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24.真面目の反動

 ベースキャンプに戻ると、皆直ぐに夕飯の支度に取り掛かった。


 未だ足下が覚束ない私を心配したロベール先輩や周囲の団員が「少し休んできなよ」と言ってくれ、申し訳ないと思いつつほんの少し休憩をもらうことにした。


 ふらふらよたよたとテントまで向かうと、布張りなのに少し小さめな木のドアが付いている将校用テントの入り口のノブを押した。


 小さかった見た目とは大きく異なり、中に入ると広めの廊下が見え、左右に一つづつの寝室と廊下奥には共用の休憩室があったので、汚れがついた夏用ローブを脱ぎながら休憩室へと入った。


 カチャリと開いたドアの向こうには、夏用戦闘服の上着を脱いで眼鏡も外しソファに座ったまま頭を抱えるデュトワ少佐がいた。


「少佐……どうしました? 体調悪いですか?!」


 ローブと白猫の仮面を投げ捨て、慌てて駆け寄ると、少佐はゆっくりと私に視線を向けた。


「……ノア?」


「ムスティークの香にやられましたか? あれ、殺虫成分があるから、人間もたくさん吸い込むと具合が悪くなったり……きゃっ!」


 腕を引っ張られよろめいて体勢を崩した。

 次の瞬間、私は少佐の腕の中にいた。


「少佐……」

「ごめん」


 ポツリと囁くように呟いて、少佐はまた私をぎゅうと強く抱き締めた。


「俺が守ると言ったのに。大事な時に君を守れなかった」


「貴方は司令官なのですよ? それに離れていたんですからそんなの当たり前で……」


「当たり前なんかじゃない」


 ゆっくりと顔を見上げると、泣きそうな程動揺している彼がそこにいた。


「二度とノアを傷つけないと誓った……それなのに、私は貴女より現場の指揮を優先した」


 そんなの、当たり前のことだ。

 少佐は責任者だ。団員の頭脳であり、現場をコントロールしなくてはならない。

 私一人に構ってる暇などないのだ。


「……少佐がみんなを引っ張っている姿を後ろから見てたんですけどね?」

「……?」

「ちょっとカッコいいなあ、って思いました」


 この人のリーダーシップは凄いと思う。

 団員は皆少佐を信じて動いている。第3部隊の団結力が強いのは少佐のお陰だ。


「それに少佐が皆のこといつも大事にしてるから、皆も入ったばかりの私に優しいんです。この部隊が強いのも団結しているのも、皆少佐が頑張ってきたからなんだと思うんです」


 そう言うと、少佐の眉が下がり、優しい笑顔が浮かんだ。


「……ねえ、ノア」

「はい?」

「ところでなんで二人でいるのに、私を少佐と呼ぶ?」

「は、はい?!」


 ニコッと微笑まれ、私はギクリとした。

 なんか嫌な予感がする。


「お……お風呂上がりじゃありませんし……」

「あれは『例えば』と言ったはずですが? 二人きりの時は必ず名前を呼べと言いましたよね?」

「だ……だって今勤務時間中で……私、少しだけ休憩をもらっただけなので……」

「……何処か、具合が悪いですか?」


 心配そうに頬を撫でられ、何だか恥ずかしくて目を反らした。


「平気です。討伐間近で見たの初めてで……ちょっとびっくりしたので、足下ふらついてしまって……」


「そうでしたか。可哀想に。では、このまま私が介抱して差し上げます」


「えっ?! 要らない!!」


「要るとか要らないとかそんな話はしてません。私は貴女の言うとおり優しい上官ですから、大切な部下を放っておけないのですよ」


 そう言うと頬と頬がくっつき、身体を抱き締められたまま頭を何度も撫でられた。


「少佐……恥ずかしいです!」

「名前」

「ミシェル様……大丈夫だから離してください!」

「嫌。」


 スリスリと寄せられる頬に、恥ずかしくて顔が熱くなる。ミシェル様は気に入った部下にいつもこんな風に情を示しているのだろうか。


「それと、さっきの転移術。あんなに男にくっつくんじゃありません。指一本でも触れさせるのも腹立たしい」

「何言ってるんですか? お仕事でしょう?」 

「……仕事ねぇ……ならば消毒しましょう」

「消毒って……きゃあっ!」


 ぽすんっと胸元に顔を埋められ、私は恥ずかしさで顔から火が出そうだった。


「きゃあああ!! ちょ……ミシェルさまあああ!」

「何だよ、騒がしいな」

「やだぁ! 恥ずかしいって!」

「……他の団員には触らせていましたよね?」

「こんなとこ触らせてないぃぃ!!」


 真っ赤になって腕の拘束を外そうと藻掻いたら、ますますがっちりと腕がからみつく。


「ノア、私はね。普段超がつく程真面目に仕事しているんですよ」


 知ってる。だから何だというのだ。


「だからたまに不真面目になっていけないことをするとね、自分でも止められないくらい衝動に駆られて、いけないことをする快感に酔ってゾクゾクしてしまうんですよね」


「──……それと私が一体何の関係が……?」


 恐る恐る胸元のミシェル様を見ると、少年みたいな顔をしながらニコッと微笑んだ。


 次の瞬間、顔を左右に振りながら私の胸元に抉り込むように押し付けてきた。


「きゃああああああ!!!!」

「はぁ〜……柔らかい……すっごい癒される……」

「やだぁ! 放して!」

「え? 嫌ですよ。」

「やだってば! ミシェルさまぁ!!」

「ふふ……ノア、良いこと教えてあげるよ」

「ふえ……?」


「貴女の泣き顔ね。滅茶苦茶そそられるんですよ。そんな上気して涙目で見つめられて。名前を呼ばれると堪らないんですよね、ふふ」


 その後、ミシェル様の気がすむまで腕の中に閉じこめられ私は悲鳴をあげ続けた。


 夕飯の時間、配膳に向かう時にはミシェル様はツヤツヤに回復していた。

 私は足のふらつきは治ったけどメンタルはボロボロだった。

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