タイムリミットと道のりは常に厳しい
「入学は今日からだよな?」
「いや、違うぞ。入学試験の日が今日なんだ。」
入学の案内が届いてから暫く時間が経ち、今日はパズレインスクールの入学試験がある日だった。
「この案内には入学する際は今日まで大事に保管し、当日になったら試験を受ける人はこの紙を握って念じれば良いって。」
試験への申し込みは参加者が招待状に触れて念じることで受け付け完了になるようだ。早速メイナス、アメジス、レイラ、スザクが招待状に触れて念じると、チリチリと焼き焦げるながら紙にそれぞれの名前が記入される。
「これで受け付け完了か。次は試験を受ける場所はパズレインスクールだけど何処にあるんだ?」
「あそこは馬車を使わなきゃだけど…あれ、待って、申し込み書の文面が変わっていく…。」
受け付け完了が完了したのなら次は試験会場だが、申し込み書の文面が名前が刻まれた瞬間に変わっていくのに気が付く。
「えっと…『この度は我が校の試験を受けて頂きありがとうございます。受け付けを完了された方は申し込み書が案内を致しますので紛失しないでください』…だって。」
「紛失しないでってのは分かるけど、申し込み書が案内するって?」
文面は申し込み書が案内すると書いてあるが、意味が分からず首を傾げていると、申し込み書は意思があるかのように動き出し折り紙のように折り畳まれていく。
「蝶になった!これも魔法か?」
「うん…サイマジックの最高位の方かも…。」
申し込み書には何らかの魔法が掛けられており、折り紙の蝶になって四人の周りを飛び回る。
「付いて来いって言ってるみたいだね。案内するって言うのはこれのことだね。」
「後はこれを紛失しないように追いかけろってことか!やっぱり生半可じゃねぇなこりゃ!」
「シスター、そろそろ私達は行きますね。」
「アメジス、スザク、メイナス、レイラ。これから先はあなた達の意思で決め、進んで行くことになります。あなた達の信じた道を貫いてください…。」
出発直前となりシスターは祈りながら四人を見送る。その後ろにはニーナ、トト、ヤトラもいた。
「アメジス…頑張ってね!?」
「スザクお姉ちゃん…今度帰ってきたら空を飛ぶ練習をしよう!」
「メイナス兄さん…レイラ姉さん…頑張ってね!?」
今までずっとアメジス達と一緒だったが暫くは離れ離れとなってしまうため、子供達は前日でも別れるのはイヤだと泣き喚いていたがシスターの説得で泣きながらも見送ることにしたのだった。
「ですが何かあれば戻って来ても良いのです。ここはあなた達の家であり、皆はあなた達の家族なのですから…では、あなた達の進む先に祝福がありますように…!」
「「「「はい!」」」」
最後にいつでも帰って来て良いと言葉を掛けて背中を押し、四人は折り紙の蝶の後を追って教会の外へと出るのだった。
「門番さん!行って来ますー!」
「おう、アメジスちゃん達!」
「頑張って来いよー!」
「行ってらっしゃーい!」
蝶を追いかけて行く内に門番や受付嬢に挨拶をしながら今度はミスティーユの外へと出て森へと向かうのだった。
「紛失するなとか書いてあったけど、思ったよりもゆっくり進むじゃねぇか。」
「ちょっと取り越し苦労だったかな?」
ミスティーユから出て森に入った所で飛ぶスピードがゆっくりになり、四人も自然とペースが落ちてのんびりムードになる。
「でもここから先はミスティーユの領域を越えるよ。だから見たことがないモンスターが出現するかもしれないから気を付けて。」
『『『バウバウ!』』』
「と、言ってる間にコボルトが来たぞ!」
茂みから小型の狼男のようなモンスターが棍棒を持って三体飛び出てくる。
『バウ!バウバウ!』
「って、あいつら蝶を狙ってるぞ!」
