35話
何故か今日のお祖父様とのお茶の時間はいつもより緊張した。
みんなの空気がピリピリして感じる。
お祖父様の前に座ると私の大好きな甘めの紅茶と大好きなクッキーが出された。
お祖父様はコーヒーを飲みながらしばらく黙っていた。
お祖父様の後ろに控えたロウトとメリッサ。
そしてレオンバルド公爵家の侍女長も控えていた。
少し不思議に思いながらも侍女長に頭を下げると優しい笑顔で私に微笑んでくれた。
子どもの頃から少し厳しいところもあるけど、私を見守ってくれている侍女長がわたしは大好きだ。
「アイシャ、お前の夢の話を聞いて、本当はもう少しお前が大きくなってから伝えようと思っていたことを今日話そうと思う」
「…はい？」
よくわからないけど私の夢に関することなんだと思った。
「アイシャは、転生というのを知っているか？」
「はい、この国ではたまに起こると聞いています」
「……知ってはいるのか」
お祖父様が呟いたのを聞いてわたしは思わず口に出てしまっていた。
「もしかして……お父様にもお母様にもターナにも似ていないのは……転生者？」
わたしは自分の言った言葉に不思議と確信が持てた。
あー、だからなんだ。
いつも一人あの家で疎外感を感じたのは……
わたしはやっと違和感から解放された気分だった。
「お祖父様、そうなんですね？」
「そうだ、アイシャはこの国ではなく別の国の公爵令嬢だったんだが、心臓病で14歳の若さで亡くなったんだ」
目の前にいた侍女長が口に手を当て驚いていた。
でもロウトとメリッサは硬い表情をしたままだった。
二人は知っているのね。
「わたしがよく夢で見ていた未来のわたしは……前世のわたし……知らない人がお父様でお兄様なんていないはずなのに……あの人は前世のお兄様？」
わたしが思い出しながら呟くとお祖父様は頷いた。
「そうだ……そしてお前が怖い夢、悪夢だと言っていたのは全て前世でお前が経験したことだ」
「あの辛い夢は現実にわたしが経験したの？あんな苦しくて辛い思いをわたしがしたの？」
わからない……覚えていない。
でもあんな辛い思いをしてたなんて…公爵令嬢なのにどうして？
「いつもお腹を空かせていました。働かないと鞭で打たれてご飯を食べさせてもらえない。
王子妃教育を受ける時も馬車を出してもらえず歩いて通っていました。
そこでも王妃に怒られて罵倒されて鞭で打たれました……お父様もお兄様も、誰もわたしのことなんて存在しないかのように扱われました。お母様はわたしに興味がなくて家にいない人でした……
あれは夢……だから苦しくても夢だから…
なのに現実に受けていた？」
わたしは自分の体を両手で抱きしめて小刻みに震える体をなんとか抑えようとした。
どうして？
何故生まれ変わったの？
わたしはどうしてここに居るの？
誰も必要としていない。
愛されることもなかった。
だから、死を選んだ。
もう死んで楽になりたいと願った。
夢だったはずなのに頭の中に前世の記憶が次から次へと浮かんできた。
心の中にあの辛くて死にたい気持ちが溢れ出して来た。
「い、いやだ、もうこの世にいたくない。どうしてわたしは生き返ったの？死んで眠り続けたかった……い、いやあ！」
「アイシャ！」
お祖父様の呼ぶ声が遠くで聞こえてきた。
「アイシャ様！」
ロウトとメリッサの叫び声。
「アイシャ様ぁ！」
侍女長の泣き声。
なのに耳に入ってきても返事ができない。
頭が痛い、胸が苦しい…
わたしは体がガクガクと震え出した。
「誰か…助け……て…」
…………わたしはそのまま意識を失った…………………
