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追放

 ソフィーは笑っていた。霜の降りた、真冬の大地で。灰色のみすぼらしい服で。この上なく幸せそうだ。


「ソフィー、どうして笑っているの?」

 私は悲しげに微笑む。


「どうしてって幸せだからよ。変なこと聞くのね。さあ、こっちに来て抱きしめて」


 ソフィーは満面の笑みで私をいざなった。恐る恐る近づく。


 霜のおりた地面が温かい。空気はよどんでいる。


 私はソフィーを抱きしめようと腕に触れた。氷のような冷たさだ。一気にソフィーの体がダランとたれ、私の腕の中で崩れてゆく。顔が真っ青だ。白い霜がふいている。



 ハッとして飛び起きた。ベッドのわきに男が立っている。


「今すぐ着替えて旅の準備を」

 男が事務的な口調で言った。


「なぜ旅なんかするんです?何も聞いてないわ」

 混乱した頭で言う。


「陛下のご命令です。石の広間でお待ちです」


 果たして石の広間に行くと、オーガストは一人で待っていた。柱に寄りかかり、背中を向けて立っている。振り向くと例の厳しい表情をしていた。


「ベネディクトと関係をもっていたとは」

 冷ややかな声だ。


 血の気が失せる。


「あなたの血縁だとは知らなかったの。前から私はイヴリンではないと言っていたわ」

 必死に自己弁護した。


「ウィリアムの父親は誰なんだ。まさかベネディクトじゃないだろう?彼は今反乱をくわだてているんだ。生来の権利を僕から奪おうとして。

教えてくれ、どうして今頃帰ってきたんだ?あんなにも長い間、離れていたんだ。単なる気まぐれか、愛のあるところに戻ってきたのか、それとも愛人のためか?ベネディクトのためか?」


 オーガストが話すたび、自分の置かれた状況の深刻さに気づいてゆく。真実は彼の考えているようなことではない。だが、すべて無駄なのだ。


 たしかに初めて修道院で出逢った時から、オーガストを好きだったことはなかった。強引だったし、いつも厳しい顔をしているし。でも、彼を傷つけたいなんて思ったことはない。彼はある意味、切ないほど誠実でさえあった。私には違ったかもしれない。でも、彼が私の中にイヴリンを見出そうとするとき、胸が苦しくなったものだ。この人は本当にイヴリンを愛したのだな、と。


 私にはウィリアムの父親の話をごまかすことはできなかった。嘘をつくには、彼はあまりにも高潔すぎた。


「君は悪賢い詐欺師だよ、エスメラルダ。希望をもたせてどん底に突き落とした。ベネディクトと共謀して全てを奪うつもりだったんだろう?だが、そんな計画はうまくいかない。君は宮廷から追放されるんだ。君の愛人もすぐに死ぬ」

 一言一言に冷たい怒りがこもっていた。


 私を憎んでいるのだ。いまごろ奇妙なことだけれど、彼には誤解してほしくない。ベネディクトを愛したことなどないのだ。オーガストに嘘をつくつもりもなかった。こんなふうに憎んでほしくなかった。


「ベネディクトは愛人なんかじゃないわ。ごめんなさい、オーガスト。真実は思ってるのと違うのよ」



 彼は聞く耳をもたなかった。衛兵に言って私を馬車に乗せてしまったのだ。たった一人で、ウィリアムの同伴も許さずに。


 出がけにハンナが出てきて慰めてくれた。きっと誤解をといてみせると。


「ウィリアムの世話は私がするわ。手紙を書いて」

 ハンナは困ったような顔をして言う。


 私には彼女が本気で胸を痛めているのがわかった。


 自分の存在を恥じるかのように、マントを深くかぶる。馬車は出発した。どこに行くかはわからない。世の中が元通りになるかも。ウィリアムとまた会えるかも。

 私は国の罪人なのだ。

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