記憶の整理と現状把握
呪術は誤りなので秘術に書き直しました。また間違えている箇所があればご報告いただけるとありがたいです∪・ω・∪
ある程度悶えた所で一息つく。
さて、誰も居なくなった事だし、現状把握と記憶の整理をしましょうか。
私は海東 茜。32歳の普通の会社員だった。
私が仕事に夢中になっている間に周りはどんどん結婚していって、焦った私はあの日初めて婚活パーティーに参加した。
別に顔は普通だし、性格に難があるわけでもない。年収も平均位はあるし、結婚後も共働きを希望。
私の条件は悪くない。だからすぐに相手は見つかると私は楽観視していた。
しかし、結果は惨敗。私は誰にも選ばれなかった。
なんだよ、クソー。30代の何が悪いんだ! そんなに20代の方がいいのかよって、愚痴りながらコンビニで大量に酒を買いこんだ。
コンビニを出た所でビールを一缶プシュッと開けて、一気に飲み干した。
「イライラした時にはやっぱこれに限る!」
ビールで少し気分が上がった所で、ゴミ箱に缶を捨てて帰ろうかと思っていると、コンビニの向かいにある本屋が無性に気になった。
すぐにゴミ箱に缶を捨て、吸い寄せられるように私は本屋に入り、そこであの本を買った。
家に帰ってすぐに空っぽの胃に酒を流しこみながら、本を黙々と読み進めた。
最後は睡魔と闘いながら本を読み終え、時計を見ると午前2時を過ぎていた。
今日は仕事だから早く寝なきゃと、慌ててベッドに潜り込んで寝た事までは覚えている。
でっ、その後いつのまにか本の中の世界で城の宝物庫に倒れていたと……。
えっ、何? 私死んだの?
待って待って、普通は車に跳ねられたり、召喚されたりして異世界に来るもんじゃないの?
私ベッドで寝てただけなんですけど。
それに、普通は神様と会ったりするもんじゃないの? それでチート能力とか貰ってさ。
あっ、でも物語を知ってるからこれからどうなるのか分かるし、チートといえばこれもチート能力なのかな?
うーん、分からん。分からないけど、この世界の私は若返ってイケメンと結婚していて、可愛い息子もいる。
しかも、王妃という立場であくせく働かなくても贅沢ができる。
チラッとシャーロットの記憶を見た限り、彼女は1日中食べて寝るしかしていない。
という事は、王妃といえど仕事はしていない。
王妃ってなんかもっとこう忙しいイメージがあったんだけど、1日中ぐうたら出来るのね。
私の夢がいっぺんに叶ってしまった。
それでも……あちらの世界に帰りたいと思う。やっぱり家族や友達に会いたいと思ってしまう。
いつもは口うるさくて鬱陶しい両親だし、いつもマウントをとってきてイラッとする友達でも、一緒にいると楽しかった。
もう会えないかもしれないと思えば、寂しさで胸がギュッと締め付けられる。
当たり前の事が当たり前じゃなくなって、初めてあの平凡な日々が幸せだったと気がついた。
前はお金がたくさんあればあるほど、幸せだと思ってたんだけどな……お金も生きるには必要だけど。
ははっ、なんかナーバスになっちゃって私らしくないな。
そう、ポジティブに考えよう。
今は元の世界に帰る方法が分からないし、茜が生きているのか死んでいるのかも分からない。
だからこれからの方針として、帰る方法を探しつつ、休暇だと思ってこの世界を満喫しようではないか!
うじうじ悩んだって仕方がないもんね。人生は楽しまなきゃ損よっ!
そうと決めたら、なんかワクワクしてきた。
次は、シャーロットの記憶の整理をしよう。
シャーロットはめちゃめちゃでかい国の姫で自国では立場が弱かった。
そして、あの怖そうなお兄ちゃんのおかげで初恋のイーサンと結婚したものの、イーサンにめちゃめちゃ嫌われていたと。
んで、アリステラとイーサンを取り合った末のいざこざで、ムカついたから彼女を呪って殺した。
んん? シャーロットはアリステラを殺した。
今の私はシャーロット……って事は、エイダンの母親を殺したのは私って事!?
シャーロット、何してくれとんじゃい!!
私も少しアリステラにはイラッとしたけど、殺す程じゃないでしょ!
あぁーこれからどんな顔してエイダンに会えばいいっていうのー!
どうしよう……どうすれば……。
でも私が殺したわけではないし、シャーロットがやった事だし……あの秘術ってやつも本当かどうか怪しいし?
煙がぼわーんと出ただけで、人が殺せるなんて信じられない。
よし! あの秘術が本当に使えるのかどうか検証してみよう!
私は激痛に耐えるため「よいしょ!」っと気合いを入れて、ベッドから下りる。
そして、そのまま床に這いつくばった所で気付いた。
シャーロットは自分の手首を切って、その血で術式書いてたじゃん!
痛いの嫌なんですけど……。
でも、あのお兄ちゃんは別に術式を血で書けとは言ってなかったような?