てっきり自分達を襲う物かと思ってたが、意外なことに狙いは蝶の折り紙の方であり、吠えながら棍棒を振り回していた。
「もしかしてマナミナで作られているのかも。それでコボルト達が狙っているのかも。」
マナミナは人間や異種族、モンスターを含め最も摂取されると同時に最も好まれるエネルギー源だ。もしも折り紙がマナミナで作られているのならコボルトが狙うのも当然だろう。
「…なあ、もしもあれを食べられたらあたしらどうなるんだ?」
「あ!もしかして紛失ってそう言う意味…!?」
スザクの指摘でハッとなるが、申し込み書にあった紛失しないようにと言う注意書きの意味が、もしも他のモンスターなどに食べられることを想定した物だとしたら今が正にその時だった。
「絶対に食べられるな!パッシブスキル『瞬足』!」
紛失すれば間違いなく入学試験への資格を取り消されるはずだ。そうならないようにするには何としても折り紙の蝶を守ることだ。
「『プッシュドン』!」
『バウ!?』
素早く斬りつけられたコボルトをアメジスはサイマジックで後方へ吹き飛ばす。その先には岩があり、コボルトはそこに頭を強打して動かなくなる。
『バウバウ!』
「それ!」
仇討ちだとコボルトが側面から回って来て棍棒を振り回すが、ハーピーのようになったスザクがガッチリとコボルトを掴んで空中へと持ち運ぶ。
「これで…どうだ!」
「中々やるね!」
急降下してアメジス同様にコボルトを岩にぶつけて仕留めるスザク。
「残るは一体…あん♡」
『グルルル…!』
最後の一体を倒そうと思った矢先、コボルトは彼女の背後から肩に噛み付く。しかもそれだけで終わらずガジガジと牙を食い込ませてくる。
「あっ…ん…あん…♡気持ち良い…♡」
「あの蝶が先に行っちゃうんだけど…。」
「スザク!遊んでる場合か!とっとと仕留めろ!?」
いつものように攻撃を受けて快感の余韻に浸っているスザクだが、このままだと肝心の蝶が行ってしまうためレイラは急かすのだった。
「ううん…分かったよぉ…ああああん♡」
『グガア!?』
結果は火を見るより明らかであり、快感により炎を出したスザクはコボルトを焼き焦がすと同時に受けた傷とダメージを全て回復するのだった。
「はふぅ…アメジス、何だかまだ物足りないよぉ…。」
「あはは…少なくとも蝶がここにいなくて良かったね。」
欲求不満な様子のスザクにアメジスは苦笑いしながら結構重要なことを口にする。確かにここに蝶がいたらコボルトと一緒に燃えて灰になっていただろう。
「スザクはいつも通りだとして、蝶は何処に行ったんだ?」
「あそこだよ。まだ視えてる範囲だから急ごう。」
コボルトの相手に多少足止めを食らったが、まだ蝶は視認出来ており急いで後を追う。
「そう言えば時間とかは大丈夫なのかな。」
ここから先コボルトのようにモンスターに足止めされることも考えれば、試験までの時間は大丈夫なのかと気になるアメジス。
「時間指定に関する注意事項は書いていなかったけど、蝶が辿り着く時間が試験開始の時間と考えて良いだろうね。」
「だから紛失するなってことだろうな。」
申し込み書の紛失するなと言う注意事項は受験資格が剥奪されたり学校までの道のりが分からないこともだが、試験開始までの時間に間に合わないと言う意味が込められているのだろうと考える。
「だから基本的には蝶を見失ったり、消失させたりしなければ大丈夫なはずだよ。」
「なら大丈夫かな?」
「何を言ってんだスザク、お前の炎で灰にしたらおしまいだろ。」
「あ、そっか。」
よほどのことがない限りは試験開始まで余裕があると思っていたが、紙で出来ているため下手に戦闘になってスザクが先程のように炎を出したら元も子もないはずだ。
「あたしも何とか炎を出さないようにするよ。」
