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魔王と36人の勇者  作者: 仲島 鏡也
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支配

視点:テオ

 勇者たちはグリムガルの後ろを歩き、魔王の間へと入る。グリムガルはこの場所で魔王クリアノートを討つのだという。これはグリムガルにとっても雪辱を晴らすための戦いだ。自分の敗北した場所で、再び勝利することこそがグリムガルにとっての真の勝利につながるのだろう。

 そしてそれはテオたち勇者にとっても同じだ。


「さて、貴様らにそれぞれ配置についてもらう。まずクリアノートを倒すために必要なのは遠距離から攻撃ができる者だ。炎や氷、雷に水に地に鉄や弓などが当てはまるか。霧や結界などもいればよい」


「雷と霧の勇者は殺された。『屹立』のゼノリバスにな」


 グリムガルは勇者の持つ力をよく理解しているようだった。それだけ彼が勇者との戦闘を行ってきたということだ。そして挑んだ勇者はことごとく魔王であったグリムガルに殺されているということに他ならない。


「そうか。とにかく貴様らはなるべく距離を離して壁際に立て。この空間のどこにでも攻撃を当てられるようにな」


 テオたちはグリムガルに言われるがままに配置についていく。言いなりになることは癪だが、グリムガルにはクリアノートを倒すための未来を見据えている。そこには彼の自信が窺える。


「予知の勇者は生きているか? そいつと我を生き返らせた癒しと魂と信仰の勇者は我の背後だ。クリアノートの動きを逐一報告し、我に傷があればすぐに癒せ。死んだとしてもすぐに生き返らせるのだ」


「な、一度ならず二度までも魔王を蘇らせろというのですか。なんと不敬な。神に背く行為です」


 信仰の勇者ソルクンが心底嫌そうに首を振っている。


「共闘はしても、貴様の指示を受ける必要はないはずだぞ」


 竜骨の勇者ロックスもたまらずといった風に声を上げる。他にもそれに賛同する声が上がるが、グリムガルはさして気にした様子もない。


「貴様は竜骨だったか? 船を安定させるしか能のない外れだったな。よし丁度いい。最初は貴様にしよう」


 その言葉の真意を汲む前にグリムガルは手のひらをロックスに向ける。ロックスの周囲の空間が歪んだ。あれは不可侵の魔法だ。不可侵の壁がロックスの周囲を囲んでいる。グリムガルが開いた手のひらを徐々に閉じていく。その動きに合わせて壁が収縮していく。

 なんだあれは。不可侵の魔法が他人に干渉するなど見たことがない。

 壁に囲まれたロックスの声は周囲に届かない。ロックスはひたすらに壁を剣で叩き、拳で殴り、脚で蹴る。しかし不可侵の壁はビクともしない。ロックスはまともな体勢も取れずに、収縮していく壁に押し込まれていく。


「やめろ‼」


 周囲の勇者がテオの声に合わせてグリムガルに攻撃を加えようとする。しかし先ほどロックスと共に、グリムガルへ抗議の声を上げていた者たちの周囲にも不可侵の壁が出現する。


「動くなよ残りの勇者ども。貴様らが動くごとにこの壁を縮める」


 その一言で誰も動けなくなる。


「いい子だ。まず、貴様らは理解すべきだ。この魔王の間は、我の魔法の及ぶ範囲に合わせて作らせている。つまりこの場所では、常に我が貴様らの喉元に剣を添えているような状態だ。生きるも死ぬも我の思いのままだ」


 グリムガルは指をこすり、音を鳴らす。それと同時に勇者たちの周囲に展開された不可侵の壁が消える。


「もちろん殺す気はない。だが訂正しよう。これは協力ではない。貴様らは我に使われるのだ。意識を変えろ。さもなければ、」


 不可侵の壁から解放され、息も絶え絶えになっていたロックスの腕の周りに不可侵の壁が現れる。そのまま壁は収縮し、ロックスの腕を圧し潰した。ロックスは苦痛に声を漏らす。しかし歯を食いしばり、大きな声を出すまいと必死にこらえていた。


