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シャーロットの記憶1

※暴力的な描写あり

 アイファ王国に嫁いで来てから半年が経ち、今日は初めての私の誕生日。

 結婚式以来、いつも忙しいという理由で会えない陛下でも、今日ぐらいは私に会ってくれるのではないかと期待する。

 ソワソワとした1日を過ごし、夜入念に手入れをした体にいつもより薄い夜着を着た。

 ベッドに腰掛け、陛下がいつ来ても大丈夫なようにと姿勢を正して待ち続ける。

 いつの間にか眠ってしまったようで、気付けば朝になっていた。

 侍女達が起こしに来ていないので、まだ早朝だろう。

 私は体を起こして、後ろを振り返ると昨日の夜に見たままの綺麗に整えられたベッドだけがあった。

 気分を変えようとベランダに出れば、冬が近づいている今の時期、部屋の中とは違い思ったよりも外は寒かった。

 しかし、その寒さと早朝の澄んだ空気が今の私には心地良かった。

 ベランダの手すりに掴まり空を見上げれば、朝日が私の顔を照らした。


 陛下はこの日の光を一番に浴びた時、一体誰が隣にいるのだろうか。

 忙しいと言いつつ、陛下が日に何度も会いに行く相手だろうか。

 私の誕生日でさえ、彼は彼女に会いに行くのか。


 気分が晴れるどころか、どんどんと私の心は暗くなっていく。

 悔しくて、悲しくて、虚しくて、色んな感情がごちゃ混ぜになり、今まで我慢していた涙が一気に溢れ出した。

 そして、涙で感情を洗い流せば残ったのは怒りだった。


 

 陛下が私に微塵も興味がないというのなら、嫌でも私に興味を持つようにしてあげるわ。



 ◇◇◇◇



 私は大陸の半分以上の領土を占める大国 ガネート帝国の第1皇女だった。

 ガネート帝国の皇族は皆赤い瞳に、プラチナブロンドの髪を持つ特徴があったが、私はプラチナブロンドの髪にオレンジ色の瞳だった。更に母親は身分が低い側妃で皇帝の寵妃(ちょうひ)となればやっかみもひどかった。

 その事が原因でよく兄妹達に虐められていた。


 でも、私を愛してくれるお父様とお母様がいれば私は幸せだった。

 

 それなのに私が12歳の時、戦で負け知らずのお父様が流行り病で呆気なくこの世を去った。

 お母様もお父様の後を追うように、1年と経たずに衰弱死し、私の楽園は崩壊した。


 残ったものは、兄妹達からの虐め。

 お父様が亡くなった事によって、(かせ)がはずれた兄妹達の虐めはひどくなる一方だった。

 ただ、お父様の後を継ぎ皇帝となった一番上の兄は私を睨むぐらいで、私を追い出す事はせずにお父様がいた頃と変わらない生活をさせてくれた。


 一番上の兄には感謝するが、それでも私は兄妹達に会いたくなくて、自室に引きこもるようになった。

 そして部屋に1人でいると異様にお腹がすいた。

 食べても食べても満たされないお腹。最初は食べてる途中に吐いてしまう事もあった。

 それでもお腹は空くので、夢中で食べ続ける。食べないのは寝ている時だけ。

 起きて食べて、食べて、食べて、食べて、食べて寝る。そんな毎日の繰り返し。

 いつの間にか吐く事がなくなった。そして、食べている時だけは幸せを感じられた。

 私の楽園は、まだここにあったのだ。


 そんな毎日を送っているうちに私は16歳になり、引きこもりの私の部屋に兄は珍しく訪ねてきた。

 久しぶりに顔を合わせたというのに、兄はいつも通り私を睨みつけ不機嫌そうにソファにどっかりと座る。

 私が座るのを確認すると、兄は「シャーロット、お前は半年後イーサン・アイファと結婚しろ」と私を睨みつけながら言った。

 私はその言葉に驚いて返事をしないでいると、兄は舌打ちをして「これは命令だ。断ることは許さない」とイラ立ったように言い放った。

 私は慌てて承諾し、その心の内は歓喜に震えていた。イーサンは私の初恋の人だったから。


 イーサンとは私の10歳の誕生日パーティーで初めて出会った。

 お父様の目を盗んで兄妹達が私を虐めていた時、彼は颯爽(さっそう)と現れて倒れていた私に「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。

