45.魔導師の策略
現場に入ってから既に3時間は経過したのだろうか。
ワイバーン達の討伐は遅々として進まなかった。
ゴオオっ!!と炎を吐く度空は赤く染まる。
向こうの山の一部には火がついていて、山火事も起こり周囲は煙と焼け焦げる匂いが立ち込めていた。
あまりにも巨大なワイバーンはまさしく悪鬼のようで、魔法剣の効きが悪く苦手なはずの氷魔法でも太刀打ち出来ない。
持参した大砲や魔法薬針の矢も何度撃ち込んでも殆んど効果を出してはいなかった。
そして合間をぬって他のワイバーンも攻撃に、一つの対象に力を注ぐことすら難しい。
魔法騎士達は混乱し次第に追い詰められていった。
「ノアちゃん!」
ダルトワさんと他の魔導師が私の姿を見るなり、煙と炎の間を縫って全速力でこちらに走ってきた。
「ダルトワさん!」
「良かった無事か! 見ての通り魔法騎士達は魔法剣と兵器の使用で手一杯だ! 我々魔導師で防御と攻撃を分担して行うぞ! 我等3人で攻撃を、残り二人は防御に回る!」
「分かりました!」
ぐいっと額の汗を拭い、私は頷いた。
「良いか。魔法攻撃も物理攻撃も殆んど致命傷にならん。ならば奴の内部から破壊するしかない」
「内部からって……そんな魔法……」
「かつてドラゴンを討伐した魔導師団が使っていた魔法攻撃を我等も真似るのだ! 但し、500年前の使用した魔法技術は現在は失われている。だから、魔法を分散して使う」
「どうやって……?」
「我等魔導師の氷魔法ごと、転移術で奴の腹に移す」
「……術ごと? そんなことが……?」
ダルトワさんは真っ直ぐに私を見据え深く頷いた。
「君なら出来る。ノアちゃん。君は誰よりも魔法感覚に優れ精霊との繋がりが強く魔力が高い。転移術はかなり高度な魔法だが、君は息を吸うように簡単に使いこなせる。魔法が放つエリアごと奴の体内に移動させてほしい」
「私が?!」
「大丈夫じゃ。誤りのないように、小さな転移を2回テストし、3回目に一番の目玉を食らわせる。皆で息を合わせるのじゃ。やれるな?」
「はい、ダルトワ師匠」
ダルトワさんは防御に回る二人の魔導師に音声伝達魔法で次第をつたえ後を任せると、走り出した。
「行くぞ、愛弟子よ」
ダルトワさんの後に続き、私は本体から少し離れた広場に走った。
呼吸を整え、魔導師3人で目配せしながら合図をする。
「今じゃ! 氷結魔法・アンティエグラセ!!」
発動と同時に転移術をしかけたが、タイミングを外し、半分程しか空間転移されなかった。
「グオオォ゙オオーっ!!!」
轟く咆哮に体がビリビリと波打つ。
「すみません……! 失敗した……!」
「問題ない。それよりあの雄叫び……小さくとも効いとるぞ。まだ勝機はあるのじゃ」
「でも……ダルトワさん……!」
「これはテストじゃよ。ほら、リラックスじゃノアちゃん。ほっほっほ」
ダルトワさんは笑った。
空には巨大なワイバーンが飛び、火を吐いているというのに。
顔についた土と汗で汚れたまま、いつもの様に朗らかに笑った。
「……そうね。これは練習。ここは第5部隊の棟の裏。いつもの課題をこなすのと同じ」
「そうじゃ。君は飲み込みが早い。さあ、もう一度練習じゃ」
深呼吸をしてから3人をで視線を交わし、私は頷いた。
「氷結魔法・アンティエグラセ!!」
一言目を発した瞬間に術を発動し、そのまま空間ごと転移がされた。
「グギャアアアアア!!!」
空が揺れるほどの咆哮で、直ぐに炎の雨があちこちで降りそそぎ他の魔導師による結界が施された。
「効いとるぞ!! 素晴らしいぞノアちゃん!」
「……いける。大丈夫。大丈夫」
私はもう一度汗を拭い、ちらりと向こうにいる第3部隊に視線を向けた。
──ミシェル様。みんな。私頑張るから。お願い。みんな無事でいて。
「次が本番じゃ。特大のをお見舞いしてやるぞい」
祈るように手を合わせてもう一度深呼吸してから、ゆっくり瞳を開いて、私達は目を合わせると、私はコクンと頷いた。
「氷結大魔法・グランアンティエグラセ!!」
転移術は抜群のタイミングで発動され、魔導師達による氷魔法が巨大なワイバーンの腹に転移されると、長く巨大な槍のような氷の柱が幾つも大きなワイバーンの腹を貫いた。




