表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/97

42話

「……わたし達の大事なアイシャ様は目覚めるのでしょうか?」


「………分からない……でもわたしは死んだ人間なの。アイシャちゃんを早く戻してあげたいの」

わたしはそれしか答えられなかった。


だってわたし自身もどうしていいのか分からない。


アイシャちゃんの中で朧げに見ていたこの世界に突然放り出されたのだ。


「アイシャお姉ちゃん、アイシャは眠っているの?」


「う、うーん、心を閉ざしているの……とても厚い壁があってどんなにわたしが声をかけても聞こえていないしわたしの姿が見えていない…そんな感じがするの」


「そうか……」

キリアン君は考え込んでいた。


ロウトさんはわたしにどう接すればいいのか分からず悩んでいるようだった。


メリッサさんは、わたしの体を熱いタオルで拭き始めた。

「まだ希望はありますよね?アイシャ様はわたし達の元に帰って来てくれます。それまでに心地よい場所を作り直しておきます」


アイシャちゃんの体を綺麗に拭きあげて、スッキリとさせてくれた。


わたしはこれからどうすればいいのか……分からずにベッドで座っているしかなかった。


キリアン君はわたしの手を握り、わたしの奥底にいるアイシャちゃんに呼びかけていた。


でもアイシャちゃんからの反応がない。

キリアン君は深いため息を吐いて


「アイシャお姉ちゃん、アイシャは遮断してしまってこちらからの問いかけに応じようとしない」


「うん、本当ならわたしは記憶としてアイシャちゃんの中に入って消えるはずなのに……」


わたしも自分に意思がありアイシャちゃんの体を使っている事が不思議で仕方がない。


「アイシャはとてつもない魔力と魔法の才能を持った女の子です。彼女自身が殻の中に入り込んでしまった所為でアイシャお姉ちゃんの記憶に意思を持たせてしまったんだと思います」


「そうなのかしら?」


そんな話をしていると、誰かが入って来た。


「あ……お久しぶりです、カイザ様。あの時はわたしを助けてくれてありがとうございました、そして今はアイシャちゃんのお祖父様としてアイシャちゃんをとても大切にしてくれてありがとうございます」


「本当に前世のアイシャなのか?今のアイシャは眠り続けているのか?」


信じられないものを見るようにわたしを見ているカイザ様。


「はい、アイシャちゃんはわたしの記憶の所為で心を閉ざしてしまいました……今世でもアイシャちゃんは辛い思いをしていたんですね。今わたしが感じるのはアイシャちゃんの悲しみと寂しさです………

家族の中で一人外れて、三人の仲の良い姿をそっと作り笑いで見ているアイシャちゃん……本当は辛くて心が張り裂けそうだったんだと思います。

それにリサ様との距離の遠さにどうすればいいのか子どもながらに悩んでいるのがわかります……」


「……そうか……わたしにはいつも笑顔で隠していたんだな……どうしてアイシャは前世でも今世でも家族に恵まれないんだ……」


カイザ様がうっすらと涙を溜めているのを見て


「カイザ様……わたしは全てを諦めて死んだ人間です。わたしのために悲しまないでください……でもアイシャちゃんのことは、今からでも遅くないから大切にしてもらえると嬉しいです」


「アイシャはわたしが守る、だがな、もう一人のアイシャ、お前もみんなに愛されていたんだ」


「え?」


「うん、アイシャお姉ちゃんは本当はみんなに大事に思われていたんだ、なのに一部の酷い人達のせいでお姉ちゃんは辛い思いをしたんだ」


わたしはキリアン君達の家で亡くなる前の数ヶ月過ごした。

でも、わたしを愛してくれたのは、キリアン君とエマ様サラ様、ゴードン様、ジャン様だった気がする……


「カイザ様、アイシャお姉ちゃんが知らない事実を今伝えたい」

キリアン君がカイザ様を見て、カイザ様が頷いた。


「わたしはあまり深く内容を知らない。キリアンもあの頃はまだ2歳だった……話せるのか?」


「はい、母であるエマに何度も聞かされました。それに僕は記憶としてアイシャお姉ちゃんと過ごした日々を覚えています」


キリアン君は教えてくれた。


わたしのお父様の話を。


「これはウィリアム様がアイシャ様の現状を初めて知らされた時の話です、僕はその話をウィリアム様から聞く時に魔法で残しておいたのです」




ーーーそしてその時のことを全て語られた………


ゴードン様がお父様に渡した報告書



『アイシャ様は5歳から屋敷ではほとんど一人で過ごすことが多くなった。

奥様であるジュリー様は社交に忙しく、友人達と海外などに旅行へ行っていることが多くあまり屋敷に戻っていない。

アイシャ様は食事を貰えず家令や侍女長達に「金食い虫は働け、お前は要らない存在だ」などと言われ続けている。そして食器洗い、片付け、掃除洗濯をさせられて少しでも休むと食事抜きになることも多かった。