「スザクちゃん、大丈夫?」
「これくらい我慢するさ!」
「出来れば戦闘は避けるべきだね。周りを警戒しながら進もう。」
受験資格を失わないためにもスザクは快感を堪えることを決意する。心配をするアメジスだが、メイナスもメイナスでモンスターとの戦闘がないように注意を払いながら進むことを提案する。
「…おかしいな。」
「どうした?モンスターか?」
注意しながら進んでいたメイナスだが、ふと気になることがあった。
「僕もたまにパズレインスクールの図書館を利用するためにミスティーユから出ることはあるけど、何だか僕の知っている道のりとはだいぶ違うような…。」
「もしかしてあたしら迷ったのか?」
「いや、方角自体はこれで合ってるよ。ただもう少し人通りが多かったり、舗装された道があるはずだけど…。」
何度かパズレインスクールに訪れていたメイナスだからこそ道のりに違和感を覚えていた。しかし蝶は見失ってないし方角も間違っていない。ただもっと早く辿り着ける道があるのに敢えて遠回りしているようだと疑問を感じていたのだ。
「まさか…罠か!?」
『『『ケー!』』』
レイラの懸念を証明するかのようにダンゴムシとバッタを組み合わせたようなモンスターが五体ほど現れる。
『『『ケー!』』』
「うわっ!何だ!?」
するとモンスター達は身体を丸めて長い足で跳ねたかと思えば、まるでスーパーボールのように岩や木に当たるとあちこちに跳ね回る。
「バネンゴムシだ!Eランクモンスターだけど、丸まってあちこちを跳ね回るから気を付けて!」
「くそ!鬱陶しいなこいつら!?」
あちこち跳ね回っては自分達にぶつかってくるハネンゴムシ。当たってもダメージはそこまでではないが、痛みはしっかり伝わる上に遮るように跳ね回るため身動きが取れなくなる。
「大したことはないけど…いて!?これじゃ蝶を見失っちまう!?」
「あう…あん…♡ジワジワ削るような攻撃も…♡でも、ここは…我慢しないと…!?」
何とかしないと蝶が飛んで行ってしまうため、早く何とかしたいが縦横無尽に跳ね回るバネンゴムシに遮られてしまい前に進めない。スザクにも攻撃が当たって快感を覚えているが炎が出ないように堪えていた。
「皆!私の側に来て!水魔法『ウォーター』・スパイラル!」
アメジスの呼びかけに、全員が彼女を中心に集合する。確認したアメジスは水魔法で水流を出し、新体操のリボンのように操って渦巻きを作り出す。
『『『ケー!?』』』
「上手いよアメジス!水流を回転させて跳んできたバネンゴムシを沈めるなんて!」
跳ねてきたバネンゴムシ達は硬い地面とかならまだ跳ね返ることが出来るが、形がない水となれば話は別でありなす術なく呑み込まれるのだった。
「ヤバい!蝶が先に行ったぞ!追いかけろ!」
バネンゴムシ達は水の中で溺れ死に、水魔法を止めると既に蝶は先へ先へと飛んで行ってしまった。
「あの蝶を私達が持ってちゃダメなのかな。」
「それはオススメしないよ。蝶の動きを止めればその分時間が変動する可能性がある。下手をすれば受験時間に間に合わないなんてことも…。」
見失わないようにするためにも自分達で持っているべきではと考えるが、蝶の動きが受験までの時間だとするのならおいそれと捕獲して足止めするべきではないだろう。
『『ブモオオオ!』』
「げっ!厄介なのが来やがった!?」
今度は近くの木と忖度ない背丈を持ち、緑色の皮膚にイノシシのような頭を持つモンスターが二体現れた。
「今度はDランクモンスターの中でも登竜門とされるオーク!」
「こいつは厄介だぞ!?ランクアップの試験でもこいつを倒せるか倒せないかでCランクに上がれるかどうか分けられるんだ!?」
