危ないクスリやってる訳じゃなかった……
「うるさいぞ、お前ら!」
高校のグラウンドに響き渡る教師の声。それまでベラベラと会話に花を咲かせていた人間と、迷惑をこうむられていた俺達は静かになる。
この体育教師はデカイ、とにかくデカイ。身長は百八十あるぐらいにはでかく、顔がキリッとしている。黒髪、黒目、髪型はポニーテールという訳では無いが、一本に束ねられている。そして体育教師らしく、いつもジャージ姿だ。
苗字は相田、名前は知らない。
若くて顔の良い女の先生なのに、嫌われている。理由は単純、面倒だから。
現に今だって休み時間だというのに、勝手に授業を始めようとしている。ウザイ、やる気があればある分、俺はその教師が嫌いだ。
「能力、特性、体質を持っている人はそれを教えてください!まずはお前だ――」
静まり返った俺達に向かって、教師が問うてくる。
能力、特性、体質。
能力は超能力的なこと。例えば手から火が出るとかいうやつだな。
特性は特異的な性質のこと。例えば自分の意思で体の一部を炎に変えられる。能力との違いは、自身の肉体に影響を与えるか、与えないかという点だけ。
体質は体の出来のこと。特性によく似ているが違うのは、自分の意思で変化させれるかどうか。特性は出来るが、体質は常に変化している。
「おい!東条!お前の番だ、ボーっとしてないで答えなさい」
「は、はい……」
うわ、答えたくない。俺は能力型のアタリ。だが言いたくない、幼稚園児が夢に見るような能力だが、この年ともなると恥じな能力だ。
「俺は能力型で、能力は……」
「どうした早く言え」
クソ!人の気も知らないで……。
「っ!手からチーズを出せる能力です……」
「……そうか、酷いこと聞いたな」
俺が答えた後に、ちょっとした間が生まれた。その間が俺の恥をさらに掻き立てられる。
別に笑われたりはしない。それは元々予想していた。もっと言えば、皆俺の能力をバカにすることは勿論、嫉妬、尊敬もされていないだろう。
きっと何も思われていない。だが、恥ずかしい。
はぁーこれだけはいつまで経っても知られたくない能力だな。
他の奴のバカバカしい能力聞いて仲間を探すか……。
「次だ、九令寺答えろ」
九令寺か、頼む大外れ能力であってくれ。
「わ、私も東条君と同じ能力型です。の、能力はっ心臓を潰す能力です」
マジすか……
あいつが心臓潰す、心臓潰すって言ってたのは無理だろ、と思ってたけどやろうと思えばできるんだ。
危ないクスリで頭がおかしいだけの人じゃないのかよ!俺の心臓、マジで潰されるかもしれないのか、あのイカレに。
「おい、屑」
隣の屑が辛気臭そうな顔して声を掛けて来る。何かあったのか?
「どうした?俺今それどころじゃないんだけど!ずっと俺の心臓を潰したいとか狂言吐いてた女のそれが、狂言じゃなかったんだぞ⁉クソが!ふざけんじゃねぇ‼俺は死にたくな……‼」
パァンッ‼
取り乱していた俺を、和がビンタした!和は手加減など一切なく、俺の首は曲がり、すぐさま頬が赤くなる。
「屑、落ち着け。取り乱しても状況は変わらん」
「和……」
流石幼馴染だ。
「お前は心臓潰されて死ぬ、諦めろ。今までありがとう」
お前なんか幼馴染じゃない
涙も流れていないのに、それっぽく涙を拭うフリをしている和。鼻水が垂れてもいないのに、鼻水をすする音を立てている。
腹立つ。殴りたい、グーで。だが、高校生にもなってそんなことするのはダメだよな。
ドン!
ふぅースッキリした。
「いきなり殴ることは無いだろ……」
「うるさい、イカレ女に心臓潰されるよりはマシだ」
腹を抑えて、その場に蹲っている和を見下して言う。
「よし、全員の異能については聞かせてもらった。それじゃあ、早速体育を始める。今日からは来週のクラス対抗戦に向けて野球だ」
「「「「いよっしゃーーっ‼」」」」
歓声が空気を揺らす。歓声を上げているのは俺達ではない、隣、四組のやつらだ。
何だ?そんなに野球が好きなのか?確かに、今まで気付いてなかったのがおかしいぐらい全員野球少年感あふれる坊主だが。
ん?全員坊主?
「やったぜ、入学前に吉原に十万円の賄賂渡しといてよかったぜ!」
賄賂⁉十万⁉何のために⁉
「クラス対抗戦の野球で優勝するために、俺ら山中野球部全員を同じ組にしてもらえたぜ!」
そんなことのために十万使ったの?バカじゃん
「これで俺達のクラスには学年一の美人と同じクラスになれる!」
「え⁉おい、和どういうことだ?」
元山中野球部員のうちの一人言葉が耳にとまる。
優勝したら美人と同じクラスになれる、どういうことだ?
「おお、屑知らないのか?この学校では『花いちもんめ』に似たことが行われまくってるんだ。誰にだっているだろ?好きな奴と嫌いな奴が。ここでは好きな奴を奪い、嫌いな奴を他クラスに流す。そうして嫌われものだらけのクラスと、人気者だらけのクラスが生まれる。スクールカーストガチガチの高校だ」
「ってことは、九令寺を他クラスに送り込めるってことか⁉」
「そうなるな」
だったら九令寺を送り込もう、絶対に。そうすれば俺の心臓を潰そうとする九令寺と関わらずに済む。
「さっそく試合開始だ!九令寺以外は異能は好きに使っていいぞ!」
俺達はフォーメーションを組み試合が始まった。
先攻は四組、俺達三組は後攻だ。
俺はライト、和はセンター、九令寺はレフトだ。他は知ら無い奴ばかり、ノーマル君に関しては姿が見えない。
さて、野球部相手にどうしたものかな……。
「試合はじめ!」
―――
キーンコーンカーンコーン!
「「「ありがとうございました!」」」
試合と共に、授業は終了した。
――
俺達は体操服から制服に着替え終えた。六限を前にした休憩にいそしんでいる。
俺は席に着いたまま、どうやったら確実に勝てるのかを頭を抱えて考えている。
「ふぅー、どうだった?勝てそう?」
前の席の和が振り向きざまに聞いて来る。
「勝てる訳ねぇだろ‼あんなの‼俺達はアウトの一つも取れずに延々撃たれ続けてたんだぞ⁉」
そう俺達はアウトの一つとれなかった。あの場は山中クソ野球部がバッティングセンターに来たかのようになっていた。
圧倒的実力差、十万の賄賂を使っただけのことはある。
「まあ感情的になるなって屑。俺良いこと分かったんだよ」
「どうせつまんねぇことだから喋んな」
「機嫌悪いな。まあ屑の意見に関係なく言うけどな。三組が勝たなくても、九令寺は三組から消える」
っ‼
和の言葉に思わず、頭を抱えていた俺の手が離れる。即座に面を上げて和の顔を見る。
「その話本当か⁉」
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