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二度目の婚礼

 婚礼の朝、私は鏡台の前に座って支度をしていた。花嫁衣装はため息の出るくらい、素敵なものだ。真っ白なドレスに無数の小さなダイヤモンドが散りばめられている。ドレスは重たく、動くたびに繊細にきらめいた。


 緊張していた。前の婚礼とはわけが違うのだ。強制されたものでも、義務感からきたものでもない。


 鏡の端で、小柄な貴婦人が音もなく、部屋に入ってくるのが見えた。振り返って見つめる。初老の女性だ。赤褐色の髪にやさしい緑の瞳。私の姿を見て泣いていた。長い辛い日々で体が縮んでしまったかのような女性だ。


 なつかしく、温かい気持ちに満たされていた。貴婦人は私を抱きしめ、さめざめと泣いている。


「私の娘……」


「お母さん、私、エスメラルダっていうのよ」


 生涯で初めて現れた母は、私に事情を、長い涙の話をしてくれた。


 私と妹のイヴリンが生まれた日、父は寝室にやってきて女は二人もいらない、一人を始末するからどちらか選べ、と迫った。母には選べなかった。どちらも愛する子どもだったから。それで父は私を母の腕から奪い取るとどこかに連れていってしまったのだ。


「死んだと思っていたのよ。森の奥深くに捨てたと言われたから」

 母は悲痛な調子で言う。


「わかってるわ。あなたが私を見捨てるわけがないもの」


 強くだきしめた。


 父は残されたイヴリンにも母にも優しくなかった。家は若いイヴリンにとっては地獄だったはずだ。何度オーガストに会うのをやめるよう説得したことだろう。母にイヴリンを止める力はなかった。そうして、イヴリンまでもが、母の前から忽然と姿を消してしまったのだ。


「父は私を道端に捨てたんじゃなくて、奴隷に売ったのね」


 少なくとも、私には身寄りがあったのだ。イヴリンと私には同じ血が流れていた。同じ出産という体験をし、一人は死に、一人は生きていま母の前に立っている。


「皇帝は素晴らしい方ね。あなたと引き合わせてくれたのよ。晴れ姿のあなたに。イヴリンには彼はやめときなさいって言ってしまったけれどね」

 貴婦人は悲しげに微笑んだ。


「孫にも会ってくれるでしょう?私がどれだけ、あなたに会いたかったかわかってるかしら。幼い頃からあなたは夢の人だった……」



 ここに来るまで長い長い日々だった。暗い奴隷時代。ソフィーと寒さをしのんだ夜。ベネディクトとの因縁の出会い。妊娠と逃亡。出産。修道院での静かで単調な生活……

 今、人生最大の愛と幸福をつかみとろうとしていた。



「新郎オーガスト、汝いかなる時も新婦エスメラルダを愛することを誓うか」

 祭壇の前、司祭が問うた。


「誓います」


 私は彼の顔を見つめていた。それ以外、目に入らなかった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


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