ランクアップの試験と言うあたりレイラはその試験のことはよく知っているらしく、DランクとCランクの差はさしずめ凡人と秀才との合中であり、このオークを倒せるかでそのどちらかが決まると言う。
「どうするんだ?戦う?」
「いや、こんなの戦うだけ面倒だ。筋肉が分厚いから生半可な魔法や炎なんかじゃ通用しないだろうし、あたしらのスキルじゃ太刀打ち出来ない!」
これまでCランクモンスターは相手して来たが、それはスザクや相手が油断していたお陰でもある。真正面からそれもスザクの力を頼らないでやるとなると正直相手としては悪過ぎる。
「じゃあ、ここは逃げの一手だ!幸いオークはそこまで素早くない!一気に駆け抜けるよ!」
「うん!?」
満場一致でオークとの戦闘は避けて先へと進むことにする四人はそれぞれレイラとアメジス、スザクとメイナスとで分かれてオークの側面を抜けていく。予想通りオークは鈍足であるため反応される前に突破出来たのだった。
「どうやら撒いたようだな。」
「ふう…少し休みたいかも。」
オークは何とか対処したが戦闘を含め動きっぱなしなため、四人の中では体力があまりないアメジスは疲れ始めていた。
「んな呑気なことを言ってる場合か。早く追いかけないと蝶が…。」
「あそこに止まってるけど。」
休んでいる間に先にどんどん飛ばれたらマズいため先を急ごうとするが、蝶は羽ばたくのを止めて岩の上に止まっていた。
「僕らのペースに合わせてくれているのかな?まあ、何にしても先は長いし僕らも少し休もう。」
何らかの魔法で動く折り紙の蝶だが、それ故か何者かの意思が宿っているのか、アメジスの言葉を聞いて休憩を勧めているかのようだった。
「なあ、この蝶の言う通りに飛んで大丈夫だと思うか?」
「どうして?」
「分からないのか?この蝶は敢えてあたしらをモンスターが多い場所に誘導してんだぞ。もしかしてこれ自体が罠ってことは?」
レイラは蝶の誘導が何かの罠ではないかと危惧していた。その証拠にこれまでの道のりでモンスターが何度も出現していた。
「でも手紙の封印や申し込み書の押印は間違いなくパズレインスクールの紋章だよ。」
「疑い過ぎじゃないの?」
「お前らは疑わなさ過ぎだ!そうやって人を平気で騙す奴らは大勢いるんだからな!あたしの時だって…。」
疑いを持つのは悪いことではないが疑心暗鬼になのではと告げるも、レイラは過去に親に売り飛ばされた過去がありそれを考えれば当然とも言えるだろう。
「どうせ誘導するのならもっと動きやすい所を通ればいいんじゃねぇか?これじゃ試験を受ける前に力尽きちまうぜ?」
「そのことなんだけど、ひょっとするとこれは…。」
レイラはわざわざこんな遠回りをするなんて何か企みがあるのではと危惧する。しかしメイナスはこれまでのことにある答えを導き出していた。
「きゃあああ!?」
「アメジス!?」
答えを言う前に休んでいたアメジスとスザクの悲鳴が聞こえてくる。なんとアメジスの身体からビリビリと電気のエフェクトのような物が発生して倒れていたのだ。
「これは麻痺?一体何処から攻撃が…。」
麻痺の状態異常にさせられアメジスはまともに動けなくなってしまう。いずれにしても不意打ちを受けたことは確かで全員が警戒する。
「ひゃあ!?」
「アメジスが…お前、サイマジックで浮いてるのか?」
「ち…違うよ〜…!?」
すると麻痺状態のはずのアメジスは突如として宙に浮き上がったのだ。しかし本人は何もしておらず、何がどうなっているのか分からなかった。
『ギシュシュ…!』
「ひいっ!?」
「エレキランチュラだ!」
アメジスの頭上には稲妻のような脚と牙を持つ蜘蛛のようなモンスターが待ち構えていたのだ。アメジスはエレキランチュラの出す糸によって吊り上げられていたのだ。
「アメジス!今助けに…!」
