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25話

「ミケラン、危ないからこっちに来て!」


わたしの体調も落ち着いてくると、ミケランはわたしのベッドで一緒に寝るのも飽きたのか、最近は窓から外に遊びに行ってしまう。


窓から外を見ると、ミケランはいつの間にか木の上に登っていた。


それもかなり高い木の上。


さすがのミケランも木に登るのは平気だけど、降りるのは下手くそだ。


わたしは窓から顔を出して一人で叫んでいると、ロウトが急いで来てくれた。


「アイシャ様どうしました?」


「ミケランがあそこで震えているの!」


わたしが高い木の上の方を指さすとロウトが苦笑していた。


「ミケランのやつ、あんな高い所まで登って…降りられなくなってますね」


「そうなの……わたしが軽いから木に登ってみるわ」


わたしは部屋からベランダに出て、庭の木に行こうとしたらロウトが慌てて止めた。


「アイシャ様、そこでジッとしていて下さい」

ロウトは木の下に行くと、指をパチンと鳴らしてミケランを宙に浮かせてわたしの手元におろしてくれた。


「ロウト!凄いわ!魔法って素敵ね。こんな使い方ができるのね」


「これは風の魔法を使った応用です。アイシャ様も少しずつ使えるようになります、焦らないでゆっくりやっていきましょうね、まあ、その前に早く怪我を完全に治して下さい」


「うん、また練習したいな……でも、でもね、……ロウト、わたしね、アリアやスピナ達には会いたいの。でもね、学園に行くのが少し怖いの」


わたしは練習ができる事は嬉しいけど、元気になって学園に戻る事を考えると憂鬱でたまらなかった。


「アイシャ様、わたしの弟のヴィズをご存知ですか?」


「うん、もちろんよ」

ロウトは男爵家の二男、そしてヴィズは四男でわたしと同じ歳。


「ヴィズは最近まで男爵家の領地の学校に通っていましたが、今度から王立学園に通うことになりました」


「え?それは……」


「はい、アイシャ様をお守りするためです」


「でもそんなことしたらヴィズに悪いわ」


「そんな事はありません、我が男爵家はご存知の通り子沢山の家庭なので一人一人にお金をかけて教育が出来ません。弟のヴィズは本当は王立学園に通いたがっていましたが、学費が高いので断念しておりました。カイザ様に今回声をかけていただいて、弟はとても喜んでいます」


「……いいのかな……ヴィズ、わたしなんかと関わり合って嫌じゃないかな」


「アイシャ様……わたしなんかなんて言わないでください!

あいつはカイザ様の公爵家の騎士になるのが夢なんです。だから今回の話をとても喜んでいました。

ヴィズは魔力もあるし剣の技術もあの歳からすれば上手だと思います。だから、ヴィズをぜひおそばに置いて下さい、お願いします」


「ロウトありがとう。ヴィズにもお礼を言わなきゃいけないわ」


お祖父様の優しさ、ロウトの優しさにわたしは涙が出てしまった。

だってわたしは怖いと思っても口に出していなかった。もちろん態度にも出さないで我慢していた。


だけど、突然あの恐怖を思い出すと未だに怖くて仕方がない。

その恐怖からついロウトに本音を漏らしてしまった。


なのに二人はお見通しで、先に手を打ってくれていた。

そんな二人の気持ちがとても嬉しかった。


ヴィズは、お祖父様の屋敷で何度か会って遊んだことがある。

お祖父様がヴィズの剣の才能に関心を持っていて、たまに騎士団で稽古をつけていたからだ。


お祖父様は才能のある子ども達を月に数回屋敷の騎士団に招き、大人達が稽古をつけているのだ。


ヴィズはロウトの弟なので、稽古の後わたしが屋敷にいる時はロウトに会うことがあった。


そんな時はわたしも一緒にヴィズと遊んだりしていた。

わたし達は友達でもある。

でもヴィズが領地にある学校に通い出したので最近は会うことがなかった。


ヴィズと久しぶりに会えるのはとても楽しみだ。




◇ ◇ ◇



「ロウト、ヴィズの件、動いてもらってありがとう」


カイザ様が俺に頭を下げた。


ヴィズからすれば、学費の高い王立学園に通えるのでとても喜んでいた。

それにアイシャ様はヴィズにとっても仲の良い友人だ。

最近のアイシャ様にまつわる話をヴィズに伝えると、すぐに受け入れてくれた。


あとはカイザ様が、いつアイシャ様に転生のことを話すかだ。


体調も整い学園に通えるようになってそろそろと思っていたらまた事件が起こった。


アイシャ様はなぜあんなに辛い目にばかり遭うんだろう。

前世の話を聞いた時、俺は悔しくて仕方がなかった。


「カイザ様……一言だけ申し上げても宜しいでしょうか」


「どうした?」


「メリッサから聞いたのですが、アイシャ様はリサ様達ご両親のことを気にかけております。

……自分は両親にもう見放されているのではないかと思ってはいないでしょうか…こちらに来て一度もお二人の姿を見ておりません。

会いにすら来ないのはどうしてでしょう」

俺はアイシャ様が時折、門の方をジッと見つめる姿に気がついていた。

そう、誰かを待っているような……


誰にも我儘を言わず弱音を吐かないアイシャ様、でも本当はお二人に迎えに来て欲しいのではないかと思う時がある。

だってアイシャ様は、お二人といる時、いつも必死で一生懸命に明るくしていたけど、良い子でいようとしていたけど、とても幸せそうだった。


もちろんカイザ様のそばに居るアイシャ様は、今は安心しきっていて、俺的にはここに居てもらいたい。


でも捨てられたなんて思って欲しくはない。



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