表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

異世界恋愛*短編

鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい

作者: 楠結衣

ゆるふわ設定です。

あと婚約破棄っぽいですが婚約破棄はしないので、ざまあもありません。

 


「エリーゼ嬢、婚約はなかったことにして欲しい」



 真実の愛を謳歌する小説のような学園の卒業パーティーでも舞踏会でもなんでもない。

 (わたくし)のヒビスクス伯爵家の馬車の中。


 まもなく我が家に到着するハイビスカスの花が咲きはじめたお気に入りの道にさしかかったところで別れを言い渡された。


「アラン様、理由をお聞かせいただいても?」


 モブール男爵家の次男であるアラン様の瞳が驚いたようにゆれ、初夏らしい暑さを感じるのにアラン様の身体は震えているようにも見えた。


 別れの予感がなかったわけじゃない。

 アラン様の態度がよそよそしくなったことは気づいていた。

 学園に通う馬車では、となりに座っていたのに距離を置くように向かい合うように座るようになっていたし、一緒に食べていた昼食の時間も避けられるようになっていた。



 ただ、どれほど考えても、どうしてアラン様に嫌われてしまったのか理由が思いつかなくて首をわずかに傾ければ空色の髪がさらりと流れる。



「それは――真実の愛だからだ」



 私は空色の瞳をとじて小さなため息をこぼした。


「わかりました」


 私がそれ以上の質問をしないとわかると、アラン様はまるで憑き物が取れたようにすっきりした顔に変わり震えはすっかりおさまっていた。


 馬車がヒビスクス伯爵家に到着して、アラン様とお別れを告げる。

 これから学園で会うアラン様はもう恋人ではないのね、とひっそりため息をつきながらヒビスクス伯爵家に植えている鮮やかな赤色のハイビスカスの花に視線をうつした。


 この美しいハイビスカスの花も明日には恋が終わるみたいに枯れてしまうのだろうかーー?



 ◇◇



 翌日、学園に到着して歩いていると大きな影が私にかかる。



「エリー、()()婚約破棄されたんだって?」



 幼馴染のヴァールハイト公爵令息のエドモンド様によく通る声で話しかけられ、まわりにいた生徒たちの注目を集めてしまったので、あわててエドの腕を引いて人気のない場所へ移動する。


「婚約破棄はされてないわよ。婚約を前提にお試しでお付き合いしていたのを、なかったことにしたいって言われたのよ……っ」

「まあ、似たようなものだろう?」

「全然ちがうわよ!」

「わかったわかった――それで、今回の理由は?」


 私が婚約を前提としたお付き合いをなかったことにしてほしいと言い渡されるのは、恥ずかしいことに初めてではない――なぜか毎回『真実の愛』を理由に断られてしまう。


 はじめてお付き合いした方には、どうしても納得できなくてしつこく尋ねてようやく理由を教えてくださる約束をしたのに、なぜかお約束の前日に学園を辞められてしまった。それ以降、どの殿方も「真実の愛だから」の一点張りになってしまって途方にくれている。

 

「また『真実の愛』と言われてしまって……。どうして、私には真実の愛が現れないのかしら?」

「さあな」


 そう言うと、なぜか目の前で両手を広げ、まぶしいものでも見ているように紫色の瞳を細めたエドに首をかしげてしまう。


「エリー、真実の愛なら目の前にあるぞ」


 紫色の髪をきらきら煌めかせ、とびきりの笑みを浮かべて冗談を言ってくるエドをきつくにらみつける。


「エドになんて相談しなければよかった……っ!」


 エドといると貴族令嬢の話しかたをすっかり忘れて話してしまうから幼馴染はやっかいだと思う。


 幼いころは私より背が低くて可愛らしかったのに今ではエドの肩までしか背が届かない。幼いころはいつも手をつないでいたのに、いつからかエドと手をつないではいけないと知って距離を置きたいのに、意地悪するためにいつも近づいてくる。

