25.5 sideミシェル 3
2泊3日を予定していた討伐遠征もノアのおかげで1日早く帰れる事になった。
一般魔法は不得手だと思っていたのに。
火魔法は家事レベルにしか扱えないくせに、最高峰の転移術をああも簡単にこなす彼女の魔法技術は一体どうなっているのだろう。
おまけに簡単に男に身体に触れさせたりして、本当に不用意にも程がある。
ローブ越しでも彼女の柔らかな身体に触れたら女だと直ぐに分かるだろうに。
魔導師団の作った快適なテントの寝室にあるシャワーから出て、一息つくとドサリとベッドに転がった。
正直、ムスティークの生き残りが彼女に襲いかかった時、どうしようもない恐怖が駆け抜けた。
自分が殺られるよりよっぽど怖かった。
彼女を失うのが怖くて堪らない。
私はいつからこんな風になったのだろう。
「あー!!」
ベースキャンプの火の番を終え帰ってきた彼女が隣の部屋から甲高い声をあげ、何事かと思い私は走った。
「ノア! どうした?!」
ノックをしたが応答がない。
致し方なく私はドアを開けた。
「ノア?!」
「ミシェル様……どうしよう……」
「何です? どうしたんですか?」
「お風呂セット忘れた……シャンプーもボディソープも無いんです」
「………………そ、そうですか。私のを貸します」
彼女は、ちょっと抜けている。
そこが可愛らしいとこではあるのだが。
そういえば寝言を言うとが言っていたな。
あの可愛らしい口でどんな寝言を言うのやら。
色々と妄想を膨らましているうちに夜は更けた。
テントには天窓がついており星がきれいに見える。
彼女もいま同じテントの中で、私と同じ夜空を見ているのだろうか。
するとコンコン、とノック音がし、彼女がドアの隙間から申し訳なさそうに現れた。
「……ミシェル様。夜遅くにごめんなさい」
「いや、起きていたが。どうしました?」
「私の部屋の天窓に、小型のムスティークがいるんです。手のひらサイズなんです。香を焚いた方がいいですか? どうしよう……」
真上からムスティークに襲われたのがよっぽど怖かったらしい。
小型のムスティークなど、放っておけば明日には勝手に死ぬのに。何をそんなに怖がっているのだろうか。
「怖いのですか?」
「怖い、です」
オドオドしながら窺うように喋る彼女がとてもいじらしい。
なんだこの生き物は。
可愛すぎるだろ。
「ほら、おいで」
「え?」
「私の天窓からは星が見えます。怖くないですよ」
チャンスは逃すべきではない。
嫌われるのを覚悟でここぞとばかりに優しい笑みを浮かべ、見え隠れしそうな毒牙を隠し彼女を自分のベッドに引き寄せた。
「ほんとだ! 凄いたくさん見えますね!」
いや、誘った私も私だが、一応成人した未婚の男女が同じ床についているのだから、もっとこう、怯えるとか誘惑するとか、色々あってもいいのでは?
そんな全力で楽しそうに星をみられても、それはそれで困る。
「ミシェル様」
何か気づいた彼女がニコニコしながら話しかけてきた。
「今日、お揃いですね」
「何が?」
「シャンプーとボディソープ。おんなじ匂いだ」
「おんなじ匂い……」
言われて気づくと急激に昂りを覚えた。
ノアは、こうして意図せず私の琴線に触れる。
「お揃い」だの「おんなじ匂い」だの、いちいち可愛いことばかり言われて燃えない男などいない。
「ノア……私は……」
彼女の肌に触れようとした瞬間、寝落ちされた。
「…………嘘だろ?」
すやすやと猫のようにまるまって寝ている。
寝たのか?!
私は男だと、先程あれだけ印象付けさせたのに?
あんなに悲鳴あげてたのに?
「何、安心しきって私の隣で寝てるんですか……本当に襲いますよ?」
彼女はまだ知らない。
ムスティークなんかよりよっぽど怖い存在が自分を狙って襲いかかろうとしていることを。
薔薇色の頬を擦り、私は溜め息をついた。 身体は高ぶったままやり場のない衝動だけが残る。
「朝までこの状態……? どんな拷問ですか……」
私の長い夜はまだまだ始まったばかりだ。




