40話
俺とメリッサの間では、話だけは聞いていた「幻のキリアン君」が今目の前にいる。
バナッシユ国の前国王の側室のサラさまの孫。
前国王が亡くなられた時、エマ様を連れて市井にくだり、平民として暮らしていた。
そして今は前国王の王弟とサラ様が再婚され、ゴードン様の孫でもある。
そう、公爵家の孫となりルビラ王国に医術と魔法の治癒の勉強でイルマナ先生のところで世話になっているらしい。
俺たちはカイザ様にそんな知識を与えられていた。
現在15歳にしては大人びた落ち着きのある誰が見てもカッコいい少年だった。
キリアン様は寝ているアイシャ様を見てとても辛そうだった。
「アイシャ……なんでいつも一人悲しい思いばかりしているの?」
アイシャ様の手を握っていると、今まで見たことがない光が溢れ出した。
リサ様やカイザ様がかける癒しの魔法では見られなかった。
柔らかい温かい光が二人の周りを囲んでいた。
俺とメリッサは後ろでじっと見守るしかできなかった。
護衛騎士のくせに出来ることはただ見守ることだけだった。
何もできない自分に腹が立ちながらも、俺は祈る気持ちで見ていた。
「…………」
アイシャ様が目を覚ました。
でもそれは俺とメリッサにとって絶望でしかなかった。