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68話

キリアン様に返事をしないといけない。


でもわたしには「行きたい」とは言えなかった。


だってわたしは記憶の残るアイシャであって、前世のままのアイシャではない。


ーー怖い。また家族に捨てられるかも…


でも、もう会えなくなると思うとキリアン様と会える日は、いつも以上に大事な時間になった。

指導してもらっている間は必死で頑張ってるけど、その後のお茶の時間は少しでも長くいたい。


最近この気持ちに名前がついた。


わたしはキリアン様に恋してるみたい。


前世のアイシャの記憶では幼い可愛いキリアン君。わたしが眠り続けている間のキリアン様は、わたしをやはりお姉ちゃんとして慕っていた。


でもわたしに対してはまだ親しくないはずなのに、「アイシャ」と呼んでいつもそばに居てくれた。


そう、気がつけばいつもそばに居て、魔力制御の仕方や魔法もたくさん教えてくれた。

キリアン様は魔法使いとしても優秀だけど、指導者としてもかなり優れていると思う。

わかりやすいし丁寧なので、わたしでも覚えやすい。


自分の属性ではない魔法も知識を持っていて、わたしに教えてくれた。

もちろんお祖父様やロウトも時間の空いている時は教えてくれた。


でもキリアン様が一番わかりやすかった。


お茶の時間が楽しみだったのも今この気持ちに気がついてからはわかる。

キリアン様が好きだったから。


優しく微笑むキリアン様、わたしが辛い時気がつけばいつもそばに居てくれるキリアン様。

わたしの学園での話を楽しそうに聞いてくれる。

一緒にお買い物に行ったりピクニックに行ったりと、塞ぎ込むわたしを外に連れ出してくれたキリアン様。

魔力暴走の時も自分が怪我をしてでもわたしを止めて庇ってくれる。

暴走した時、抱きしめて止めてくれた。

止めてくれずあのままだったらわたしは屋敷を半壊にしていたかもしれない。

屋敷の人達に大怪我をさせていたかもしれない。


それに……キリアン様が抱きしめてくれた時とても暖かかった。……心の中がふわっと感じた。


キリアン様への気持ちを「兄」だと思っていたけど、本当は「恋」だった。

ずっとわたしの怪我を治してくれた人に会ってみたくて、前世のアイシャがキリアン様と仲良くしているのを眠り続けているくせに気になって、再び目覚めたらキリアン様は家族のように当たり前のように近くにいる。


そんなキリアン様がいなくなったらぽっかりと穴が空いてしまう。


でもメリッサやロウトと離れるなんて考えられない。

お祖父様だって一人残すなんて嫌。

友達とも会えなくなるのは寂しい。


わたしにだってこの国にもたくさんの楽しい思い出も離れたくない人達もいる。


でも向こうの国にも会いたい人そばに居たい人がいる。


そんなことを考えていると、時間は勝手に過ぎ去っていく。


夕食を食べ終わりロウトが付いてきてくれて屋敷の敷地の中を散歩した。

「アイシャ様、少し外を歩きませんか?」


ロウトが珍しいことを言う。


「ええ、わかったわ」


少し肌寒くなってきた時間、メリッサがストールを持ってきて


「アイシャ様外は冷えますので」と掛けてくれた。


「ありがとう」

メリッサもわたしの後ろからついて来てくれる。


暗くなった屋敷の周りにはたくさんの灯り。

その灯りが庭に咲く花々を美しく見せてくれる。


星空もとても綺麗だった。


「ロウト、話があるのよね?」


「そうです、アイシャ様、わたしとメリッサは貴女がどこで暮らそうとわたしの主人は貴女だけです。

ですからずっと貴女について行きます」


「アイシャ様、わたしも貴女について行きたい。素直になってください。日々アイシャ様の顔から笑顔がなくなっています、それが答えではないのですか?」


「………二人はバナッシユ国について来てくれると言うの?

家族を置いて向こうに住んでもいいの?」


「………わたしとメリッサは……実は今付き合っております。お互い長い時間をアイシャ様のおかげで過ごしていて気がつけば大事な人になっていました。だから二人でならアイシャ様のそばで新しい家庭を築けます」


「え?うそ……全く気が付かなかったわ」

メリッサの顔を振り返ってみると、少し照れていた。


「使用人如きの恋愛事情を主に悟られるわけにはいきません」


ロウトも「まあ、恋愛に無知で鈍感なアイシャ様がわかるわけないですよ」


「うっ、確かに」

ロウトの砕けた話し方が好き。


二人だけの時はお兄さんみたいに接してくれる。


メリッサはいつも見守ってくれてお世話をしてくれるお姉さんみたいな人。


二人とも仕事なんだからそれ以上の感情なんて必要ないのに、いつもわたしを心配してくれる、優しい二人。

わたしの大好きな二人が結婚……

塞ぎ込んでいたくせに、今はとっても嬉しくて


「そっかあ、もしバナッシユ国へ行っても二人と離れなくていいのか」






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