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エイダンは私が育てます!

 やりますか! って意気込んでみたものの、味方ってどうやって増やせばいいの?

 私はシャーロットの現状を思い出し、どうしたものかと行動する前から頭を抱える事態になった。

 

 シャーロットがやらかしまくっていたせいで、人からめっちゃ怖がられてるのを一瞬忘れてたわ。

 さっきも女性が私の顔を見ただけで意識を失ってたしね。

 ハリーを始め騎士達とは普通に会話できそうだけど、女性はベラ以外会話もままならない状態でどうしろっていうの?


 そう頭を悩ませていると、ちょうど良くベラと目があった。

 ベラは慌てて顔を伏せるが、私はそれに構わずベラに聞いてみる事にした。


 「ねぇ、どうしてベラは私と普通に会話ができるの?」


 ベラは顔をあげると、予想外の質問にどう答えようかと悩んでいるようだった。


 「別に失言したってかまわないわ。ベラの気持ちを率直に言ってみて」

 「はい……あの、記憶を無くされた殿下はまるで別人のようだからです。以前の殿下は常に何かにイラ立っていて、小さな物音一つたててはいけないような、そんな緊張感がありました。それがまるでなくなり、殿下のまとう空気が(ほが)らかになったので、今は全く怖くありません。だから私は殿下と普通に話せるようになりました」

 「そうだったの。ベラはいつ私がいつもと違うって気づいたの?」

 「殿下が私を『ハリーストンさん』と呼んだ時は、私をからかっているのだろうと思ったのですが、陛下をエイダン殿下と間違えた時におかしいと気付きました。確信をもったのは殿下が『出でよ私の靴』と叫んでいた時です。殿下が私にお礼を言い、しかも自分で靴を履こうとしました。以前の殿下はそんな事を絶対にしないので」

 「そうだったの。以前の私とは違うって、すぐに気付くのは無理そうかしら?」


 私がそうベラに尋ねると、彼女は即答で「無理ですね」と答えた。

 

 やっぱり、そうよね。急には無理よね。

 王宮内で味方を得るには、ベラの様に気付いてくれる人を徐々に増やしていくしかないか。


 そう落胆していると、ベラがそれを見てなにか案があるのか口を開いた。

 

 「ただ……殿下が記憶喪失になって性格が変わったとでも噂が流れれば、いくらかはマシではないでしょうか」

 「それでもマシ程度……」

 「はい、以前の殿下がアレなので、それが限界かと……」

 「アレって、ベラも言うようになったわね」

 「あっ、失言でした。すみません」

 「別にいいのよ。それだけ気兼ねなく喋れるって事でしょ? 今の私はそっちの方が嬉しいわ。もう泣かれたり、倒れられたり、まともに話せないのが面倒くさすぎるのよ。それを何とかするには、効果は多少でもやらないよりかはやった方が良さそうね……よし、やりましょう!」

 「では、私が噂を流しておきます。少し時間はかかると思いますが」

 「ありがとう。よろしく頼むわね」


 よし、これで王宮に味方を増やそう作戦一歩前進って所かしら。

 これについては、他にすぐ出来そうな事もないから一旦保留ね。

 後はせっかく王宮に来たんだから、もう一つの用事を済ませましょうか。


 私はカップに残った紅茶を一気に飲み干し立ち上がると、行き先を体に委ねて東屋を後にした。



 ◇◇◇◇



 本当に着いたよ、王様が居そうな部屋に。


 適当に歩けばいつも「陛下の執務室に行くのですか?」と毎度言われていたから、体に身を任せれば執務室に行けるんじゃないかとは思っていたけど、本当に着くなんて……。

  シャーロット、ほんとどれだけ通ってたのよ。


 まぁ、それだけイーサンが好きだったんだろうけど、振り向いてくれない男をいつまでも追いかけ回すなんて時間の無駄だわ。


 私ならその時間を絶対他の事に使う。元の世界なら私は仕事に没頭しているだろうな。

 たまにはゆっくり休みたいと思うけど、私は基本仕事人間だから努力の結果が数字となって自分に返って来る仕事が、ゲームのようでとてもおもしろかった。

 仕事に没頭しすぎた結果、恋人もいなかったわけだけど……。


 学生時代から付き合っていた彼氏には社会人2年目にしてフラれた。

 「俺と仕事どっちが大事なんだよ」って言われた辺りからウザいとは感じていたけれど、彼の事はちゃんと好きだった。でも、まだ仕事に慣れていない体に、覚える事が沢山で私だっていっぱいいっぱいだった。

 やっと余裕が出来たと思ったら、2股されてて私がフラれるっていうね。

 彼女が一生懸命やってる時に応援してくれるのが愛ってもんじゃないんですかね?

