15.5 side ミシェル 2
「デュトワ少佐、お風呂借りに来ました」
「ああ」
夕食の時間を過ぎて暫く経った頃。
いつものように彼女が私の部屋を訪れた。
「少佐の部屋って、いつもお綺麗ですよね」
白猫の仮面を外しながら笑顔でそう言われて、胸の鼓動が早くなる。
彼女が風呂場を借りるため、私の部屋に来るようになって10日が過ぎていた。
毎日毎日、彼女は私のもとを訪れる。
浴室から漏れるシャワー音と微かな湯気。
笑顔がよく似合う素顔の彼女。
濡れた髪から香るシャンプーの香りと、彼女が好むフローラルなボディーソープの香りが入り混じり、私の鼻腔を擽る。
湯上がりの上気した彼女は本当に美しい。
何故この人を男だと思ったのか、仮面の魔法を作った彼女のお祖母様は本当に凄い魔法の使い手なのだと思い知らされるばかりだ。
「あ、シルキー喚んで掃除してもらいましょう」
「いや、前も言ったがそのままでいい」
「じゃあせめてバスタブのお湯は取り替えますよ」
「気にしないからそのままで」
「そうですか?」
風魔法で髪を乾かすと、彼女は美しい銀の髪を揺らして出ていった。
途端に私は床に手をつき、溜め息を漏らした。
「くそ……今日も触れなかった……」
何でだろうか。
あの事件以降、彼女のことが頭から離れない。
いや、私が彼女にしたことは許されないことだから、これはきっと罪悪感から来るものなのかもしれない。
だけど、浴室を開けると彼女の残り香でまた高なる心臓。
彼女の入った同じ浴槽に自身の身体を沈めると、どうしようもなく高揚感に満たされた。
他の男はまだ知らない。
仮面で隠されたフィルターの一つ向こう。
走る彼女の流れる汗。
呼吸で上下する豊かな胸。
吐息が漏れる小さな口。
私だけが垣間見た、彼女の身体。
「もう一度、触れたい……」
細い腕と、細い首。
思いの丈をぶつけて、白い肌に私の印を刻んだら、きっと胸元な幾つもの花が咲くだろう。
「はあ……ノア君……」
あの震えた泣き声が耳から離れない。
涙を溜めた大きな瞳に、私だけを写した君が忘れられない。
正直、あんなふうに女性を無理矢理拘束する真似、やってはいけない行為だ。
それなのに、あの美しい身体を必死に捩ってもがく彼女が、意図せず何度も呼び起こされる。
「……君の声で私の名を呼んで欲しい」
頭の中が彼女でいっぱいでどうにもならない。
参ったな。
真面目で仕事一筋で有名な私の頭が女で支配されるなんて。
でも、どうしても妄想は止められない。