18.おかしな少佐
眼鏡屋を出るなり私はずどーんと落ち込んでいた。
「すみません……」
「最初から私が購入するつもりだったのですから、任せておけばいいものを……」
落ち込んだ理由は最後のお会計だった。
少佐が支払いをしようとしたので、「私の眼鏡代ですから私か払います!」とか啖呵切ったのだが、あまりの高額な金額に真っ青になり持っていた財布を落とした。
絶望に暮れていると少佐はさっさと会計を済ませ、落ち込む私を引っ張り今に至る。
促されて買ったばかりの眼鏡をつけて歩くと実に爽快だった。
やはり真夏の仮面はしんどい。
眼鏡なら視界もはっきりしているし、控えめに言って最高だ。
高額なだけある。私は払ってないけど。
「さて、次は服ですね」
「服?」
「せっかくの城下です。貴女もたまにはおめかししたいでしょう?」
確かに。
実家を出てから魔術師団の服かジャージの二択しか着ていない。
クスクスと笑う少佐は洋服屋へと私を連れて行った。
可愛らしい洋服が並ぶ店内で、少佐の指示の元、次々にお着替えショーが始まり、やたら褒められた白と水色のワンピースと同じ柄の靴を買うことになった。
「今度こそ私が支払いを!」とダッシュで会計に行くと、店員のお姉さんが見せた値段のタグにまたしても私は絶望し、その場に崩れ落ちた。
「何をやっているんですか。私が払うと言っているでしょう」
若干不満そうに私を起こす少佐に、涙ながらに「情けなくてすみません」と謝ったが、少佐は眼鏡の奥の目を細めて微笑った。
「男の楽しみを奪わないでくださいよ」
「男の楽しみって何ですか」
「美しい女性を着飾らせて一緒に過ごすことですよ」
──……美しい……?
誰のことだ。
それは……まさか私のことはないだろうな。
「今日は二人ともせっかくの休暇ですから、このまま一緒に過ごしてくださいますよね?」
優しく手を取られると手の甲に軽くキスをされ、凍りついた。
「デュトワ少佐……最近ちょっとおかしくないですか?」
「おかしくないですよ。右目の影響で『魅了』にでもかかったように見えますか?」
「いえ……魔法陣の影響受けたのとはちょっと違うと思うんですが……なんか時々おかしなこと言うし、妙な行動するし、変に優しいし……」
「私はただ貴女が素敵で可愛らしいと思っているだけですよ」
「お世辞まで言うようになってるし……なんか、裏があったらどうしよう……最近氷の笑み見てませんし」
「それは別の者に使用してますから。貴女に見せることは今後二度と無いですよ」
──そうかなあ。
……そうかなあ?
「そろそろ食事の時間ですね。暑いでしょうから涼しいところに行きましょう。ほら」
引っ張られた手を少しだけ握り返して、私は歩き出した。