 たったそれだけの出来事だけれど、私には絵本に登場する白馬の王子様のように彼が輝いて見えた。

 人が来たことによって、兄妹達はつまらなさそうに会場に散っていった後、私は彼に御礼がしたいからと名前を聞いた。

 すぐにお父様の元へ行き「イーサン・アイファと言う者に転んだ所を助けていただきました」と伝えると、お父様はニコニコと笑って「後日御礼をしておこう」と言った。


 それから毎回大きなパーティーが開かれるたびに彼を探したが、1度も彼と会う事は出来なかった。

 部屋に引きこもってからはパーティーにも出席せず、彼の事は良い思い出だと思っていたのに、まさかそんな彼と結婚できるなんて夢のようだ。


 舞い上がっていた私に兄は言った。


 「イーサン・アイファには婚約者がいたが、そいつは側妃にしてお前が正妃となる。私がここまでお膳立てしてやったんだ、失望させるなよ」

 

 兄が私を見て笑ったので、私はごくりとつばを呑み込んだ。

 私を嫌っている兄が、なんの目的もなく私を喜ばせるためだけにイーサンと結婚させる訳がない。

 「失望させるな」この一言に兄は全ての意味を含ませている。

 兄は多くは語らない。彼の少ない言葉から意味を理解し動けない者は、使えないと判断されすぐに処分される。

 あぁ、兄が私を成人するまで面倒を見てくれていたのは、私を駒として使うためだったのね。

 長年の疑問は解消されたが、また新たな疑問が湧き上がる。


 なぜあんな取るに足りない小国を? 


 馬鹿な私がそんな事を考えても仕方がない。

 兄は即位から数年で賢王と呼ばれ、帝国民から圧倒的な支持を得ているのだ。そんな兄の考えなど、私なんかが分かるはずがない。私は言われた通りに動けばいいだけ。

 けれど、私はイーサンと結婚するようにしか言われていない。「失望させるな」という言葉は色んな意味にとれるので、そこを利用してイーサンの国は私が兄から守ればいい。


 決意を胸にした所で兄が「心配するな、こちらの手の者もちゃんと用意している」と不適な笑みを浮かべて言った。

 私の監視役も既に用意済みって事……流石、兄は仕事が速い。でも良かった、先に聞いていればどうとでもなる。


 私は「ありがとう存じます」と御礼を言い、兄の話はこれで終わりかと思って兄の方を見ると、出された紅茶を優雅に飲んでいた。

 話は終わったというのに、部屋から出て行こうとしない兄を不思議に思いながら私も紅茶をいただく。

 少しの沈黙の後、兄は空のカップをソーサーに戻し机に置くと、1枚の紙を私に渡してきた。

 何だろうと思い、紙を受け取り広げてみると、そこには呪術の術式が描かれていた。


 私は慌てて兄を見ると、彼は笑っていた。


 「それはガネート帝国の秘術だ。何でも望みが叶うが、望みと同等の対価が必要になる。髪の毛1本から自分の命まで、その対価は様々だ。対価が足りなければ望みは叶わない。この秘術で我が帝国はここまで大きくなる事が出来た。皇族といっても一部の者しか知らないこの秘術を、お前がどう使うのか楽しみだ。覚えたら、紙は燃やしておけ」


 それだけ言うと、兄はさっさと部屋から出て行った。

 なぜ、兄は私にこの秘術を教えたのだろうか。アイファ王国をこの呪術で滅ぼせって事?

 いや、それなら隣の軍事国家ゴウソを呪術で滅ぼした方が効率が良い。アイファ王国を滅ぼした所で得られる利益など殆どない。ならば、どうして?