 それを2股だなんて、ほんとクソな思い出だよ。

 

 それから恋愛が面倒になって仕事一筋になり、その時は自分も周りもまだ若かったから良かった。

 彼氏なんかいなくても、友達と遊んでいられたら楽しかったから。

 それが30代になると遊んでいた友達達は家庭を持つと忙しくなって、遊んでくれなくなった。

 先日も遊んでくれていた最後の1人が結婚した。

 それで、私も焦って婚活パーティーなんてものに行ったわけだけど……私が選ばれなくて当然だ。


 私は仕事で承認欲求が満たされていたから、結婚したいなんて本気で思っていなかった。

 

 結婚を今したいじゃなくて、いつかしたいだった。

 そりゃ、20代の本気で結婚したい子に勝てるわけないわ。


 今気付いたってしょうがないんだけどね。

 もしかして、シャーロットはイーサンを愛してるんじゃなくて、イーサンに愛される事で承認欲求を満たそうとしていたかもしれないわね。イーサンへの執着心が半端ないもの。

 亡くなった両親以外で、一瞬でもシャーロットの事を気にかけてくれたのはイーサンだけだったものね。

 

 

 まぁシャーロットの事は置いておいて、今はエイダンの事が先よ。

 さぁ、気合いを入れて行くわよ!


 執務室の前に居る衛兵に見守られながら、私はドアをノックする。

 中からの返事はなく、私はもう一度ノックをして「陛下、シャーロットです」と言うと、今度は「帰れ!!」と怒鳴り声が聞こえた。

 私はそれに(ひる)むことなく「いいえ、帰りません! 陛下にお話したい事がございます!」と大声で言い返した。

 それでもイーサンは「帰れ! 邪魔だ!」と言ってきた。


 何これ。全然話を聞こうとしないじゃない。


 なんかムカついてきたわ。こっちだってそんな邪険にされたら話したくもないけど、エイダンの養育権は私が貰わないといけないのよ。

 そのためにはイーサンの承認がいる。

 よし、こうなったら強行突破よ!


 私はドアノブに手をかけ、入室許可はおりてないが勝手に部屋に入る事にした。

 近くに居た衛兵は私がそんな事をするとは思っていなかったようで、驚いて一瞬固まっていた。

 その隙をついて私は執務室に入り込み、押し戸なので中から自分の体重でドアが開かないように押さえた。


 外から「王妃様!」と呼ぶ声が聞こえるが、そんなのは無視だ。

 今は私を見て驚いて固まっているイーサンに集中だ。


 彼は本当に忙しいみたいで、執務机の上には大量の書類らしき物が積み上げられていた。

 仕事中に悪いとは思うけれど、早くエイダンの養育権をビスタ侯爵から私の物にしなければいけない。


 「ご機嫌よう陛下。忙しいのにごめんなさい、大事な話があるので少しだけ私の話を聞いて下さい!」

 「帰れと言っているだろう! 聞かなくても分かる、お前の話は時間の無駄だ」

 「いいえ、帰りません! 大事な話です!」

 「お前にとってはな。だが俺にとってはどうでもいい話だ。おい、衛兵! 何をしている! 早くこいつをつまみ出せ!」

 「そうですか、あなたにとってエイダンの話はどうでもいいんですか?」


 私がエイダンの名前を出した途端、イーサンの顔色が変わった。

 ふーん、エイダンの事はまったく無関心ってわけでもなさそうね。


 「な、なぜお前がエイダンの話をする? まさかお前、エイダンになにかしたんじゃないだろうな!」

 「私が? まさか。私がエイダンを害する事はありません。エイダンに何かしたというのなら、ビスタ侯爵の方ですよ」

 「ビスタ卿がエイダンに? 何を馬鹿な事を。お前がアリステラにした事を俺は忘れてはいない。そんなお前の話を俺が信じると思うか?」

 「別に信じていただかなくても大丈夫です。調べればすぐに分かる事ですから」

 「何だと?」

 「調べたらどうですか? と提案しているんです。私の話を信じないなら、ここでグダグダ話すのは時間の無駄になりそうなので。そんな事より、エイダンの養育権を私に下さい!」

 「誰がお前なんかにエイダンの養育を任すか! エイダンの事は全てビスタ卿に任せているから大丈夫だ!」


 あーもうムカつく!!

