【この劇を見る者は一切の常識を捨てよ】
ドゥンドゥドゥドゥドゥンドゥン
ドゥンドゥドゥドゥドゥンドゥン(パーカッション)
はるか東の国の話。
ここにおりますトミー・ザワード卿の恋人は、国王サトゥーの愛娘、ヨーコリアン。
二人は穏やかに愛を育んできましたが、それが気に入らない国王サトゥー。トミー・ザワード卿に無理難題を押し付けます。
【真に王女ヨーコリアンを愛しているのなら、迷いの森の奥にあるという泉の花を持って参れ】と。
かくしてトミー・ザワード卿は愛馬バーロウに乗り、迷いの森までやって来るのでありました……。
ドゥンドゥドゥドゥドゥンドゥン
ドゥンドゥドゥドゥドゥンドゥン(パーカッション)
トミー「おお、愛馬バーロウは森の前で倒れてしまい、一つ前の村に預けてきたが……やはり一緒に連れてくるべきであったか……」
一歩足を踏み入れれば、どれだけ方向感覚が優れた者でもたちまち迷子!
そんなキャッチフレーズを持つ森にひとり入るとは、トミー・ザワード卿愚かなり。
トミー「ううむ、心なしか暗くなってきた気がする……日の入りはもっと先のはずなのに!」
トミー・ザワード卿の焦りなど知らず、辺りは薄暗さに包まれてまいります。
トミー「困ったぞ……神よ、我を憐れむならば、光を!」
というより明かりのひとつも持ってこなかったというのもどうなんですかね?
……あっ、すみません。つい本音が。
ヒカリン「呼んだ?」
そこに突如現れたのは、蝋燭を体に括り付けた妙な人物。
真っ白な服、鉄の冠を頭に乗せ、そこにも蝋燭をつけているのです。
トミー「呼んでません」
ヒカリン「そうですか……」
その人物がそのまま消えて行こうとしますが、あたりがすっかり暗くなっていることに気付き、トミー・ザワード卿慌てて止めます。
トミー「待ってくれ! 呼んではいないが光は欲しい!」
ヒカリン「なるほど。わたしはヒカリン。光の妖精。必要とするなら傍にいましょう」
トミー「ありがたい! しかし光の妖精とな? ここしばらく人界に現れなかったが、この森におられたか」
ヒカリン「迷子になってました」
トミー「迷子!?」
ヒカリン「この森を出るかどうか……人を助けるか森に棲みつくか。それが問題だ」
トミー「人生……いや妖精生の迷子か」
ヒカリン「まぁわたし、人を助けるのは趣味なので、実際ここで助けを求められれば助けます。ご安心ください」
暗に見捨てることはないと宣言され、トミー・ザワード卿はひとまず安心です。
トミー「ときにヒカリン殿、我はこの森の泉に咲く花を摘みにきたのだ、場所を知らぬか」
トミー・ザワード卿の問いかけに、ヒカリンは悲しそうな顔をします。
ヒカリン「場所は知っていますとも。しかし困りました。何しろここは迷いの森」
トミー「ヒカリン殿も迷うのか?」
ヒカリン「誰もが迷う迷いの森。太陽も、木も、泉も、花も。皆が迷う迷いの森」
ヒカリン「そう、迷っているのです!」
木々「「「「どうしよっかなー」」」」
トミー「どういうことだ!? まさか我を案内することに迷っているのか!?」
木々「「「「そーかもねー」」」」
ヒカリン「いえもっと根本的な問題」
木々「「「「違ったー」」」」
トミー「根本的?」
ヒカリン「迷いに迷って、花も迷っているのです。――咲くことを!」
トミー「なっ!? つ、つまり、咲いていないのか!?」
ヒカリン「その通り、だってここは迷いの森!」
(この後ヒカリンと木々たちによる10分に渡る歌)
トミー「なんということだ……しかし我は花を持っていかなければならぬ。愛しきヨーコリアンのために」
ヒカリン「そのヨーコリアンさんのために?」
トミー「然り。我が愛しきヨーコリアン、彼女が微笑めば世界は輝き、悲しむときは雨が降る」
ヒカリン「やべー奴じゃないですか。それ本当に人?」
トミー「ヒカリン殿よ、人には比喩というものがあってだな」
(この後いかにヨーコリアンが素晴らしいか5分に渡る歌)
マーシー(妖精と話せるなんてトミー卿は神殿の人間なのかしら……? そんな人物との結婚を不満に思うってどんな国なの……?)
ケリー(荷物持たずに剣ひとつで森に入るとかボンボンか?)
マーシー&ケリー(木がシャベッタァァァァァ!?)