幸せだと君に誓おう
ケリー・ウィンストン視点。
シェリーさえ幸せになってくれるなら、他はどうでも良かった。
母の幸福の象徴。幸せの中、生まれてきた妹。
彼女が幸福であれば、ケリーは生きることを許される気がした。
「マーシーと申します!」
だから、最初の顔合わせの時も。
――この子が、自分と結婚しなれけばならなくなった子か、と。それだけしか考えなかった。
******
「ホントに兄ちゃん、何言ってマーシー様怒らせたの? それ分かんないと贈り物も選びにくいんだけど」
「いや……怒らせたというより、気が引けるというか。気まずいというか……」
昨日、ケリーは泣いた。自分の真っ黒な部分を吐露した挙句、マーシーに否定されて泣いた。
『お母様だって、不幸じゃなかったはずです。 大事な息子とふたりでの生活が幸せじゃないなんて何故言うんです? ケリー様がいて何よりも幸せだったはずです。幸せだったから、ずっとお父様を待っていらっしゃったのです。ケリー様をお父様に会わせて、「一緒に待っていたのよ」って言いたかったはずです』
本当はずっと、誰かにそう言って欲しかったのだろう。母は、不幸ではなかったと。
ただケリーは臆病だったので、「その通りだ」と肯定されることを恐れて言えなかった。
それを十六歳のマーシーに否定されて、安心してしまったのだ。……ケリーの妻になる、マーシーに。
大事にしよう。守ろう。……愛そう。
きっとマーシーなら受け取ってくれるから。
……が、あの後からマーシーがオドオドしはじめ、ケリーの顔色を伺うようになってしまった。
その場で感謝の言葉でも言っておけば良かったと気づいたのは、今日になっても同じだったからである。
きっかけさえあれば何とか……と思い、とりあえず年の近いシェリーに相談しているのが現在。
「うーん、シンプルに花束は? 薔薇とかで愛情を表現しつつ」
「彼女、薔薇が苦手らしい」
お茶会で本人が言っていた。「昔、薔薇の群生地で思い切り転んでしまって……それ以来ちょっと」ということだった。
「好きなのはスカビオサとか……」
「……うん、贈るにはちょっとダメだね。季節じゃないし」
かといってアクセサリーというのも時間がかかる。一人で店に行っても商人を呼んでも微妙だ。
「もう言いにくいなら大人しくお手紙書けば?」
「妹よ、面倒くさくなったな?」
「だーいじょうぶだって! マーシー様、兄ちゃんのこと大好きだもん。喜んでくれるって!」
結局、養父がその日の夜に「チケット取ったから今度観劇行ってきなさい」と言ってくれた。
マーシーの分かりやすさは尋常じゃなかった。
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「ケリー様、重いです、絶対重いですから!」
「……むしろそんな重いドレスよく着てられるな?」
「私はモーリス様に軽く感じる魔法かけてもらってますから……」
養父の知人たちのたっての希望で、神殿での結婚式となった。
ドレスはウィンストン家に伝わる花嫁衣裳だが、彼らがティアラやら首飾りやらレースやらを次々と持ち込んだ結果、予想以上の重さになってしまったらしい。
「花嫁を潰す気か!」と全員一喝されたが、やはり養父の知人である魔術師が、その重さを半分受け持つからと言って大変豪奢な花嫁姿が完成した。
マーシーは必死に止めるが、ケリーは構わず彼女の身体に腕を回す。
「――愛してるぜ、マーシー」
耳に吹き込んだ言葉に固まっているうちに、ケリーはさっさとマーシーを抱え上げた。
【身体強化】のコツは、グッとしてバッとするときに躊躇しないことである。
「ひゃっ」
「問題ないぞマーシー。全然軽いわ」
そのままくるくる回ってみせれば、見ていた者たちの歓声が起こる。
ああ、幸せだ。
シェリーが幸福なら、オレは許される。
そしてマーシーがいれば、オレは幸せだ。
必ず守るよ。――守ってみせる。
「このくらい、いくらでもやるさ! いつでも強請ってくれよ、オレのマーシー!」
これにて完結です。お読みいただきありがとうございました。
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