39.ダルトワ師匠の特訓
「ぎぎぎぎぎぎ〜っ!! キツイ!!」
「ほっほっほ。頑張れ頑張れ!」
翌週から週3回私の第5部隊での魔導師特訓生活が始まった。
ダルトワさんは、温厚そうな見た目とは違ってなかなか厳しい指導者だ。
今日は魔力を一箇所に集めてバリアをつくる特訓をしているが、15分魔力を出しっぱなしで特訓し、5分休憩というサイクルをもう2時間繰り返している。
「これだけ出し続けてまだまだ魔力があるとはのう。まさに底なし沼じゃ。普通は3カ月かけて毎日少しずつ魔力量を調整し覚えるんものじゃが……ノアちゃんなら2週間もあればものにしそうじゃの」
「底なし沼でもこれはキツイです! 魔力が手の位置から逃げちゃう! バリアにならない!」
「君は今までそういう魔力の使い方をしてきたからの。結界はバリアの拡大版じゃぞ? 普通はバリアを学んでから結界の勉強をするんじゃが」
「うちは独自魔法なんで、精霊との対話を一番に重んじてたんです。だから魔力を大きく放つことを先に覚えて、そこから細かい一般魔法を覚えて……」
「だからノアちゃんの一般魔法は学生並なんじゃな」
「がっ……学生並……!」
ダルトワさんの指摘にずーんと落ち込む。
そう言えば、魔法騎士団に来たばかりの頃、ミシェル様にも同じことを言われた気がする。
「要は魔力頼みの大雑把で感覚に頼る魔法は出来るんじゃが、精緻な技術が足らんのじゃな。なる程。要点がはっきりした」
「ダ、ダルトワさん?」
「明日からは初等学校の魔法基礎からやり直すぞノアちゃん。これでは、団員のほうがまだ一般魔法の技術が高い」
「あう……」
「辞めるかい?」
「辞めません! ご指導ご鞭撻の程を!」
「ほっほっほ! やる気のある生徒は良いのう」
歯を食いしばって練習していると、鍛錬を終えたリオット大尉がニコニコしながらやって来た。
「調子はどう? ダルトワ爺さん意外と厳しいだろ」
「でも勉強になります!」
「ん。いいね。前向きな姿勢は素晴らしい。じゃ、ご褒美どうぞ」
渡されたのはレモンの炭酸水だった。
「レモンは疲れにいいよ。飲んで飲んで」
「有り難うございます」
秋とはいえ汗をかいた後だったので冷たい飲み物は嬉しい。コクリと飲むと、シュワシュワの泡が口の中で弾けた。
「美味しい?」
「あ……凄く美味しいです」
「俺がブレンドしたんだ。蜂蜜も入ってる」
「凄いです! こんなの作れるだなんて」
「ホント? 俺、凄い?」
「凄いです……」
大尉の人差し指が私の唇にくっついた。
その人差し指を自分の唇に吸うようにくっつけると、大尉は私をじっと見ながら静かに言った。
「ご褒美。俺も貰うよ」
ボッと顔から火が出るかと思った。
大尉は女の子への対応に慣れすぎて、私には心臓に悪い。
「ノアちゃん。あれはビンタ案件じゃよ」
「え?! ビ……ビンタ?! 分かりました!」
勢いよく右手を振ったがひょいと躱され、パシっと手を掴まれるとにこーっととびきりの笑顔でもう片方の手も掴まれた。
「やだな。手を繋ぎたいならそう言ってよ。俺は何時でも構わないよ?」
「違う違う違う〜!!」
ブンブンと腕を振って離そうとすると、リオット大尉は楽しそうに一緒になって手を振った。




