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10.召喚

 魔法騎士局に来て一ヶ月が過ぎた。


 相変わらず顔を合わせれば嫌味を放つデュトワ少佐にムカつきつつも、日々皆と行う訓練に私は必死に食らいついていっていた。


 今日はダッシュと筋トレをやっている。

 さすが魔法騎士達はどんなに疲れていても全力疾走を止めない。

 そんな中私はヒイヒイ言いながら、よたよたノロノロ走っていた。

「競歩の方が速いと思いませんか? ノア君」

「そんな……ことは……っ」


 息が乱れすぎてこれ以上口にするのは困難だ。


 向こう側では、ダッシュを終えた団員達が器具を使って筋トレを始めていた。


 15分遅れでなんとか筋トレに混ざろうとしたが、足が言う事を聞かずその場にへたり込んだ。


「はあ……はあ……ごふっ!!」


 お腹にトレーニング用の砂袋が落ちてきた。


「さあ、ノア君。今度は腹筋100回です。出来ますよね? 貴方は我々の導き手、魔導師なのですから」


 ──この鬼!!人でなし!!

 バーカ! バーカ!!


 盛大に胸の内で少佐を貶している最中のことだった。

 突然ゴッと鈍い音が辺りに響いた。


「ああっっ……!!」


 団員の悲痛な叫びが聞こえ、私の元で嫌味を言っていた少佐も直ぐに音の方へと走った。


 私も急いで駆け寄ると、団員の一人が倒れており、頭からはドクドクと血が流れていた。


「コイツの風魔法に俺のダンベルが巻き込まれて······わざとじゃ……!」

「落ち着きなさい……! アルシェ君、直ぐに医療班を呼びなさい! 誰か上級ポーションを持って……」


「医療班が来るまで、私がやります」


 ジャージで額の汗を拭うと私は呼吸を整えながら倒れた彼に近づいた。


「ノア君? 一体何を……」

「仕事です。ちゃんとやります」


 デュトワ少佐を押しのけて、私は彼の傍にしゃがみ込んだ。

 頭部からはどんどん血が流れ、目の前の団員は血だらけのダンベルを持ったまま真っ青である。


 ──うん、怖いよね。

 人が傷つくのは怖い。

 だから、偉大な魔法使い達は皆医薬の領域に手を出した。

 ヒーラーは医療魔法やポーションを使い可能な限りの治癒を施せる。


 私は医療魔法は使えない。

 私のやり方で騎士団員を助けなくちゃ。


「顔の骨が形を崩してる……治癒妖精じゃ治しきれない……」


 手のひらを掲げ、魔法陣を描いた。


「おいで、カラドリウス」


 ピィ──……と天から甲高い鳴き声が響き、小さな真っ白い鳥がパタパタと舞い降りた。


 翼が揺れる度、雪のように光が零れた。

 キラキラと降る優しい光り。

 空気が澄むのが分かる。

 カラドリウスは精霊の中でもかなり高位だ。

 持っていかれる魔力は相当なものだが、善人で治る見込みがあればどんな病気もどんな怪我も治してくれる。


 心の底を見つめる小さな丸い眼が、私の瞳を見つめ返した。


「彼はまだ呼吸がある。真面目に生きている魔法騎士なの。望めるわよね?」


 カラドリウスは答えるように黒く小さな足でピョンと1回跳ね、そのまま倒れている彼の顔までピョンピョンと跳ねて近づき、じっと顔を見つめた。


 すると流れ出ていた血が止まり、陥没した額がだんだん元に戻り、やがて傷が塞がった。

 白い鳥はピョンと1回跳ねて、私を見ると、ぱちくりと瞬きし、そのまま上空へ飛び去った。


「……?! なんだ、今の鳥は……ノア君……君は……今のは召喚術か?」


「医療班、到着しました!」


 バタバタと本部の医療班がポーションを持って走ってきた。


「良かった……! 傷は治ってますけど、失血してたので血が足りてない筈です。手当てをお願いします……!」

「き、傷が治って……? 取りあえす上級ポーション飲ませます!」


 倒れた団員は、数時間後無事に意識を取り戻した。


 ダンベルを持って青ざめた彼は、泣きながら私に頭を下げてきたけど、「助かったのは彼がいい人だったから」と本当のことを伝えてあげた。

 そうでなければカラドリウスは何もせずに帰ってしまったはずだから。


 でも本当に良かった。

 私に医療魔法は使えない。

 治ったのは彼自身の日頃の行いと、カラドリウスのお陰だ。


 第3部隊室の大部屋に戻ると、団員の皆も私を沢山の笑顔で迎えてくれた。


 私が団員の為に動いたことを沢山の褒めてくれた。


 彼らの役に立てて本当に良かったと、心から思った。


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