 兄の考えている事は本当に分からない。

 はぁーと溜め息を吐いて、考える事は後回しにして、とりあえず私はすぐにこの術式を頭に叩き込み、紙は暖炉の火で燃やした。

 

 それから兄と会う事はなく、半年後私はアイファ王国でイーサンと豪華な結婚式をあげた。

 その日の夜、2人っきりとなった部屋でイーサンは緊張している私に言った。


 「お前はこれで満足か?」

 「どういう事ですか?」

 「権力で手に入れた王妃になって満足かと聞いている!」


 冷たい目をしたイーサンが、イラ立ったように私に言い放つ。


 「お前の場所は元はアリステラの物だ。いつも辛い時に俺を支えてくれたのはアリステラだった。彼女こそが王妃に相応しいと、やっとの思いで彼女を手に入れたというのに……こんな事になるなら、あの時助けなければよかった。お前はいつも俺を苦しめる!」


 イーサンはあの時の事を覚えていたのね。

 私にとっての素敵な思い出は、貴方にとってはそんなに苦しめるものだったの?

 でも、今更もう遅い。アリステラとイーサンが想い合っていたとしても、この国は兄に目をつけられてしまったんだから。

 私以外にこの国を守れる者はいない。

 イーサンに今は愛がなくても、そのうち私を愛してくれれば……。


 「アリステラだけを愛する条件で彼女は側妃になってくれたんだ。だから、俺はアリステラ以外を愛するつもりはない。今日はそれだけを言いに来た。今後一切この部屋に俺が来る事はないだろう」


 それだけ言うとイーサンは部屋から出て行ってしまった。

 今日はまだ初日、彼も混乱しているのだろう。そのうち私の大事さが分かるわ。


 それにしても初夜だというのに、何もしていなければ今後の私の立場が悪くなる。

 私は慌ててベッドをぐしゃぐしゃにしてから、手首をナイフで切りつけ流れ出た血をシーツにわざとらしくつけた。

 偽装工作が終わった後、止血をしてソファで横になる。

 するとお腹が急に空いて、何か食べたくなった。

 イーサンとの結婚が決まってから、お腹はあまり空かなくなったというのに、久しぶりに感じる極度の空腹感。

 しかし、今何かを頼んでは偽装工作をした意味がなくなる。

 部屋に沢山置いてあるお酒で、その日は空腹感を誤魔化した。

 

 

 ◇◇◇◇


 

 ガシャーン!!


 今日も私の部屋に食器の割れる音が響き渡る。


 「申し訳ありません」と体を震わし、泣きながら土下座するメイドの頭を私は踏み付けた。


 食べても食べてもお腹が満たされず、イライラしている私にお茶を入れていたこのメイド。

 メイドの顔が何だか気に食わなかったので、手に持っていた扇子でメイドの頬を思いっきり叩いたところ、メイドはその衝撃で倒れてしまった。しかし、倒れる時に咄嗟(とっさ)にテーブルクロスを(つか)んだようで、机の上のお菓子も床に全て散らばってしまった。だから、このメイドにはこうして罰を与えている。


 「私のおやつになんて事するのよ、このバカが!! 早く誰か鞭を持って来なさい!」


 私の鞭の用意が遅いわね。気が利かない、私の気分を察してすぐに用意しておきなさいよ!

 まぁいいわ、後で全員鞭打ちにしてやるから。先にこのメイドを教育しなくては。


 使用人達を睨みつければ「は、はい!」と1人のメイドが返事をして、すぐに私愛用の鞭を持ってきた。

 手にしっくりと馴染む鞭を手にして、心のままにバカメイドを叩く。

 部屋に絶叫がこだまするが、そんなものは気にしない。叩けば叩くほど、イライラはどこかへ行ってしまうから。


 メイドが気を失い、ピクリとも動かなくなった事で興が削がれた。

 あぁ、お腹がすいたわ。メイドを叩いている間に、新たにセッティングされたテーブルについて私はまた食べ始める。


 私の食事する音だけが響くこの部屋に、ノックの音がした。

 侍女が急いで確認しに行くと、訪問者は返事を待たずに私の部屋にずかずかと入ってきた。

 その無礼な客人は側妃のアリステラだった。そして、大きく膨らんだお腹から私は視線が外せなかった。


 アリステラは私の近くまでくると「王妃様、お久しぶりです」と花が咲いたように可憐に笑った。

 その笑顔に使用人達まで釘付けになっていて、(しゃく)(さわ)る。

 

