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最期に見るのは不老不死

雨が降りしきり、暴風が吹き荒れる中で数人の人間が列をなし、全員が雨除け用のマントをずぶ濡れにさせ風になびかせながら険しい岩山への道を歩いていた。


「あっ…。」


「おい、モタモタするな!」


しかし列の中に雨除けのマントも身に着けず、代わりに鎖に繋がれた十二歳ほどの少女が混じっていた。少女が転んでしまうと後ろにいたスキンヘッドの男が乱暴に蹴り上げる。


「げほげほ…うひひ…。」


暫く蹴り上げられたことで呼吸困難になる少女。しかし普通の子供なら泣き喚くか苦しむはずなのに、少女は恍惚とした表情で薄ら笑いを出す。


「ったく相変わらず気味が悪いなこいつ…。」


「蹴られたのに笑ってやがる…。」


男も少しは気が晴れるかと思ったが、その少女の得体の知れない不気味さに顔をしかめる。


「当然だ。そいつは親から虐待されて一日の酒代のために奴隷として売り飛ばされたそうだ。そのせいで心のどっかが壊れたらしい。」


その少女の身なりはズタボロの布切れを纏うだけで、見た目も灰色の長い髪の下から見える顔や身体には痣や傷が複数見られており、その薄ら笑いも心が壊れてしまった痛ましい証拠だった。


「だからこそ安く買い叩けたんだな。奴隷商人もいるだけで不快だって言って、サンドバッグ代わりにしてましたもんね。」


「それでも笑っていたのなら生け贄になっても何の苦もなかろう。死ねばその苦しみからも解放される訳だ。」


彼らは奴隷商人から少女をとある目的があって安く購入してその場所へと連れ歩いていたのだ。多少の同情を持っているようだが、彼女の未来にあるのは彼らの望みを果たすための生け贄だった。


「ここだな?」


「間違いありません。崇拝してる村の連中から奪った地図の通りだとここでっさ!」


男達は山頂近くにある何かを祀るかのような、神殿の前へと到着していた。嵐で雨風が容赦なく吹き荒れて体温を奪っているのに、不思議と神殿からは太陽のような暖かさが伝わってくる。


「お前の役目は…まあ、その身を委ねれば良い。きっと幸せになれるぞ。」


「うへへ…早く…して…。」


ハイライトが消えた目で涎を垂らす様は異常で、相変わらず不気味な様子を見せる名も無い少女は跪き乾いた笑い声で懇願する。


「で、出たぞー!?ぐがあ!?」


先に偵察に向かった男が神殿の中から出てきた炎によって火ダルマになる。


「あ…がが…!?」


「嘘だろ…!?」


火を消そうと雨風が吹き荒れる外に出た男だったが、そうなる前に炎は男の肉体を一瞬にして灰にしてしまい風や雨によって散り散りにされるのだった。


「あ…あ…えへへ…。」


「何を笑ってんだてめぇ!?」


それを見ていた少女は驚きつつもすぐさま薄ら笑いを浮かべる。スキンヘッドの男は少女が彼の仲間が死んだことを笑っているのだと思い髪を乱暴に掴んだ。


「あたしも…あの炎で…全身を…焼かれるんだ…うひひ…。」


人が死んで滑稽と言うよりも、人が死ぬ様子を自分に当て嵌めて妄想したことで蕩けきった顔を浮かべていた。その様子にスキンヘッドの男は思わず乱暴に少女を突き放す。


『ケエエエエン!』


「生け贄の出番はまだだ!俺達の存在は既に知られている!構えろ!」


甲高い鳴き声と共に炎が神殿から溢れ出てくるのを見て男達は剣や斧、或いは魔法の杖を取り出す。神殿から溢れ出る炎は意志を持つかのように動き、やがて真の姿を現すのだった。


「現れたな…フェニックス!」


『ケエエエエン!!』


クジャクを彷彿とさせる身体つきと独特の模様と形状をした尾羽、更に猛禽類のような逞しく煉獄を思わせる炎の翼を持った不老不死の幻獣…不死鳥ことフェニックスが現れたのだ。


「フェニックス…。」


幻獣は人生で一度見れるか見れないかとされる特殊な生物なため、年齢一桁で見れるなんて滅多にない体験だった。それを知ってか知らずか少女は初めて見る美しい鳥に目を奪われるのだった。


「ウォーターキャノン!」


「アクアフォールスラッシュ!」


フェニックスは火を司る幻獣であるため、水の魔法による巨大な水の玉を撃ち込んだり、水属性を付与した斧を振り下ろしたりして攻撃する。


「フリーズンバイト!」


ずぶ濡れになったフェニックスにリーダーは氷の魔法を使って氷漬けにしていく。冷気はフェニックスはもちろん周囲の雨ですら凍らせてしまいあられとなって降り注ぐ。


「さすがボス!捕獲成功ですね!」


「こいつはAランクモンスターのリヴァイアサンでも暫くは動けなくなるほどの技だ。さすがのフェニックスもずぶ濡れになった状態で受ければ…。」


氷の彫像のようになったフェニックスを前にして彼らは大喜びしていた。リーダー格の男はさすがに魔力が尽きたのかその場でへたり込む。


「早く運びましょう。」


「よし、ここは俺に任せろ。にしてもお前は生け贄として本懐を果たせなかったな。」


「良いなぁ…あたしも…身体がじわじわと凍らされて…あんな風に好き放題されて…。」


特殊な荷車にフェニックスを積もうとするスキンヘッドの男は、生け贄として死ねなかった少女を嘲笑うが今度はフェニックスのように氷漬けになったらと思うと両手を太腿に挟んでモジモジしていた。


