するか何か身に着けてないとダメなの。」
「じゃあ、さっきのは…。」
「服が重なってる部分は無意識に透明化するんだけど、いつもの感じで姿を見せたから…。」
このゴッドプレシャスは無意識下でも発動するらしく、服を着ていればその部分は自然と透明化するらしく、先程はそのつもりで姿を現したために恥をかいたのだ。
「それとこの姿なら物をすり抜けたり、触るのは自由なのよ。」
ミエナは頭を建物の壁に近付けてそのまま髪と頭が触れるかと思えば、そのまま壁を煙のようにすり抜けてしまうのだった。
「ほ…本当にすり抜けた…!」
「面白いでしょ!」
「でも、何でゴッドプレシャスを…。」
透明化だけでも驚いたのに壁をすり抜けるなんて驚きの連続だった。しかし、気になるのはそのゴッドプレシャスを何故彼女が持っているかだった。
「…それは色々あって…。」
「あ…話したくないならそれで良いよ。助けてくれたし私も秘密にしてあげるよ。」
「ありがとう…。」
何やら話したくない事情があるのかミエナは口籠ってしまう。それを見たアメジスも無理には聞き出そうとはしなかった。
(スザクちゃんのこともあるし…知っている人間は少ない方が良いよね。)
親友のスザクがフェニックスの力を持つようにミエナにも事情があるだろうし、何よりもゴッドプレシャスを狙う人間だっているため秘密にしておいた方が良いと判断した。
「ところで服とかないかな?秘密にしてくれるならこのままってのは…。」
見えないが恥ずかしそうに身体を隠す素振りをしているミエナ。今思えば透明化しているとは言えその身体は一糸纏わぬ姿だったのだ。
「あ、そっか。見たところここは家みたいだし、まだ使える服があれば良いんだけど…。」
秘密にするつもりではいたが、これでは透明になっているのに丸見えであり衣服らしき物がないか探し回る。
「けほ、けほ…朽ちてる…。」
手始めにクローゼットを開けて手に取ってみるがどれもこれもかなり時間が経過しているのか、触れた途端にあっという間に朽ちてしまう。
「う〜ん、こうなったらこの毛布を…。」
ミエナも探し回っている内に古びた毛布を見つけ、それで身体を覆ってみる。
「いや〜…!?ゴワゴワしてて埃っぽい〜!?」
長年使われなかったために埃がいっぱいであり、肌に触れるだけで埃や塵などの不快な感触が全身を包み込み、一時的にミエナの透明な身体の輪郭が浮き上がる。
「あ、これなんてどう?」
「白衣?」
アメジスが見つけたのは予備として用意されていたのか袋に入れてあった白衣だった。袋は埃を被っていたが中身はまだ新品で着れそうだった。
「う〜ん…どうかな?」
袋から白衣を出して着てみるとミエナの姿は見えるようになるが、白衣は上半身しか入っておらず裸ワイシャツみたいな見た目になってしまう。
「少しパツパツだけど…。」
しかもサイズはピッタリなのだが豊満な果実は育ち過ぎらしく、フルーツキャップに締め付けられるかのようにその部分だけは今にもはち切れそうだった。
(こ…これは…スザクちゃんに服を着せた時みたい…スザクちゃんがもしもそれを着ていたら…。)
思わずその姿にアメジスも過去のことを思い出すと同時に、スザクが裸ワイシャツならぬ裸白衣の姿をしたらと妄想すると思わずドキドキしてしまう。
「とにかく服はそれしかないし…少し休んだらまた探してみよう。」
「そうだね。」
探し物が増えてしまったが取り敢えずは何とかなり、散々アンデッドから逃げ回ったためヘトヘトになってベッドに腰掛ける二人。
しかしその直後に何かのスイッチがカチリと言う音が入り、ベッドが固定されている床がスライドしていく。
「な…なにこれ…。」
「地下通路?」
飛び上がって振り返ってみると、ベッドの床の下には地下へと続く階段があり何処かへと降りられるようだった。
「地下の収納スペースかな。」
「でも何でこんな隠すように…?」
光魔法で辺りを照らしながら階段を降りていく二人。単なる収納スペースにしては秘密厳守がよく伝わってくるような雰囲気だった。
「今度はガラクタがいっぱいあるわね。」
階段を降り終えると何処かの部屋のようだが、周りのテーブルには何に使うかよく分からない道具がたくさん置かれていた。
「これって魔法薬や魔道具?」
その道具の中にはメイナスがよく使う魔法薬や、それを作るのに使われる魔道具などが見受けられる。
「これはベッド?にしてはなんか硬いし、変なのが付いているわね。」
ベッドらしき台座があるのだが、手と足が置かれる場所には固定具のような物が取り付けられていた。
「あとは…え?」
他に何かないと探しているとアメジスは奥にある物を見て硬直してしまう。
「どうし…え、これって…。」
ミエナもアメジスが見たものを直視して硬直した。目の前には炎の猛禽類のような翼に、クジャクのような身体と鮮やかな炎の尾羽根、そしてカンムリワシのような頭部と炎の鶏冠を持つ生き物がいたのだ。
「これって…フェニックス…?」
目の前にいたのは不老不死の象徴である幻の炎の鳥であるフェニックスであった。
「って、これはフェニックスの絵?」
ところが目の前のフェニックスは本物ではなく絵画だったのだ。
「びっくりしたぁ…何でこんなところに…。」
「まあ、さすがに本物がいる訳がないわよね。」
アメジスからすればラウイを探しているはずのスザクがどうしてここにいるのか驚いたのだが、ミエナからすれば本物のフェニックスがいることに驚いていた。
「こんな立派な絵画を地下に隠すなんて…家宝にしてるつもりだったのかな。」
フェニックスを始め、ドラゴンやその他の人から畏れられるモンスター達は絶大な力や存在の象徴として絵画や彫刻として残されている。
この絵画もその一つなのだろうが、飾らずに地下に仕舞っておくなんてよほど大事にしていたのだろうか。
「ん…これは?」
絵画の目の前にはドーム状のショーウィンドウがあるのだが、中には古く重そうな本が大事そうに保管されていたのだ。
「開かない…。」
「ちょっと待ってて、私なら…!」
腕試しするかのように舌を出しながらミエナはショーウィンドウに手を伸ばす。すると手はガラスをすり抜けていき、そのまま本を鷲掴みにしたのだった。
「ほら、取れたよ!」
「スゴいね!」
ショーウィンドウなんてあってないが如く本を取ってみせたミエナ。余りの手腕に恐ろしくなるが、その直後にブチリと言う音がしたことに二人は気が付かない。
「なんて書いてあるの?」
「う〜ん…よく分からない文字で書いてある…私じゃ解読は…。」
暫くページを捲ってみるも解読は出来ないらしくお手上げと言った状態だった。
「メイナス兄さんに聞いてみない…と…。」
振り返ってミエナを見つめるアメジスだが、その顔が徐々に青ざめていく。
『アアアア!』
「ひゃあああ!?」
いつの間にいたのか二人の背後には腕と足に拘束具のような物を付けたアンデッドがいて、今にも二人に襲い掛かろうとしていた。