「罰を与えよう。ん、そこのお前、なにか意見があるのか? そういう顔をしている」


 グリムガルが目をつけたのは花の勇者ミリオーネだった。彼女の両脚に不可侵の壁が展開する。


「や、いや、やめ……」


 ミリオーネは逃げようとするが、脚は固定されて逃げることもできない。


「ふざけるなグリムガル‼」


 テオはたまらず駆け出す。だがそれも壁に阻まれる。魔法の同時展開、圧倒的な規模、遠距離での使用。クリアノートと対峙した時と同様に、グリムガルの実力の底がまったく計れない。テオは壁を叩く。炎を纏った一閃で壁は多少揺らいだが、それだけだ。ミリオーネの脚が潰される。肉と骨が弾け、ミリオーネの悲痛の叫びが魔王の間に反響する。

 ミリオーネはその場に立つこともできず、ろくに受け身すらも取れずに顔面を地面に叩きつけるように倒れていく。

 テオはそれを壁越しに見ていることしかできない。


「いやだああああああ痛い痛い痛い」


「騒がしいな。癒しの勇者よ。あの小娘を治すことを許可する。いけ」


 癒しの勇者アーリシアがミリオーネを治しに行く。だが、あれほどの重傷であれば完全に治すことは難しいだろう。ミリオーネはこれからの人生でまともに歩くことはできない。ふざけている。ミリオーネはテオと同じ故郷で育った。ただ平穏に暮らしたいと彼女は言った。争いごとは苦手なくせに、勇者に選ばれたからと戦う道を選んだ。それもすべて平穏な世界を手に入れるためだ。そんな心優しい彼女がもはや自分の足でまともに立つこともできない。

 グリムガルを睨む。その背後に影が迫っていた。


「俺たちが間違っていた。こいつはここで殺すべきだ!」


 闇の勇者ノロが闇に紛れてグリムガルの背後を取る。その手に持った短剣を振りかぶり、グリムガルの首をめがけて振りかぶる。


「マリア」


 グリムガルの一言と同時に、いつの間にか『悦楽』のマリアがノロの背後に移動し、ノロをそのまま蹴り飛ばした。床を転がるノロを、グリムガルが上から踏みつけた。ノロはその衝撃で胃液と血液を口から吐き出す。明らかに内臓が壊されている。


「いいぞ。調子が戻ってきたようだ。クリアノートが戻ってくるまであと数刻か。その間に——」


 グリムガルは楽しそうに笑う。


「——貴様ら全員を矯正してやろう」


 テオは、魔王クリアノートを倒すためなら悪魔にだってすがろうと思っていた。だが甦ったのは、悪魔以上に恐ろしいテオの知らない「何か」だった。

 それからは惨劇だった。

 勇者が不審な動きをすれば、動いた勇者とは他の勇者が被害を受ける。グリムガルはそういったルールで勇者に危害を加えた。そして傷ついた者は怒りの矛先をなぜかグリムガルではなく、不審な動きをした勇者に向けられる。不審な動きなどグリムガルのさじ加減次第なのにだ。さらにはグリムガル復活を推進していた勇者に対して、それに反対していた勇者たちが罵声を浴びせる。精霊たちは勇者に同調したりなだめたりと反応は様々だった。

 危害を加えているのはグリムガルだ。そのはずなのに、どうして怒りや憎しみが勇者たち同士に向けられるのか。結果を引き起こす者ではなく、きっかけを作った者を恨むのは間違っているはずだ。だけどこう思ってしまうのだ。あいつが余計なことをしなければ、と。

 グリムガルは人の醜い心を引き出すことに長けていた。

 グリムガルは自分で決めたルールを守ることに徹した。だからこそ、下手に動かなければ誰も被害を受けることはないと勇者たちは理解した。そうやって、グリムガルの意のままに勇者たちは動かされる。

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