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深入りしないのが世渡りのコツ

ティム視点の話。

 ヤバいガキが居る、という噂は耳にしていた。

 簡単に折れそうな見た目なのに、暴れ出すと手が付けられない。妹がいるが手を出したら最期だから。そんな話。

 腕力がなく、情報だけで生きてきた自分には縁の無い話だと思っていた。――うっかり通った裏通りで、柄の悪い大人十数人を伸している現場を見てしまうまでは。


「ひぇ……」

 そんな声を出して固まってしまうのはティムだけではないはずだ。何しろその子供は、縦横無尽に飛んでいた。比喩ではない、地面に居たと思ったら次の瞬間には屋根から落ちてくる。次々と大人が地面に、壁にめり込んでいく。

 最終的に地面に下りてきた時には、動く者は誰も居なかった。

 子供は、そこでようやくティムに気付いた。


「あぁん?」


「たまたま通りかかっただけなんです勘弁してください!」


 プライドもへったくれもないティムは、すぐに土下座した。

 その潔さに、子供は目を瞬かせ、警戒を解いた。

 これがケリーとの出会いである。



 なお、ケリーに伸された奴らは最近王都にやって来たお尋ね者で、人攫い目的で狙いをつけたのが運悪くケリーだったらしい。褒賞金がかけられていたので近所の大人に手伝ってもらって突き出した。臨時収入でみんな幸せだ。









「まぁ……そんなことが」

「子供って言ってもオレとそんなに年も離れてなかったんですけどね。ケリーはガリガリだったから、背が伸びるまではだいぶ子供に見られてたんすよ」

 ウィンストン伯爵家の庭。

 諸々の事情聴取はとっくに終わっているのだが、ケリーの婚約者から昔の話が聞きたいと言われてそのまま庭でご飯をご馳走になっていた。

 ケリーは勉強の時間らしい。……たまに刺すような視線が屋敷から来る気がする。当たり障りのない話しかするつもりはないから見逃してほしい。ちゃんと周囲も使用人に囲まれているし。

「ケリー様は本当に強かったのですね」

「そりゃもう。騎士団にでも入ればいいのにと勧められてましたけど、シェリーと離れるような職は困るって言って、文字と算術覚えて商会に雇ってもらってました」

 さっさと騎士団に入っていれば、もっと早く伯爵の目にとまっただろうに。彼は意識せず見事に貴族の目を搔い潜っていた。

「この肉めっちゃ旨いっすね。いい肉使ってる……ケリーが好きな味付けっす」

「そうなのですね!」

 しれっと教えると婚約者は顔を輝かせ、後ろの使用人はすっと離れてメモをし始めた。あの男は食の好みも言っていないのか。貴族って面倒なのだなとしみじみ思う。



 しかしこの婚約者、ケリーのこと相当好きだな?


 先日の事件の時、脇道に入っていく二人を追いかけようとする男たちがいて、そのうちのひとりが知り合いだったため、慌てて止めた。

 止めとけ、あれは【暴れ鹿のケリー】だぞ、と。

 知り合いはそれを聞き真っ青になって仲間も止めた。気付かず追いかけていった五人は反対側の地区からきた奴らで、ケリーのことは知らなかった。

 恐る恐る後をつけたら裏道で五人が倒れていて、知り合いたちと遠くを見てしまったものだ。

 あそこで倒れていたということは、この婚約者殿はケリーが暴れるのを見ていたはずである。普通の人間は誰かを壁にめり込ませることは出来ない。ドン引きせずに「強い、素敵!」と思えるとはだいぶフィルターがかかっていると思う。


 ……あとまぁ、ケリーも婚約者を相当気に入っているようだ。


「やっぱ鹿に蹴られる前に退散しますわ……」

「鹿?」

 首を傾げる彼女に、ただヘラリと笑みを浮かべてみせた。

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