54.エピローグ
魔法騎士団に復帰して2週間後のよく晴れた日。
王都に来てもうすぐ1年。
そして、王都を出るまであと数日だ。
爽やかな風が吹く春先の真っ白な城下町の教会で、急遽決まった結婚式のため私はウェディングドレスに身を包んでいた。
式はいつか北部で時間がある時でいいと告げた私に、王都で第3部隊の皆の前でと希望したのはミシェル様の方だった。
彼にとって部隊は愛情を注いだ家族と同じ。
「結婚を夢見てた」というミシェル様の願いはなるべく叶えてあげようと、こんなに急ぎで式を決めた。
あちこちに飾られた色とりどりの花々が香り、薄紅色に塗られた口元が綻ぶ。
教会の中は、朝の森のように澄んでいた。
エアリアルが耳元で微笑っている。
バージンロードの両脇には見知った人々が座っていた。
いつも優しかったロベール先輩。
沢山の元気をくれたマシュー先輩。
私を迎え入れてくれた第3部隊の団員のみんな。
感情表現豊かなリオット大尉とクロエさん。
迷った私を導いてくれたダルトワさん。
私の目標であり、厳しくも温かいお祖母様。
沢山の優しい眼差しに囲まれて、私は祭壇まで歩みを進めた。
ヴェール越しのミシェル様の瞳をみていたら、魔法騎士団に来た頃の事を思い出す。
怒られて
助けられて
笑って
泣いた
足手まといで
役に立ちたくて
でも出来なくて
どんなに嫌味を言われても
どんなに視線をずらしても
私の前に貴方がいてくれたから
私は魔法騎士団で頑張れたの
「ミシェル様」
「……ああ、貴女はやはり私の女神だ」
静かに呟くミシェル様。
一見静かな金色の貴方の目にいつの間にか惑わされたのは私の方だった。
優しく包むような温かさと
静かに私を囲い込む狡猾さと
異様なほどの執着心と
獰猛さを秘めた情欲を瞳に湛え
口角を上げていても、貴方の目は笑っていない。
いつだって獲物を狙って静かに見ているの。
「やっと、やっと手に入れた……」
「出会ってまだ1年経ってないんですよ?」
「私にとっては遅いくらいです」
多分、私は二度と彼から逃してもらえない。
泣く場所は貴方の腕の中。
帰る場所は貴方の胸の内。
何度も何度も条件反射になるまで教え込まれた。
好きなのはミシェル様。
愛しているのはミシェル様。
呪文のように幾度も言葉に乗せた。
これが私の自我だったのか
ミシェル様の教育の賜物だったのか
もう今となってはわからない
それでもいい
もう彼なしでは生きていけない
泣く場所すら私には限られているのだから
盛大な拍手と笑顔で見送られ無事に式を終えると、小さくはあるが皆で会食を行った。
振る舞ったお酒で泣き出すリオット大尉と大笑いするクロエさんに、ミシェル様はただただ笑っていた。
第3部隊のみんなは本当に幾度も拍手をくれ、私達の幸せを讃えてくれた。
特にロベール先輩は涙を流して私達の幸せを祈ってくれた。
お祖母様はダルトワさんと楽しそうに昔話に花を咲かせ、私はそれを温かく見守った。
皆に見送られ、会場を後に徒歩で私の家に戻る途中、若干酔いが回ったミシェル様が私の手をぎゅっと握りながら空を仰いだ。
「急な式だったのに、こんなに団員の皆が来てくれると思わなかったですね。本当に慕われてますね、ミシェル様」
「皆、貴女の姿を見たいから来ているんですよ」
「ふふ、そんな訳ないでしょう。さて、明日から引っ越しの準備急がないとですね」
「大丈夫。貴女には優秀な家事妖精がいるでしょう? それより私達新婚ですよ? 耐え続けた夫をそろそろ慰めてくださいよ」
「耐えるって……何をですか」
「そろそろ限界なんですよ私。私にも悪いところがあったと反省はしているから手を出さずにいましたし、貴女が嬉しそうにするから小動物のように奥ゆかしく振る舞っていたんですけどね? 毎晩隣に眠る貴女を見ながら正直弾け飛びそうなくらい我慢してるんですよね」
「はい?」
「大丈夫。最初は手加減しますから。最初だけは」
「何の話です? 怖っ……目……瞳孔開いてる……」
「申し訳ないのですが、今日は朝まで寝かせてあげられません……朝まで……で足りますかね?」
「ホラーでしかないんですけど。その発言」
「継続は力なり、ですから。毎日励みましょうか」
「……毎日……?」
何だか恍惚とした顔で若干息が荒い旦那様にベッタリと張り付かれたまま私は歩き続けた。
真面目で皮肉屋の魔法騎士は
おかしな仮面をつけた魔導師に導かれ
右目の魔法陣より強力な愛の魔法に魅せられた
全てはあの日
魔導師団から封書が届いた時から始まった。
最後までご覧いただき有り難うございました。
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