 エドはいつもご令嬢に囲まれていて完璧に振る舞うところや端正な顔立ちと相まって紫の貴公子なんて呼ばれているのに、私はからかわれてばかり……。


 顔をそむけて怒っていると子どもをあやすように頭をぽんぽんとなでられて、むすっと見上げればエドの紫色の瞳と目があった。


「エリー、ヒビスクス伯爵と伯爵夫人になにか言われたか?」

「――真実の愛なら仕方ない、と」

「お二人らしいな」


 エドが納得するようにうなずくから、私は盛大にため息をついてしまう。


 ヒビスクス伯爵家には、私しか娘がいないから立派なお婿さまを見つけようと頑張っているのに、お父様もお母様もちっとも焦っていないどころか、お母様なんて「意外と近くにいい人がいるものよ」とのほほんと笑っていた。


 お母様、近くにいい人がいたら普通は気づくと思いますーー心の中でお母様に文句を言っていると、頭の上から低音のエドの声が響いてきた。


「エリー、今年()ランターンフェスタは一人で行くのか?」

「うっ……、べ、別に一人じゃない……そ、その、メアリーとリックと行くつもり」


 エドから呆れた視線を向けられて、そっと視線を外した。


 マルダムール国では、昔から夏の夜に水の精霊へ豊穣を感謝するランターンを夜空へ一斉に放つランターンフェスタというお祭りが行われている。

 この水の精霊は、マルダムール国で『縁結びの精霊』と呼ばれ、運命の人に出会っていない二人の糸をつないで真実の愛を結ばせ、また、結婚している二人には子供を授けてくださると言われている。

 恋人同士でランターンを放つと幸せになれると言われており、恋人とランターンフェスタに行くことを憧れている年ごろの女の子は多く、私ももちろんその一人だ。



 そして、ヒビスクス伯爵家の侍女のメアリーと従者のリックは付き合いはじめたばかり……。


 二人が付きあいはじめたことが嬉しくて二人のことを知るエドを思わず捕まえて一時間以上も話してしまったのは、ついこの間のこと。

 私だって野暮なことをしているとわかっているけれど、ランターンフェスタにお友達を誘ってもなぜかみんなに断られてしまったことをメアリーの前で口にしたら、あれよあれよと三人で行くことになってしまった。


「なあ、俺が一緒に付き合ってやってもいいぞ」

「それは絶対にいや!」

「…………少しも迷わないんだな」

「当たり前でしょう? 幼いころから真実の愛で結ばれた恋人同士でランターンフェスタに行くのに憧れているのに、幼馴染のエドと一緒に行くなんて絶対にいやよ」


 なぜか動きの止まったエドを置き去りにして、今度こそ教室へ向かった。



 ◇◇◇



「エリー様、今宵はとびきりすてきに変身しましょうね」


 ランターンフェスタの当日、侍女のメアリーは嬉々として支度を整えていく。


 水の精霊の目に止まるように、ドレスや小物を青色にするのはランターンフェスタの定番の装いなので、誰もかれも青色を身にまとい、この日はマルダムール国は青色であふれかえるのだ。


「エリー様の空色の髪と瞳は、ランターンフェスタにぴったりですね」


 ほお、とうっとりため息をつくメアリーにうながされて姿見に視線をうつせば、いつもより丁寧に梳かされたつやつやの空色の髪がかわいらしく編みこまれている。メアリーにいくつかイヤリングを見せられ、ずっとずっとお気に入りのハイビスカスのイヤリングを選んだ。


「ねえ、いつか私にも真実の愛のお相手が見つかるかしら?」


 海みたいな青色のドレスの裾を軽く引くと侍女のメアリーに安心するように微笑まれてしまう。


「意外と近くにいるかもしれませんよ?」


 最近はお母様だけではなく侍女のメアリーにも同じことを言われるけれど、そんなすてきな方がいたらとっくに気づいているわ、と思っていると残念な顔をしたメアリーと姿見越しに目があってしまう。