確か……何でも望みが叶うけど、望みと同等の対価が必要になるんだっけ。
じゃあ、別に血で書かなくても大丈夫だよね。対価さえ用意すれば。
まぁ、対価っていっても私の今の望みは血が必要だと思うけど。
はぁー、取りあえず何か書く物を探さなきゃ。
キョロキョロと辺りを見回すと、石板と石筆を見つけた。
その場所まで痛みに耐えながら、ゆっくりと床を這って行く。
石筆を手に取り、その硬く冷たい感触が懐かしく感じた。
形は違うけど、子供の頃はよくこれで道路に落書きしたなぁ。
途中からはカラフルなチョークばっかりになってたけど。
懐かしさでナーバスになりそうな心にグッと蓋をして、石板も手に取る。
多分術式は消えると思うけど、万が一消えなかった場合の事を考えて、床ではなくこの石板に書こう。
こんな感じだった気がするなぁーと思って書き始めると、手が勝手に動いて書いていく。
シャーロットは手が覚えるぐらい、この術式を書いていたのね。
その事実に気づいた瞬間、背筋がゾッとした。
お兄ちゃん……病んでる人に、こんな危険な事教えちゃいかんだろ。
それとも、それが分かっていて敢えて教えたとか……うぅ、怖い怖い怖い。
うん、深く考えずにおこう。それよりも今は検証が先だ。
術式が書き終わったので、今度は血を出すために針か刃物を探す。
うーん、枕の下とかにありそうな気がする。
魔除けとかで鋏やカミソリを置いたりするって聞いた事がある。後は、刺客が来た時用にとか?
それはないか。
お城って警備が凄いイメージあるし、そこに住んでて刺客に狙われるなんてね。
そう思いながら石板と石筆を持って、またゆっくりと床を這ってベッドに戻り、枕やクッションの下をゴソゴソしていると硬い物が手に当たった。
ビンゴッ! やっぱりあった────って短剣じゃん!
もしかして、本当に刺客に……いや、鋏やカミソリがない時代ってだけだよね。
それか守り刀とかあるって聞いた事があるし、そんな感じの物だよ、きっと。
うんうん、深くは考えないでおこう。
短剣を取りあえず横に置き、左腕の袖を捲ると左腕に多数の切り傷があった。
うわぁー、この傷の分秘術を使ったって事? どんだけやってんの。
病んでるわぁー。ものすっごく病んでるわぁー。
はぁーとまたもやため息を吐き、気分を切り替えていざっ!!
短剣を手首に当てて、思いっきり引いた。
すると痛みはないが、ジンジンと熱くなり、ポタリポタリと術式の上に血が落ちていく。
ある程度血が溜まった所で願いを唱える。
「私の筋肉痛を治して!」
すると、術式の線だけが石板から剥がれて、フワリフワリと宙に浮いた。
そして私の目の前で止まると、クルクルと回り出す。
回転速度が速くなってきたと思ったら、今度は術式が眩いばかりに光輝きだした。
眩しすぎて目を開けていられない。
目をギュッと瞑って、光りが収まるのを待つ。
そこへ「バンッ!」と扉が開いた音がした。
「なんだこの光は! 殿下! 大丈夫ですか!」
この声はハリー!?
そうだ、ハリーは私の護衛騎士だった。扉の外にいるよね、そりゃ。
この状況をどうにか誤魔化さないと。
「だ、大丈夫よ! なんか仮面が急に光出しちゃって、さすが呪いの仮面よねぇ」
「さすがの意味が分かりませんが、お体は大丈夫なんですね?」
「えぇ、大丈夫。心配しないで」
そう言いながら、左腕の傷を見られないように服の袖を慌てて下ろした。
丁度下ろし終わった所で光は収まり、ホッと胸をなでおろす。
「クソ、まだ目がチカチカする……」とハリーが目をパチパチさせていたので、そんなに慌てる必要はなかった気もするが。
それにしてもさっきの光はなんだったんだろう?
シャーロットの記憶では、煙がでた後に術式が消えていたと思うけど。
もしかして失敗した?
慌てて立ち上がって、驚いた。
体が……痛くない。さっきまで少し動いただけでもめちゃめちゃ痛かったのに。
どうして?
だって術は失敗したはずじゃ……いや、あの眩い光が術の成功を意味しているとしたら?
もう一度試してみなければ。
「ハリー、私は大丈夫だから部屋から出てくれる?」
「分かりました。不審な気配もありませんし、持ち場に戻ります」
ハリーがそう言って部屋から出て行った後、私はもう一度石板に術式を書いた。
髪の毛を1本抜き取り、術式の上に置いて「私をナイスバディーにして!」と唱えた。
すると今度は術式が浮かび上がる事はなく、煙と共に術式が消えてしまった。
そして私の体には、案の定何も変化は起きなかった。
これでハッキリした。私の思った通り、術式が光った場合が成功で、煙と共に術式が消えてしまうのは失敗だという事を。
という事は、シャーロットはアリステラを殺していない。
あぁー良かった。
これでエイダンを何の気兼ねもなく愛でられるわ!