 「あなた、ここに何しに来たの?」

 「もちろん、王妃様への挨拶ですわ」

 「あなたと最後に会ったのは、私が王宮に初めて来た日の晩餐だったと思うけど……そんなあなたが、今更挨拶なんておかしな話ね」

 「申し訳ありません。体調が悪かったものですから」そう言って彼女は大きなお腹を撫でる。


 「でも、もう大丈夫です。陛下の子はいつ生まれてもおかしくない時期ですから」


 笑っているようで、目は私を見下している。

 この女、わざわざ自慢しに来たってわけ? イーサンに愛されているのは自分だと。

 

 カッとなった私は近くにあったケーキを、アリステラの顔に投げつけた。

 「キャーー!」という悲鳴をあげたアリステラは、その場にゆっくりと倒れた。


 フンッ、わざとらしい。倒れるならちゃんと倒れなさいよ!

 

 感情のままに両手にケーキを掴み取り、2つともまた彼女に投げつけた。


 「王妃様! お辞め下さい!」


 いいざまね。ご自慢の綺麗な顔とドレスがクリームだらけで、ひどい姿だわ。

 私を馬鹿にするから悪いのよ。


 手当たり次第にお菓子を投げつけていると、アリステラの悲鳴を聞いた護衛騎士達がゾロゾロと私の部屋に入ってきた。2人はアリステラの前に立ちはだかり、3人は私を拘束しようと動いた。

 

 「何をするの! 放しなさい、無礼者が!」

 「陛下より、アリステラ様を害する者は全て捕らえよと命を受けております」

 「何が害するよ。ちょっとケーキを投げただけじゃない! ケーキをぶつけられて誰が怪我をするというのよ!」

 「アリステラ様が悲鳴をあげて倒れられている。我々は害があったと見なし、王妃様を拘束致します。お話は後で伺いますので、一緒に来て下さい」


 私の体を2人がかりで引きずって行く。私は必死で抵抗するが、普段鍛えている男性2人の力には敵わなかった。


 私が抵抗を諦めた所で後ろから「フフフ」と笑う声が聞こえた。

 その声の方を見れば、アリステラが私を見て笑っていた。

 私と目が合ったアリステラは笑みを深めた。


 「王妃様、今のお姿は王妃というより家畜のようですわね。それに、毎日毎日騒動ばかり起こして……そんな事で陛下の気を惹こうなどと、なんと浅はかな。まるであなたは、(しつけ)のなっていないブタですわ」


 その言葉を聞いて、私以外の皆が震え出す。

 

 「あら皆様、笑いたければ笑えばいいのではなくて?」


 そう言って、アリステラはキョロキョロと辺りを見回すが誰も笑おうとはしない。


 「そう、皆様は躾がちゃんとできているのね。誰かとは違って……」


 アリステラは私を見て、持っていた扇子で口元を隠した。


 あいつ、私が何も出来ないからって調子に乗って……覚えていなさい! 私には秘術が……ダメだ。こんな事には使えない。

 こんな事ぐらい秘術に頼らず、自分でなんとかしなければ。

 兄に私が使えないとバレれば、この国は一瞬で攻め滅ぼされる。

 まだ、この国に来て1年過ぎたぐらい。まだまだこれから。

 アリステラがこんな性悪なら、いつかイーサンの愛も冷めるはず。

 イーサンの愛を最後に勝ち取るのは、この私よ。

 

 

納得がいかなくて、2回ほど全て書き直していたら更新が遅くなってしまいました。

すみません。もう1話シャーロットの過去の話があります。

ブックマークありがとうございます。頑張って書きます(^^)


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