このままだとエレキランチュラの餌食になってしまう上に高い場所にいるため、スザクはフェニックスの炎の翼を出そうとする。
「待て!蝶まで一緒に吊り上げられているぞ!?」
「今炎の翼を出したら…一緒に燃えちゃうよ!?」
しかし糸にはアメジスだけでなく折り紙の蝶も巻き添えになっており、炎の翼なんか出せば一緒に燃えてしまうだろう。
「だったらどうしたら…うわっ!?」
「スザク!?」
躊躇っていると今度はスザクまでもが吊り上げられてしまう。
『ギシュシュ!』
「スザクちゃん!」
吊り上げられたアメジスだが、エレキランチュラは彼女を放置してフェニックスのマナミナを持つスザクを『気をつけ』の体勢でぐるぐる巻きにしていく。
「うううぅぅ…♡」
正しく手も足も動かせない状態となり、彼女の豊満で魅惑的な胸や尻をキュウッと締め付けるようにベタつく糸が巻き付くため、スザクはその感触に思わずくぐもった喘ぎ声を出してしまう。
「あいつ…スザクが狙いか!待ってろ、今行くからな!」
「どうする気だい?」
「よじ登って直接あいつを仕留めるんだよ!」
遠距離の武器はないし、あったとしてもスザクならまだしもアメジスに当たってしまう。そこでレイラは木に登って直接仕留めることにしたのだ。
「ならこれを飲んでいって。麻痺や電気属性を弾く『絶縁薬』だよ。」
「サンキュー!待ってろお前ら!」
メイナスから受け取った栄養ドリンクのような薬を飲んで、レイラは短剣を木の幹に突き刺しながらよじ登っていく。
『ギシュシュ…!』
「はうっ…あっ…んう…ひん…♡」
「アメジスちゃん…。」
エレキランチュラは捕らえたスザクを弄んでいるのか、或いはフェニックスだと分かっていて警戒しているのか稲妻のような脚先で電気を放って攻撃していた。
(ダメだ…ダメ…♡今…気持ち良くなったら…蝶が燃える…堪えないと…あん♡)
その度にスザクはビクンビクンと体を震わせ、快感のあまり炎が噴き出そうになるが、蝶が燃えないように必死に堪えていた。
(でも…こんな…気持ち良くなるの…我慢するのって…ひん♡…初めてで…♡何だかドキドキして…ムズムズして…もしも一気に解放したら…あたし…どうなっちゃうの…あふん♡)
人間で言うなら焦らすのと同じであり、初めて快感を抑えたスザクに取っては未知の感覚であり、もしもこれを一気に解放したらどうなるのかと瞳にハートのハイライトを浮かべドギマギしていた。
「スザクの奴…!アメジス、今助けに…!?」
自分達のために炎を出さないように頑張っているスザクを見たレイラは、急いでアメジスと蝶を助けて事態は好転させようとする。
『!ギシュシュ!』
「うわっ!?くそ!?」
「レイラ姉さん!?」
しかし気配に気付いたエレキランチュラはお尻から粘糸を発射して釘付けにする。
「レイラ!?こうなったら…これでどうだ!?」
『ギシュシュ!?』
意を決したメイナスはスリンガーを取り出し、空のビンや石などをエレキランチュラに向けて発射する。
「スザク!もう招待状のことは構わない!?炎を出してくれ!?」
「でも…そんなことしたら…。」
メイナスはスリンガーで威嚇しながらスザクに炎を出すように命ずる。しかしそれは入学試験を蹴るのと同じであり、彼女は炎を出すことに躊躇いを見せていた。
「僕らの入学よりも君達の命の方が大事だ!?だから炎を出してくれ!」
アメジスやレイラのこともそうだが、不死身であるスザクに対しても試験より三人の命が大事だとハッキリ告げるメイナス。やはり彼に取ってはフェニックスだろうがなかろうが大切な命には変わらないと言うことだ。
『ギシュシュ…!』
「スザクちゃん!危ない!?」
スリンガーの牽制に最初は驚くものの折角の獲物を前にして黙っていられるかと、エレキランチュラは稲妻のような牙とそれに負けない鋭い牙がズラリと並んだ不気味な口を大きく開けてスザクに迫る。
