3.デュトワ少佐
「ノア・ブランシュ。君を魔法騎士団第3部隊のお付き魔導師に任命する」
「第3部隊……?」
王都に初めて降り立った出勤初日、 春風が気持ちいい絶好の日に、魔導師団員用のローブとお祖母様特製の仮面をつけた私は意気込んで騎士団本部で任命式を受けた。
でも私は部隊の数すら把握していない。
──組織構成ぐらい事前に勉強するんだった。
浮かれている場合じゃなかったと早々に落ち込む。
寮の鍵を渡され、本部とはまた別棟にある第3部隊室に連れて行かれたが、重厚感のある古く大きな建物ばかりの魔法騎士団に、田舎者の私は圧倒されるばかりだ。
白猫の仮面の下から特殊な『目』で見れば、至る所に魔法による個人認証のトラップが仕掛けられていて、本部以上に強固なセキュリティになっていることが見て取れた。
「デュトワ少佐、新しく任命された魔導師をお連れしました!」
私を連れていってくれた団員がビシッと敬礼をすると、「第3部隊」と書かれた50人近くいる大部屋の奥から、将校専用の濃紺のコート式団服に身を包み、同じ濃紺のネクタイをした男性が歩いて来た。
見上げるとスラリと背が高い。
ラベンダー色の長い髪と縁無し眼鏡の奥の蜂蜜色の瞳がとても綺麗な人で、その顔には微笑みが見て取れた。
「初めまして。第3部隊管理者、少佐のミシェル・デュトワです」
「あ、あの、ノア・ブランシュです! 宜しくお願いします!」
出来る限りの大きな声で挨拶をし、頭を深く下げた。
第一印象と挨拶は大事だって、お祖母様にいつも言われていたから。
なのに部屋からクスクスと笑い声があちこちで聞こえる。
少佐に促されて大きな部屋の中をつっ切ると、団員の視線が一斉に私に向けられたのがわかって恥ずかしかったが、大きな窓際のデスク前まで行くとデュトワ少佐は立ち止まり振り返り、笑ったまま私の顔をじっと見下ろした。
──口角が上がっている筈なのに……怖い……?!
どうして……?
蛇に睨まれた蛙のように向けられた視線に私は怯んだ。
笑顔が怖いと思ったことはは田舎でもあった。
大工棟梁のルドルフおじさんはそのいい例だった。
もっともルドルフおじさんは単純に顔が怖いだけで、本当はとっても優しくて、小さい頃から「ノアちゃん、おじちゃん怖くないよ」っていっつもゴツい大きな手で頭を撫でてくれたけど。
だけど少佐はルドルフおじさんとは絶対違う。
端正な顔で、確かに笑みは一件柔和なのに怖いと感じる。
こんなふうに感じたのは初めてだ。
「何のつもりですか」
「……え」
「仮面をつけて挨拶するなど、無礼にも程があります」
「す、すみません……」
外そうとして、お祖母様の言葉が頭を過った。
──『異性の前では仮面をつけなさい』──
ここは魔法騎士団だ。
みる限り周りは男性ばかり。
お祖母様の思いを無にしてはいけない。
「あの、ご無礼なのは承知しているのですが、実家の方針でどうしてもこの仮面は外せないのです。私、お仕事頑張りますから、仮面だけはどうか許していただけないでしょうか」
「実家の方針……? ここは魔法騎士団ですよ?」
「はい。ただ私は独自魔法の魔法使いなんです。だから、どうしても守らなければならないルールがあって……」
「ああ……独自魔法。なるほど。魔導師団も面倒な奴をよこしたものですね」
そう言われ酷く冷たい目で見下さられたが、私は仮面を外さなかった。
独自魔法とは、国が推奨する一般魔法から派生して各魔法使い達が研究して作り上げた魔法のことである。
独自魔法はその名の通り、魔法構成が一般とは違うため、通常ではあり得ないルールが使用者に発生する。
白猫の仮面は、我が家の独自魔法から来る副作用を隠すためのものだ。
そして私を心配するお祖母様が私の身を守る為に作ってくれた大事なもの。
外せば周囲に迷惑をかけるのは目にみえている。
申し訳ないがここで働く以上押し通させてもらわないと何があるか分からない。
だけど……
──この人、怖い……
笑っている筈なのに、目が全然笑っていない。
どうしよう。
知らない人ばかりで、仮面は絶対に外せない。
でも、絶対礼儀知らずな人間だと思われている。
とうしよう。どうしよう。
「……仕方ない。仮面については許可を出しましょう。それ以外はイレギュラーは認めません。魔導師だからといって他の者と区別はしません。覚えておいてください」
「はい!」
「仕事はここにいる団員に教えてもらいなさい」
「は、はい!」
そう言い放つと、彼は紫の長い髪を揺らして奥の個室へと消えた。
まだ心臓がドキドキしたまま振り向くと、団員が私のことをじっと見ていた。