 メアリーが耳たぶに触れてイヤリングをつければ、しゃらりと涼しげな音を立てて支度が整ったことを知らせた――。



 ◇◇◇



 ランターンフェスタに到着すると、すでに沢山の屋台が並び人々の活気と熱気に、わくわくしてしまう。

 屋台からただよう芳ばしい匂いに誘われて、メアリーと従者リックの三人で橙色に染まりはじめた空の下を歩いていく。


「とっても美味しい……っ!」


 美味しそうなものが数えきれないくらいあって迷ってしまうと、二人におすすめされた揚げたお団子や蒸し焼きパオズをほおばった。

 ランターンを一斉に放つ夜まで時間はたっぷりあるから、もしかしたらランターンフェスタで運命の出会いがあるかもしれない、なんて淡い期待に胸をふくらませながら次はどこを見ようかしらとランターンフェスタのマップをのぞき込んだ。



 空を見上げれば、すっかり橙色の空が広がっていた。



「メアリー、リック、二人でランターンをあげてきてちょうだい」


 空がすっかり暗くなるとランターンを一斉に空へ放ち、水の精霊に感謝を捧げる。このランターンを大切な人と一緒に空に放つとしあわせになれると言われている。

 すっかり甘えて付き合いたてのメアリーとリックと一緒にきてしまったけれど、ランターンは二人であげてほしいと口にする。


「危なっかしいエリー様を置いては行けませんわ」

「そうそう、エリー様を一人にしたら俺の首が飛んじゃいますよ」


 有無を言わせない笑顔をにっこり浮かべる二人にあっさり却下されてしまい、すっかり溶けてしまったかき氷を喉へ流し込んだ。


「ランターン会場に向かいましょう」


 ランターンを放つ会場に着いたら、なにか適当な言い訳を見つけるか迷ったふりをして二人から離れてしまおうと心に決めて歩きはじめる。メアリーとリックの三人でたわいのない話をしながら会場である河原に着くと、橙色の空は茜色に変わりはじめていた。


 河原には仲睦まじく寄り添う恋人たちが大勢いて、胸の奥がちくちくと痛んでしまう。

 どこで二人から離れようかしら、と考えて歩いていると、どん、と目の前の人にぶつかってしまった。


「す、すみません……」

「本当にエリーは危なっかしいな」


 からかうような低い声に顔をあげると、なぜか空色に身を包んだエドが立っていた。


「どうしてエドがいるの?」

「マルダムール国最大の祭りを見に来たら、だめなのか?」


 頭の上に大きな手のひらを置くと、のぞき込むようにエドの顔がよせられる。


「なあ、メアリーとリックを二人きりにしてやりたいんだろう?」

「うん……」

「協力してやろうか?」


 メアリーとリックは、私が迷子にならないようにランターン会場に着いてからの動きが徹底している。きっとこのままでは二人きりにできないままランターンを放つ時間を迎えてしまう。

 こくん、とうなずくとエドの手のひらが優しく頭をぽんぽんとなでた。


「メアリー、リック、俺がエリーと一緒にいるから二人はもう行っていいぞ」


 あれほど頑なにゆずってくれなかった二人もエドの言葉を聞いた途端に、拍子抜けするくらいあっさり二人で離れていった。

 仲睦まじい二人のうしろ姿が見えなくなったのを確認して、エドに向き合う。


「ありがとう、エド。それじゃあ、また学園で会いましょう」


 お礼とお別れの言葉を口にして、エドの横をすり抜けようと思ったら、ぐいっと手首を掴まれた。



「俺のこと、そんなに嫌なのか?」



 くしゃりと顔をゆがめたエドに驚いて見つめてしまった。


「えっ」


 目をぱちぱちとまたたいてしまう。


 エドは私が婚約を前提としたお付き合いをしている方と一緒にいるとなぜか邪魔ばかりするのだ――先日お別れしたばかりのアラン様と話題の観劇を見に行けばエドとなぜか一緒に見るはめになった。その前にお付き合いをしていた方と評判のカフェテリアに行けばエドがやっぱりいて、なぜか一緒にお茶をすることになってしまった……。


 こういうことが何度も続いて、婚約のはなしはいつも立ち消えになってしまう。これほどわかりやすい嫌がらせが続けば、私もさすがに理由は気づいていた。


 そう、エドは私が嫌いなのだ――!