『ギシュシュ!』
「あ…。」
「スザク!?」
首から左胸にかけて大きく齧り付くエレキランチュラ。その際に傷口から大量の血が吹き出て、一瞬のことで理解が遅れたスザクに凄まじい激痛が襲い掛かって来た。
「あ…ああ…あああぁぁぁ♡き…気持ち良いいいぃぃぃ♡」
『ギシュ!?』
「きゃあっ!?」
理解が遅れたことと、我慢しなくても良いと言うことで我慢の糸が切れたスザクに取ってはその激痛は鮮明かつこの世の物とは思えない極上の快感となって襲い掛かってきた。
『ケエエエエェェェェン!!』
「うわっ!?フェニックスになった!?」
いつも以上に炎を出したかと思えばスザクは、炎の猛禽類のような翼に、クジャクのような身体つきと鮮やかな炎の尾羽根に、カンムリワシのような頭部をした不老不死の象徴フェニックスとなって力強く羽ばたく。
『ケエエエエェェェェン!!』
『ギシュシュ〜…!?』
伝説のSランクモンスターのフェニックスの炎によってエレキランチュラは一瞬にして火ダルマにされるのだった。
「はあ…はあ…あへぇ…♡今までの中でも一番気持ち良かったかもぉ…♡」
「だからってフェニックスになるなよ!?山火事にする気か!?」
フェニックスから戻ったスザクは産まれたままの姿となって焼け焦げた切り株に寄りかかっていたが、レイラは幾らなんでもやり過ぎだと怒鳴りつける。
「けど燃えたのが木一本で良かったじゃない…。」
「正に火の鳥と言われるフェニックス様々だね。燃え広がった炎を操って自分の身体の中に吸収して消火するなんて。」
あれだけド派手に炎を放出したのに関わらず、燃えたのはエレキランチュラがいた木だけだった。もちろん燃え広がりはしたがスザクは炎を生き物のように操って山火事にならないように消火していた。
「でもぉ…本当に良かったのぉ…招待状を燃やして…。」
「しょうがないよ。皆の命には変えられないよ。」
「ったく、お人好しだなお前も…でも、まあ…ありがとうな。」
「私も後悔してないよ。」
後悔がないと言えば嘘になるが、それでも仕方ないと割り切り感謝するのだった。
「スザクちゃんも私達のために我慢してくれてありがとうね。」
「うん。でもぉ…我慢するのもするで…結構…えへへ…♡」
快感を堪えていたスザクにも感謝するが彼女は堪えていた後には凄まじい快感が押し寄せたことを思い出して蕩けた笑顔をしながら小さな炎をチョロチョロ出していた。
「おい、新しい扉を開いたんじゃねぇだろうな?」
「あはは…否定出来ないかも…ん?」
何かに目覚めさせてしまったのではと不安視していると、その視界の片隅に妙な物が飛んでいるのに気が付く。
「あれ!?折り紙の蝶!?」
「え…どうして!?」
なんと一緒に燃えたはずの折り紙の蝶がこっちだよと案内するように羽ばたいていたのだ。
「燃えたんじゃないのか…?」
「どうしたのぉ…?」
「あ…もしかして…。」
疑問に思っているとスザクの身体から僅かに出ている炎を見てアメジスはあっとなる。
「衣服を修復した時みたいにスザクちゃんの炎が焼け焦げた招待状に当たったんじゃ…。」
「なるほど…それはあり得るね。炎では燃えはしたけど、たまたまさっき出したスザクの炎が折り紙の蝶を復活させたのかも…。」
スザクの炎は生き物だけでなく無生物にも適応されるため、先程快感を思い出した際にスザクは炎を出しており、それが招待状当たって復元したのではと考える。
「まあ、これってつまり…あたしらはまだ失格って訳じゃないみたいだな!」
「よし!なら急ごう!」
「本当にありがとうね、スザクちゃん!」
「うん!」
何はともあれ結果オーライであり、後は学校まで向かって試験を受けるだけだった。
「でも足止めされたのに間に合うのかな。」