「ったく…あ?」


もう何度目かになる少女の不気味な言動を忌避していると、氷の中が赤く染まりジュウジュウと音を立てていたのに気が付く。


『ケエエエエン!!』


「「「何!?」」」


凍っていたはずのフェニックスが氷を跳ね除け、羽ばたくと同時に業火を辺りに広げる。その熱量は大粒の雨が空中で全て蒸発するほどの物であり、そこだけ晴天になったかのようだった。


「さすがはフェニックス…Aランクを抑えるのとは訳が違うと言うことか…。」


『ケエエエエン!』


敵ながら天晴と言いたかったが、フェニックスは完全にトサカに来ており辺り一帯を火の海に変えんと言わんばかりに業火を纏っていた。


「退くぞ!」


「ほらよ!生け贄をやるぜ!」


このままでは先程死んだ仲間のように、雨に消火される前に灰にされる。そうなる前に詫びの品とでも言いたげにスキンヘッドは少女をフェニックスの前に突き飛ばす。


「フェニックス…ああ…綺麗…その炎で…あたしの身体を余すことなく…熱く…焼いて…!」


命乞いにしては清々しく、懇願にしては不純である望みを羅列する少女はフェニックスを前にしても恐れることなく近寄っていく。


『ケエエエエン!』


「ああああ〜!熱い…あたしの身が…ジリジリと焼ける…ああ、気持ちいい〜…♡」


普通の者なら火に触れただけで地獄の業火による熱と痛みによる苦痛で正気でいられなくなるが、彼女はその身が焼かれる苦痛が快楽となり別の意味で正気でいられなくなっていた。


「あ…あ…あん…まだジリジリと…身体が熱い…。」


ボロ布同然の服は既に灰になって全裸となり、男のように身体は灰にならなかったとは言え少女の腕や足は焼けただれていた。それでも快楽の余韻から横たわってクネクネと動いていた。


『……。』


「あいつやっぱり異常だ…。」


「今のうちに離れるぞ!」


想像していたがやはり少女はダメージや傷を負って快楽に溺れている光景にドン引くも、見事にフェニックスの注意を引きつけてくれるお陰で男達はまんまと逃亡するのだった。


『ケエエエエン!』


「えっ…炎が…!?」


「ぐあああ!?」


フェニックスの甲高い鳴き声に振り返ると、津波のような炎がこちらに向かって燃え広がっており、瞬く間に姿は炎によって灰へと変えられたのだった。


「あ…ああん…幸せ…♡」


『…ケエエエエン!』


幸せの絶頂に浸る少女はもはや死だとしても受け入れると言うよりも、寧ろそれを望むと言う様子でフェニックスのペンチのようなクチバシにつつかれその度にその身を焦がす。


『ケエエエエン!』


「ああん…一思いに…お願い…♡」


普通ならばもう殺してくれと懇願するが、彼女はもはやそれ以上の快感を求むかのような有様で、フェニックスもそろそろ食べようとクチバシで器用に頭を摘んで持ち上げる。


『ケエエエエン!』


放り投げられた少女はそのまま広げられたクチバシの中に落ち、フェニックスもペリカンのように少女を丸呑みしてしまう。


「むぐっ…♡ああん…ああん…もう死んじゃう〜♡」


呑まれる最初は息苦しさと狭苦しさが襲い、その間は火の海に落とされたような熱と炎を味わうこととなる。まさに地獄の業火のような責め苦だが、彼女の場合は精神崩壊するほどの強い快感で死んでしまいそうだった。


『ケエエエエン!』


フェニックスは外敵を排除し、腹も膨れて満足したかは不明だが住処である神殿へと帰っていく。こうしてフェニックスを捕らえようとした者達と、名も無い少女はこうして生涯を閉じたのだった…。


「…はあん…ああん…♡まだ何か気持ちいい…♡」


いや、まだ彼女は終わっていなかった。よく分からないが彼女自身は快楽を受け続けながらずっと胎児のような体勢で眠り続けていた。


「熱い…焼ける…でも暖かくて…気持ちいい♡」


と彼女は言っているものの、実際は卵のような揺り籠の中で眠っていて、その揺り籠の周りは業火に包まれていて地獄のような有様だった。


しかし彼女はそれでも幸せそうに正に夢心地で快楽の揺り籠で…気付かずに二百年も眠り続けるのだった。

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