「どうして、エドがそんなこと言うのよ……っ」



 目の前の景色があっという間ににじんでいく。


「私を嫌いなのはエドでしょう? いつもいつも恋の邪魔ばっかりして、いつもいつも子ども扱いばっかりしてからかってばかりで、私のことがそんなに嫌いなら放っておいてちょうだい……っ」


 一度口にした言葉は止まらなくて、涙は次々とあふれてはらはらと頬を伝っていく。

 突然、くいっと腕を引かれ、世界が暗くなる。


「――っ?!」


 なぜかエドに抱きしめられていた。

 エドの胸を、ぐいっと力いっぱい押し返してもぴくりとも動かないばかりか、まるで離さないというようにぎゅっときつく抱きしめられてしまう。エドの空色のシャツに涙が吸い込まれていく。

 エドのいつもつけているシトラスのさわやかなコロンの匂いとあつい体温に包まれて、羞恥で涙が引っ込んだ。


「エ、エド……もうわかったから、エドの気持ちは伝わったから……っ」


 とんとん、とエドをたたいて身じろぎしてエドを見上げれば紫の瞳に見つめられていた。


「泣いてしまってごめんなさい。エドは泣き止ませようと思って、驚かしてくれたんでしょう?」


  もう平気だと伝えたから離してくれると思ったのに、なぜかもう一度大きな身体にきつく抱きしめられてしまう……。

 どうしたらいいのかしら、と頭を悩ませていると肩にずしりとエドのあごが乗せられる。




 はああ、と大きくて深いため息が耳もとに落とされた――。



 ◇◇◇



「エリー、ここから離れよう」


 エドの言葉に、往来の真ん中で人目を集めてしまっていたことに気付いて、顔に熱が集まっていく。

 立ち去ろうとエドに背を向けようとした途端に、大きな手につかまってしまった。


 エドに手を引かれてランターンを見るための敷物に腰を下ろしたものの、二人の間に沈黙が流れる。

 茜色の空はすっかり青色に変わり、いくぶん涼しくなった風が気まぐれに頬をなでていく。


「涙のあとが残ってるなーーごめん」


 大きな手が伸びてきて、エドの親指が目尻をぬぐう。

 うまく言葉が出てこない私の頬を包むようになでるエドの手つきがあまりに優しくて、ますます言葉が浮かばなくなってしまう。


「思っていた通り、すごく似合ってる」


 耳たぶにのびてきたエドの指が愛おしそうにイヤリングに触れれば、しゃらりと軽やかな音を鳴らす。


「エド、覚えてるの……?」

「好きな子にはじめて贈ったものを忘れるわけないだろう?」


 目を細めて愛おしそうに言うものだから、まるで今も私のことを好きだと言っているように思えて勘違いしそうになってしまう。


「私も、エドが好きだった……」


 先ほど泣いてしまったから、エドがいつもより優しいだけだと自分に言い聞かせる。それなのに頬に熱が集まるのがわかってしまう。


 ヴァールハイト公爵家とヒビスクス伯爵家は家族ぐるみでとても仲がよかったから、幼いころはランターンフェスタを一緒に見に行くこともあった。

 初めてエドと行ったランターンフェスタですてきな髪飾りの屋台を見つけ、大人っぽいハイビスカスのモチーフ、空色と紫色にきらめく天然石のイヤリングをじっと見つめていたら「エリーが大人になったら、きっと似合うよ」とプレゼントしてくれたもの。ずっとずっとお気に入りのイヤリングーー。