「やるだけやってみるさ。」
「あれ、試験に消極的だったのにどうしたんだい?」
途中から疑心暗鬼になって試験に対して消極的だったレイラは行き当たりばったりな返答ながら試験を受けるつもりでいた。
「ここまで来たんだ。最後までやってみたくなったんだよ。」
「そっか。」
ぶっきらぼうにそれでいて照れながら答えるレイラにメイナスは微笑み返す。
「それはそうとお前どうしてスリンガーなんて持ってんだよ。」
「ヤトラが作ってくれたのを餞別でくれたんだ。まさかこんなことに役立てるとは思わなかったけどね。」
対するレイラはメイナスが使っていたスリンガーのことを聞き返すが、それはヤトラが餞別にくれた物でまさかすぐに役立つとは思わなかった。
「見て!何か見えるよ!」
アメジスの指差した先には蝶の姿はもちろんだが、木漏れ日を背景に大きな建物が聳え立っているのが見えた。
その建物は巨大で何処か神々しい雰囲気を醸し出す大木を中心に建造されているためか、威厳と知性に溢れる建築物だった。
「まさかあれが…。」
「間違いない!パズレインスクールだよ!」
目指していたパズレインスクールに遂に辿り着いたことに四人は一斉に安堵する。しかし校門前には既に志願者らしき人物が大勢押し寄せていた。
「すみませんー!試験を受けに来たのですがまだ受け付けしてますか!?」
エレキランチュラに足止めされたこともあり、試験時間に遅れたたのではないかと心配しながらも、志願者の前にいる教師らし赤いショートヘアの女性に試験を申し込む。
「…あら?もう既に試験は終わってるんだけど?」
「そ…そんな…間に合わなかったの…!?」
ところが現実は非情と言うべきか、既に試験は終わってしまったことにアメジスは絶句する。
「何だよ!モンスターがいっぱいいる所を歩かせて置いてこっちは足止めされたんだぞ!」
「そうは言うけどこれから先、モンスターが出現する場所を通ることもあるわ。それはモンスターと戦うこともあれば、足止めを受けることも当然だわ。それを言い訳にするなんてどうかと思うわ。」
冷徹なことかもしれないが、確かに冒険をする上ではモンスターの戦闘は避けられない。誰だって同じ状況下であるのなら、いちいち言い訳なんてしてられないはずだ。
「そっちの招待状の案内通りに進んだらわざわざモンスターが出る場所を通らせやがって!?おかけで試験を受け損なったなのに言い訳がましいなんて理不尽じゃないか!寧ろそっちの過失を棚に上げて言い訳してるも同じじゃねぇか!」
しかしながら招待状を送り、当日に案内すると言っておきながら敢えて危険な道を通らせて試験に遅刻させたとなればこれは学校側の過失だとレイラは糾弾する。
「レイラ、もしかしてこれは…。」
「黙ってろ!何か言ったらどうなんだよ!」
何か懸念があるのかメイナスが口を挟むが、レイラは聞く耳を持たずに女性を問い詰める。
「…確かにあなたの言い分は最もです。ですが試験はもう終了しています。」
「この…!」
「だからこれだけあなた達に言っておきます。」
しかし女性は毅然とした態度で意見を突っぱね、その態度が気に食わず今にも殴り掛かりそうになるレイラだったが女性は怯まずにあることを告げる。
「あなた達…試験は……合格よ♡」
「「「……はい?」」」
トドメの台詞として『不合格』とか言われるかと思っていたが、聞き間違いだろうか女性は『合格』と言ったのだ。
「は?今…合格って言ったか?」
「う…うん…確かに言ってたけど…。」
『合格』なんて期待してた返答とは全く正反対なため、殴る気が一気に失せたレイラは同じくキョトンとするアメジスに聞き返す。
「あはは!最高!そのキョトンとした顔!」
