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43話

あれからキリアン君に前世でわたしが亡くなった後の話を聞いた。


わたしの中ではもう終わった話。


自分自身もう終わっているのに、眠るアイシャちゃんの代わりにわたしの意識が表に出てしまい、突然の今世に戸惑いながら数日を過ごしている。


カイザ様と話している時、カイザ様はとても困った顔をしている。


アイシャちゃんに「お祖父様」と呼ばれていたのに、「カイザ様」になって戸惑っているみたい。


でも今のわたしはお祖父様とは言えない。

わたしを助けてくださったカイザ様なのだ。


キリアン君はこの国で医術の勉強と魔法を習っていると聞いた。


キリアン君にも魔力があったのだ。


ふと思い出す。


エマ様って旦那様がいなかったわ……


あの頃はキリアン君とエマ様が二人でいることが普通で何も考えなかったけど……キリアン君のお父様が魔力持ちだったのかしら?

意識を取り戻してから少しずつあの頃のことを鮮明に思い出していた。


それは自分の苦しさ、辛さを思い出すことになる。

アイシャとしても辛いけど、この悲しみが眠り続けるアイシャちゃんに伝わってしまうのがわかる。


ますますアイシャちゃんの眠りを覚ませないようで不安になる。


もしかしたら……わたしの心の憂いが少しでも晴れればアイシャちゃんは眠りから目覚めてくれる?


それからは、キリアン君が時間がある時に会いに来てくれるので、過去の話を聞かせてもらうようにした。


お父様がとても後悔していたこと。

お兄様が泣いていたこと。


お母様は……………変わらなかったらしい。


王妃様は罪を償うために収容所に入った。

でも鉱山の爆発事故の混乱で生死不明だそうだ。遺体はまだ見つかっていないが多分お亡くなりになっているようだ。


陛下はもう引退されて、ジャン様が国王になられているらしい。


殿下はジャン様の臣下として今も国のために頑張っているらしい。


わたしはみんなから疎まれ嫌われて価値のない人間だと思って過ごしていた。

でも本当はわたしのことを愛してくれていたお父様とお兄様がいた。

今さら死んだわたしがお二人の気持ちを聞いても仕方がない……と思いつつも今のアイシャちゃんに少しでも人の気持ちは自分ではわからない、見えていないだけで、優しさに溢れているのかもしれないと感じてほしい。

アイシャちゃん、貴女には生きて欲しい。


わたしは祈るようにアイシャちゃんに話しかける。


『アイシャちゃん、この世界は貴女の生きる場所なの……お願い眠りから目覚めて……わたしは貴女のおかげでわたしの死後の話を聞かせてもらえたの……わたしは愛してもらえていたと知ったの……ありがとう、アイシャちゃん……わたしは要らない存在ではなかった。生きていてもよかったの、それだけでもう十分幸せなの……アイシャちゃんもこの世界で幸せに暮らして欲しい』


でもアイシャちゃんが目覚めることはなかった。


わたしは、外に出てアイシャちゃんのフリをすることが苦手で部屋からあまり出ないようにしている。


アイシャちゃんのように明るく元気に過ごしたことがないわたしはどうすればいいのかわからないのだ……






「アイシャお姉ちゃん?」

キリアン君がわたしのことを心配してくれているのがよくわかってはいる…


「キリアン君、ごめんね、アイシャちゃんがどうやったら目覚めてくれるかわからないの。このままではアイシャちゃんは本当にこの体の奥底で眠り続けてしまいそうなの」


「アイシャは絶対戻ってくるよ!」


「キリアン君はアイシャちゃんを初めて見た時驚いた?」


「………アイシャお姉ちゃんが生まれ変わってるんだと最初は思って嬉しかった……カイザ様達に会わないようにして欲しいと言われて、納得はしたけどやっぱり気になって遠くからたまに見ていたんだ」

キリアン君が頭をぽりぽり掻きながら、下を向いて話し出した。


「俺の覚えているアイシャお姉ちゃんとアイシャは違った。アイシャお姉ちゃんは優しくてあったかい、儚げで壊れそうな人だった……でもアイシャはいつも明るくて元気で全く違った。でも時折寂しそうにしている姿とか無理して笑顔でいる姿を見てしまってからは心配でたまらなかった」


「アイシャちゃんは頑張って自分の気持ちを隠して明るく振る舞っていたのね」


「たぶんそうだと思う。それに気づいてカイザ様に助言はできても、そばで助けてはあげられなかった。アイシャの前に俺が現れて突然前世の記憶が戻るとパニックになってしまうかもしれない、そう思うとカイザ様に止められているのとは別で会う勇気がなかった」


キリアン君は溜息をついた。


「アイシャは前世の記憶に耐えられなかった……そして今の現実にも……」


「キリアン君、ありがとう」


「え?」


「キリアン君はアイシャちゃんを心配してくれていた。それだけでもアイシャちゃんは嬉しいと思うわ」


「アイシャは記憶が戻って小さい頃のキリアンは覚えていても今の俺のことは知らない……」


少し寂しそうに話すキリアン君に


「アイシャちゃんは眠り続けてわたしの声は聞こえなくても何か感じるものはあると思うの、わたしがアイシャちゃんの中で眠っていたように……わたしもはっきりと全てを覚えてはいないけどアイシャちゃんと過ごしたこの11年間のことはなんとなく感じて……不思議に思い出すの……わたしとアイシャちゃんはやはり別の人格に見えても一つなんだと思う、だから……キリアン君ありがとう、ずっと守ってくれて」



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