「俺は今もエリーが好きだけどな」

「う、うそーーまた、からかってるんでしょう?」

「嘘じゃない」


 エドの心地よいあたたかい声で、まっすぐに気持ちがつむがれていく。



「エリー、好きだ」



 エドの言葉が嬉しくて胸がどきどきと早鐘を打つけれど、同じくらい心が冷えていく。



 ーー答えは最初から決まっている。



「エドとは結婚できないもの、……無理よ」



 私がヒビスクス伯爵家の一人娘なように、エドはヴァールハイト公爵家の大切な一人息子だもの。

 私の言葉に、エドが先ほどと比べものにならない深いため息をはいた。


「エリー、伯爵家を残す方法なら入婿以外の方法もあるぞ」

「えっ、そうなの?」

「婿を取るのが一番わかりやすいだけで、いくつかの手続きや条件はあるけど――できる」


 きっぱり言いきるエドの言葉に、戸惑って見つめ返した。

 にこりと笑みを浮かべたエドの口から、ヴァールハイト公爵と公爵夫人、それに我が家の両親も私たちの相性がよければ婚約させるつもりで会わせていたことを知って目を見開いてしまう。さらにヒビスクス伯爵家に届いている縁談はエドがすべて止めていたことを聞かされ、あまりに驚いて、ぽかんと口をひらいてしまった。


「エリーは、本当に鈍感だな」


 からかうエドの言葉にも甘さが含まれていて。

 エドを見つめているとエドの眼差しが甘く甘くにじんでいき、やわらかな紫色の瞳の中に期待するように赤く染まった私の顔が写り込んでいた。叶うことのない、この気持ちはずっとずっと蓋をしておこうと思っていたのに……。




「エドのこと、好きになってもいいのーー?」



 私の言葉にエドが破顔し、大きな身体に包まれるように抱きしめられたーー。



 ◇◇◇



 青色だった世界に夜が訪れると、水の精霊に豊穣の願いと感謝がこめられた無数のランターンに灯がともされる。


「灯りをつけるよ」


 エドの言葉に笑顔でうなずく。


 今は幼馴染ではなく恋人同士になれたエドと一緒にいることが、とても嬉しくてしあわせで浮かれてしまっている。


 ランターンは一人で放つことができないーー二人で大きなランターンの中心にある小さなろうそくを燃やし、ランターンにガスがたっぷりたまるまで待たなくてはならない。


 このランターンがきれいな形にふくらむまで、ゆらめく火をじっと見つめ、かがみこんでランターンを持っているエドを窺えば甘さがとけたような紫色の瞳に見つめられていた。

 恋人になってはじめて一緒にする共同作業に胸がくすぐったくなるのに愛おしい時間が過ぎていく。


「そろそろ、カウントダウンがはじまるな」


 カウントダウンの声が聞こえてきて、エドと一緒に数えていく。


「三、二、一…………っ!」


挿絵(By みてみん)

イラスト/一本梅のの様


 二人でタイミングをあわせてランターンを放つと、ふわりふわりと夜空を舞いあがっていく。二人で持っていた大きなランターンがどんどん空へ上がっていくと、手のひらくらいに小さくなっている。

