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10年目の真実

「皇帝に反乱をくわだてようとは、恥知らずの連中です」

 ダレルはベネディクトの起こした騒動を聞くなりそう言った。深刻な顔だ。


 私たちは要塞にいた。宮殿まで馬を飛ばして二日の距離である。

 希望はあった。早く行けば、彼が必死で持ちこたえてくれたら。


 ダレルは騎馬軍をつれて宮殿をめざし、私は海辺の屋敷に帰った。あとは知らせを、吉報か凶報を待つだけだ。


 宮殿からの手紙は一日二日過ぎても来ない。勝利の噂も敗北の噂も流れてこなかった。

 待ちくたびれた二週間後の朝、表に馬車がやってきた。豪華な黄金の馬車である。私は微笑んだ。


「皇帝からのお迎えです、奥様」

 従者は馬車の扉を開けて、うやうやしく言う。


「皇帝からの?どの皇帝なんです?」

 私は馬車に乗り込もうとして訊ねた。


「皇帝はこの世に一人しかおられません。オーガスト皇帝陛下ですよ」



 宮廷にはウィリアムがいた。前よりずんと背が伸びている。健康そうだ。それにダレルとハンナも。二人は晴れて月末に結婚することになっていた。ダレルの活躍を見たアナベラが結婚をゆるしてくれたのだ。


 さて、ベネディクトやゲッセン公爵をはじめ、反乱に加わった人は逮捕されたという。ベネディクトの領地の屋敷を捜査すると、驚くべきことが明らかになった。彼こそが皇帝に隠れて奴隷売買を推し進めている張本人だったのだ。屋敷には大勢の奴隷たちが囚われていた。



 オーガストは私を庭園の散歩に誘った。迷路のような庭園をこえ、薄暗い森をぬけ、白い滝の流れ落ちる場所へ。


「ベネディクトとの間に、何があったんだ。言ってくれ、義兄の屋敷には大勢の奴隷たちが囚われていた」

 彼が丁寧な口調で言う。


 私はためらった。ベネディクトとの間に起こったこと、それは思い出すのもつらいほどの出来事なのだ。オーガストは理解してくれるだろうか。もし理解してくれなかったら……


「私はベネディクトの所有する奴隷だったわ。ずっと幼い頃から、記憶にある前からよ。彼は私を辱めて妊娠させた。屈辱的で恐ろしかったわ。何が起こっているのかわからなかった。それなのに逃げ出すことができなかったの。

 ある夜、仲良くしていた奴隷の女の子が殺されてしまった。ソフィーという名前の子よ。彼女は何か不都合なことを見たの。何を見たのかはわからないわ。もう一生……」


 私はそこまで話してハッとした。何かとんでもないことを見落としているような気がする。


「ソフィーはイヴリンを見たんだ。君にそっくりな娘がベネディクトの屋敷に監禁されていた。すでにその時イヴリンは死んでいたのかもしれない……」


「まあ」

 私は口をおおい、悲鳴のような声をもらす。


「イヴリンはずっと前に死んでいた。ベネディクトは自分の屋敷の中にいる、義弟の恋人にそっくりな少女を見たとき、暗い欲望が芽生えたんだ。奇妙な偶然だった。最初は君を弄ぶだけ。だが、君はああいうような男を愛するわけがない。怯えて混乱するだけだった。だがイヴリンは?イヴリンは違った。彼女は私が愛したように愛してくれた。夢中だったんだ。ベネディクトは嫉妬した。奴隷を辱めるだけでなく、イヴリンが欲しくなったのだ。

 イヴリンがあの邪悪な男に誘拐されたとき、私の子を妊娠していた。義兄は失望しただろうか。怒りを感じたかもしれない。彼女はあの男に陵辱されるよりは死を選んだ……」


 言うべき言葉も見つからなかった。長い年月の間、過去に愛した女性を探していた。義理の兄にその彼女を殺されていたとは。


「ひどいわ」

 それだけしか言葉が見つからなかった。


 オーガストは疲れ切ったような顔をしている。悲しみも怒りさえもわかずに。


「エスメラルダ、君は嘘を言わなかった。それだけでなく、私たちを救ってくれたんだ」


「あなたには失礼な態度をとったけど、憎んだことなんてなかったもの。オーガスト、あなたはよき皇帝よ。それによき夫でもあった。たとえ、かりそめのことでもよ」

 悲しげに微笑んで言う。

「ウィリアムもあなたを慕っていたわ。お別れを言うのがつらいでしょうね。でも、前を向かないと」


「エスメラルダ、たしかに君はイヴリンとは違う。でも、君はなんて愚かなんだろう。この数ヶ月の間、イヴリンにそっくりだから君に我慢できてたと思うのかい?君はイヴリンに似ていて、全然違った。慎重で疑り深くて、何よりもウィリアムの母親だった。君はウィルを深く愛してるね」


 心の奥底がなぜかモゾモゾとくすぐったくて、この場から逃げ出したくなった。大いなる幸福と大崩壊が同時にやってくるような、そんな感覚だ。


「君は思慮深くてイヴリンにあったような少女らしさはまったくなかった。宮廷のことも、お金も軽蔑していた。エスメラルダ、君を愛してるんだ。私と結婚してほしい」


「あら、もう結婚してるのに?」

 口ではそう言ってみたものの、幸せでいっぱいだった。


 彼を愛してたのだ!なんてわたしは愚かなんだろう、ずっと前に彼を愛してるのに気づかなかったなんて。

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