11.入浴への渇望
魔法騎士局に来て3ヶ月が過ぎた頃、だんだんと陽が高くなり、日中汗をかく機会が格段に増えた。
「夜、お風呂にゆっくり入りたい……」
私だってまだ18才の若き女性だ。
夜はベトベトの汗を洗い流し、入浴ぐらいきちんとしたいと思うのは乙女として当然の思いだと思う。
そこで私は考えた。
深夜なら誰も魔法騎士局に出入りしないだろうと。
既に朝方の実績は3ヶ月以上あるのだから、後は時間帯を変えるだけだ。
深夜なら時間を気にせず湯船にもつかれる筈。
決意したその日の日付が変わる頃、私はお風呂セットを持参して第3部隊室へと向かった。
第3部隊室のある棟は、全ての魔法灯が消され、ひっそりとしている。
朝方は朝日で部屋が明るかったから気にしなかったけど、夜は建物が古いだけになんかオバケか出そうでちょっと怖い。
他の棟の警備か来ないように魔法灯はつけないまま浴室まで行き、広い浴室内のバスタブエリアにだけ小さく明かりを灯した。
ふと、お湯を貯めるとなると時間がかかることを思い出した。だか、もう途中で止めたくはない。どうしてもお湯に浸かりたい。
「おいで、ウンディーネ、サラマンダー」
肌に一雫の水滴がつくと水でかたどられた女性と燃える火でかたどられた女性の二人があらわれた。
「お湯をバスタブに張りたいの。2人ともお願い」
「あらあら主。お湯に浸かりたいの? 汗臭いものね」
「ウンディーネ……酷い……」
「干からびるまで燃やし尽くす? 主」
「やめてよサラマンダー。お風呂に入りたいだけなんだって」
2人の精霊を召喚したお陰で、あっという間にバスタブにはちょうど良いお湯がたまった。
そっと足をいれると身体を包む熱にあっという間に癒される。そのままザブンと頭まで浸かった。
「はあ〜……天国だわ……」
お気に入りのシャンプーとリンス、フローラルな香りのボディーソープを使い、時間を掛けて身体を磨き上げると、私はまたバスタブに身体を沈めた。
「ああ〜……」
言葉にならない。
お風呂最高。
もうこのまま死んでもいい。
あまりの気持ちよさに鼻歌を歌い、若干のぼせ気味になった頃、やっとバスタブから上がり、脱衣所に魔法灯を移してからバスタオルで身体を拭き、水筒のお水を飲んでホッと一息ついた。
「おいで、シルキー」
お風呂掃除を予定通りメイド服の彼女に頼むと、私はタオルで髪を拭いていた。
──やはり夜のお風呂はサイコーだ。
満足して、着替えようとした時だった。
「誰だ!」
廊下の方から声が聞こえ、私の心臓が空中まで跳ねあがった。