 さまざまな色のランターンがやわらかな光で幻想的に夜空を彩り、そのうつくしさにエドと私は魅入っていた。


「きれい……」


 感嘆の声がもれてしまうと、エドが「そうだな」と応えてくれる。

 その優しい声にエドを見つめれば、夜空をおだやかな光で彩るランターンの中でやわらかな笑顔を浮かべていて、その笑顔を見たらなぜか涙腺がゆるんでしまう。


「泣き虫ーー」


 エドの言葉で大きな身体にすっぽり抱きしめられていた。

 あやすように背中をさする大きな手のひらの温度がゆっくり広がっていき、エドが大きな身体を屈ませると片手で私の顔を持ち上げた。

 エドの端正な顔が近づいて、こつんと額をあわせるから心臓が大きく跳ね上がり、かすかにゆれたハイビスカスのイヤリングが音を立てた。


「ハイビスカスの花言葉、知ってるか?」


 ささやくような甘い声に、首をわずかに横にふる。



「ハイビスカスの花言葉は『新しい恋』ーー俺がはじめに覚えた花言葉なんだぞ」



 愛おしそうな瞳にまっすぐに見つめられれば、鼓動はうるさいくらい早鐘をうっていく。

 熱い指が私の頬を愛おしそうになぞり紫色の瞳と見つめあえば、こみ上げる想いが抑えられなくて言葉がこぼれてしまう。



「エド、好き……」


「俺もーー」



 ゆっくり近づいてくるエドにまぶたをとじれば甘いキスが落ちてきて、ハイビスカスのイヤリングがゆれれば、耳元でしゃらりと新しい恋がはじまる音を甘やかにならしていたーー。







 おしまい

読んでいただき、ありがとうございます♪

婚約破棄から始まるおはなしに憧れがあったのですが、難しかった……。

またいつか挑戦できたらいいな。




〈追記R3.8.3〉

一本梅のの様にエリーゼのFAをいただきましたっ୧꒰*´꒳`*꒱૭

挿絵(By みてみん)

か、かわいい……♡

しあわせそうな表情がとてもかわいい。

本当にありがとうございます♪


〈追記R3.8.9〉

鈍感令嬢の番外編を書きました。

エリーがエドに勉強を教えてもらういちゃいちゃなおはなしです。

なろうは短編設定にしてしまったので、下にあるエリーのイラストをクリックするとアルファポリスさんのサイトにある番外編に飛びます。

恋人になった二人の甘々を楽しんでもらえたら嬉しいです。


〈追記R4.3.20〉

みこと。様にエリーゼを描いていただきましたっ୧꒰*´꒳`*꒱૭

挿絵(By みてみん)

か、かわいい……♡

キラキラしていて、すごくすごく可愛いです。

本当にありがとうございます♪


〈追記R4.4.14〉

管澤捻さまにエドを描いていただきました୧꒰*´꒳`*꒱૭✧

挿絵(By みてみん)

差し出す手が素敵ですよね!

本当にありがとうございます♪


〈追記R4.6.10〉

猫じゃらし様にエドを描いていただきました୧꒰*´꒳`*꒱૭✧

挿絵(By みてみん)

はうう〜色気がだだ漏れです……♡

見ているだけでどきどきしちゃいます。

本当にありがとうございます♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルファポリスさんのサイトの鈍感令嬢の番外編にとびます
えいっ

恋愛作品を色々書いています୧꒰*´꒳`*꒱૭✧
よかったらのぞいてみてください♪
ヘッダ
新着順① 評価順② 短編③ 商業化④ お勧め作品⑤ 自己紹介⑥
ヘッダ
 

― 新着の感想 ―
[良い点] やっと読みに来れました~(遅いよ) はうう……素敵……大好きすぎてどうしよう( ノД`) ロマンチックなイベントが大好物なので、はわはわ言いながら読んでました(笑) 後半の怒涛の甘々展開に…
[良い点] とにかくもう、素敵! の一言でした。 素敵どころか超素敵! でした。 エリーの鈍感さには参りますね(*´д`*) 周りはみんな気づいてるのに当の本人が気づいてないなんて(笑) でも最後に…
[良い点] またがっつり拝読しました♪ 素敵なイラストが加わって、可愛さ増し増しです(*´ー`*) 「鈍感令嬢」はエリーにぴったりで、おっちょこちょいっぽいイメージで庇護欲が湧きます! 終盤の甘々な流…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