キョトンとする一同がおかしくなって、クールビューティな雰囲気が台無しな程にお腹を抱えて笑う女性。
「これどう言うこと?」
「僕らはずっと試験を受けてたんだよ。」
「そう!よく気が付いたわね!」
「試験を受けてたって…。」
スザクもアメジスも訳が分からなかったが、メイナスは途中から試験を受けていたことに気付いていたようだ。
「つまりこれまでの道のりを越えて、この学校に辿り着けるかどうかを試すのがこの学校の試験だったんだよ。」
「ええっ!?じゃあまさかモンスターが出る道を案内したのって…。」
「あなた達の素質や適正を見抜く試験でもあったのよ。」
どうやらこれまでの道のりは全て試験内容であり、学校に辿り着けるかどうかで合否を分けていたのだ。
「な…何だよそれ…学校に着ければ誰でも合格じゃねぇか…。」
確かに学校に辿り着けば良いなんて査定基準が低いと思うのも当然だ。
「そうでもないのよ。このレターフライ…ある人が作った紙のゴーレムみたいな物だけど、志願者のことを案内すると同時に護衛対象であり監視者でもあるのよ。」
「監視者?」
女性の指に折り紙の蝶…レターフライが止まり、これが守られながらも監視としての役割を持つと詳しい説明を行う。
「モンスターの多い場所を通り戦うか逃げるかの対処や、仲間のことを考えて休憩や治療を行い陣形を考えていたか、そして如何に護衛対象であるレターフライを守りつつも臨機応変に対応出来るか見せて貰ったわ。」
「そうか…そのレターフライを通して適正や正しい行動が出来るかどうかを見ていたんですね。」
どうやらレターフライは受験者を導くだけでなく、道中でのその人の適正を判断する鑑定眼を持っていたようだ。
「直接見れると言う訳じゃないけど、ある程度の定義の中で合否を決めるの。もしも間違った判断をした場合は蝶は例え復活しても側から離れてしまうの。」
「復活させても…そう言えばずっと側にいたな。」
直接見られた訳ではないためフェニックスのことはバレていないようだ。しかしながら場合によっては治療などで相手を蘇生させることもあるため、それも合格基準に入っていたらしく蝶を蘇生させたのは怪我の功名だった。
「まずはメイナス。医療を志しながらも豊富な知識で的確な判断は認めます。しかしながら戦闘スキルなどを覚えておくと良いでしょう。」
「はい!」
レターフライは再び紙に戻り女性はその中に書いてある合否内容を説明し始める。
「レイラは一見柔軟そうには見えますが、貫く姿勢に欠けています。しかしながら仲間のために怪しいと警戒したり、すぐさま行動出来るのは素晴らしいです。磨けばより良い物になるでしょう。」
「けっ、紛らわしいんだよ。…へへ…。」
そっぽ向いて踊らされたことに不貞腐れるが、内心はとても嬉しそうにしていたレイラ。
「アメジスは臨機応変に魔法の扱いに長けています。しかしながら体力があまりないため魔法に頼り切りにならないように気を付けてください。」
「は…はい!」
アメジスは弱い所を突かれて恥ずかしいのか照れながら返事をするのだった。
「そしてスザク。あなたの炎は威力や回復力があるのはスゴいですが、コントロールが荒削りな所もありますので気を付けてくださいね。」
「分かりました!アメジス達と一緒に頑張ります!」
アメジス達からも言われた炎のコントロールを試験結果で言われてしまうも、スザクは明るく前向きな返事をするのだった。
「それではあなた達四人をパズレインスクールへの入学を認めます!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
こうして四人は晴れてパズレインスクールへの入学を果たすのだった。しかしたくさんいる合格者の中で白いフードを被り眼帯をした少女が四人を睨み付けていた。




