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ドブスって言ってやれよ

「そんなことしたら死ぬだろ!俺の心臓潰して、あんたの胸を移植して、俺の心臓を高鳴らせたいってどういうことなんだ⁉」


 奇怪な言葉でクラスの女子相手に怒鳴る男子高校生の姿がそこにはあった。女は俺の荒げた声に興奮しているのか、更に頬を赤らめ、過呼吸かと疑うほどに吐息を漏らしている。


 クラスの反応は、そんな熱い女の反応とは真逆で冷めきっている。クラス中の冷たい視線が俺に突き刺さりふと我に戻る。


 隣で俺の不幸を目の当たりにして楽しそうに笑っていた和も、今は目立たないように笑いを堪えている。


 しまった……!こんなイカレ女をまともに相手にしたせいで目立ってしまった。誰とも信頼関係が気付けていない現状で、意味不明な言葉で女に怒鳴る奴だと認識されてしまった……。俺の高校生活は終わった、終わってしまった。


 キーンコーンカーンコーン


 昼休憩終了五分前のチャイムが、俺には人生終了のチャイムに聞こえた。


「じ、時間だ、早く次のじゅ……」

「どっどど、どういうことか、ですか?だ、だから私は東条君の心臓を潰して私の心臓を移植したい……って、だだけです……そ、そうすれば身も心も一つのまさに一心同体、考えることも、扱う体も同じ。それだけじゃない、私が心臓ってことは、東条君は……東条君は私ナシじゃ生きていけないようになる。そうすれば一生、死ぬその時、私の心臓が東条君の体の中で脈打つのを辞めるそのときまで東条君は私のことを考え続けるでしょ?私は東条君にそうなって欲しい。だから私で東条君の胸を高鳴らせたい」


「は……?」


 理解できない、異常だ、異常すぎる。死ぬその時まで考えて欲しいというのなら、結婚がその手段だろ……。もし、仮に告白されていたのなら俺は実際受け入れただろう。しかし、一勝思われ続けるために心臓移植って頭のネジ母親の子宮の中に置いて来たのか?


 狂ってる!イカレてる!気が触れてる!


「俺の心臓はあんたのせいでバクバクだよ!」

「ぇ、ほ本当ですか?」


 イカレ女は突然俺の胸に耳を当てる。そして俺の心臓の鼓動を聞いて、意を零している。

 当然、イカレ女とは言え、美人にこんなことされては俺も照れてしまい、顔が熱くなる。俺の痴態を見ている和は、我慢の限界を迎えたらしく「アハハハハ‼」と一人腹を抱えて大爆笑している。


 この野郎他人事だからって、後で殴ろ!

 しかし、このイカレ女退く気配が無い。振りほどいても良いんだが、さっきみたいに加減をミスって尻もち衝かせたら更に悪目立ちしてしまう……。クソが!


「離れろよ!」

「い、嫌です、つ、潰してしまう前に、この鼓動を鼓膜に刻み込みたいので」


 何でだよ!十年以上生きてきたが聞いたことも、言ったこともねぇよそんなセリフ!

 クソが、どうしたら――


「九令寺ちゃん、次体育だからそろそろ着替えに行かないと間に合わないよ」


 何とも心優しい数人の女子共がこの女を回収に来てくれた。普段は俺のことをゴミムシを見るかのような目で見て来て、目と目が合えば淡を吐くあの女子共が、今だけは優しく見える。


 九令寺?クレイジー?苗字負けしてねえな、こいつ!


「あの、わ私なんかお声掛けいただきありがとうございます。でも、すいません、嫌です。私は東条君の鼓動を聞きたァァァ!」


 心優しい女子達は、九令寺の脇に腕を通し強制連行する。九令寺が抵抗しようにも、足が浮いており、ただ無残に藻掻いていた。

 やっといなくなってくれた……。


「はぁー、和が助けてくれてもよ……」

「アハハハハハ‼」

「てめえ笑ってんじゃねぇよ‼」

「イテッ!」


 思わず感情任せに和を殴った。右手がめり込む和のお腹に。いくらヒョロガリの俺でも、同じヒョロガリ相手ならダメージを負わせることに成功し、和はお腹を押さえて倒れ込む。


 この野郎、幼馴染が心臓潰されそうだったと言うときにゲラゲラ笑いやがって……‼

 拳を固く握りこみ、大人の俺はぐっとこらえる。そして倒れ込んでいる和を横目にシャツを脱ぎ始める。


「イカレ女のせいで時間が無いぞ、全く……」

「東条君、ドンマイ!」


 着替えている俺の背後から声を掛けて来たのは男。男は黒髪、黒目、身長と顔ともに特徴も無し、普通の中のノーマル。名は確か……ここで言うのはやめておこう。思い出せそうにない。


「『ドンマイ』どころじゃないだろ、マジ何だよ、あの九令寺とかいう女子は?」

「九令寺さんは変わってる人だよね。僕、九令寺さんと同じ中学校だったから教えてあげようか?」


 は?あんな女のことなんか知りたくもないわ!知ったら知ったで『東条君、私のこと知ってくれてるんだ、嬉しい。じゃあ東条君の心臓潰してあげるね』とか言われてまた面倒くさくなりそうだ。


 ……いや待てよ!あいつのことを知れば、あいつの苦手とする人間になれる。そうすれば俺の心臓を潰すとかいう、意味不サイコパスムーブは防げるな。


「その話、詳しく」

「分かった。まず九令寺さんの名前は九令寺狂華。漢数字の『九』、令和の『令』、マジ卍の『寺』、狂人の『狂』、華やかの『華』で九令寺狂華」

 一つだけ分かりにくっ!


「中学時代から性格はあれで、あだ名は残念美人から来た残忍美人で有名だった。九令寺さんは顔が良かったからイジメられることは無かったね」

「そこ顔関係あるのか?」

「あるよ、間違いなく。実際九令寺さんに憧れて真似したドブ……」

 今『ドブス』って言おうとしただろ


「どこにいても目立てるわけの無い、中の下くらいの酷く凡夫、夜空で例えたら名前も分からない星の横で輝いてすらいない星くらいの顔の人が九令寺さんの真似したらイジメられてたし」

 もうドブスって言ってやれ、そっちの方がマシだろ。


 男は軽口をたたくように、暴言を吐いた。見た目が普通だから中身も普通なんだろうな、と思っていた男は暴言廚だった。

 というか今の時代によくそんなルッキズム的悪口言えるな。もう、流石だよ……。


「僕が知ってるのはそのくらいかな」

 何も知らないじゃん、お前


「ありがと、その情報をもとに頑張ってみるわ」

 俺達は体操服に袖を通し、グラウンドへと出る。


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