5 .魔法騎士団の独身寮
「えーと会議室は行ったから……これで最後。んで、こっちが寮ね。一旦外出るよ」
「はい!」
ロベールさんの後について第3部隊の棟や本部を見て回り、少し敷地内を歩くとこれまた大きな煉瓦造の建物があった。
入り口には『魔法騎士団独身寮』と看板が張り出され、中に入るとロビーを経て集会室、食堂、体育館、防音室など、沢山の部屋があり、さらに奥に進むと個室があった。
「ごめんブランシュ君。僕、このあと第3部隊室に戻んなきゃいけないから、あとは適当にみておいて! じゃ、また明日な」
「有り難う御座いました! お疲れ様でした!」
ロベールさんが寮からいなくなると、鍵のナンバーから部屋を割り出して初めて自室に入った。
既に荷物が運び込まれた部屋には、ベッドや机、クローゼットがあったが窓にはまだカーテンが掛けられていなかった。
私はふーむと辺りを見渡しながら手のひらに指で魔法陣を描く。
「おいでシルキー」
声に出した瞬間、一陣の風がふわりと舞い、目の前にはメイド服を纏う切れ長の目の女性が現れた。
真っ白な髪と透き通るような肌の彼女は私に一礼した。
召喚術で喚んだ家事妖精の『シルキー』である。
「荷物出して、部屋にしまいたいの。手伝ってくれる?」
「主……いつも言ってますが、わたくしが全部行いますから主は休んでいてください」
「じゃあ私が掃除する?」
「それもわたくしがやります」
「そっか……じゃあ、私は寮の中見てくるね!」
「ごゆるりと」
深々と頭を下げるシルキーに手を振り、私は寮の廊下に出た。
私の一族は皆魔法使いでありながら召喚術の使い手だ。
だから一般魔法とは違い、召喚術や召喚された精霊や妖精とのコミュニケーションや交渉に重きを置いた独自魔法が発達している。
通常召喚術を行使するには魔法陣、供物、呪文が必要で、さらに召喚者は召喚された者への対価を用意しなくてはならないという、非情に面倒くさい魔法なのである。
だけど元々妖精や精霊に好まれやすい魔力を持っていて、しかもマニアックなうちのご先祖様は、色々と試行錯誤をし特殊な魔法陣を構築してしまった。
なんと一族の魔力だけを供物と対価とし、名前を呼び手のひらに魔法陣を描くだけで召喚完了と出来るように変えてしまったのだ。
召喚術を覚えるまではめちゃくちゃ大変だった。
お祖母様はびっくりするぐらい厳しい師匠だった。
ただ、覚えてしまえばこんな便利な物は無い。
三階までぐるりと見回ったが、誰よりも早めに帰宅した私以外、まだ誰も寮にはいなかった。
部屋に戻ると、シルキーは役目を終えて既に姿を消していたが、窓にはお気に入りの桃色の斜光カーテンとレースのカーテンが掛かっておりちょっと気分が上がる。
荷物はきちんとクローゼットに仕舞われ、ぬいぐるみが枕元に置かれなんとなく自分の部屋らしくなったと一人頷いた。
だか、ピカピカに掃除された部屋をあちこち開けて見回した私は、ひとつの事実に気づいた。
トイレはあるのにお風呂が無い、ということを。




