44話
リサ様とハイド様がカイザ様のお屋敷に来ているとメリッサさんが教えてくれた。
「メリッサさん、わたしお二人にお会いしたいの。アイシャちゃんとしてではなくて前世のアイシャとして……」
メリッサさんは少し悩んで考え込んでいたが、
「アイシャ様、聞いて参ります」
と言ってくれた。
ロウトさんは「大丈夫ですか?」と心配してくれた。
ロウトさんとメリッサさんはアイシャちゃんとしてではなくて、前世のアイシャとして別の人格として接してくれている。
わたしが部屋に篭ることが多いので、ロウトさんはアイシャちゃんの過去の話を色々話して聞かせてくれる。
聞いていると不思議に頭が覚えているのかわたしの中で体験したかのように思い出し、しっくりとくる。
「お二人とお会いできるそうです。
カイザ様もご一緒に顔を出すそうです」
「よかった。安心してお話し出来そう」
アイシャちゃんの記憶の中のリサ様はわたしの知るリサ様とはあまりにも違った。
だから少し怖い。
でもアイシャちゃんの憂いを取り除くためにもわたしはリサ様に会いたい。
話したからと言って考えが変わるかはわからない。
でもわたしが今この世界にいるのは何か理由があるとしたら、それはアイシャちゃんを守るためだと思う。
キリアン君達がわたしを守ってくれたように今度はわたしがアイシャちゃんを守りたい。
◇ ◇ ◇
部屋に訪れた二人はわたしを見た。
ぼんやりと覚えているハイド様。
アイシャちゃんの記憶によるものだろう。
優しくて温かくていつも抱きしめて頭にキスをしてくれるお父様。
今目の前にいるハイド様もわたしにとても優しい目を向けてくれている。
「アイシャ、今まですまなかった。辛い思いをしていたのに気づいてあげられなかった」
申し訳なさそうにわたしを抱きしめながら呟く。
「ごめんな」と……
リサ様はわたしを睨みあげて、怒りを抑えられないでいた。
カイザ様はアイシャちゃんが眠り続けていることを話していないみたい。
「アイシャ、貴女はお姉ちゃんなのにターナを一人っきりにさせてお祖父様の屋敷で甘えた生活を送って、意識が戻らない?みんなに心配をかけて本当に我儘な子に育ったのね」
わたしは驚いた。
リサ様があんな怖い顔をして睨みつけている。
これが母親?
わたしのお母様はわたしを産んで放置はしていたけど、こんな冷たい目で娘を見ることはなかった。
わたし……ではなくて、アイシャちゃんが傷ついているのがわかる。
眠っているはずのアイシャちゃんがリサ様の言葉に反応して震えて泣いている。
アイシャちゃんはとても傷ついているのね。
二人はわたしがアイシャちゃんではなくてアイシャだと知らないから、こんな言葉が出るのかしら?
たぶんカイザ様が知らせていない。
久しぶりの親子の対面の姿をカイザ様は後ろで苦笑しリサ様に呆れていた。
わたしはカイザ様をチラリと見て首を軽く横に振った。
今は何も言わないで!
わたしの気持ちを汲んでくれたカイザ様は黙っていてくれた。
「お父様、お母様、お久しぶりです。ご心配をおかけしてすみませんでした」
わたしはベッドに座って二人に笑顔を向けてみた。
「横になっていなさい、まだ体調は完全ではないんだろう?」
ハイド様はわたしを抱きそっと横にして寝かせてくれた。
これが父親の愛情……わたしは前世で一度も味わうことがなかった。
とても嬉しくて、でも気恥ずかしくてわたしは
「ありがとうございます」
としか言えなかった。
それを見ていたリサ様。
「ハイド、アイシャを甘やかすから図に乗るのよ、やめてちょうだい」
あ……またリサ様のキツい言葉がアイシャちゃんの心を抉る。
わたしにはこれくらいの言葉は慣れているのでなんとも思わない。
でもアイシャちゃんはどんどん心が壊れていっているのがわかる。
だから眠り続けようとするのね。
そんな時ドアをバタン!と開ける大きな音がした。
振り向くとそこにはハイド様とリサ様に似た女の子が入って来た。
「お姉様、お久しぶりです!どうしてそんな仮病を使ってお二人の気を引こうとするのですか?」
いきなりの言葉にわたしは驚いていた。
確かこの子はアイシャちゃんの妹のターナちゃん。
姉に対してこんな馬鹿にしたような目で見るなんて……アイシャちゃんを蔑んでいるのが手に取るようにわかる。
アイシャちゃんはリサ様とターナちゃんに嫌われているのね。
カイザ様は後ろでかなり怒っているのがわかる。
メリッサさんとロウトさんは、腹を立てて殴りかかりそうな顔をしてグッと耐えている。
「ターナ、リサ、お前達は何を言っているんだ。アイシャが倒れてやっと目覚めたのに心配ではないのか?」
ハイド様は二人に対して注意をしているが二人は逆に怒りだした。
「お父様、お姉様はわたしを屋敷に一人残してお祖父様に甘えて過ごしているんですよ?わたしには誰もいないのに、メリッサとロウトを独り占めして、お祖父様も独り占めして狡いです!わたしだって三人がいいです!」
「ほんと可哀想なターナ。アイシャはお姉ちゃんなのにターナを放って何をしているの?ろくに魔法の制御もできない、笑っているだけで何を考えているの?貴女をそんな思いやりもない子に育てた覚えはないわ」
二人はさらに追い打ちをかけてアイシャちゃんに文句を言い続けた。
「お姉様はそんなだから使用人のみんなから嫌われて笑われているのです。恥ずかしい。なんの属性かもわからない、まともに魔法も使えない、いいとこなしなのに笑ってばかりで……」
「まぁ、ターナ知らなかったわ!使用人にまで馬鹿にされていたの?やっぱり魔力があってもろくに魔法が使えない子なんて誰からも相手にされないわね」
「そうなの、だからお姉さまは貰い子だと嘲られ使用人からも馬鹿にされて笑われているのだわ。恥ずかしい、こんな人がわたしの姉なんて思えないわ。どこからか捨てられて拾われたのではないのかしら?」
「ふふ、ターナったら、そんなこと言うものではないわ。アイシャが捨て子だなんて……ただ転生してわたしのお腹に入った子よ。死んだのに未練を残してまた生き返った哀れな子なのよ」
ああ、二人の言葉にアイシャちゃんの悲しみが辛さが、全身を駆け抜ける。
痛い……心が壊れそう。
わたしは必死でアイシャちゃんの心を抱きしめた。
アイシャちゃん、聞いてはダメ!
こんな人達の言葉なんか聞かなくていいの!




