14話
「アイシャに伝える前にお前達に先に伝えようと思う」
わたしはメリッサとロウトをアイシャが我が家に来た翌日に呼び出した。
「アイシャは一人だけみんなと違うブロンドの髪にグリーンの瞳……それが原因で屋敷の者達にリサ達の本当の娘ではない、似ていないと言われているのは知っているだろう?」
「………はい」
ロウトは、表情を全く変えずに返事をした。
メリッサは唇を噛んで少し悔しそうな顔をして黙っていた。
(やはり使用人達の間で広まっているのか)
「お前達はどう思っているんだ?」
「……アイシャ様はとても傷ついています。使用人達の噂話を何度か直接聞いてしまったようです。顔には出しませんが、わたしを最近は避けて一人でいることが増えていました」
メリッサが右手をギュッと握りしめていた。
「……本人も聞いてしまっていたのか」
(だから、アイシャは昨日も顔色が悪いだけではなくて目が生気を失っていたんだ)
「わたし達はアイシャ様が旦那様達の子どもであると思っております。長く勤めている者達は皆そんな馬鹿な噂などしていません。ただ……新しい者やターナ様付きの者達が……こそこそと噂をしております」
「ターナか……アレは人懐っこくて甘え上手だ。もちろん私にとっては可愛い孫だ。だがな、自分の姉に対して意地悪を言ったりあからさまに蔑む態度は許してはおけない、きちんと教育し直さなければならないと思っている」
アイシャが帰って来て言ったターナの言葉を聞いてわたしは流石に驚いた。
『お姉様、鈍臭いですね、転んで怪我をして入院するなんて!公爵令嬢として如何なものかしら?』
『し、失礼ですわ!お姉様!さすがどこの子かわからないだけありますね、ああ、良かった、お姉様と同じ血が流れていなくて』
ターナの言葉に周りにいた使用人達はクスクス笑っていたと聞いた。
『ターナ様!何を言っているのですか?アイシャ様は旦那様達の子供です!』
それを聞いていた侍女長が反論してくれたらしい。
この時侍女長は使用人達がアイシャが貰い子だと思っていることを初めて知ったらしい。
アイシャに対して嘲りの眼差しで見ている使用人がいることを知らなかったみたいだ。
『侍女長、わたしは気にしていないわ、疲れたからメリッサ、部屋へ行きたいの』
『お姉様ったら、本当のことを言われて逃げるのね』
この話を侍女長に聞いた時は腹立たしかった。
ターナはもちろん使用人達までがアイシャを他所の子だと思い馬鹿にしているなどあり得ない。
それも古い者達はそのことを知らず、新しい若い者達の使用人の中で噂が立ち、アイシャを嘲笑い馬鹿にしているのだ。
自分の支える主人ではないと。
メリッサが入院中にアイシャが話したことを私に涙を溜めて話し出した。
『仕方がないの、わたしは誰にも似ていないから……みんながわたしはレオンバルド家の子ではないと思っているの……わたしも最近はよくわからないの。
お父様もお母様もとても優しいしターナは意地悪だけど別に酷いことをするわけではないわ。
でもね、わたしはあの三人の中に入れないの、入ってはいけない気がするの』
「アイシャ様はロウトが話して説得してくれたのでわたしをまたそばに置いてくれましたが、屋敷ではあまり使用人達の世話になろうとしませんでした。
部屋に入ると服の着替えや髪のお手入れなどご自分でされていました。まだ10歳の令嬢がご自分でされるなんて普通はあり得ません。でもアイシャ様は何故か一人で出来てしまいました」
「アイシャは使用人達を避けていたのか……それに三人の中に入れない気持ちになっていたなんて……リサ達はアイシャのことを何も知らずに…
『ターナは少し甘えん坊なところがあります。だからアイシャに対しても我儘を言ってしまうのだと思います。それがアイシャには意地悪なのだと感じただけなんです』など言っておったわ」
ターナにはもちろん諭さないといけないし、再教育が必要だ。
だがあの夫婦にはやはり痛い目に遭わせるしかないのか……
アイシャが何故出ていってしまったのか、自分達で気がつかなければアイシャの心を取り戻すことはできない。
人から言われてもその時だけになり態度を改めることも考えを変えることもできない。
自身が気づき、アイシャに寄り添い、ターナのためにも叱ることも必要なのだ。
わたしは仕事を言い訳に子ども達に寄り添えていないあの二人のことを考えると溜息が出てしまった。
だが今ならまだ間に合うはずだ。
アイシャの心が完全に壊れる前にわたしのところに逃げてきた。
ターナもこれ以上の攻撃はできない。
私たち大人は子供の表面だけをつい見てしまっているが、隠されているあの子達の心の中に気がついてやらなければいけない。
転生前のアイシャは体だけではなく心まで壊れていた。
今度こそアイシャを幸せにしてやりたい。
そして家族の温もりを、家族といる幸せを味わってもらいたい。
やはり二人にだけは真実を話そう。