36話 夢の中
…………わたしはそのまま意識を失った…………………
『貴女はどうしてこんな事も出来ないの。もういいわ!帰りなさい!』
『申し訳ありません。もう一度させてください』
『何回させても出来ないのよ貴女は!諦めなさい!』
わたしは王妃から王子妃教育を受けている。
わたしは寝る時間を惜しんで勉強に励んだ。
なんだか目が回る。胸も苦しい。
わたしは王妃の前で倒れた。
『どうしたの?誰か!お医者様を呼んでちょうだい』
(ここは何処?勉強しないと……お父様とお母様に捨てられるわ……起きなければ…)
わたしは見慣れない天井を見つめながらなんとか体を起こそうとした。
なのに体が動かない。
重たくて鉛が乗っているみたい。
わたしは頭を動かして回りを見てみた。
(ここは何処?)
『誰か…いませんか』
しばらくすると
『あら?目が覚めたわね、先生!起きましたよ早く来てください!』
女の人がわたしを見てにっこりと笑うと
『喉が渇いたでしょう?』
と言って少しずつスプーンで口に入れて飲ませてくれた。
『……美味しい……』
『良かった。貴女、ずっと意識が戻らなかったのよ』
『え?わたし何時間寝ていたんですか?早く起きて勉強しないと間に合わない……ありがとうございました』
わたしは慌てて起きあがろうとした。
『駄目よ、まだ動ける状態ではないの。しばらくは寝ていないと!』
女性はわたしを見て悲しそうにしていた。
『やぁやっと目が覚めたね』
白髪混じりの優しそうな白衣を着た男の人がにこにこしながら入ってきた。
『君は1週間も寝ていたんだよ』
『1週間……』
『かなり無理をしていたみたいだね。睡眠不足に栄養失調。食欲もなかったみたいだね、胃がやられているよ。そして最近胸が苦しかったことが多かったんじゃないか?』
『はい、睡眠不足が続いていたからだと思います』
『………ハア、君の病気はね、弁膜症という心臓にある4つの弁のどれかが損なわれる病気なんだよ。
治療の基本は、外科手術で損なわれた弁を修復するか(弁形成術)、人工弁に取り換えるか(弁置換術)になるんだけど我が国の医療技術では治すことができないんだ。
このままでは君は長くは生きられない。もし手術を望むなら隣国のルビラ王国に行くしかない。そこは最新の医療技術と魔術を使った手術をしてくれる』
わたしは先生が何を言っているのか頭では理解しても心がついていかなかった。
『わたしが心臓病?死ぬ?』
『君はまだ14歳だ。数ヶ月隣国へ行って手術をしてリハビリをすれば治るんだ。ただ、手術には莫大なお金がかかる、君は公爵令嬢だからご両親に頼めばお金は出して貰えるんではないかと思うんだ』
『……先生、両親は仕事と社交に忙しくてわたしに興味はありません。迷惑をかけずに良い子でいなければわたしには利用価値がないのです。殿下の婚約者になって恥ずかしくない立派な妃になり生きることがわたしの使命です』
わたしは手をギュッと握りしめて先生を見た。
『手術をしなければあと何年生きられると思いますか?』
『はっきりとは言えないが早ければ半年、長くても数年だと思う。心臓病はまだ我が国ではなかなか治療が難しいんだ。ルビラ王国には魔術師がまだまだ沢山いるんだ、だから手術に応用されて難しい手術を行うことが出来るんだよ』
『わたし、手術はできません。両親はお金を出してはくれないと思います。だってわたしに服すら買ってくれません、食事も一日一食だけです、わたしは生かされているだけで生きることは出来ないんです』
ああ、思い出した。
わたしは王子妃教育の時に突然倒れたのだ。
ずっと体調が悪いのは疲れているからだと思っていた。
なのにあの日、胸の痛みと苦しさで倒れた。
そして………病名を聞き余命宣告を受けた。
死ぬことが怖い?
ううん、もう生きる気力なんてなかった。
ただ自分で死ぬ気力もなかっただけ。
そう、わたしは自ら死ぬことを選んだ。
カイザ様が話しかけた。
『アイシャ、君が望むなら急ぎルビラ王国へ連れて行き手術をしよう。今ならなんとか助かる』
『カ、カイザ様……わたしはもう死にたいのです。人に………迷惑ばかり……かけて、生きる……のが…辛い……』
『生きていれば辛くなくなる。明るい未来もあるんだ』
アイシャは首を振り、
「『わた……し、もう楽……になりた…い』
リサ様が言った。
『アイシャちゃんは生きることより死を選ぶの?』
『…………はい』
わたしは死を怖がっていなかった。
もう受け入れていた。
『今なら『癒し』の魔法で生を繋ぎ止められるわ。そしたら手術も出来る。でもね、アイシャちゃんが生きたいと思わないと手術は成功しないし魔法の力も弾いてしまうの、お願い、生きたいと願って!わたし達に助けさせて』
でもわたしは首を縦には振らなかった。
『……リサ…さ…ま………わた……し楽……にな……りた………ぃ』
そう言ってわたしはそのまま眠り続けた。
そう、わたしは自分の死を受け入れたんだ。
蘇る前世の記憶。
胸が苦しい。
息ができない。
どうやって呼吸ってしていたんだろう。
『まだ忘れている!』
心の中でもう一人のアイシャがわたしに話しかける。
何を?
辛くて悲しくて死を受け入れた。
もう十分思い出した。
まだ辛いことを思い出せともう一人のアイシャは言うの?
もう、嫌だ!
こんな辛い思いなんか思い出したくない!
『お願い、思い出して!』
嫌だ、いやだ、イヤダ!
わたしはもう一人のアイシャに必死で抵抗した。