17.お揃い
雲一つない青空から真夏の太陽が燦々と降り注ぐ。
こんな暑い日でもジーワジーワと虫達の鳴き声はあちこちで響いていた。
今日は平日に初めての休暇を貰って城下に行くことになった。
なんと、あのデュトワ少佐と。
「……ジャージで城下を歩くつもりですか?」
「だって、寮を出入りするのに女の子っぽい格好なんか出来ませんよ」
同じ敷地内の同じ寮にいるので、食堂で待ち合わせをしたのだが、私はいつもの白猫仮面に体育会系丸出しスタイルとポニーテールで登場し、少佐は溜め息をついた。
「なるほど。ま、いいでしょう。現地調達すればいい」
「現地調達?」
「さて、では城下に向かいましょうか」
少佐の後に従い、私は城下の街へと向かった。
城下に行くのははじめてだ。
というか王都自体、魔法騎士団の敷地近辺しか歩いてないので正直何もか分かっていない。
デュトワ少佐は、私服であろうストライプの夏用ワイシャツを着ているし、髪も私と同じポニーテールに結わえている。
凄く涼し気で夏っぽい。
最近は少佐も夏服だから上着のコートは着てないし、半袖シャツにネクタイ姿で、ずっとポニーテール姿だった。
その姿を見て、最近暑さでお団子に髪を結っていた私も今日はポニーテールにしてみた。
「少佐、少佐」
「なんです?」
前を歩くデュトワ少佐をパタパタと小走りで追いかけると、自分のポニーテールをとってピコピコ上げ下げした。
「今日、お揃いにしたんです。へへ」
照れ笑いしながらそう伝えると、少佐が驚いたような顔をして言った。
「お……お揃い……」
「はい。お揃いです」
何故か口元を押さえて黙り込んでしまった。
以前のように怒らせてしまったのだろうか。
城下の商店街まで来ると、田舎では見たことがない店の数に私は歓喜の声を上げた。
こんなに暑いのに、人がたくさんいる。
こんなに賑わっているなんて王都は凄い。
「お店がいっぱい!」
「行ってみたいですか?」
「行っていいんですか?!」
「……そんな楽しそうにされては駄目とはいえないでしょう。先に用事を済ませましょうか」
「はい! ……用事ってなんですか?」
促され向かったのは眼鏡店だった。
私の今使っている白猫の仮面は、魔法陣の影響を封じるだけでなく、印象操作や認識の齟齬を生むように作られている。
デュトワ少佐の案で、私が女性であることを公表し、男子寮を抜けて魔法騎士団で仕事をするために能力封じだけの機能をつけた眼鏡を買いに来たそうだ。
「ここは私の行きつけの眼鏡店なんです。あらゆる魔法耐性を施した眼鏡を作ってくれますよ」
小さな店内で、年配の店主さんが持ってきてくれたのは『精神魔法封じ』のレンズだった。
「目に『魅了』や『錯乱』の力が宿る方は過去にもいらっしゃいました。当店でご相談に乗れると思います」
店主さんは私の顔の幅や目の位置などを確認にしながら、最後に「フレームはどのようなものになさいますか?」と聞かれ、私は少佐の方をちらりと見た。
「そうですね······ノア君に似合うものだと······」
「少佐とおんなじのがいいな」
「え?」
私の中の眼鏡、といえばデュトワ少佐の縁無し眼鏡だ。
知性を感じる眼鏡をつければ私も頭が良くなるかもしれない。
店主さんはニコッと笑って奥に入って行った。
1時間もすると、少佐よりも少し小さめな眼鏡が黒い箱の中に入って出された。
白猫の仮面を脱いで眼鏡をつけ暫く位置の調整を行ってから鏡を見ると、普段よりインテリジェンスな私が現れた。
「わあ! 頭良さそうに見える!」
「私と『お揃い』ですか……?」
「そうです! 少佐とお揃い。カッコいいですか?」
「……とても可愛らしいです」
そう言って少佐は優しく微笑んだ。