アリステラはたまたまあの時期に病気になっただけだったのね。
紛らわしいなぁーもぅー。
そしたら、次! さっきの疑問について考えよう。
ベッドに腰を下ろし、石板に疑問を箇条書きで書いていく。
・エイダンの体重の軽さ
・エイダンの鞭の跡は誰がやったのか
・シャーロットは筋肉痛にならなかったのか
うん、今の所気になるのはこの3つね。
でも、エイダンについては本人に聞き取りをしてからの方が良さそうだから、上の2つは後回しにして、またシャーロットについてか。
多分だけど、シャーロットもさっきの私と同じように秘術で筋肉痛を治していたと思われる。
あの食べて寝るしかしないシャーロットが、根性論で動く訳ないしね。
って事は、成功時の術の発動を見ているはずよね。彼女はそれに気付いていないのかな?
シャーロットは気付いていても「いつもとなんか違うわね」ぐらいにしか思ってなさそう。
はぁー、あの夢の続きを見せてくれれば、もうちょっと分かる事が増えるんだけどな。
夢で見た事以外は、思い出そうとしても靄がかかったように思い出せない。
シャーロットの体なんだから、好きな時に記憶を見せてくれたっていいじゃない!
次眠った時にでも見せてよね、シャーロットの体さん!
分からない事だらけで考えても仕方がないので、これについて今は考えるのをやめた。
石板の文字をベッドシーツの端を使って、ゴシゴシこすって消し、石板と石筆をサイドテーブルに置いた。
その時、ふと左腕を見ると服の袖が真っ赤に染まっていた。
あぁー検証に夢中で痛みを感じなかったから、止血するのをうっかり忘れてたわ!
慌ててガーゼや包帯を探すが見つからない。
代わりの物を探すも、部屋にあるのは汚い布ばかり。
あぁーどうしよう!
なんか認識したら、どんどん切った所が痛くなってきたよ。早く処置しないと。
でも、服が血を吸っているのか、ボトボトと血が落ちてはこない。
このまま服の上から圧迫すればいけるかな?
いや、待てよ。
処置した所で痛みは治まらないし、傷も残る。
まだ血が出ていれば、秘術を使って他の傷ごと全部治しちゃえばいいんじゃない?
私はまた石板に急いで術式を書いて、左腕の袖を捲ると服の布と一緒に血の塊が取れ、激痛が走った後またポトリポトリと血が落ちだした。
痛かったけど、また血が落ちてくれるおかげでもう一度手を切らずにすんだわ。
術式にたっぷり血を落とし「私の傷を全部綺麗に治して!」と唱えた。
また術式は石板を離れ、フワリフワリと宙に浮いた。
やった! 成功だわ! と喜んだ所でまた術式が高速回転し光を発し始めた。
目をつむりながら、しまったと思った。
そうだ、この術式は大袈裟な位光るんだった。またハリーに迷惑かけちゃうわと思った所で、また扉が「バンっ!」と開いた。
「殿下! 大丈夫ですか!」
「えぇ、大丈夫よ。また呪いの仮面が光ちゃって。今日の仮面はご機嫌なのかしら」
「えぇっ!? その仮面、自我があるんですか?」
「知らないけど、こう何度も神々しい光を発せられると、そうなのかなと思っただけよ」
「そうですか。気持ち悪い……いえ、素敵な仮面ですね」
「そう、呪いの仮面っていうより素敵な仮面なのよ。オホホホホホ」
笑っている間にまた光は収まり、それと同時に腕の痛さもなくなった。
後はまたハリーを部屋から追い出せば完璧ねと考えていたら、ハリーが目をかっぴらき私に近付いて来た。
「ハリー、まだ何か?」
「殿下、この床に落ちている血は何ですか? もしかして、どこかお怪我を?」
「えっ? ハリー今回は目が見えてるの?」
「えぇ、今回は光が収まるまで目を閉じていましたから。それよりも質問に答えて下さい!」
ハリーはいつになく真剣な顔で私に詰め寄ってきた。
「いいえ、どこも怪我なんてしてないわ」と答えるも、ハリーは何か気づいたように一点を見つめると「殿下、今すぐ子爵様を呼んできます!」と言って、走って部屋から出て行ってしまった。
本当にどこも怪我なんてしてないんだけど。なんなら全部綺麗に治ったんだけど。
まぁいいわ、秘術の事は何とか誤魔化せたから。
それにしても、あの切り傷だらけでボコボコしていた腕が綺麗になった。
上手く使えば便利な術ね。
どれぐらい対価を払えば、この贅肉を落としてナイスバディーになれるのかしら?
仮面は別にあっても困らないけど、この贅肉だけは重たくて動きにくいので困る。
とその時「グルグルギュー」と下痢の時みたいなお腹の音がなった。
これがシャーロットの普通にお腹がすいた時の音なんて……絶対お腹壊した時の音じゃん!
この音は恥ずかし過ぎる。
誰も居なくて良かった、特にエイダンには絶対に聞かれたくない。
もう一度エイダンに会う前に、何か腹ごしらえしておこう。
ブックマークと評価ありがとうございます。
励まされて、少しでも時間があったら続きを書こうって気になります。
本当に感謝します。