 シャーロットの日頃の行いが悪いのは分かるけど、どうして私の話を少しも聞いてくれないのよ。

 私の話は聞かずに全否定だし、ビスタ卿の信頼度がなぜか天元突破してるし、私のイラ立ちも天元突破してるわ。

 顔がどれだけ良くても、イーサンの事をもう嫌いかもしれない。

 

 「あーそうですか。大丈夫なんですか。任せた結果エイダンが死にかけていたのに、陛下は大丈夫なんですね?」

 「お前はいったい何の話を……」

 「陛下がエイダンと最後に会ったのはいつです? 彼を見たのは? 会話をしたのはいったいいつですか? ビスタ卿に任せておけば大丈夫って、馬鹿ですかあなたは。エイダンはあなたとあなたが心底愛したアリステラとの子供じゃないんですか! どうしてあなたが気にかけてあげないんですか! あなたがそんなんだから、まだ子供なのに『自分はいらない子』だの『早く死にたい』だのと思うんです! 生きているのが不思議なぐらい痩せ細ってしまって……」


 私はそう言いながら、あの時のエイダンの様子を思い出しまた涙が溢れてくる。

 

 イーサンは泣きながら話す私の話を聞いて、戸惑っているようだった。

 私も涙が止まらなくて、ちょっと今は喋れない。


 イーサンは私の話が嘘か本当か分からないようだけど、私の聞いた事に対しては思う所があったのか、黙りこくって何かを考えているようだった。

 静かな部屋に、私の鼻をすする音としゃっくりの音だけが響く。


 そんな時に扉の外が急に騒がしくなった。


 「陛下、クロエ妃殿下が産気付いたと報告がありました!」

 「何? 本当か?」


 イーサンは驚いて扉の外に声をかけていた。

 私もその知らせを聞いて驚いた。

 

 クロエが産気付いたですって?

 もうクロエの子供が産まれるって事?

 って事は、今日がシャーロットがエイダンを殺しかけた日って事じゃない!


 物語はもうすでに少し違ってきていて、私はエイダンを害するつもりはないし、彼は王妃宮に居て人の目もあるから安全だとは思うけれど、絶対ではない。

 もしかしたら異世界小説によくある、物語の強制力というものが発動する可能性もある。

 エイダンに何かあるかもしれないと思うと、私は居ても立っても居られなくなった。


 もう涙も鼻水もどうでもいいわ!

 

 私は早口で「陛下は忙しそうなので、私はこれで失礼します」とだけ言うと、急いで部屋から出て行こうとした。しかし、イーサンに肩をつかまれ止められてしまった。


 「ま、待て。話はまだ終わっていない!」

 「いいえ、終わりました。後はご自分でどうぞお調べ下さい。とにかく、エイダンは私が育てます!」


 私はイーサンを睨みつけながらそう宣言し、彼の手を乱暴に肩から外した。

 これ以上足止めされたくなかった私は「失礼します」とだけ言って執務室を足早に出て行った。


 執務室の扉を閉めた後、私はヒールの高い靴を脱ぎ、ドレスをたくし上げると王妃宮に向かって全速力で走った。


 私はさっきから一生懸命走っているけれど、ベラは急ぎ足ぐらいの速度でついてくる。

 なんて足の遅い体なの! でも私が普通に歩くよりは速いはず。

 体が重くても、息が苦しくても、早くエイダンの所へ行かなきゃ! 頑張れ私!!

 








 

本当にお待たせしてすみません。

急に思い立って禁煙してみたら、ビックリするほど集中力がなくなりました。依存症本当に怖いです。

体重も増加しましたが、禁煙したメリットの方がでかいので頑張れています。

今は少し落ち着いてきたので、続き頑張って書いていきます。

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