学園にも行かせて貰えず服なども最低限しか与えて貰えない。

外出は禁止されていた。

アイシャ様に使われるはずのお金は使用人達が着服していてアイシャ様には家庭教師すらついていない。

勉強に関しては兄の教科書を渡されて自身で勉強するように強制されていた。


王太子殿下の婚約者になったが、屋敷の者は馬車に乗せず、毎日1時間歩いて王宮に通わせた。

皇后から虐待紛いの王子妃教育を受けて、歩いて帰るという毎日を送っていた。


王妃から虐待を受けていたことは周囲の侍女達が見ていて証言している。


診察の結果古い傷跡から新しい傷やあざが多数見られる。

屋敷の者と皇后が暴力を振るっていたことは確証が取れている。


意識を失い倒れた時に心臓病を患いこのまま手術を受けなければ早ければ半年持っても数年の命と余命宣告を受けた。


手術はルビラ王国でしか出来ない。まだ我が国の医療技術では難しい


本人の意思は手術を親には言えないのでこのまま死ぬ事を希望している』


など他にも色々書かれていた。



ーーお父様は初めてわたしの現状を知った。



楽しく過ごしていたはずだ。

頑張って王子妃教育を受けていたはずだ。


わたしはこの報告書を握りしめて陛下の下へ向かった。


『陛下、これを読んでください』

報告書を渡している間に、わたしは部下達を呼んだ。


部下達を並ばせて


『叔父上から会いたいと先触れがあったと聞いている。だがわたしは何も聞いていない、誰だ!勝手に断っていた奴は!』


わたしは怒りに震えながら部下達を睨んだ。


『すみません、わたしです』


『わたしもです』


何人もが手を挙げた。


『どうして話をわたしに通さなかったんだ!』


『それは……王妃様がハウザー様から連絡がきたら握りつぶすように命令をわたし達全員受けておりました、すみませんでした』


みんな真っ青になって震えながら謝ってきた。


『王妃が命令?』


息子はわたしの後を追ってきてわたし達の会話を聞いていた。


『アイシャはずっと辛い目にあっていたんですね。僕は全く気づきもせず好きなことをして過ごしていました、アイシャは……僕、もう一度アイシャのところに行きます』


『わたしもこちらが片付いたら急いで戻る』


わたしは陛下ににじり寄って言った。

『陛下、王妃のしていたことをご存知だったんですね』


陛下は顔色を変えていた。この人は人が良い所があるが優しすぎてすぐに人の意見に流されてしまう。


『すまない、王妃は二人の婚約に反対だったんだ。無理にでも押し通したら大丈夫だと思ったんだがエリックを無理矢理に留学させて、アイシャを王子妃教育と言いながら虐待まがいの事をしていたんだ』


『ご存知なら何故止めないんですか?止めないならわたしに教えてくれればよかったではないですか!』


『そうなれば婚約は破棄される。エリックは幼い頃からアイシャが好きだったんだ。この婚約もエリックからの申し出をわたしが其方に伝えたんだ』


『でしたら王妃を見張っていてくださらないと駄目ではないですか!あの人の性格は貴方が一番ご存知でしょう?アイシャの体には傷痕がかなり残っているそうです、王妃のしたことは犯罪ですよ!それも倒れて寝込んでいたのにわたしには一切話がいかないように止めていたとは……悪質すぎます』


『すまない、アイシャがそこまで酷い状態だとは気づかなかった。だが、ウィリアムお前にも原因はあるだろう?報告書を鵜呑みにして娘に会おうとしなかったのはお前だ。きちんと屋敷に帰って娘の顔を見ていたらわかったことも多かったのではないのか?』


陛下のその言葉にわたしは何も言い返せなかった。

だが、陛下の責任逃れにも腹が立った。


ーーーー


お父様はわたしの現状を知らなかった?


でも、でも、屋敷に帰って来ていれば、わたしときちんと会っていればわかったはずでは?


「それは知らなかった、あとからわかったっていう言い訳でしかないわ」


わたしはそんな話を今更聞いても何も感じなかった。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